海軍様を捕まえたあとの話入縄を独房へと送ると、大内は自室へと戻ろうと階段を登るが途中で立ち止まり何時もと違う道を通り副船長の部屋の前に立ち止まった。
「榴、入ってもいいか?」
ノックをしながら中にいるであろう男に声を掛ければ直ぐにその扉は開き、部屋の主が顔を出しにこりと人好きのする笑顔を浮かべ
「勿論だ、珍しいな。捕虜捕まえた日に来るなんて」
と声を掛けながら中へと促すように扉を開いたまま横へと避け尋ねた者を歓迎すれば、大内もそれに応え中へと入り慣れた様子で奥のベッドへと移動するとそのままそこへと腰掛け軽く伸びをするが、それを眺めていた何か言いたげな榴と目が合う
「どうかしたか?」
呑気にそう聞くが、榴は若干気まずそうに苦笑しつつ「なんでもない」と短く答え少し離れた場所に置かれたサイドチェアへと腰掛け大内の方へともう一度視線をやる。これはいつとのやり取りで大内は気にする様子も見せず
「まず、決定事項から伝えるがあの海軍様はコロンだ。」
にまりと嫌な笑みを浮かべる大内は心底楽しそうに声を弾ませ、少し驚いたような表情の榴を見つめる、その様子にため息つきつつ榴は足を組み直すと
「へえ……そんなに気に入ったのか、珍しいな」
そう聞けば、唇へと人差し指を持っていき軽く下唇を撫でたり押したりして弄りつつ大内の言葉を待てば、そんな様子のザクロの言葉を鼻歌交じりに聞き
「榴は見てなかったのか?今回の捕虜はとびきりの美人なんだよなぁ。見た目は清楚な雰囲気だが性格はプライド高いし生意気な態度をとる割には……可愛ー反応もする。沢山遊びたくなっちまう」
先程の事をニヤニヤと思い出し笑いを浮かべて語る大内は目の前の榴は見えておらず先程出会ったばかりの入縄を思い浮かべていた。
そんな様子を面白くないと言わんばかり冷めた目付きで下唇を軽く抓りながら目を細めていた榴は、一旦唇から手を離して肩を落としつつ軽く背もたれへと背中を預けて
「へえ、それは見てなかったな…なにせ、俺はお前と逆側に居たからなぁ……んで、その美人な海軍様に一目惚れしたってことか?」
本人に自覚があるのか無いのか低くつまらなそうな声色でたずねつつも細めたままの瞳は、真剣にニヤケ面の船長をじとりと真剣に見つめている。
「んーー、そんなとこか?面白そうだしとりあえず…高いプライドをへし折って様子を見ようかと思っている。この事は明日の朝に皆に伝えるつもりだ」
楽しそうな表情から一転少し考え込むようにして唸るが声は弾んだままで物騒な事を伝えれば、また笑顔に戻って握った両手を前にし何かを折るようなジェスチャーをして子供のように無邪気に笑えば、榴も呆れながらだが釣られるように笑い肩を落として
「その姫さんも大変だなぁ」
と言葉だけの同情をすれば、また下唇へと指先を持っていき軽く弄っていると
「姫?あの海軍様のことか?」
大内が同情の言葉に反応してきょとりと軽く目を丸くして驚いたような表情を浮かべて聞けば、カリッと軽く唇を掻いてから指先を顎辺りへと持っていきながら今度はにまりと榴が笑い
「ああ、いい呼び名だと思わないか?正義の味方様だったのに悪い海賊に捕まって助けを待ってるなんてピッタリだ。」
聞きようによっては嫌味に聞こえる言葉も、こいつにとっては嫌味でもなんでもなく純粋な思いつきなのだと知っている大内は思わず苦笑する。
海軍様が聞いたら完全に勘違いして嫌そうな顔しそうだなぁ
思わずその光景を想像しながらも榴の唇を見れば、軽く自身の唇を指先で軽く叩いて
「まー、そんな事はいいか……それよりもまた癖出てるぞ、ケアしとけよ」
大内の予想通り入縄への言葉は無意識な物だったらしく直ぐに話題は変わり、指摘されてひりつくそこに気付いたのかポケットから小さな貝殻を取り出して貝殻を開いてクリームを唇に塗り始めれば
「その癖治した方がいいぞ?見抜かれたら面倒な事になるからな」
何度目かの注意をする。
この注意は仲間になってから毎日のようにしているため、何度伝えたかは分からないが今日からの新入りは中々に侮れない相手の為語調も少し厳しいものになってしまう。
「分かってはいるんだけどな…ついやっちまうんだ」
薄くクリームを塗り少し潤った唇を軽く合わせて全体に塗り込むように左右に擦り合わせれば、若干色付いたそこを触れぬようにと気をつけるものの癖というものは簡単には治らずため息を着く
「船長から貰ったこれのおかげで痛くはなくなったが、赤くなるし治したいんだよなぁ」
そう呑気に呟きながら軽く伸びをする榴に、これは痛い目に合わない限り治らないだろうなと呆れつつ榴のベッドへと体を倒して寝転がれば天井を見つめた
「まー、お前はよっぽどの事がない限り海軍様には会わさないから安心しろよ。」
含みを込めてそう伝えるが、声をかけた相手からは何のリアクションもない不思議に思い少し顔を上げると、呆れたような困ったような複雑な表情をする榴と目が合うパッとそらされたソレに特に気にする事はない。
いつもの事だ…そして、聞いたとしても答えてくれないのもいつもの事、またベッドに背を預けた
此奴と海軍様、多分相性悪いだろうなぁ……ま、それはそれで面白そうだし気分が乗れば会わせるのもアリかもしれねぇけど
そんなことを考えて軽く欠伸をした。