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    333reikou

    @333reikou

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    333reikou

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    私が見たいだけのGGと FGOのクロスオーバー
    藤丸立香は男でも女でもどっちでも良いしなんでも許せる方向け
    流血表現もあるので注意。



    基本ダイジェスト形式です、だれかかいてくれ

    ※誤字と少し設定追加しました。

    #クロスオーバー
    crossover

    Fate /Grand Order 聖戦のイリュリアあらすじ
    ある日フードを被った人物の幻を見た藤丸立香はその夜夢を見る。
    それは赤いヘッドギアを付けた男に手を伸ばされる夢。
    それはマシュの盾が砕け、血まみれになる夢。
    目を覚ましてダ・ヴィンチとその場にいたマシュに相談しようとした藤丸立香を突如謎の光が包み込んだ。
    気が付けば藤丸立香、そしてマシュは荒野へ身を投げ出され、謎の怪物に襲われる。
    マシュはサーヴァントに変身できず、また藤丸立香もサーヴァントの召喚が出来ず危機に陥ったその時だった。

    「よう、テメェが人類最後のマスターとやらか?」

    そう言いながら、立香とマシュを助けたのは夢に出た男––––––––––––––ソル=バッドガイだった。
    なぜ藤丸立香とマシュはこの世界へ来たのか、そしてソル=バッドガイの目的とは
    GEARという生命体に脅かされた人類史––––––––––––––イリュリア異聞帯の物語が幕を開ける

    FGO勢

    藤丸立香
    人類最後のマスター、謎の光によってイリュリアにマシュと共に召喚された。ソルとマシュ、そして生き残っているイリュリア聖騎士団、ツェップと手を組み元の世界へ帰る為に戦う事になる。
    よくソルに蹴られる。

    マシュ・キリエライト
    藤丸立香の後輩でサーヴァント、彼女も藤丸立香に巻き込まれる形で召喚された。
    序盤は藤丸同様戦えなかったがギアメーカーとの接触により戦える様になる。

    カルデアの皆様
    いきなり目の前で藤丸とマシュが消えて大慌てしてたがその直後にギアメーカーが接触、二人が帰ってこれる為に、そして異聞帯解決する為にギアメーカーと協力し藤丸達をサポートする。

    フォウ
    フォッフォーーウッ!


    GG勢

    ソル=バッドガイ
    GEARに襲われていた藤丸達を助けた男、ある目的の為に藤丸達と協力する事になる背徳の炎さん。
    知ってる人達が殆ど居ないこの世界で孤独に戦い続けている。

    レオ=ホワイトファング
    イリュリア聖騎士団、騎士団長。
    GEARの侵攻により大切な仲間、友、部下、そして守るべき市民を惨たらしく殺害された為GEARへの憎悪が激しい状態。

    ポチョムキン
    軍事国家ツェップに所属する軍人、ガブリエルがGEARによる襲撃により昏睡状態に陥っている為現在のツェップ代表、イリュリアと手を組みながらGEARと戦い続けている。

    GEARの姫
    破壊神ジャスティスの娘、人類を絶滅させる事を悲願としている。
    GEARの人間への殺意は彼女と破壊神ジャスティスによるものらしい。

    ギアメーカー
    GEARを作ったとされる男。
    ソル=バッドガイと協力関係にあるがバックヤードから出られない状態になってしまっている。
    藤丸達カルデアに接触し協力関係を結びサポートに徹している。









    この世界は、異聞帯。
    本来居た人達はこの世界では死んでしまっている。
    この異聞帯によってソルとギアメーカーの本来居た世界は消滅の危機に瀕してしまっていた。

    ソル=バッドガイ
    GG STの時間軸から来たソル。
    この世界の本来居た“ソル”はジャスティスとの戦いで限界を迎えてしまっており、暴走の危機に瀕していた。
    だがソルに自身の肉体を託し、この世界の“ソル”は消滅しソルは飛鳥と共に解決に動く事になった。
    ジャック・オー達ヴァレンタインシリーズはディズィーが慈悲なき啓示を殺害してしまった為産まれる事もなく、またカイも死亡している為にシンはこの世界では生まれていない。
    (ジャック・オーは飛鳥の創り出したヴァレンタインであるが、この世界の飛鳥は既にジャスティスの精神干渉により殺害されてしまっている為ジャック・オーも産まれることができなくなってしまっていた)
    その為ソルは元の世界を救う為にディズィー、そしてジャスティスと戦う為に藤丸達と協力する。

    ギアメーカー
    GG ST時間軸の飛鳥=R=クロイツ本人。
    月に居た時自分達の世界が突如消滅する現象に襲われ、事態解決する為ソルをこの異聞帯へ送り込んだ。
    ジャスティス達が狙っていた聖杯を先に奪取する事が出来たが逆に取り込まれそうになった為、自分からバックヤードに封じ込める事になった為身動きが取れなくなってしまった。
    バックヤードに漂いながら様々な世界を誰にも認識される事なく、意識のみ放浪してる状態になっていたが偶然藤丸立香と接触した為彼がイリュリア異聞帯に召喚されるきっかけになった。


    カイ=キスク
    かつてのイリュリア聖騎士団、騎士団長を務めた青年。
    本来ならばイリュリア第一連王で存在する筈がこの異聞帯では死亡している、彼の所有していた封雷剣はDr.パラダイムがGEARの本拠地を守る結界として使われている。
    この異聞帯ではディズィーとは出会う事など無かった。

    だが、藤丸立香が危機に陥り封雷剣に触れた瞬間サーヴァントとして召喚される事になる。
    そして彼もGG ST時間軸のカイ=キスクである


    ディズィー
    カイと出会わず、育ての老夫婦とテスタメントを殺害されジャスティスの意思を受け継いだハーフGEAR。
    優しさは仲間のGEARにのみ向けられ、人類には憎悪を向ける、最悪の人類の敵となった。
    ソルを父親と知っているがソルが味方にならない事に複雑な心境になっており、父に戻ってきて欲しい気持ちと父が守ろうとする人類の価値に理解出来ない。
    本来の時間軸では夫、息子と共に消滅の危機に陥ってしまっているとのこと。

    Dr.パラダイム
    姫であるディズィーの補佐を務めるGEAR、ディズィー同様かつて人類に自分が居た場所のGEAR達を殺害された為人類を敵と認識した。
    ソルの事は過去を調べてフレデリックと呼ぶが本来の時間軸と違い友好的では無いのでソルからはディズィーの件同様に複雑な気持ちになっている。

    破壊神ジャスティス
    現在休眠中の破壊神、ディズィーに意思を託しながら眠りについている。
    人類を滅ぼす意思とかつて自分を倒したソル=バッドガイに憎悪を抱いている、そして藤丸立香達カルデアと接触し彼等の世界にも進出しようと目論んでいる。
    残念ながらアリアとしての魂は破綻しているがそれでもディズィーが娘なのは理解出来ている。


    藤丸立香
    飛鳥の意識が見えちゃったせいでイリュリアに召喚された我らが人類最後のマスター
    召喚するサーヴァントは残念ながら縁を結んでいるサーヴァントは愚かカルデアのサーヴァントも呼べない状況であったがカイ=キスクの召喚に成功し、マスターとなる。
    飛鳥によってサーヴァントではないソルともサーヴァント契約を交わしている。

    マシュ
    我らが後輩なすびちゃん。
    実はカイを呼ぶ触媒に必要なものは封雷剣、そして騎士という要素のマシュが必要だった。
    偶然にもマシュが藤丸と共にこの世界に連れてこられたのは本来の時間軸におけるディズィーの深層心理にある夫カイの騎士という概念をかつてマシュがギャラハッドという騎士の英雄を宿していた事からカイを確定召喚させる為だった。
    つまりこっちはディズィーのお願いで連れてこられた。
    召喚されるさい、マシュのみ謎の女性から「彼を呼んで」という声を聞いていたがその声の主こそソル達の本来の世界にいたディズィーの声である。


    ゴッフ
    ソルに脅されてもびびりながらも逃げなかった我らがゴッフ。
    ツェップのガブリエルとイリュリア聖騎士団団長のレオと交渉し協力を取り付けた我らが所長、新所長が焼いたパンは復讐に荒れていたレオに安らぎを与えた、新所長いなかったら詰んでたかもしれない

    ダ・ヴィンチちゃん
    本来のイリュリア時間軸を飛鳥から伝え聞いて居た事で封雷剣の結界破壊にソル達と共に貢献した、ついでにマシュの盾をイリュリアでも使える様にソルと楽しく改造していた。
    ソルとは気が合う様子。

    シオン
    飛鳥くんを怪しんでいたが信じるしかない状況にさせた飛鳥くんをあんま許してないけど仕方ないと諦めざるを得なかったけどバックヤードの情報処理大変だった、Dr.パラダイムとの頭脳ゲーム対決をする事になる。

    カドック
    シオン同様飛鳥を信じて居なかった人、バックヤードに封印されて居た飛鳥くんをジャスティスから隠し続ける魔術を使ったり飛鳥くんから法力の手解きを施されたりしていた。
    ゴッフの護衛係として各代表達の食事にも参加しておりこいつもゴッフの飯を食ってた。

    ムニエル
    GEARに尻を齧られた










    ダイジェストその1
    藤丸立香は突如GEARに攫われてしまう、目を覚まして先、藤丸立香はGEARの姫と邂逅する


    ––––––––––––––先輩!!
    ––––––––––––––立香ッ!!
    最後に聞こえたのは連れ去られる自分を助けようと手を伸ばす自慢の後輩と、男の声だった。
    GEARに攫われてから記憶がない、意識が覚醒しまず視界に入ったのは見覚えのない天蓋だった。
    起き上がろうとすると柔らかなベッドの感触でまた横にそうになる、なんとか起き上がってベッドから立ち上がった。
    「いてて……」
    GEARに殴られた後頭部を摩りながら立香は部屋を見渡す。
    装飾が施された部屋だが、どこか寂しげに感じる。
    「ここは……」
    中央にあるテーブルに歩み寄る、上には何も入っていない茶器が置かれていた。
    誰か他の人が居た形跡というより、ここに置いてあった飾り物の様な気がする。

    「ほう、起きたのか」
    「!」
    突如扉が開き、声が投げ掛けられた。
    立香が咄嗟に振り向くとそこには竜の様な生き物が宙を浮いて居た。
    「……ドラゴン……?」
    眼鏡を掛け、本を持っているその存在が己の知っている存在なのか認識する為に無意識に言葉が出てしまっていた。
    「ほう、私を見てGEARではなくドラゴンと呼ぶとは……」
    少し嬉しそうに告げる目の前の存在から発せられた言葉で立香は彼が竜種ではなく、GEARなのだと理解させられた。

    「人類最後のマスターとやらはどうやら見る目がある様だが……“姫”が果たしてお気に召すか」
    じっと見定められる様に見つめられながら言われた言葉の中に立香は聞き逃せない単語に身体を硬らせた。
    「…………“姫”……」
    「おっと、人間如きが我らが“姫”を軽々しく呼ぶでない、身を弁えよ」
    その単語を呟くだけで睨み付けられた、しかし立香は怯まず見つめ返しながらまだ彼の名を知らぬ事に気付いた。
    「そういえば、貴方は?」
    「人間如きに名乗る名は無いぞ」
    やはり友好的では無く、そのまま背を向けてしまった。
    「でも名前分からないと困るよ、何て呼べばいい?」
    「……」
    心底呆れた様な表情で、彼は立香を静かに見つめていた。
    やがて深い、深い溜息を吐くと呟いた。
    「貴様は囚われているのだぞ?随分余裕の様だが……一度しか言わん、覚えろ–––––––––––私はDr.パラダイム」
    「Dr.パラダイム……」
    忘れぬ様に名を呟く、するとDr.パラダイムは再び背を向け扉の方へ移動し始めた。
    「着いてこい、人類最後のマスターとやら––––––––––––––“姫”が貴様に会いたいと所望している」
    「!」
    立香の目が大きく見開かれる。
    (GEARの“姫”が……)
    何の目的か分からない、それでもDr.パラダイムの視線が語る。
    後についていかねば、殺すと。
    立香は静かに息を吐き、深呼吸すると覚悟を決めて部屋から一歩踏み出した。

    ––––––––––––––––––––––––––––

    「…………」
    Dr.パラダイムの後に続きながら立香は周りを見渡していた。
    室内が続くと思っていたが、部屋の外は長い廊下が続く庭園になっていた。
    庭園には今まで戦ってきたGEARが植物を食んだり、仲間同士仲睦まじくしている。
    人類を滅ぼそうとする人工生命体とは思えない、残酷に人々を殺戮していた生物と同じとは思えなかった。
    「意外だったか?」
    Dr.パラダイムに声を掛けられ、立香は意識をDr.パラダイムへ移す。
    「理性も何も無い怪物達が穏やかに過ごす姿はどうだ?滑稽か?」
    「……」
    嘲笑うかの様に告げられた言葉に立香はまたもう一度GEAR達の姿を見て告げた。
    「……まるで、ここはGEARにとっての天国だね」
    「天国……いいやここは“姫”と“破壊神ジャスティス”がいる限りの楽園だ」
    「こうしていると他の生き物と何も変わらないね」
    「というと?」
    Dr.パラダイムの言葉に立香は答えた。
    「なんていうんだろう……ただ、争わずに生きていたい様に見える」
    「ほう、単純な言葉だな」
    Dr.パラダイムは嘲笑う様に、だが少しだけ嬉しそうに笑っていた。

    歩き続けていると広い場所へ出た、中央に蔦植物で覆われた、屋根のある少し小さな建物、確かガゼボと呼ばれる建築物が見えてきた。
    その傍らで薔薇の花を愛でる一人の女性が居た。
    (人間……?)
    GEARの楽園に何故人間が、そんな疑問を抱いていると女性は振り向いた。
    二つに輪を作る様に結ばれた長い髪に赤い瞳をしていた。
    女性と立香の目が合った矢先だった。
    「“姫”よ、人類最後のマスターとやらを連れてきたぞ」
    「……えっ?」
    Dr.パラダイムの言葉に立香は間抜けな声をあげてしまった。
    「ありがとうございます、パラダイムさん」
    優しく微笑んだ女性はそのまま数本の薔薇を抱えながら歩み寄るとお辞儀をしながら言葉を紡いだ。

    「初めまして、人類最後のマスター様。
    私はGEARのディズィー……“姫”とは呼ばず、ディズィーとお呼びください」
    「––––––––––––––」
    柔らかな声と笑みに、立香は呆然と立ち尽くすしかなかった。

    ……………………

    ガゼボに座り、目の前に紅茶の湯気が茶器から揺れていた。
    “姫”–––––––––––ディズィーは紅茶に息を吹き掛けて少し冷まさせながら飲んでいた。
    「……紅茶はお嫌いですか?」
    そう告げられ立香は慌てた。
    「す、すみません!そういう訳じゃなくて……」
    「もしかして……毒でも入ってると思われました?
    大丈夫、毒なんて入っていません。ここで育てて摘んだ茶葉なんです。お口に合えば良いんですけれど……」
    困った様に笑う姿は人と変わらない、目の前に居る人物は心優しいのではないかと思わせる。
    立香は笑った。
    「それじゃあ、いただきます」
    カップに口をつけ、紅茶を飲んだ。
    それを静かにディズィーと傍にいたDr.パラダイムが見つめる、紅茶を飲み込み、立香は目を見開いた。
    「……美味しい」
    素直な感想にディズィーの笑みが溢れた。

    「まぁ、お口に合って良かったです」
    心から嬉しそうにディズィーは告げた、立香もカップに残る紅茶を飲んでいた。
    鼻に抜ける香りは深く、けれどしつこすぎずに柔らかい。
    渋みも少なく、後味に花の蜜の様な甘さすら感じる。
    マシュはもちろん、この紅茶はゴルドルフも好むだろう。
    「ゴッフに飲ませてあげたい……」
    「ゴッフ?」
    無意識に呟いてしまった言葉にディズィーが小首を傾げた。
    もう一口と口をつけ掛けてもうカップに紅茶はないのに気付いた、諦めてソーサーに置こうとするとディズィーが紅茶のおかわりを注いでくれた。

    「初めてお客様に出したのですけれど……そんなに美味しそうに飲んでいただけるととても嬉しいです」
    「すごく美味しいです!」
    「良かった」
    目の前に居るのが本当にGEARの“姫”と呼ばれる存在なのか疑いたくなってきてしまった。
    本当に人類を抹殺したいと願う“姫”なのだろうか。
    そう考えた矢先だった。
    「…………手荒な方法で攫ってしまってごめんなさい」
    目を伏せたディズィーに立香はまたも呆気に取られてしまった。

    ディズィーは言葉を続けた。
    「貴方を攫った理由は、二つ。
    一つは私が貴方に会ってみたかったという事。
    もう一つは……貴方がた、カルデアにから手を引いてもらう……いいえ、私達について欲しい、が正しいですね」
    「もっと正確に言うならカルデアの技術、特に召喚システムを我々に提供してもらいたい、だがな」
    ディズィーの言葉を訂正する様にDr.パラダイムが告げた。
    「召喚システムを……?何故?」
    「人類にはもう一握りの戦力しか残されていません、今のイリュリア聖騎士団、騎士団長レオ=ホワイトファングは全盛期程の戦いも出来ません、人類に残された戦える存在は残り僅かなイリュリア聖騎士団とツェップのポチョムキンという戦士かあの人…………ソル=バッドガイだけでしょう」
    ディズィーは目を伏せながらカップに指を滑らせた。

    「けれど貴方の召喚システムは、戦える人達を呼ぶのでしょう?」
    「……」
    「私達にとって、人類が滅亡するのは目と鼻の先なのにそれを先延ばしに……それか形成が逆転してしまうのかもしれない」
    「だから、ここから引けと?」
    立香の言葉にディズィーは頷いた。
    そこでやっと立香は自身の抱いていた疑問をぶつけられた。
    「貴方は、どうしてそこまで人類を滅亡させたいんですか?」

    その問いにディズィーの指が強張るのを立香は見逃さなかった。
    唇が僅かに震える、ディズィーは言葉を紡ぎ始めた。
    「……私は、人間の老夫婦に育てられました。ですが私はGEAR……人よりも早く成長し、村の人々は私を迫害し始めました。
    私は老夫婦に逃がしてもらって、人が来ない森で生きてきました。
    そこで、私を守ると誓ってくれた人……テスタメントさんが居てくれた」
    遠い昔を思い出すその瞳は懐かしむ様に、けれど悲しみに包まれていた。

    「賞金を掛けられたりしたけれど、テスタメントさんが守ってくれたお陰で私は生きていけました。
    かつて人だったあの人もGEARに改造されたのだと聞いて、私にもGEARの仲間が出来て、孤独にならない事に安堵していました…………あの日までは」
    ディズィーの声が、僅かに怒りを含んだ。
    「あの日……あの日、賞金稼ぎの人達は森の川に毒を流したんです、私達を殺して賞金を得る為に。
    幸い私は飲んでいなかった、けれどテスタメントさんが飲んでしまっていて……手遅れでした。
    テスタメントさんは、賞金稼ぎ達が私の育ての親が居る村へ向かったと教えてくれました、あの人達を私への見せしめに殺すのだと聞いたそうです。
    私は急いで助けに向かいました、この恐ろしい力が、誰かを傷付けるだけの力がせめて、せめてあの二人を助ける為に今使うんだと––––––––––––––今がその時なんだって」

    ディズィーは手を握りしめる、その手は震えていた。
    そして吐き出す様に言葉を続けた。
    「でも、私が駆けつけた時……何があったと思います?……村の人々が二人を差し出して、賞金稼ぎ達と一緒に二人を、ふた、りを……惨たらしく……生きたまま……っ……!」
    強く手を握り込み、今にも泣き出しそうな、怒りが溢れそうな声だった。

    恐らく立香の想像以上に、地獄の様な光景をディズィーは見たのだろう。
    「許せなかった、同じ人間なのに自分たちの保身の為に他者を差し出して……GEARだというだけで虐げる彼等が––––––––––––––だから、手始めに彼等を殺しました」
    ディズィーの瞳から穏やかさが消え失せた、殺意もなく、敵意もなく、ただそこにいた虫けらを潰したかの様な声音だった。
    「お母さんの言う通り、人類は生きてはいけない。あんな恐ろしい生き物はこの世にいてはいけないんです」
    目の前にいたのはもう心優しい女性ではなく、紛れもなくGEARの“姫”と呼ばれる存在だった。

    「人類は弱い、酷く愚かで、醜い」
    淡々と告げられる言葉に立香は戦慄する。
    「人に生きる価値はありませんよ」
    先程と同じ声音の筈なのに、恐怖を感じさせられた。
    「面白いものを見せよう、人類最後のマスターよ」
    Dr.パラダイムはそう言うと指を鳴らした。
    するとGEARが一人の男を連れてきた。
    その男は明らかに人間だった、その腕には布で包んだ何かを抱えている
    「あ、あなたが……“姫”……!」
    男はディズィーを見るなり跪き、叫んだ。
    「た、頼む!俺をGEARにしてくれ!
    GEARになれば死なないんだろう?このGEARの腕を持ってきた!こいつを俺に移植すれば俺もGEARになれるんだろ?!不老不死になって、お前達に襲われずにすむんだろう!?
    頼む!俺をGEARに、GEARに!!」
    男は布の包みから異形の手––––––恐らくGEARの手を出した。

    既に腐敗が始まっているのか、庭園の花の香りに腐敗臭が混ざる、Dr.パラダイムが鼻を押さえ顔を顰めた。
    ディズィーは男に一瞥もくれず、静かに言葉を紡いだ。
    「……そのGEARの手……」
    「へ?」
    「殺して切り落としたのですか?」
    静かな問い掛けには感情が感じられなかった。
    立香は嫌な予感がした、けれど動く事は許されなかった。
    男は何も感じ取れなかったのか、平然と答えた。
    「あ、あぁ!どうしても暴れるから何人かの賞金稼ぎ達に依頼して取ったんだ!なぁ、だから–––––––––」
    「そうですか」
    刹那、男の首が消えた。
    立香の顔に血飛沫が掛かる、一瞬の出来事だった。

    ディズィーの臀部から尻尾の様なものが口を開き、男の首を齧り取ったのだ。
    尻尾は首を吐き出す、ディズィーの背から翼が現れ、片翼が女性の姿になると腐敗しかけている手を優しく抱き上げた。
    そしてもう片翼も屍鬼の姿へ変化すると頭部を無くした男の腕と脚を掴み、軽々と引きちぎり、細かくし始めた。
    唖然とする立香を前にDr.パラダイムは淡々と告げる。

    「姫よ、それは肥料になりえるのか?その者は向いてない様にも見えるが」
    「肥料には向いていないでしょうが……切り落とされた私達の同胞へのせめてもの罪滅ぼしです……また守ってあげられなかった……痛かったでしょう……ごめんなさい」
    ディズィーは女性から手を受け取り、慈しみながら撫でた。
    淡々と行われた目の前の光景に立香は唖然とする事しか出来ず、顔やテーブルに着いた血を拭う事も出来なかった。
    心臓が鼓動を早める、指先一つ動かせられない。

    「まぁ、大変」
    固まる立香の血に濡れた頬をディズィーが撫でた。
    「お客様を汚してしまいました、ごめんなさい。
    不愉快ですよね……今から拭くものと新しい着替えを持ってこさせますから–––––––あぁ、紅茶も血が入ってしまいましたね、こちらも淹れ直しますね」
    優しく指で血を拭い、微笑むGEARの姫に立香は何も答えられなかった。
    彼女は完全に人類の敵だ。
    それを改めて再認識させられた。
    下手に動けばディズィーは立香も殺すのだろうがそうしないのは“客人”だからだ。
    客人だから、殺さない。
    では客人ではなく敵になったら、答えは目に見えていた。

    「この子も埋葬してあげなくては……えっと……やだ、私ったら、お客様の名前を聞くのを忘れていました」
    ディズィーが離れ、照れ笑いを見せる。
    その表情は愛らしい、けれど顔に付いた血が無ければの話だ。
    「お名前、なんて言うんですか?」
    「………………」
    尋ねられ、立香が答えようとしたその時だった。
    「藤丸立香、そいつの名前だ」
    聞き覚えのある男の声がしたと同時に背中を蹴飛ばされた。
    「いっ?!!」
    「き、貴様は!」
    「…………!」
    背中に痛みが走り、椅子から転げ落ちた立香の首根っこを誰かが掴み宙にぶら下げられた、
    Dr.パラダイムとディズィーが立香を掴む人物を見つめている、立香も目を背後へ向けるとその男の名を叫んだ。
    「––––––––––ソル!」
    「よう、迷子の引き取りに来たぜ」
    そう言いながら、ソル=バッドガイは笑った。


    ダイジェストその2
    敵の本拠地の結界を解除する為封雷剣を引き抜く作戦中藤丸立香とマシュ、そしてソルは危機に陥る、突き刺さる封雷剣に触れたその時奇跡が起きる。


    「こ、このままでは……っ!」
    マシュとソルが受け止めていても徐々に押され始める。
    その攻撃に耐えていたソルの方膝が地面に着く、マシュも耐えられそうにない。
    もうダメだと絶望が徐々に彼等を蝕んでいた。
    「諦めるな!!」
    無意識に胸元に掲げていた手が降り掛けていた、ソルの声でそれに気付く。
    「最後まで足掻け!簡単に諦めるんじゃねぇ!」
    その声に、ソルが未だに諦めていない事に気付き頷く。
    その発破にマシュと立香は立つ。
    一か八かの、たった一度だけのサーヴァント召喚を成功させる為に。
    令呪が光る、更に攻撃が増す、それでも諦めないとマシュとソルが耐え続ける。

    ――――告げる。
    汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に
    聖杯の寄るべに従い、人理の轍より応えよ
    汝、星見の言霊を纏う七天
    降し、降し、裁きたまえ、天秤の守り手よ―――!

    令呪が光る、そして同時に強大な青い雷がその攻撃を掻き消した。
    「チッ、やっと来やがったか……!」
    ソルの言葉にマシュがマスターの方へ振り向く。
    その側に立っていた人物は剣を納めていた。
    「サーヴァント、グラントルーラー、カイ=キスク、座の召喚に応じ、参上致しました」
    「チッ、遅えんだよ、お前は」
    ソルが悪態を吐く、だがその表情は嬉しそうに笑っていた。
    そして呼ばれたルーラー––––カイも笑った。
    「あぁ、事態は理解している。よく持ち堪えてくれたな、ソル」
    そう返し、再び剣を鞘から抜いた。



    ダイジェストその3
    遂に破壊神ジャスティスとGEARの姫ディズィーとの最終決戦が始まる、ラストバトルから最後までのお話。


    轟音、衝撃。
    ジャスティスから放たれた攻撃を交わし、弾く。
    肉体の限界が近付いていた。
    一瞬でも気が抜けない中、頭のどこか一部は冷静にある記憶を思い出していた。
    『お前なら、救えるのか』
    問い掛けられた言葉、その時ソルは“この世界のソル”に答えた。
    「–––––––今の限界を迎えた、お前の代わりに最期まで足掻いてやるさ」
    その言葉に、凄まじく負傷し疲労し、ギア細胞に侵された“ソル”は笑っていた。
    限界まで迎えてもなお諦めなかった、なっていたかもしれない己に手を差し伸べる。
    『悪いな、迷惑かけちまって』
    そう返しながらも、託していった。
    本来ならば“ソル”が立つべきだった、今の己ではなく、この世界の“ソル”がだ。

    下ではカイの剣がディズィーの力を受け止めている、この世界に現れた聖杯を歪ませビーストと呼ばれる存在と同じになった“娘”が見えた。
    『どうして、貴方がそこにいるんですか–––––––––お父さん』
    その瞳は、とても寂しげだった。
    『お父さんだって、ギアじゃないですか』
    その眼差しは、羨望に満ちていた。
    『私の側に居てくれなかったのは、私がギアだからですか!?』
    その声は、怒りと悲しみに染まっていた。

    (あぁ、そうだな)
    少し、言葉が足りなかっただろうかと思う。
    『答えが知りたいか?簡単な話だ、テメェの都合で勝手に決めんじゃねぇ。ただそれだけだ』
    『……そうやって、逃げるのですね』
    失望、落胆、それは手にとるように分かった。
    (–––––––––お前は、求めたんだ)
    “娘”に伝えられなかった事を思う。
    (お前はあの時、俺に求めたな……自分が休める場所を)
    心が安らげる場所を、自分の全てを受け入れ、自分を止められる存在を。
    (残念だが、それは俺じゃねぇ)
    その人物はもう、この世には存在していない。
    だが、今は影法師の様な存在であっても“この世界”にいるのだ。
    (お前が本当に求めてるのは、俺じゃねぇだろ?)

    告げたとしてもあの場ではカルデアのマスターの命が散っていた可能性があった。下手な刺激はしたくなかった。
    けれど、今ならば。
    ジャスティスが力を溜める、この瞬間を待っていたソルが叫ぶ。
    「今だマシュ!!」
    通信越しの声に、その先にいる少女は狙いを定めた。
    「–––––––––接続完了、破壊神ジャスティス、その運命を観測–––––––––」
    傍にいる立香が令呪を込める、狙いは定まる。
    ジャスティスが二人の存在に気付こうがディズィーが止めに入ろうが、その行動をソルとカイが妨害する。
    決して邪魔はさせない。

    これ以上、ジャスティスが、ディズィーが罪を重ねない為に。
    深層心理にある彼女達自身を苦しめない為に。
    「刻寿測定針(アコンプリッシュ・メジャー)、測定開始!
    逆説構造体(ブラックバレル)、形成します!生命距離弾(デッドカウンター)、砲身に焼き付け!
    ――――接続完了(セット)。生命距離弾(デッドカウンター)、逆説から真説へ。
    霊子チャンバーに令呪装填!バレルレプリカ、フルトランス……!」
    「発射!」
    立香の指示にマシュが発射させる。
    ブラックバレルが向かう先を見てディズィーが叫んだ。
    「お母さん!!」
    「行かせません!」
    「っ!」
    飛び立とうとする彼女をカイが剣で妨害する、ブラックバレルは誰にも邪魔されずジャスティス目掛けていった。
    「くっ……確かにあれは脅威です……ですが、お母さんがあの技で倒せると思っているのですか?」
    ディズィーがカイに問う。
    確かにあの程度ならばジャスティスは倒れないだろう。
    カイは優しく笑って答えた。
    「そうでしょうね……あの技でだけなら、の話ですが」
    「!?」
    余裕の笑みと視線の先をディズィーが追う。
    ブラックバレルは確かにジャスティスに向かっていた、向かってはいたが狙いは“ジャスティスでは無かった”。

    「––––––––––アウトレイジ、起動」
    ソルが告げる、そして構えた。
    「ま、まさか……?!」
    「その“まさか”ですよ」
    動揺するディズィーはただ見ている事しか出来なかった。
    ブラックバレルはジャスティスの目の前にいるソルに向かっていた。
    そして刹那、ブラックバレルのエネルギーとソルのアウトレイジが混ざり合い、放たれた。
    「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
    二つの力が重なり、ジャスティスに叩き付けられた。
    凄まじい衝撃と轟音、震度七の地震にも似たそれは中心部以外の者達にも被害をもたらした。
    『ギャァァァァァァァァァァァァ!!』
    ジャスティスが叫ぶ。
    「お母さん!おか、お母さん!!」
    ディズィーが止めようにも衝撃で近寄れない、ただ母の身体が崩れていくのを見ているだけしか出来ない。
    ジャスティスが最後の足掻きにソルに手を伸ばす、だがソルは技を放ち続けた。
    衝撃はソルにも伝わる、身体がひび割れそこから血が滲んだ。
    「これで終わりだ––––––アリア」
    かつての愛しい人の名を告げる。
    「ソル……バッド、ガイィィィィィッッッ!!!」
    面影をなくし、狂気に染まった破壊神の叫びにソルは目を背けなかった。

    「悪いな、これで終いだ……!」
    最後の一押しに、破壊神が砕け散る。
    巨体が塵と化しながら消え始める。
    「お、お母さん!!お母さん!!」
    ディズィーが取り乱し目の前に来た塵を集めようとするがそれは留まることなく消滅していく。
    「うそ、いや、こんな、こんなの……!」
    涙に目を溜め、叫ぶその姿は幼い子供の様だった。
    それをただ、立香とマシュ、そしてカイが静かに見つめていた。

    『目標、ジャスティスの破壊に成功だ!ソル!君は無事か!?』
    ダヴィンチの通信が入る、ソルは答えた。
    「あぁ、なんとか生きてる……後は、あいつだけだ」
    そう告げ、目下に居る“娘”に目をやった。
    項垂れ、地に伏した“娘”は憎悪の瞳でソルを見上げていた。

    「今回の決着は、あいつが着ける」
    そう告げるとソルはディズィー達の前に降り立った。


    「どうして、どうしてお母さんを……!」
    震えた声が憎悪を募らせていた。
    今ディズィーの目に映るのは、たった今“母”を殺したソルの姿だった。
    身体中の皮膚がひび割れ、そこから血を流し、立ち尽くす男は口元の血を拭った。
    ブラックバレルによってギア細胞の再生力が機能していない、今のソルを殺す事は以前より難しくないだろう。立っているのが不思議なくらいだ。
    「ソルさん……」
    マシュが小声で呼ぶ、するとソルは目線だけを立香とマシュへ向けた。
    言葉が出なくとも何が言いたいか、視線だけで伝えられた。
    マシュの隣にいた立香は頷く、それを見たソルは小さく笑った。
    「なんで、なんでっ!お母さんを殺したんですか!!––––––––––––––答えてくださいっ!!!」
    涙を流し、嗚咽を堪えたディズィーが叫ぶ。
    そして閉ざされていた唇が動いた。
    「答え……か……答えは簡単だがな、それを言ったところでお前が受け止める訳がねぇ……だから、次はテメェの番だ。カイ」
    ディズィーから視線をカイへと移した。
    傍の二人を守る様に立つカイは静かに頷いた。
    「––––––あぁ、次は私の番だ」
    そう言葉にする、ディズィーが瞬時にソルからカイへと視線を向けた。

    「貴方も、貴方も私の邪魔をする……!」
    涙を流し、憎悪に染まる顔。
    それは化け物と呼ばれる形相には見えず、寧ろ、大切なものを奪われた子供にしか見えなかった。
    「やっぱり人には生きる価値なんてないんです!勝手に私たちを作って!殺して……っ!許さない……貴方を先に殺して、次にその二人を殺して、次にお父さんの四肢を破壊して人類を滅ぼす姿を見せて絶望させ苦しませながら殺してやる……!」
    「……ディズィー」
    無意識に溢れてしまった声にディズィーは目を見開いて叫んだ。

    「人間が!私の名前を呼ぶなァァァァッ!」
    叫び、片翼が屍鬼の様な姿へ変化し光線を放つ。
    「先輩!カイさん!」
    「っ……これは….…!」
    咄嗟にマシュが盾で守ってくれたが膨れ上がった力を受け止めきれない。
    「このままじゃ……受け止めきれ、ない……っ!」
    ブラックバレルの直後でカルデアの二人とソルは限界を迎えていた。
    カイの手がマシュに添えられる、振り返れば穏やかな笑顔がそこにあった。
    「マシュ、そして立香–––––––ありがとう。
    ここからは私一人で大丈夫、だから……最期まで見守っていてください」
    「カイ……」
    その瞳は覚悟が込められていた。
    行くな、そう告げたかったマスターは唇を引き結んだ。
    既に出来る事は、たった一つしか残されていなかった。
    「––––––––令呪を、もって命ずる」
    その言葉にカイは笑う、ただ静かに。
    法力が増幅される、今ある全ての令呪をカイに注いだのだ。
    「ありがとう、立香……君がマスターで良かった」
    そう告げるカイを立香は、マシュは見送る。
    攻撃が一度止んだ、ディズィーがマシュ達目掛けて飛び出してくる。

    その瞬間に、カイは迎え撃った。
    ディズィーの翼がカイの剣を受け止める。
    破壊神が消滅した今、残された“ギアの姫”と“人類最後の希望”の最後の戦いが繰り広げられた。
    激しい攻防が繰り広げられる中ディズィーは叫ぶ。
    「許さない、許さない……!私は人間を決して許しません!どうせ貴方も、ギアの存在を許さないのでしょう!?」
    「……そうですね、私もかつてはそうでした」
    受け止めながら、カイはディズィーの目を真っ直ぐ見つめながら続けた。

    「きっとこの世界の貴女も優しかったのでしょう。
    何処かで間違えてしまったんです、きっと」
    「間違い?いいえ正しさを知ったんです!」
    「違います、貴方は休める場所を、貴女という人を受け止める存在に出会えなかったんだ」
    「––––––––––––っ!」
    ディズィーの目が大きく見開かれる、それはまるで求めていたものを答えられた様な反応だった。

    カイは知っている。
    彼女が誰かを傷付ける事に苦悩していた事を。
    カイは知っている。
    彼女が誰かを傷付けない為に孤独を選んだ事も。
    カイは知っている。
    彼女が心優しく、争いが嫌いな事を。
    カイだけは知っている。
    彼女が本当に得たいものを得て、そして幸せそうに笑う姿を。
    少しだけ寂しくなると手や足に巻きついてしまう尻尾を。
    嬉しくなると擦り寄ってしまう仕草も。
    掛け替えの無い、大切なものを慈しむ心を。
    たった今母を亡くした彼女の心に残されたのは人類の絶滅、それだけなのだろう。
    もしも昔の自分が今の彼女の姿を見れば迷いなく殺せていたのかもしれない。
    それでも、それでもと願ってしまう、祈ってしまう。

    『私は、どうしたら良いのだろう』
    本当はそんな迷いをあの男––––––ソルに打ち明けたく無かったのに、打ち明けてしまった。
    やるべき事、なすべき事は理解している。それでも、不安は残っていたのだ。
    『–––––––そんなの、お前が分かってんだろ』
    『…………』
    『お前が呼ばれた理由はお前の中に答えが既にある筈だ、カイ』
    『私に彼女が斬れるか?』
    自問自答にも近い問い掛け、八つ当たりにも近い気がしたそれは無意識に吐き出されたものだった。
    役目も役割も分かっている、けれどもう一度彼女の姿を見て迷い無く戦いに迎えても今度はその命を絶たねばならない。

    『……なんならあいつの方に着くか?』
    その問いには首を振る。
    『あいつには、俺の言葉は届かねぇ』
    『!……』
    『だから、お前の好きにしろ』
    あいつはそう笑った。
    『言葉を拗らせると、伝わるはずの気持ちが伝わらなくなる……惚れた女に出来る事は、テメエが知ってんだろ』
    『––––––––』
    呆気に取られてしまったけれど、あぁそうだったと思い出して少し笑えた。
    だからもう、迷いは無い。

    「はぁぁっ!」
    一閃、それをウンディーネが受け止めてからディズィーは距離を取った。
    カイも剣を構え直す。
    「……今からでも、人と共に生きてはいけませんか?」
    それは、最後の問答だった。
    ディズィーはカイを見据えたまま答える。
    「今から?……出来る筈がありません、人類は私達を踏み躙った。
    私を守ってくれた人達に何をしたか知ってますか?
    テスタメントさんは毒の入った水で殺された、私を育ててくれた人達は嬲られ、そして彼等は笑いながらまだ生きていた二人を火にくべていた。
    そして、お母さんを……救えない、人類は救えない程に愚かです」
    その瞳に宿す絶望の色は何も届かない事を表していた。
    そこには優しかった“妻”の面影は無い。
    「……そうですか…………ならば、貴女を斬ります」
    カイは剣の先にいるギアの姫から目を背けない。
    互いの力が高まっていく、立香の令呪の力で増幅した己の力全てを今、叩き込まなければならない。

    「はあああああっ!!」
    ディズィーのネクロとウンディーネからレーザーが、そしてディズィーからも衝撃波が解き放たれる、カイもその力を解き放った。
    「ライド・ザ・ライトニング!!」
    雷の魔法陣を展開、そのままディズィーへ向かって突撃する。
    互いの力は拮抗していた。
    筋肉が悲鳴を上げ、内部で破壊される。
    常人ならば、サーヴァントのマシュですら耐えられなかっただろうその力に今、カイは耐えている。
    「カイっ!」
    「そんな、カイさん無茶です!そのままではカイさんの霊基が耐えられません!」
    立香の声とマシュの声が出て聞こえる、それでもカイは止まらなかった。
    足が千切れそうになる、痛みで意識が失いそうだった。
    このままだったら耐えられない、だが耐えなければならない。
    この力は彼女が嫌い続けたものだ。
    そして憎悪、絶望がこの力には込められていた。
    “もう一つの力”を使わず、“人”としての力で彼女を倒さなくてはならない、証明する為にだ。
    一歩、また一歩と進めていく。
    「!?」
    「は、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
    そのまま速度を早め、レーザーを振り払った。
    「そ、そんな!?」
    驚愕しているディズィーに、カイは雷を纏った剣を一閃させた。

    その剣は、確かに届いていた。
    ディズィーの胸から血が溢れ、飛び散る。
    そのままディズィーは床に座り込み、斬られた傷に触れた。
    「……私、負けたんですね」
    その声に含まれるのは諦めの感情だった。
    溢れる血が床を汚す、それを暗い瞳でディズィーは眺めていた。
    「えぇ、貴女の負けです」
    「……まさか、私の力が負けるなんて……」
    ディズィーの目はカイを見ない、その赤い瞳に映るのは血だけでは無いのだろう。
    「……結局……私、独りになってしまいました……私は…………独りぼっちのまま……終わるんですね……」
    「いいえ、いいえそれは違います」
    「?……」
    ディズィーの瞳がやっとカイに向けられた。
    その瞳に映る自分はどんな顔をしているか分からないままカイは言葉を続けた。

    「貴女が出会ってきた人々はほんの一部の人々なんです。
    今の私の様に貴女の力を受け止めれる人間が、貴女の事を受け入れてくれる人間が居るんです。
    不運だったんです、貴女に不幸が襲い掛かり続けたから、貴女自身に問い掛ける事を忘れさせ貴女を独りにしてしまった。
    ……ただ、不幸にもこうなってしまった……」
    声が震える、ディズィーは少しだけ目を見開いてカイを見つめていた。
    「立ち話では心を開いた話が出来ない……椅子がなければ、心を開いた話が出来ないんです」
    「……いす……」
    血に塗れ、赤く染まるギアの姫は言葉を紡ぎ返す。
    カイは同じ目線になる様に屈み込んだ。
    皮膚が筋肉が裂け血を流す腕を差し出す。
    「きっと、私がここに呼ばれたのは貴女に呼ばれたからでしょう––––––––貴女がずっと誰かに助けを求めていたから」
    差し伸べられた手をディズィーは静かに眺めていた。
    カイの手からも血が滴る、それが床に溢れていたディズィーの血と混ざる。
    「…………」
    ディズィーは混ざった血に手を濡らした。
    やがてディズィーの身体が光の粒子になり始めた。
    「……わたしが……あなたを、よんだ」
    ディズィーはぽつりと静かに呟いた。

    そして、カイに顔を向けた。
    その表情は泣いている様な、けれどどこか満足した様な、そんな笑みを浮かべていた。
    「私、お父さんに側にいて欲しかった……独りが、嫌だったから…………」
    「……」
    ソルの目が細められた、それでも消え始めた“娘”から目を背く事はない。
    「だから、許せなかった……私から大切な人達を奪い続ける人間が…………お父さんも人間の味方をするのが…………でも…………」
    ディズィーが差し出されたカイの手に伸びる。
    「もしかしたら、貴方の言う通り……私が、貴方を呼んだのでしょうね……何処かで、この孤独を埋めてくれる人を探していたのかもしれません」
    伸ばされた手が、重なった。
    それをカイは優しく握り締めるとディズィーの瞳から涙が溢れた。

    「––––––––––––––もっと、貴方に早く出逢いたかった」
    そう笑いながら、涙が頬を伝っていった。
    「……えぇ、私も貴女に出逢いたかった」
    そうカイが答えるとディズィーの身体は完全に光の粒子となり消滅した。
    優しく重ねられた手の温もりを逃さぬ様にと強く握り締める。
    カイ=キスクは唇を噛み締め、俯く。
    ソルは光の粒子が行く場所を見上げる、空へといくそれを静かに見送った。
    立香とマシュも見送る。
    「…………優しい、人だったんだね」
    「……………………あぁ、優し過ぎた」
    立香の言葉にソルはそう返した。

    その時だった。
    『フレデリック、大変だ!』
    「どうした」
    突如、ギアメーカーからの通信が入った。
    立香とマシュは顔を向け、カイもよろけながら立ち上がる。
    そのまま慌てた様子のギアメーカーは言葉を続けた。
    『たった今観測したが、バックヤードの情報がそちらに侵食を開始している』
    「……なんだと?干渉していたジャスティスがいないのにか?」
    『あぁ、恐らくこれがジャスティスの最後の足掻きなんだ……ギアの姫と自分が居なくなった時に消滅現象を起こせる様にタイマーが設置してあった様だ……このままでは、立香とマシュがカルデアに帰還出来なくなったままこの世界が消滅する!』
    「そんな……!」
    マシュの顔が青くなる、立香は叫んだ。
    「まだ、まだ何か出来る事がないの?!」
    『そ、それは……力の起る場所はジャスティスが居た上空だ!今からそこにブラックバレルに相当する力を放てば一か八か……』
    『賭けではないか!?ギアメーカー!!いや無理だ!もう二人にはその力が残っていないだろう!!』
    ゴルドルフの通信が乱入する、その言葉通り令呪はもう無く、マシュの身体も限界だった。

    (まだだ)
    立香が思考を巡らせる。
    「まだ諦めるな……最後まで……!」
    奮い立たせる様に告げたその矢先だった。
    「…………準備はいいか、カイ」
    「……あぁ、今ならいける」
    「?!」
    ソルとカイが、歩き始めた。
    「ソルさん、カイさん……どこに?」
    マシュが呆気に取られていると二人は振り返って笑い、ソルが答えた。
    「どこに?……決まってんだろ、今からここに来るバックヤードからの情報衝撃を相殺する」
    『そんなどうやって!』
    ダ・ヴィンチが叫ぶ、すると今度はカイが答えた。
    「私とソルでなんとかします」
    『なんとか!?!』
    ゴルドルフが驚愕する。
    ソルは頭を掻きながら告げた。
    「恐らくその一瞬だけがお前らがカルデアに帰れる瞬間だ、ダ・ヴィンチ。俺とカイが攻撃した瞬間にこいつらを転移させろ」
    『フレデリック!それは……!』
    「飛鳥、カウントダウンを頼む」
    『っ…………わかった』

    「そんな、無茶です!もうお二人は……!」
    「駄目だ!まだ何か他に方法が……」
    マシュと立香が止めようとした瞬間、カイがマシュの肩に手を、そしてソルが立香の頭に手を乗せた。
    ソルの大きな手が立香の頭を掴む様に触れている、そのせいで頭が上に上がらなかった。
    「今の貴方方では戦えない、もう十分貴女達は戦いました……ここからは、この世界の住人だった私達のやる事です」
    「で、でも……!」
    「マシュ、覚えていますか?」
    「?」
    マシュが目を瞬きさせるとカイは微笑み、言葉を紡いだ。
    「君が立香を守る姿、あの姿に私が羨ましいと言った事です。
    その信念があれば、君は立香と何処までも行けるでしょう……だから、今は君だけが立香を守り、支えてあげる事ができる。
    簡単な様に見えて、それはとても大切な事です––––––だから、立香を守ってください。それが今の君の役目です」
    「カイさん……」
    マシュが手を強く握り締める、これが“彼”の最期に決めた事なのだと察しそれ以上何も言えなかった。

    「また、そうやって……」
    立香の声が震えていた。ソルはそのまま立香に言葉を投げた。
    「なんだ?俺が守ってくれって頼んだか?」
    「……守られてばっかりだった」
    「マスターなら仕方ねえだろ」
    「約束、果たせない」
    立香の言葉にソルは呆気に取られたがすぐに小さく鼻で笑う。
    「なんだ、しっかり覚えてたのか」
    「……お酒、終わった後お気に入りを飲ましてやるって」
    「そうだったな……立香」
    ソルの手の重さが少し抜けて顔を上げられた立香にソルは続けた。
    「テメェが歩いてきた道、それは俺が思うより過酷だったんだろう……だがな、お前自身が決めた道なら最後まで歩け。
    そこに、お前の世界がある。
    色んな奴と関わってきて広がったお前の世界だ。
    その世界の為に、お前の世界の為に止まるな、見届けて進め」
    ソルは真っ直ぐ立香の瞳を見つめる、それを立香も見つめ返し、静かに頷いた。
    手が離れ、軽く頬を拳で殴られる。
    小突かれた程度だったそれがとても重い一撃に感じた。

    「あの酒、名前を覚えてたらお前が成人してから飲めよ」
    そうソルは言い、カイもマシュの肩から手を下ろした。
    残された温もりがそこに残っている、二人は静かに頷いた。
    「ありがとう、君達に出会えて本当によかった」
    「っ……はい……!私達もお二人に出会えて本当に良かったです!」
    「ありがとう……ソル、カイ」
    泣くのを堪えた立香にソルとカイは笑うとそのまま定位置へ歩いていった。


    『フレデリック……すまない』
    「今更謝んな、どうせこっちの世界は消えちまうんだろ?なら奴等は帰してやらなきゃだろ?」
    飛鳥の言葉にソルはそう帰し、通信を一度切った。
    「……まさか、最後に今のお前とこうして並ぶとはな」
    カイが笑う、ソルも笑った。
    「だな……さて、終わらせるぞ、カイ」
    「あぁ、終わらせよう」
    頭上から“何か”が来る、強大な存在がやってきているのが見えずとも理解出来た。
    ジャスティスが残したバックヤードを介して作り出した、所謂強大な爆弾が来たのだ。
    大気が震え、本来影響されない建物が消滅を始めていた。

    ソルは額の制御装置に手を掛けた。
    カイは左目に手を添えた。
    そして二人に残された、最期の力を解き放った。
    「ドラゴン、インストォォォォル!!」
    「ドラゴンインストール……!」
    “背徳の炎”と“ユノの天秤”の血が呼応し、ソルは竜人の様な姿に、カイは左目から侵食をされた様な姿になると二人は同時に力を放った。
    「「おおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」」
    双方の力がぶつかる、カイの霊基が限界を迎え消滅を始めていたがそれでも力を出し惜しまない。
    ソルの身体中にヒビが更に入った、これ以上すれば持たないがソルは構わず続けた。
    だがこれ以上二人の力が身体に耐えられそうに無かった。このままでは押し潰されてしまうかもしれない。
    『ダ・ヴィンチ!転移を!』
    『分かっている!転移開始!』

    遠くで己の名を呼ぶ二人の声が聞こえた気がした。
    二人で背後に少し目をやれば、立香とマシュが転移し始めていた。
    二人の姿が消える直前、立香が叫んだ。
    「負けるな!二人共ぉぉ!!」
    声が枯れそうな叫びをあげる立香の手に、尽きた筈の令呪が補填された。
    それはなんの奇跡か分からない、立香は完全に消える直前に令呪に命じた。
    「令呪を持って命ずる!最期まで消えるな!!ジャスティスの最後の悪あがきに打ち勝て!!」
    令呪の力が宿り、二人の傷が治癒する。
    「やるじゃねぇか立香!」
    「これなら……!」
    令呪のブーストによって二人の力は更に増した。
    立香達の姿が完全に消える、それと同時に二つの力がジャスティスの残した呪いとも言える爆弾を消滅させた。
    立香とマシュが最後にみた二人の男の姿は、絶望的な状況でも諦めず、己の世界の為に戦う姿だった。

    「じゃあな、立香」
    耳に、ソルの声がそう聞こえた気がした。


    「……ここ、は……」
    立香の見える世界が先程とは違う、そこは何も無い場所だった。
    傍にはマシュが倒れている、立香は慌てて抱き起した。
    「マシュ!」
    「ん……せん、ぱい……?」
    マシュが目を覚まし、起き上がる。
    「先輩……ここは?」
    「分からない……でも、カルデアじゃないのは確かだ」
    「……ソルさんとカイさんは……どうなったのでしょうか……」
    「…………」
    言葉が出ない、マシュの問いに答えるべきなのに答えられない。
    恐らく、令呪のブーストがあったとしてもあの二人は耐えられなかった筈だ。
    カイは座に帰り、ソルは消滅したのだろう。
    「……助けられて、守られてばっかりだったね」
    「……はい」
    二人が顔を俯かせた、その時だった。
    「立香、マシュ」
    「!」

    名を呼ばれ、二人は顔を上げた。
    そこに立っていたのはギアメーカーだった。
    「ギアメーカー……」
    「最後まで頑張ってくれて、ありがとう……この世界の人類の代表として感謝させて欲しい」
    「……二人は……?」
    「……」
    立香の問いにギアメーカーは手を差し伸べた。
    その手から、聖杯が現れた。

    それをマシュへ渡す。
    「……聖杯、無事に回収しました」
    「……二人は……」
    立香はまだ問いかけていた、するとギアメーカーはフードを外した。
    「フレデリックは……君達と戦えた事に感謝していたよ。カルデアのマスター」
    素顔のギアメーカーが微笑んだ。
    「僕とフレデリックだけで戦っていた時、実は僕は何処かで諦め掛けていたんだ……けれど、なんの因果か君達が来てくれた。
    君も、フレデリックと同じで、最後まで諦めなかったね」
    「……」
    「その姿に勇気を貰ったのは、僕だけじゃない。きっとフレデリックもだ」
    「……ソルも……」
    「あの二人の代わりに、君に最大の感謝を」

    ギアメーカーは笑う、穏やかに、少しだけ寂しげに。
    「ところでギアメーカーさん、聞き忘れていたのですが……ここは?」
    「あぁ、すまない。説明を忘れていた。ここは、時間が止まっている場所……バックヤードとこちらの世界の間なんだ」
    「世界の間……ですか?」
    「あぁ、ダ・ヴィンチの転移は完璧だったが流石にあの二人の攻撃の余波が強過ぎてね……間に合ってはいたがカルデアに届く前に君達の転移先を潰しかねなかったなら此方に移動させたんだ。
    その時間彼等からすれば一瞬だけだけどね」
    ギアメーカーが申し訳無さそうに答える、やはりギアを産み出した男と呼ばれど人間らしさが残るその顔に毒気を抜かれてしまう。
    「そ、そうだったのですか。ギアメーカーさん、ありがとうございます」
    「それは此方の台詞だよ、マシュ」
    ふいにギアメーカーの手が立香に伸ばされた。
    立香の目がその手を見つめるとギアメーカーは微笑んだ。

    「人類史、最後のマスター。
    この行き止まりの世界で、絶望的な世界で君は彼等と共に最後まで戦ってくれた。
    ありがとう、感謝が尽きない。
    なんの因果か君達と繋がれた事を本当に誇りに思う––––––––––––––君達の旅路がどんなに過酷で、絶望と後悔に見舞われようとも、僕は君達の行く道に希望がある事を信じたい。
    最後まで諦めない君達に、勇気と希望を持ち続けた君達に、僭越ながら僕から送り物をしたい。
    それが、僕が唯一君達の旅路に協力出来る事だから……受け取って欲しい」
    「……ギアメーカー……」
    立香は頷き、その手を取った。
    人類史のマスターとギアメーカーの手が強く握られた。
    それはありふれた、感謝の握手だった。
    「さぁ、君達の帰るべき場所は送ろう」
    「あの、ギアメーカーさんはこの後どうするんですか?」
    マシュの問いにギアメーカーは答えた。
    「そうだな……君達を見守りながら、ラジオでもやる事にするよ」
    穏やかな声音で答えたギアメーカーにマシュも優しく笑った。

    「……はい!ラジオ、楽しみにしています!ね、先輩!」
    「うん、楽しみにしてる!」
    「あはは、ありがとう……ありがとう、二人共」
    視界が光に包まれていく、眩しさで目を瞑る。
    そして二人が次に目を開けた時、心配そうに覗き込んでいるカルデアのみんながそこに居た。

    ––––––––––––––

    報告が終わり、立香は自室のベッドに倒れた。
    「……長かったな」
    「フォウ!」
    立香の枕元でフォウが答える、それに少し笑い立香はフォウに手を伸ばして撫でた。
    少しだけ眠ろうか、目を閉じ掛けたその矢先だった。
    「起きろ」
    突然腹部に衝撃が走った、そして壁に衝突する。
    腹部だけではなく、背中にすら痛みが走った。
    「いっっったぁ!?」
    「フォウ?!」
    痛みで完全に眠気が覚めた、慌てて起き上がると立香は目の前に居た人物に目を見開いた。

    その男は呆れた様な顔で、初めて会った時と同じ顔で立香を見ていた。
    「ったく、何先に寝ようとしてんだテメェは」
    そう言いながら男は勝手に立香の椅子に座る、その行動を立香は呆然と眺めていた。
    男は溜息を盛大に吐きながら口を開いた。
    「ん?なんだ?消えた野郎がここに居るのに驚いてんのか?意外だな、幽霊が怖かったとはな」
    不敵な笑みを浮かべた男に、立香は起き上がった。
    「な、なんでここに……」
    男––––––––ソル=バッドガイは何かを取り出しながら立香の問いに答えた。
    「あぁ?なんだ、いちゃ悪かったか……まぁ、なんだ、飛鳥のせいだよ」
    「ギアメーカー……が?」
    「約束破んじゃねぇって言われちまった」
    「約束……あ」
    机に置かれた物に合点がいく。
    小さなショットグラスが一つ、普通のサイズのグラスが一つ。
    そして、見覚えのある酒瓶が置かれた。
    「……まぁ、テメェと俺に縁ってやつが刻まれたからここに召喚されたらしい……勿論、アイツもな」
    「じゃあ……」
    「面倒くせぇ事はアイツに任せてきた」
    そう言ってソルは笑った。
    立香も笑い、椅子に座るとソルがショットグラスに酒を注いだ。
    今度は立香が酒瓶を受け取り、グラスに注いだ。
    「未成年だからな、それ一杯だけだ」
    「成人したら同じグラスで……でしょ?」
    「分かってるじゃねぇか」
    「フォウ!」
    世界を救った英雄と人類史最後のマスターに其々注がれたグラスを鳴らしたのだった。
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