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    SALVA.

    一次創作、低頻度稼働中。
    小説、メモ、その他二次創作など。
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    SALVA.

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    ガルペの話。

    怠惰「んーで奥右手に見えるあの山。
    あれが衆合地獄に属す刑罰の1つ、針山地獄に使う木などを伐採してる所だ。
    針山は殺生、偸盗、そして邪淫の罪を犯した魂が対象。
    衆合ってのは「鋭いもので貫く」って意味があってなあ、葉が刃物で出来てる木だとか、針山以外にも色々あるわけだが、まあ誰でも106兆5800億年の時を過ごさなくては解放されぬのが当たり前だ」

    木製の船の先頭に立ち、手に持った鎌を水に沈めて揺らし船を漕ぐ悪魔が1匹。
    その後ろには数十名の魂が、色とりどりの顔をして項垂れている。

    三途の川。
    死者が彼岸へ行く際に渡る川。
    閻魔の裁きを受け、二つに分かれた三途の川のどちらかを船で渡る。

    この悪魔、ガルペが率いるのはもちろん地獄行き。
    今回の彼岸最後の渡し船。
    出発してから早3日ほど経過したが、特に問題は起きていない。
    じきに獄門前へ到着する。


    「しかし年月を経て今、刑法がある程度改められたことで、それぞれの罪の重さによって変動する他、基本は数百年単位に収まったのだから、有難いことだろう。

    誤ったものは地獄へ。
    正しいものは極楽へ。

    この決まりだけは、何があっても変わらんのだよ。」

    ガルペは毎度、三途の川を渡る魂達に絶えず話しかけ、長い船旅を退屈しないように心がけている。万一川に身投げでもされたら堪らないからだ。
    三途の川に落ちると、二度と彼岸にも此岸に帰れなくなる。
    そのように永遠に行き場を無くした魂のことを、迷魂(めいこん)と呼ぶ。
    魂の三途の川への転落は、渡し船の番人の責任となる。
    そのためガルペは、しつこく身を乗り出す魂に容赦しない。
    手を切り落としたり、目を潰したりと、周りにいる魂がゾッとするような天罰を容赦なく下す。

    「さあ、これでもう乗り出せはしないな。俺たちは皆心の友だろう。どうかお互い迷惑かけねえで、じきに訪れる地獄の日々に備え、今だけは平和を、可能な限りの平和を過ごそうなあ。」

    その顔には常に優しい微笑みが浮かばれており、声色も明るく優しい。
    このように魂達を「心の友」と称し、地獄に行く前の苦痛を紛らわせている。

    彼に与えられた使命は、魂を残らず地獄へ送り届けること。
    ただそれだけだった。

    その使命を果たすには、まず魂の安全を考慮しなくてはいけない。

    そのため彼は船の運行安定と、魂たちの気持ちの落ち着きを意識して仕事しているが、言ってしまえばそれだけなわけで、それ以外のことはどうでもよかった。


    ようやく針山が正面に見えてきた頃、ガルペは言った。

    「さあて、もうすぐ獄門に到着だあ。降りる時は出発前に言った通り、前から順番に相手の肩を追うように行くんだ。降りてすぐ案内役がいるから、その指示に従いなあ。」

    ガルペは鎌を揺らして角度を変え、上流に向かって船を進めた。


    下り場に着くと、ガルペは近くにあった縦棒に船の鎖を巻き、大きい声で言う。
    「地獄魂34名、獄門前到着だあ〜
    さあさ、足元が揺れるぜ。ゆっくり歩けよお。」


    すると、巨大な獄門の両隣から2匹の悪魔が現れて、魂を迎えに来た。

    「降りたらここに整列しろ!」
    1匹がそう言うと、もう1匹は下り場の横に来て人数を確認し始める。

    ガルペは全員が船から降りるのを確認し、その悪魔に言う。

    「予定より30分くらい早く着いちまったが、問題ないか?」

    悪魔はガルペを見ずに答える。
    「ちょっと早すぎだ。もう少しゆっくり来てくれ。おかげでまだ開門の準備が整ってねえよ。」

    ガルペは笑顔を絶やさずに答える。
    「あぁそうかそうか、そりゃあすまんなぁ。」

    悪魔は横目でガルペを見て、少し冷や汗をかく。

    ガルペは嫌われ者だった。
    嫌われているというより、恐れられているの方がいいかもしれない。
    いつも目を細めにっこりと笑い、いつでも柔らかに話す彼は、どこか不気味というか、挙動が読めないというか、突然暴れだしてもおかしくないような、そんな雰囲気を醸し出しているからだ。
    また、仕事で何か問題が起きて、なかなか解決できないと全てを投げ出して一人でどこかへ行ってしまうなど、仕事に前向きでない面を気に食わない悪魔も多い。

    ガルペもまた、他人を舐めている。
    そして、誰も信用していない。
    自分のことしか考えていないため、不都合なことがあると口を噤んでただ微笑んでいるが、イライラすると首を掻く癖があり、それに気づいている悪魔もいる。
    彼は肌に病気があるため、肌がところどころ赤く腫れている。その場所がどうしても痒くなるらしい。

    群れることを嫌うガルペは獄街の郊外に住んでいるため、近所の者が居ない。
    だがある意味、彼にとっても他人にとってもそれは良い事なのだ。

    お互い、関わりたくないのだから。


    「さあて、それじゃあ俺ぁもう行くぜ」
    ガルペが鎖を外しながらヒラヒラと手を振る。

    しかし、悪魔が止めた。
    「待て。ここで魂が立ち往生してるのはお前の責任なんだぞ。
    せめて門が開くまで…」

    そこで悪魔は口を噤んだ。
    ガルペがにっこり微笑んで動かないからだ。

    悪魔は咳払いをして言い直す。
    「…ともかく!頼むからせめて門が開くまではここに居てくれ。ここで暴れる魂が出た時、お前が居てくれた方が安心するから」

    できるだけ気分を害さないように言っているのだろうが、ガルペは既に不機嫌だった。

    「なら貴方らは、何のためにここに居るのだろう」

    優しい声でそう言うガルペに、悪魔は少し後ずさる。

    「魂を管理し、獄牢まで連れていく。逃げた場合も含めて、だ。
    この仕事は俺ではなく、貴方らの仕事のはずなのになあ。」

    悪魔は焦った様子で答えた。
    「だっ、だから!時間より早く着きすぎたのはお前の時間配分の甘さが招いたことだろう?確かに魂の管理は俺たちだけでも可能だが、それにプラスしてお前が手伝ってくれると、更に…た、助かるし、お前のミスを償うことにもなるだろう!」

    言い切ってから、悪魔は震えてガルペを見た。
    ガルペが持つただならぬ威圧感に圧倒されそうになる。
    それでも、正しくないことを正そうと必死にガルペを叱った。


    しばらくして、ガルペは相変わらず笑ったまま答えた。

    「渡し船としての職務は全うしてんのに、俺。

    わかったわかった。ここにいればいいんだろう」

    悪魔は安心して、彼に背を向けた。

    「後ろで暴れだしたやつが居たら、先に止めてくれ」

    「はいはい」

    ガルペは鎖を巻き直し、船に立ったまま微笑んでいた。



    ようやく門が開き、列が動き出す。
    あの門を通れば、魂たちの人としての記憶は消え去り、自分が罪人であることだけを知って、罰を受けに行くのだ。
    …何百年も。


    列が動き出したのを見て、ガルペは鎖に手をかける。

    「もう良いだろう。俺は帰りますよお。」

    悪魔は列を押しながら振り返って答える。
    「全員入り切るまではそこにいろ!…おい!」

    ガルペは聞こえないふりをして鎖を外し切った。

    「おい!!!待て!!!」

    鋭い怒号が飛ぶが、関係ない。
    ガルペは完全に無視をしてその場を去ろうとした。

    しかし。



    「待ってくれ!ガルペさん待ってくれ!!」

    鎖を外した船が大きく揺れたので「おっとと」と声を出してガルペはよろけた。

    見ると、魂の1つが船を掴んで泣いていた。

    「お、お願いします!!俺を閻魔の所へ返してください!!」

    「おい!!!列に戻れこの愚か者!!!」
    悪魔らが数匹やってきてその魂を掴み、引き戻そうとする。

    魂は抵抗し、泣きながら必死にガルペに訴えた。

    「俺は悪くない!!俺は何もしてない!!本当だ!!
    閻魔は俺が邪淫の罪を持ってると言ったがあんなのははったりだ!俺は女に騙されたんだ!!悪いのはあの女だ!!俺を裏切って浮気したあいつが悪いんだ!!

    ガルペさん言ってたじゃないですか!!
    正しいものは極楽へって!!

    騙された俺は、全く間違ってないでしょう!!

    そうでしょう!!?ガルペさん!!!」


    魂は船を掴んでいたうちの片手を離し、ガルペの包帯が巻かれた手を掴んだ。


    「くっそ、こいつ…!

    ガルペ、もう行け!船を出せ!」

    さっきの悪魔にそう言われ、ガルペは言う。
    「ふむ、さっきは行くなと…」


    「ガルペさん!!お願いします!!もう一度閻魔と…!!」

    ガルペを遮り、魂が叫ぶ。


    行くなと言ったり、行けと言ったり…




    …ああ、懈い。






    ガルペは水から鎌を持ち上げた。


    そして。





    「おねがっ、」





    魂の頭をスパッと割った。

    「!!!!!!!!」

    魂が痛みに悲鳴をあげる。
    血は出ないし死にもしないが、痛みは本物だ。

    ガルペはにっこりと笑ったまま言った。

    「心の友よ、今はそんなに泣いても仕方がないぞお。

    これから貴方には
    今の数万倍の痛みと苦しみが待っているのに。


    心の友よ、まあまあ頑張りなぁ。

    またいつか、会えたら会おう。」

    船と手を掴む力を無くした魂は痛みにその場で崩れ折れて暴れる。
    船が、下り場から離れて、流れに合わせて下り始める。

    魂を取り押さえる悪魔たちの中で、さっきの悪魔が何かを言おうとこっちに向かって口を開いていた。

    ガルペは言う。
    「刑法56条…脱走魂は、いかなる手段においても捕らえる。
    俺のおかげで無事、捕らえられたなあ。良かった良かった。」

    そして手を振り、その場を去った。




    彼はそのまま途中で船を止めた。
    そのまま茂みに足をつけ、家へ向かう。
    本当は船を返すのが先だが、そんなことはどうでもよかった。


    森の奥にある小さな家に着き、彼は戸を開く。

    「ただいまぁ」

    鎌を置き、彼は家へ上がる。
    そして荷物から魂の数を累計する報告書だけ取り出して放り投げ、ダイニングの椅子に腰をかけた。

    置いてあった万年筆を取り、紙に滑らせる。

    「ええと、今回の彼岸は…全部で8往復…30、21、34、32、32、37、31、34…合計で……200と…51……それで……時間の遅延は…無し



    …過早は……………」





    そこで、横に置いてある姿見を見る。
    まだ新しくて綺麗な鏡だ。
    前の鏡は半年前に1回壊れて、買い直した。


    自分が映っていた。


    …自分が。


    にっこりと笑った自分だ。
    幸せそうな、なんの悩みもなさそうな。
    幸せそうな自分。



    ─────可哀想な、自分。




    「…手を洗っておらんな」

    ガルペは立ち上がり、洗面所に行く。
    あまり片付いていないが、手を洗うだけなら問題ない。

    両手の包帯を解き、真っ白な手を出す。
    柿色の爪は手入れをしてないせいで少し傷がある。

    包帯をしているから、素手は汚れていない。


    汚れていない…が、



    魂に掴まれた感触を思い出す。
    冷たくて、やけに柔らかい人間の手。

    女を弄んだ罪に汚れた、罪人の手。

    女に罪を押し付けるような、汚れた手。

    汚い、汚い手。

    その手が、この俺の手を。




    顔を上げる。ドレッサーの正面にも鏡があった。
    にっこり笑う、自分の顔を見る。
    近くで見れば見るほど、優しくて、穏やかな顔。

    こんなに優しい顔をしているのに。


    こんなにいい悪魔でいるのに。






    心の友よ



    …なぜ、俺を苛立たせる?










    瞬間、ガルペは勢いよく

    鏡を殴り付けた。


    バリバリと音がして、鏡が飛び散る。
    その破片が自分にも刺さり、血と共に飛び散る。


    鏡を殴った拳を離す。
    血が出ているが、すぐに止まった。

    木っ端微塵になった鏡を見る。
    ボロボロの鏡に映る、ボロボロの自分。


    目を開き、歯をギリギリと鳴らして震える自分。


    綺麗な、■■色の目。



    額を、割れた鏡に擦り付ける。


    「…見ろ、この酷い有様を。
    このようにボロボロになって。

    可哀想だなあ、俺。

    言われたことはやっているだろう。


    傲慢傲慢、酷い酷い。


    心の友よ

    貴方らのために僕が心を削るのは何度目だ。


    放って置いてくれればいいのに。

    でなければ疲れてしまう、この俺が。





    …ああ、可哀想だ。」



    額から血が溢れてくる。
    鏡の小さな破片が、シンクに落ちていく。

    そして、鏡の自分に優しく口付けを落とした。


    ……いかんな。

    明日からまた俺は我慢する日々を過ごすのだ。


    こんな調子では、問題を避けられん。


    穏やかにいなくては。
    問題を起こさず、平凡に…

    面倒事を避けねば。


    俺を、守ってやらねば。




    彼はにっこり笑い直す。

    「…そうだ、手を洗うのだった。いかんいかん。」



    その濡れた手のまま、水を出したまま

    万年筆を取りに行き、シンクに投げ入れる。


    ガルペは飛び散るほど勢いよく水を出し
    そして長いこと、残り血と共に手を擦り続けた。
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