あれは俺が、したことなんだ。発作のように痛む右目と頭が、おぼろげに蘇る記憶を事実だと主張する。
三段下に居る八号を見た瞬間だった。背後から差し込む白い光、彼の顔にかかる俺の影、真っ直ぐにこちらを見つめる薄墨色。彼に飛びかかったその時のことがフラッシュバックした。制御装置を外されたこの体が、司令を、彼を、めちゃくちゃにしようとしたのは紛れもない事実。俺の意思ではなかった。そんなことは言い訳に過ぎないのだ。
八号とスクエアきってのデュオに倒された悪魔は、太古の昔に生きたとされるニンゲンに作られた存在である。その時に命を受け、ニンゲンの復活を目論み、魚介類を監視し続けていた。
そのことを、俺は誰に聞かずとも知っていた。
巨大な実験施設が海に浮かんだあの日以来、延々と夢で見せられていたから。それが悪魔の、タルタル総帥の記憶だとは知らなかった。夢の中では、いつも静かな孤独と募る苛立ちに苛まれていた。起きても、妙に鮮明に覚えている。おかげで眠りが浅く満足に寝られない。余計に眠りが浅くなり、また夢を見てしまう。
それでも、後頭部にできた大きなこぶと、全身のだるさが治る頃には、夢を見ることも無くなっていた。だからこそ、夢だと信じきっていた。
疑いもしていなかった。
ミキサーにかけられた司令と八号を助けた後、全てが終わるまで、俺は気を失って倒れていたと。だが、俺は彼らを傷つけようとしていた。俺の意思で受け入れた、悪魔の力で。
その悪魔が入り込もうとした時、俺の意識は残っていた。怒りに駆られ、失望の渦に飲まれていたタルタルに、俺は抵抗した。
それだけだったなら、きっとこうはならなかった。不意に見せた思いが、やさしさを孕んでいたから。
「ハカセに会いたい」
壮大な野望に相反して、あまりに柔い願いだった。そしてその思いは、俺の願いすら引きずり出してしまった。俺が、ようやく蓋をした願い。
あいつに会いたかった。もう一度、ちゃんと。
そう願ってしまった時には、もう悪魔が俺の中に入り込んでいたのだ。