冬真と春陽SS2作【えいえんのあいを】
手に伝わる温かい血と、反対に冷えていく冬真の体。その微かな温度を逃がさないように抱きしめても意味なんてないことはわかっていた。
俺が殺した。それが、冬真の最期の願いだったから。最期だと、分かっていたから。殺してくれと、もう終わりにしたいと子供のように泣きじゃくっていた冬真の顔はここ数ヶ月見れなかった穏やかな顔で声をかければいつかのようにはる、って呼んでくれそうで。
「…冬真」
半分だけ血の繋がった、俺の兄弟。
俺の希望で、俺の救い。
ずっと冬真が俺の救いだった。ずっと冬真に救われてきた。俺はきっと冬真を救うどころか追い詰めることしか出来なかったけど、最期くらいは弟として兄貴を救えたのだろうか。
血濡れた銃を冬真にそうしたように自分のこめかみに当てる。
冬真のいない世界なんて
かちゃ、と金属の当たる音が耳元で鳴る。銃と、何かが当たる音。何が、なんて見なくてもわかる。冬真の首元に光るものとおなじ。
永遠を、誓ったのに。
「うわああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」
もしここで俺が死んだら誰が冬真がいた事を覚えているのだろうか。父さんは死んだ。冬真のお母さんも死んだ。俺の母親が殺した。新田も死んだ。
冬真の笑顔を、優しい声を、温かい手のひらを、冬真が生きていた証を。
「冬真…とうま、」
鈍く光るふたつのリング。
冬真はあれだけ憎いと言った俺が渡したリングをまだ持っていた。その意味を、勝手に決めろと言った。なぁ。俺の都合よく解釈していいのか。
冬真。俺も冬真と同じだったよ。憎もうとした。憎んで嫌いになれたらきっともっと楽だった。冬真は、ずっと前からそうだったのかな。冬真の抱える憎しみと苦しみの間で、俺はほんの少しでも冬真に安らぎを与えられたのかな。
冬真の手に口付ける。冬真の血と、俺の涙が滲んだ手のひら。ずっと傍で、俺を守ってくれていた。優しく俺に触れるこの手が大好きだった。俺の救いだった。
冬真、冬真、冬真。
きっと死んだら楽になれる。冬真に会える。それでも。
俺は、生きていかなきゃ。
どれだけ辛くて、苦しくて、寂しくても。
冬真が背負った痛みも、苦しみも、罪も、冬真の全てと俺は生きていくから。
冬真のかけていた指輪を自分の首にかける。冷たい金属の感触に生きていることを実感する。
「ずっと、一緒だから」
えいえんの、あいを。
【死人に口なし】
「なぁ冬真」
「んー?」
「俺とさ、出会わなければ良かったって思う?」
「んー…まぁ、思わなかった訳じゃない。」
「…うん」
「はるとあの日出会わなければきっと母さんは死ななかったし、こんなことにもならなかったと思う。はるの母親を殺すことも。」
「…」
「でも、レストランにはるが来てくれて、虎太郎も空もいて…。うん。楽しかったなぁ。過去がどうとか、たらればとか言い出したらキリがないけどはるたちと居た時間は楽しかったよ。」
「そっか。…そっか」
「はるは?」
「え?」
「俺と出会わなければ良かったって思うか?」
「…思わないよ。思ったこともない。」
そう言うと、ほんの少し、冬真が笑ったように見えた。
本当は分かってるんだ。これは全て俺が作り出した夢幻で、俺が冬真に言って欲しいことを喋らせてるだけ。
自分勝手で、都合のいい夢。
冬真に許されて、冬真があの時間を楽しかったと、幸せだったと言う、そうであって欲しいという自分の我儘。
俺は、冬真とあの日出会えなければ、きっと天月の名の重圧に耐えきれずに、それでも逃げる場所も頼れる人もいなくて一人ぼっちだったままだ。だから、ずるいと分かっていても
「俺は、あの日冬真に出会えて本当に良かったと思ってるんだ」
俺の望みで、冬真の言葉じゃないとしても
「俺も、はるに出会えて、はるの兄貴になれて幸せだったよ。」
どうか、冬真が俺と同じ気持ちでありますようにと。願いと、祈りと、欲望を込めて。