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    Uduki29

    創作小説垢
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    Uduki29

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    2話後編

    葬儀屋の紫苑 二話 後編「葬儀屋は、原告人に賊心があるとここに証言するよ」
    涼風も雪都の意見に首を縦に振ることで同意を示した。
    被告人ではなく原告人?一瞬耳を疑ったが間違いなく雪都は椎野ではなく細川の賊心を祓うと言った。
    「どういうことよ!私じゃなくて懲らしめるべきなのはあの男でしょう」
    堪らず原告人、細川が叫ぶ。
    「説明をいただけますか」
    「え〜?真剣にぃ?」
    「はい、真剣に」
    裁判官に言われ、雪都は仕方ないと言いながら涼風に鞄からタブレット端末を出すように言った。
    「おばさんさぁ、娘さんが彼氏と付き合って家に戻らなくなったのって最近じゃないでしょ、何年前?」
    「よ、四年前よ…!」
    雪都はふーんと自分から聞いておいて興味のなさそうな反応をする。
    「じゃあもう一つ質問ね、おばさんの身につけてる物調べてみたんだけど全部会員制のブランド品なんだね。どうやって買ってるの?」
    「だから!これは全部娘が…!」
    会話を聞きながら涼風はタブレット端末で何かを調べている。しばらくすると立ち上がり柵に座る雪都へ耳打ちをした。
    「その回答を踏まえてこちらを見ていただきたいと思います。」
    涼風はタブレットの画面をその場にいる全員へ見せた
    「こちらは細川さんの投稿アプリの投稿履歴です。確かに四年前の細川さんの投稿には娘さんと一緒に写真に写っています。」
    写真には娘と母、綺麗に飾られた部屋に高そうなブランド物のプレゼント。どう見ても幸せそうな家庭を連想させる画像が投稿されている。
    涼風が画面をスワイプすると3年前からの投稿がでてきた。
    「分かるかな、おばさん娘が帰ってきてな〜いって言ってる割にこんな投稿してるの、おかしいよね?」
    矛盾を語る雪都の通り、その投稿は、プレゼントと自分の顔だけを載せた写真、そこに娘は写っていないものの、先程の投稿と変わらず綺麗に飾り付けされた部屋と、投稿の『今年も娘に祝ってもらいました』の文字。
    「お兄さん、この日は彼女さんと一緒だった?」
    椎野は頷く
    「同居していたから彼女が実家に帰る日がなかったことくらいわかるさ。」
    それを聞いて涼風はやっぱり…と呟いた。
    「なーんかおかしいなぁ〜って思ったんだ、だから今ちょ〜っと他の隊に調べてもらってる。」
    足を揺らしながら雪都は続ける。
    確かにそうだ、会員制のブランドなら送り主である細川の娘が会員となって購入し、わざわざ細川の元まで届ける必要がある。しかし娘とはあっていないという証言。なぜそんな嘘の投稿をしたのだろうか。
    緊張が伝わる法廷に着信音が響いた。
    「…あぁ〜予想通り。」
    雪都はまた柵の上に立ち上がると細川を見つめてこう言った。
    「娘さんを死に追いやったのは、間違いなくおばさんだよ」
    細川は怒りから、柵の上に立つ雪都の足を掴み引きずり下ろそうとする。が、すかさず涼風は俺にタブレットを渡した後柵を乗り越え、細川の腕を掴み、細川の前にかかった勢いをそのまま使って床へと押さえつける。
    「ほら見て、会員の名前。おばさんの名義で登録されてるよ、住所も全部ね。」
    スマホを細川に見せながら言う。
    「つまり娘からのプレゼントではなく自分で購入したものだったということか…」
    やっと俺は声を出すことができた。
    「ん?いやこれがおばさんの娘さんが買ったものなんだよね。」
    細川の顔色が悪くなった
    「おばさんが、娘さんのクレジットカードから払って買った物ってこと」
    頭が混乱してきた、つまりはどういうことだ。
    「細川さんは娘さんに無理やりクレジットカードを管理し、娘さんの貯蓄を無断で使い、あたかも娘さんの意思で買ってもらったように投稿していたんです。」
    「他にも実家の光熱費、スーパーの買い物やら色々…探そうと思えば店舗で使用した履歴も見れるからね。」
    親のすねをかじるという言葉は聞いた事あるが、まさかその逆があるとは思っていなかった。
    「お兄さんのところ行くまでは強制で欲しいもの買わされてたってわけでしょ?それは普通に病むねぇ」
    「その前に、クレジットカードの情報とか普通にその情報法的にアウトじゃ」
    「葬儀屋だから許されま〜す」
    暴論すぎる。
    そんな会話をよそに涼風は裁判官に指示を出し裁判官と椎野はこの場を去っていった。
    「お兄さんには聞かせられないからね。おばさんが経済的にも、精神的にも追いやったせいで娘は死んじゃったなんて言えないから」
    「あなたは周りに自分がいい母親だと見られたかった。娘から愛されて、周りから尊敬されて幸せな人間になろうとした。」
    涼風の細川を押さえつける手に力がこもる。
    「けど、こんなのだれも尊敬しない。愛される努力もせず自分の子から搾取するなんて、そんなのいつか朽ちるに決まっている」
    雪都は欠伸をした後、ミニスカートのポケットを探る。そして出てきたのは、結都の持っていたのと似た、包帯を巻かれた一丁の銃。
    「その忠告を聞く前に、もう取り返しのつかないところまで来ちゃったんだけどね」
    その銃口は、細川へと向けられた。

    『その賊心、祓わせてもらうね』

    細川の脳天を銃弾が貫く。
    「うびゃぁぁあああ死んだぁぁぁあ」
    「あーーーー!もう騒がないでよー!二回目じゃないの」
    銃殺は初めてだよバカ!
    「後の世ですよ!警戒してください!」
    怒られた
    辺りを見渡しせば先程まで裁判を開いていたはずの法廷は何倍も広く、と言うよりも俺達が小さくなったように全てが大きく感じた。
    後の世は賊心の形が現れる。なら、今回も
    「自己中心敵、承認欲求の塊…すご〜い、お似合いだァ」
    細川の賊心か、その形は皆が知っているあろう童話のあの理不尽な赤の女王と周りを囲うトランプ兵。
    『アンタは私の言うことを聞いていればいいの…』
    『どうしてそんなことも出来ないの!』
    『親に全て捧げんのがアンタの役目でしょ!』
    細川の声がする。きっとこれが奴の本音なのだろう。
    「下がっていてください。私と雪都で片付けます」
    そう言う涼風は両手を前に突き出すと手のひらに空気が渦を巻くように集まり、一本の涼風の身長を超える鎌が現れた。
    『風は導きである…』
    涼風は鎌を大きく振り上げると
    『鎌風』
    鎌を振り下ろしてできた風が意図も簡単にトランプ兵を切り裂いていく。その後も自由自在に鎌を止まることなく振り回し、トランプ兵の軍は一瞬にして消え去った。
    「ちょっと!ねぇ!ボクの出番は」
    横を見れば拳銃を構えた雪都が涼風に文句を言っている
    「じゃ、じゃあ親玉は雪都がやっちゃえばいいんじゃないかな」
    額に汗を浮かばせながら涼風は言う。
    「言われなくてもその、つも…り…」
    雪都の声が途絶えると共になんだか腹が熱くなる。その熱は体を貫通して背中に…え?腹?
    「あっ、ぁああ!」
    「ちょっと嘘でしょ」
    自分の腹を見ればダイヤの形をした槍が突き刺さっている。
    「うぇ、ぇ?まじか…」
    自分の死を察した。いや、ダイヤの槍って刺さるんだね…まぁトランプの中で一番刺さりそうな形してるもんね。そりゃ戦いで弾かれた勢いだけでも刺さりますわうんうん。けど、なんでまたこっち飛んでくるかなぁ…
    足に力が入らなくなり膝から崩れ落ちる。
    「っ雪都!」
    涼風がこちらに走って向かってくる
    「分かってるよ〜!遊んでる暇じゃないことくらい〜!」
    涼風と入れ替わるように雪都は赤の女王の元へ走る。
    あ、なんか体が寒くなってきた。眠いな…



    『発射ぁ!』
    雪都の後ろにはいくつもの銃が登場する。何十丁もある銃口から発射された銃弾は自我を持っているかのごとく自由に動いたあと赤の女王、細川の賊心へ命中した。
    『待ちなさい!待ちなさいよ!子供が大人に逆らっていいと思っているの』
    賊心はまだ強気のようだが、何十発もの銃弾を食らってはもう動くことは不可能である。
    「どうやら口が減らないようだな」
    呑気な口調とは打って変わって荒々しい言葉でそう言ったあと、雪都はどこからかショットガンを取り出し、賊心へ向け
    「さっきからその喋り方ムカつくんだよ、ババア」
    撃ち抜いた。
    賊心は朽ちた土のようにボロボロと崩れていく。それと共に後の世から本来あるべき世界へと戻る。
    「涼風!」
    雪都はすかさず涼風の元へ走り出した。
    「どう、傷は」
    「今血を抑えてるんだけど…これじゃもう…!」
    「クソ…っ」
    雪都は乱暴に自分の頭を掻き乱すとスマホを取り出し葬儀課のある人物へと電話をかけようとする。
    しかしその手を止めたのは涼風だった。
    「…待って雪都…これってもしかして……」
    雪都は涼風が示す場所へ視線を移す。
    「体が戻って…っ『再生』…!」
    槍で貫かれた傷は、存在しなかったかのように無くなっていた。

    ーー葛の葉葬儀 事務所
    「再生を使えるようになったから戦闘員として導入する…?」
    備品の携帯端末を片手に清蓮が床に書類をばら撒く。
    「おい、落としてんじゃねぇよ」
    そんな清蓮のケツを蹴るのは結都だ。
    「三善てめぇ何結都さんに迷惑かけてんだ殺すぞ」
    「ダメ…」
    イラつく紗霧とそれを抑える杏璃を他所に、清蓮は困惑の表情を見せた。
    「どうしていきなり、まだ早すぎるだろ…危険だ…!」
    「雪白も…早いと…思う…」
    清蓮の意見に雪白が同意する。
    「早いも何も、あの人はそういう人だろうが」
    結都は自分の気に入っているカウンターテーブルの一番右のイスに座って言う。
    「芦屋道國は、生まれた時から葬儀屋の人間だ」



    「死んでない!生きてる!わーい!」
    目が覚めてからの第一声はそれだった。
    気がつけば葬儀課の仮眠室。洗濯されたてのベッドの横には涙目の涼風といつもの調子の雪都。起きて早々涼風に謝られたし雪都にはふちゅーい!と怒られた。確かにあれは俺の不注意でもある。
    「本当に良かったです…!道國さんが死んじゃったら私どうしようかと…!」
    「そ、そんな思い込まなくても…ってあれ、傷は?」
    自分の腹をさすってみたが痛みも感じないし傷痕もない。涼風に聞くと困った表情のまま固まってしまった。
    「葬儀屋マジックだよ!」
    対面する俺と涼風との間に挟まるように雪都が顔を出す。傷も直せるのか、すごいな葬儀屋マジック。
    「何が葬儀屋マジックだアホ」
    いつの間にか現れた高身長の銀髪の男。
    「いたーい!いきなりデコピンしないでよ!」
    「うるせぇ朱雀はさっさと今回の報告書を出せ」
    銀髪の男はまたしても雪都にデコピンをかました。そして俺と目…が、合う…
    「ひ、ひめちゃん」
    「久しぶりだな、みち。おばさん元気にしてるか。」
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