Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    SALVA.

    一次創作、低頻度稼働中。
    小説、メモ、その他二次創作など。
    一部🔞注意。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 37

    SALVA.

    ☆quiet follow

    今日の帰りにあったこと。

    触れた手の冷たいこと閻魔との話を終え、帰路につくことになった。
    ブバダが「通行証を返してくるからここで待て」と私をこの三途の川の近くに待たせて15分ほど経過したが、どうも気になることがある。
    そう、さっきから唸り声が聞こえるのだ。
    微かだけど、三途の川のせせらぎに混じって聞こえてくる。

    気になって仕方ないので、声をたどってみることにする。

    川とギリギリの岩場を体を支えながら渡って、声のするほうを目指す。かなり奥からのようだが、どの辺か分からない。途中足を滑らせて危うく川に落ちそうになったが、危機一髪で助かった。
    心臓が悪いとはいえ、最近運動していなかった自分の体を恨んだ。

    少し内側にくぼんだ砂利の空間に出たので少し休む。
    .......さっきより唸り声が大きくなっている気がする。
    しかしながら、砂利の奥に進んでいくとただの岩壁しかなくて、おかしいと思いながら引き返そうとする。

    ところが。
    「うぅ.......うう、ぅぅぅ......」
    背を向けた岩壁から声がした。

    振り返って壁に寄る。冷たい壁に耳を当ててみると、ハッキリと中から声が聞こえるのがわかった。

    どういうことだろう。どこから入ったんだろう。
    いや、単に出れなくなったのか?

    私は周りをキョロキョロと見渡す。

    すると、縁にギリ人が入れるくらいの岩の隙間を見つけた。

    ここか。
    少し体が大きい私でもなんとか入れそう。
    身をよじらせて、中へ入ろうとする。

    ところが、背の当たった側の岩が突然大きく動いた。
    少し触れば倒れるような作りになってたのか。
    大きな音を立てて岩が倒れた瞬間、唸り声が止む。
    そして、光が刺した岩穴の中で、おそらく声の正体らしき者が倒れていた。

    顔を腕で覆うように横倒れに倒れていて、苦しげに体を上下させていたそいつは音に驚いたのか、顔を上げて勢いよくこっちを見た。
    目がでかい。そして鋭い。

    「ぁ.......」
    掠れた声。どうやら男の悪魔だ。フード付きの服を着ている。
    悪魔はしばらく私の顔をじっと見ていたが、やがてへたへたと起き上がる。
    少し動きが女々しいような。

    そして.......

    「.......ごうご…まさと…」

    悪魔の言葉だった。
    そう言って、突然立ち上がり私に近づき、細身で背の高い彼がフラフラと近づいて来て私を間近で見つめてくる。ところどころ黒い髪は、全体的に白く長い。
    思わず身を引こうとするが、男に肩を強く掴まれた。
    指が食い込むほど強い力。長い爪が肌に突き刺さっているのが分かる。
    痛い。

    「ごうご…」

    何を言ってるのかサッパリで固まっていると、男はふと鼻をすん、と鳴らす。そして鼻を私の体のあちこちに寄せて匂いを嗅いだ。手に汗をかいて下手に動けず、私は固まっていた。
    しばらく嗅いで胸元で固まった末、男は目だけで私を見上げた。

    「…君は……人だね。しかも生きている。
    顔の形を見る限り…中国…いや、日本の人間だろう…?」

    突然切り替えられた日本語に驚き、私は「え」とつい声を漏らす。
    男は怪しく笑って顔を上げた。そして肩から手を離し、手についた私の血を匂った。
    そしてまた怪しく笑う。
    「ああ…間違いない…こんなに温かい血は久々に触ったよ」

    なんか…気色悪いな。
    痛む肩を抑えて私が彼を探る目で見る。長い髪と穴の暗さであまり顔がはっきりと見えないが、割とイケメンそうというか…なんか見覚えあるというか…

    「なぜここに来た?」
    男に問われ、私は答える。

    「う、唸り声が聞こえたから…」

    「それで?」

    予想外の反応に、私が驚く。
    え、唸り声が聞こえたから気になって来ただけなんだけど…

    「…いや…誰か苦しんでる人がいるのかなって…思って…」

    「それで?」

    「っ………それでって…」

    「苦しんでる誰かがいるかもと思い、どうして探した?」

    なんなんだコイツ。理屈っぽいタイプか?
    だとしたら苦手なんだけど。

    私は冷静になって答える。

    「…心配になったから…」

    「心配になり、どうして探した?」

    自分の意思を聞かれるのは苦手だ。
    何分、自分の意思を分からないでいる私には苦痛極まりない愚問だからだ。
    なんて答えよう。特に理由なんてないなんて言ったら怒られるかもしれないし…


    「………助けたいと…思ったから…」


    それっぽいことを言ってみる。
    すると男は「へえ」と小さく呟いた。
    これで良かったの…?



    そして、男は今度は私の頭を左右からガシッと掴んだ。
    髪がくしゃっとなり、鈍痛が走る。

    「そうさ。君の予想は大当たりだよ。大当たり。
    君が言ったように、僕は苦しんでいる。苦しくて唸っていた。
    助けてもらいたくて、痛くて唸っていた。
    今もずっと、痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて苦しい。
    君の予想通り、苦しくて唸っている誰かがここにいた。」

    この人、やけに手が硬い。熱も感じないし、その割に力が強いから痛い。
    顔が近い。不思議な匂いがする。

    「なぜ苦しいのか教えてあげよう。
    僕には呪いがかかっているんだよ。怖い呪いが。
    未だに解き方のわからない恐ろしい呪いだ。
    その呪いが今も僕の体を蝕んでいて、痛くてたまらないんだ。
    ほら、あまりに痛くて涙が出そうだよ。泣いてしまいそうだ。
    今も痛みと苦しみで体が震えているんだ。分かるかい?
    僕は辛いんだ。ずっとこの痛みに耐えているんだよ。
    本当は大声で泣きたいほど苦しいんだ。
    でも解き方が分からないんだよ。」

    頭を上に向けさせられ、強引に目が合う。
    泣きそうと自称していた目は、全く泣きそうではない。
    大きく見開いた恐ろしい目だった。

    「さあて。君の予想は当たった。ここからが問題だ。
    そんな苦しんでいる僕を見つけた君はこれからどうする?
    助けたいんだろう?
    なら助けてごらん。この僕を。
    言った通り、呪いで苦しんでいる僕を救ってみせよ。

    どうやって助ける?どのようにして僕を助ける?

    未だ解き方の分からない呪いから
    苦しくて痛くてどうしようもない僕を

    君はどうやって救ってくれるんだい?」


    言葉はだんだん熱を帯びていき、頭を握る手にも力が入っていく。

    「さあ。
    黙っていないで、さあ、答えよ!答えを出すんだ!

    お前の答えを僕に差し出してごらんよ!!!

    君はどうしたって僕を救えるのか!!!」


    怖くなり、目をそらす。



    ふと、洞穴の奥に目が行く。
    岩が退けられていくらか光が差し込んだ奥の床に、何かが見える。

    あれは………何?
    シミのようなものが無数にあって、そこに細々とした何かが転がっている。
    あの丸いものはなんだ…?


    …あれは




    目?


    それと、あっちの大きなものは



    ────────腕だ。



    その瞬間、私は電流が駆け抜けたような衝撃に全身の力が抜ける。
    頭を抑え込まれていた手から頭がずり落ちドタッとその場に崩れ落ち、震えながら必死に後ずさる。
    「あぁ、ぁ、あぁぁ…」
    恐怖で震える私に、男が覆い被さる。
    そう、足を前に放り出し、力の入らない足をバタバタさせて、手と尻でどうにか後ずさろうとした私の上にだ。
    私の足と足の間に膝を立て、腰の横あたりの床に手をついて、私から逃げ場をなくそうとしてくる。


    男は顔を火照らせていた。余裕のない顔で、何らかの色情を感じさせる笑顔で言った。


    「後ろを見たようだね…この呪いはね、悪魔を食らうことで少しだけ血が回復して、ほんの少しだけ楽になるんだよ。
    恐ろしくないかい?
    一瞬でも君は…この血肉の落ちた洞穴に住む僕を助けようとしたんだよ…?

    どれだけ無責任か、分かるだろう…?

    救えるかどうかも分からない相手に…下手に希望を与えて落胆させるようなことをしているんだよ…君は…

    なあ、教えてくれよ。
    助けると言った相手が偽りの涙を流せるだけの恐ろしい殺人鬼だったらどうするつもりだった?
    世界一の嘘つきだったらどうするつもりだったんだい??
    まして僕のような…おそらくこの穴の中で共食いを繰り返していたと思われるだけの得体の知れない相手と知って、君はどうする?前言撤回でもするつもりかい…?

    答えられやしないだろう。
    その程度の心持ちで…よくもまあ…僕を助けたいなんて無責任なことを言えたもんだ…
    心底傷ついたよ僕は。君も他と何も変わらない。
    助ける助ける、なんて言いながらいざ現実を見たら何も出来ない!
    僕の立場にもならないで無責任なことばかり!
    それは、自分が助けなくても代わりがいると思っているからだ!

    …そんな程度の心、持っていたって仕方がないんだよ…

    だから食ってやったんだ…生きる資格のない堕凶魔達に…存在する理由を与えてやっていた!!
    苦しんでいる僕の力になりたいと言った者達を、僕の体の一部になってもらった!!そして痛みを分かってもらうことで、役に立ったと言える!
    そうだろう!!!」


    その言葉に、私は驚く。
    ブバダは前に言っていた。
    堕凶魔になった悪魔たちの行方不明数はかなり多く、今も後を絶たないとか。
    それはもしかして…こいつが堕凶魔を食っていたからなのか?
    想像するほど恐ろしい現状に、私は背筋が凍りそうだった。

    「なあ、君もそうするかい?
    僕の体の一部となることで、同じ苦しみを背負ってくれるかい?
    そうしたら君は…少しは僕のことを助けられたと言える!
    有言実行をしようじゃないか!!ここは潔く!!

    さあ!!!お前は僕をっ……う」

    そこまで言って彼が手で口元を覆った。
    そして、私の何かが口から溢れ、腕を伝う。
    ヨダレなのか、吐瀉物なのか…黒い液体。
    真っ黒だ。そう、真っ黒。

    この光景を私は見た事がある。
    同じように黒い液体を吐き出し、苦しんでいた誰かを、つい最近見た覚えがある。


    ……………………呪いを吐き出す光景を。



    私は勘づいた。
    そして、吐き終えた彼の汚れた手を取る。


    …やはり。



    彼の手は、骨が露出していた。
    さっき掴まれた時にやけに硬いと感じたのも、体温を感じなかったのも、手が骨だけになりかけているからだ。
    少しずつ、体が風化しているからだ。

    これは、よく知ってる。
    この呪いについては、痛いほどよくわかってる。


    私は嗚咽を繰り返している彼の手を握ったまま呟いた。

    「…あなたの呪いって…もしかして、アイ?」


    男は顔を上げた。驚いたような顔で。
    そして「なぜ分かった」と言わんばかりの動揺を示していた。


    私はため息をつく。
    そして手を優しく握ってやった。

    「解き方は確かにわかってない。
    でも、緩和する方法なら知ってる。」

    そしてもう片手で彼の髪を避けて頬を覆ってやる。

    「愛が必要なんだよ。誰かの愛情が。」

    男は動かないでいた。口が黒く汚れ、目をなおも大きく開いたまま固まっている。

    「…この呪いのしんどさは分かってる。
    寿命を超えて、骨は軋み、ギルガムは腐り、精力が真っ黒で粘り気を持って体を循環してもなお、生きなくてはいけない苦しみ。どんなに死にたくても、どんだけ傷ついても決して死ぬ事が出来ない、苦しみ。」


    「彼」にいつもそうしてあげるように、私はまたこの男を優しく抱きしめてやった。

    「どれくらい耐えたのか分からないけれど。
    気持ちを察することはできるから。

    辛かったでしょう。苦しかったでしょう。
    そして今もずっと苦しんでいるでしょう。

    可哀想に。本当に可哀想だよ。

    私が代わってあげられたらいいのにね。
    どうして自分だけって思うよね。そうだよね。
    これしか出来なくてごめんね。
    辛い気持ちを、察することしか出来なくてごめんね。」


    彼と同じように、服越しでも分かる酷く背骨の飛び出た背中を撫でる。
    彼は固まっている。ただ何も言わずに抱きしめられていて、身動きひとつしない。
    体が密着したことで、彼のギルガムの酷く歪んだ音が聞こえる。
    普通なら一定のバイブのような振動のはずの音は、ジュ、ジュジュと雑音を混じえて体の内側を削っているように思えた。


    「……………………君は……何者なんだ」

    ふと、そう問われる。

    「こんな………いつ君を殺して食うかも分からない…何処の馬の骨かも分からないやつに…どうしてそんな情けをかけるんだ…」


    私は背中を撫でたまま答えてやる。

    「何者でもない、ただの人だよ。
    人間は互いを温めあって生きていく。
    人って弱いから、ひとりじゃ生きていけないんだよ。
    困ってる人がいたらとにかく助ける、苦しんでる人がいたらとにかくできることをしてあげる。仮にそれで自分が損する結果になったって、相手のためになっていればそれでいい。
    その相手の愛が、自分の欠けた部分を治してくれるから。
    そういう生き物なんだよ、人間は。
    お互いに傷つけて、お互い何度も許しあって。
    助け合って生きていくんだよ。」

    彼の顔が乗っている肩が、少し熱い気がする。

    「お前が人じゃなくても、私が人間である以上、魂あるものを救わないでいる訳にはいかないの。
    人じゃなくても。どんな悪人でも。

    誰かに救われる権利ってのは
    生まれた時からみんな平等に与えられてる。
    それを知らないから無駄にしてしまう人がいる。
    だからそれを知ってる人は、その人たちを助けてあげる。

    強いものは弱いものを助けよ。
    弱いものは強いものの助けを潔く受けよ。

    どこにでもあるこの世界の定義だよ。」


    自分でも何を言っているのか分からなかったが、脳に浮かんだ言いたいことは言い切ったつもりだ。
    この世界を知る…羅闍としての役割であると、そう思っているから。


    「お前、弱いだろ。
    頑張って強がってるけど、本当は少しも強くないでしょ。

    誰かに食われないように、独りで生きなきゃって必死なのね。

    けどもういいんじゃない?頑張らなくて。
    だって私が来てあげたでしょ。
    もう頑張らずに、思う存分弱くなっていいと思うよ。

    私といれば、あなたを食う獣はどこにも居ないから。」




    そう言って、沈黙がしばらく続いた。


    しかしそのうち、肩はどんどん熱くなって、体にかかる重さも増えて行った。
    彼が私に体を任せ、涙を流して抱き締め返してくれたのだった。


    「………………情けないなぁ……こんな人間一人に…何千年も見せないように頑張った僕の仮面の裏を…僕の弱さを…一瞬で見透かされるなんて……悲しいなぁ………………」

    私は悪魔たちが愛を示すときにするように、体を擦り付けてやる。
    我ながらキモイ…と思うところはあるが、彼らにとっては当たり前で、ありがたいことなのだから。

    「実は簡単に出来ることだよ。誰でもね。
    みんなあんたの内面なんて見ようとしなかったんでしょ。
    みんな、自分が生きるのに必死なんだから。
    悪魔ってそういう生き物じゃん。」

    男は、私に体を擦り返してきた。

    「…君のせいだよ……僕は弱くなって…君に甘えて生きていかなきゃいけなくなってしまった…1度弱さを見せたらもう…戻れないことは分かっていたんだよ…だから見透かされる前に全て食って消して…そうやって上手く生きてきたのに

    …君のせいだ…………何もかも……………」

    彼なりに精一杯甘えてくれているのがわかる。言葉の表面だけではわかりにくい事だけど、私にはわかる。
    彼なりに「辛かった」と訴えてくれているのが分かる。

    だから、真正面から受け止めてあげたい。


    「そうだね。私がそうしてしまったね。
    でもずっとこのままではきっとダメだったからさ。

    だから…責任をもってお前を守るよ。
    お前をそうしてしまった、落とし前をつけるから。

    一緒に地球へおいで。
    私と来れば、お前と同じように苦しんで、辛い中でそれでも頑張って生きている奴らにたくさん会えるから。」


    そこまで言うと、彼は力なく笑って言った。
    「はは……君は罪な人だな……そんなにたくさんの人の心の仮面を剥いできたのかい…………」

    「人だけじゃない。悪魔もいるから。」

    「…そうか………そりゃあ…僕も見透かされてしまうわけだ…」

    男はまた体が痛むのか少し唸る。
    そして私が摩ってやれば、少しずつ呼吸を整える。

    「…分かったよ……ただし約束してくれ。
    死ぬまでに…僕の呪いを必ず解くんだ。
    君が僕の落とし前をつけると言ったんだ。
    僕は死んでも君と離れないでいるからな。」

    私は微笑んで答える。

    「もちろん。約束するよ。」

    すると、彼はぎこちなく笑って、突然私の心臓部に手を当てた。

    瞬間、グラッと目眩がする。
    何が起きたのかわからず、目をぱちぱちさせて前を見る。
    男は言った。
    「君の心臓に憑依させてもらったよ。」

    …そうか。幹部だから憑依型の資格もあるのだろう。
    特に見た目の変化は無いようだが…
    でもなぜ?なぜ私の心臓に?

    「約束を破ったら…君の心臓は止まるよ」

    背筋がまた凍るような感覚がした。
    やはり、こいつは全然マトモじゃない。

    「…代償が重すぎる…」

    「それ相応の覚悟を持って貰わなきゃ気が済まないからなぁ。

    …そうだ。言ってなかった。

    僕はヴェンゾ。…君は?」

    「……羅闍だよ」














    「…けひひ………こりゃまた忙しくなりそうだ…


    ………………色々な意味でなァ…」


    外で会話を聞いていた悪魔の長は、綺麗な髪を風になびかせてそう呟いた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏👏👏❤❤👏👏👏👏👏👏👏👏☺👍👍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator