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    わわわ(わらび)

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    2022.12月ワンライより
    クリスマスを初めて一緒に過ごそうとするルスマヴェです

    ⚠️2023.12月発行の再録本に収録しています

    メリークリスマス! ブラッドリーと一緒に買い置きの食料や生活用品を調達しに出ていた時のことだ。レジの程近くにカラフルでにぎやかなカードが並んでいるのを見つけた。
    一枚手に取ってみて、ぱか、と開くとサンタやトナカイが飛び出し式になっているそれはもちろんクリスマスカード。そういえば、この店も周りの店も何なら通りだってオーナメントや電球で飾り付けされている。世間はもうクリスマス一色だ。彼と過ごすようになって、関係がちょっと変化して、それから一緒にいる時間が一段と増え始めてから初めての冬がやって来ようとしていることに気付く。
     つい浮かれてしまった僕はカードを一枚一枚物色し、何枚かカゴに入れる。でも一つだけどうしても決まらなくて、あれも違うこれもどうかな……と悩んでいるうちに随分時間が経ってしまったらしい。いつまでたっても会計を済ませない僕を不審に思ったのか、ブラッドリーがすぐ後ろまでやってきてトントンと二の腕のあたりを叩かれる。ハッとして顔を上げたら、体の大きな彼は身をかがめて僕の手元を覗き込んでいた。
    「マァーヴ、何やってんの」
    「すまない、つい……見入っていた」
    「何それ、クリスマスカード?」
     ふうん、とさほど興味もなさそうな声を出して彼も手に取る。たまたま選んだものが曲付きタイプのカードだったようで、少し膨らんでいるボタン部分を押したらジングルベルが流れ始めた。思ったよりも大きな音が流れ出してブラッドリーはツボにハマったのか、ふ、ふふふ、と口髭を揺らして笑っている。
    「な、にこれ、すげ……ちょっと音割れしてるし」
    「ブラッドはこういうのが好きなのか?」
    「好きっていうか、面白いよ。んっふ、何だよこのサンタの顔」
    「なるほど……じゃあこれにしよう」
    「へっ?」
     いまだに音が鳴り止まないそれをカゴの中に突っ込んだら、あれだけ笑っていたブラッドリーがぴたりと止まった。カゴの中身を確認し、目をぱちくりさせて「マーヴ、クリスマスカードなんて送ってるの?」と聞いてくる。どうせ古い人間だって言いたいんだろう、最近の子はスマートフォン一台で何でもすませてしまうから。
    「昔からの癖が抜けなくてね。でも近しい人にだけだよ、世話になってる……ホンドーとか、アイスとか、スライダーにも送ってたな。生きてる証拠として送ってこいって言うから」
    「……どんな生活してきてんのさ」
    「見ただろ、僕の家。ああいう生活だよ」
     たった今カゴに突っ込んだばかりのカードを彼の目前でひらひら振って見せる。
    「これはブラッドリーに」
     とっても楽しそうに笑っていたから、きっと喜んでもらえるだろうと僕は思っていた。これまで——彼と離れて十八年、クリスマスカードを買わなかった年はない。選んで、選んで、選び抜いた一枚に丁寧に書いた。メリークリスマス、元気にしているか、素敵なクリスマスを、体に気をつけて、どうか君にたくさんの幸せがやってきますように。そのどれもがポストに落とされることなく、今も僕の家に眠っている。
     毎年どうしても出せなかったけれど、今年こそは贈りたいと思っていた。だから偶然とはいえ本人に選んでもらえたのはすごくラッキーだったんだ。だって、絶対喜んでもらえるだろう?
     じゃあ会計してもらおうかとレジに持って行こうとしたら、ガシッと肩を掴まれて止められる。え、何で、というかちょっと力が強いな。指が食い込んでるぞ。
    「ブラッド、どうした、他に何か欲しいものでも……」
    「違う。……マーヴ、今年のクリスマスはどうするつもりなの?」
    「どうするって……何も? 仕事があればそっちにかかるかもしれないし、なければいつもどおり過ごすだけだよ」
     家族を持っている奴が優先されるべきだろ、僕は一人だから穴を埋めるのにちょうどいいんだ、毎年そうやって過ごしてる、と言うとブラッドリーはこれでもかと分かり易く顔を歪めた。さっきまであんなに楽しそうに笑っていたのが嘘みたいに。
    「あのさマーヴ。俺は、……俺はクリスマス近くにたっぷり休暇をとって、今日みたいにこっちに来るつもりだった。マーヴとクリスマスを過ごすつもり、だったんだけど」
    「……あ。え。……えっ?」
    「浮かれてたの、俺だけだったんだな……」
     ブラッドリーはとても傷ついた顔をしていた。いや、「傷つきました」と顔に書いてあったと言った方がいいかもしれない。僕はたった今自分が犯した間違いに気付き、慌てて彼に縋る。大きな体を抱きしめ、高い位置にある頭に手を伸ばして何度も撫でた。小さな子供をあやすみたいにして。
    「ブラッド、ブラッドリー、すまない、つい癖で……染み付いた習慣が抜けなくて。クリスマスはそうやって過ごすんだって、体がそう思い込んでるんだ。決して君を思っていないわけでは、」
    「分かってる、分かってるよ俺だって。きっかけこそあんただけど意地張ってた俺も悪かったと思ってる。こっちからカードの一枚くらい送ってれば……でももう、過ぎた時間は戻らないんだよ、マーヴ。だから……今からは、少しでも長く一緒にいさせて」
    「……うん、うん。もちろんだ。ブラッドが許してくれるなら、僕も君と一緒にいたい」
     こちらを見下ろす瞳は潤んでいた。とろけるキャラメルみたいな甘さを持った瞳がふわりと弧を描いて、ブラッドリーは笑う。「何だよ今の、プロポーズみたい」と言うので僕も言った。「プロポーズだよ、ブラッドリー。僕と一緒にいてくれ」
    ついでに下手くそなウィンクもつけてそう言った。彼は「あっはは!」と一際声を上げて笑い、僕が持っていたカゴをさっと奪ってしまう。
    「あ、ブラッドリー待ってくれ! カードは買う、戻さないで」
    「なんで、たった今話したじゃないか」
    「それはそうだけど……やっぱりカードは贈りたい。君にずっと出せないでいたから、記念にもらってくれるか?」
    「……そういうことなら、分かった。俺も書くよ」
     たくさんのカードが並んでいるその場所から、彼は悩むそぶりなんて一つも見せず素早くカードを一枚抜き取るとカゴにぽんと入れてしまった。あの調子では柄なんて選んでないだろう、適当に目についたものを、一番とりやすかったものをつまんでカゴに入れた。そういう感じだ。クリスマスカード一つ選ぶのにも性格が出るんだなあと、いつも一人で悩み倒していた僕はそんなことにも気付かされるのだった。
    「ついでにもうちょっと買って帰ろうよ、クリスマスに必要なもの揃えとこう」
    「いいな! うちなら大きなツリーが置けるぞ、君が小さい頃ねだってたようなでっかいツリー!」
    「すげえ、モミの木買うの? 屋根にくくれば持って帰れるかもしれないけど……あ、あそこで売ってる」
    「よし、好きなものを選びなさいブラッドリー」
    「言ったな? 一番でかいの選ぶからな? いいんだな?」
    「はは! 選べ選べ、せっかくならめいっぱい楽しまないとだろ?」
    「それもそうだ」
     ケーキとチキンは当日だな、じゃあ僕が予約しておくよ、それなら俺が受け取ってハンガーに行くから、……買い物をして、どっさりと荷物を抱えてクリスマスの予定を話しながら帰る道すがら、僕はちょっとだけ滲んだ視界をクリアにしようと服の袖でゴシゴシと目元を擦った。
    今年も、来年も、できればその次も君と一緒に過ごせれば。そんなふうに思ってしまう僕はわがままかもしれない。
     でも僕のサンタクロースは、僕にプレゼントをくれるのは今隣にいる彼だから。きっとわがままで悪い子の僕を許してくれるだろう。

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    一枚手に取ってみて、ぱか、と開くとサンタやトナカイが飛び出し式になっているそれはもちろんクリスマスカード。そういえば、この店も周りの店も何なら通りだってオーナメントや電球で飾り付けされている。世間はもうクリスマス一色だ。彼と過ごすようになって、関係がちょっと変化して、それから一緒にいる時間が一段と増え始めてから初めての冬がやって来ようとしていることに気付く。
     つい浮かれてしまった僕はカードを一枚一枚物色し、何枚かカゴに入れる。でも一つだけどうしても決まらなくて、あれも違うこれもどうかな……と悩んでいるうちに随分時間が経ってしまったらしい。いつまでたっても会計を済ませない僕を不審に思ったのか、ブラッドリーがすぐ後ろまでやってきてトントンと二の腕のあたりを叩かれる。ハッとして顔を上げたら、体の大きな彼は身をかがめて僕の手元を覗き込んでいた。
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