月明かりに誘う警官A
「やられちまったかァ」
彼が見つめる先には割られた窓ガラスが散らばり、柔らかな月明かりに照らされキラリと輝いている。
上野邸の屋敷内で最も高いジュエリーが盗まれたらしい。
警官B
「畜生、今回は完全に油断してたぜ」
悔しそうに、拳を握りしめる者もいる中で。
婦警
「もしかしてこれはあのkkの仕業なのでしょうか」
興奮気味に巷を騒がす怪盗の名を口に出す者もいた。
この事件がただの空き巣や強盗の類では無いことは誰もが分かっていた。
野次馬の波をかき分け1人の男が規制線を潜った。
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「まさか予告もなしに来るとは...」
現場を一通り見た彼は犯人の検討が確信ついていた。
彼は今までの怪盗kkが関連しているとされる事件現場の状況との共通点を発見していた。
そう、怪盗kkは目当ての品を盗んだ後に必ず月が最も高く見える位置の窓を割るのだ。
そのあまりにもロマンチックな行いは瞬く間にSNSやマスメディアをざわめかせる。
一部の者はそれを世界一鮮やかな器物破損と呼んだ。
無論怪盗kkの正体を知るものはいない。
🎹
「怪盗kk、一体何が目的なんだ...」
彼がそう思うのも当然だった。
怪盗と呼ばれてはいるものの、kkが盗む物は金額が極端に安い物であったり逆に極端に高い物であったりするのだ。
だからこそ警察側は毎回目的の品が分からず頭を悩まされていた。
それでいて今回は予告状も無かったのだ。
そこで、多くの未解決事件を解決に導いてきた水神警部がこの案件を任されたのである。
上野邸の事件から1週間程経った頃、水神は思わぬ所で怪盗kkと対峙することになるのだった。
🎹
「コーヒーでも飲みに行くか...」
昼休憩の時間に喫茶店を訪れた彼は衝撃の光景を目にした。
なんと喫茶店のマスターが怪盗参上と言う文字を小さな紙に書いていた。
それは明らかに今まで見てきた怪盗kkの文字で間違いなかった。
本来ならば、これを証拠として検挙するべきだと思いながら水神は見て見ぬふりをしてワザとカウンター席に座った。
彼の他に客は居なかった。
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「(直球で聞いてみるか...)」
🎹
「なぁ、マスターは怪盗kkなのか」
そう問いかけると、マスターはビクリと肩を震わせた。
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「怪盗kkな、なんのことや〜お客はんはおもろいやっちゃな〜w」
表情は明らかに動揺していて、冷や汗が彼の頬を伝う。
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「書いてるじゃないか、予告状を。」
不用心にも程があるだろと思いながらも彼は心の中で留めた。
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「そ、そらその...怪盗kkへのファンレター......的な」
まさに袋の鼠というにふさわしい状況だった。
水神はマスターに自分こそが怪盗kkだと自白させたい訳ではなくただ1つ聞きたいことがあっただけだった。
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「しっかり職にもついていて、収入も安定しているのになぜ物を盗むんだ...」
きっと彼にも彼の事情があるのだろう、と彼は思っていた。
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「ボクは自分自身の為に怪盗をやってるわけちゃうで。」
つい先程までは問い詰められてオドオドしてマスターが急にペラペラと話しだす。
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「ボクの知り合いにぎょうさん借金を背負わされてる人がおるんや。なぁ''水神暁''くん。」
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「な、なんで俺の名前を......」
この店に来るのは初めてで、警察手帳を出したわけでもないにも関わらず自分の名前を呼ばれ驚かずにはいられなかった。
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「まったくクズ親のせいで...辛かったやろ」
自分の過去の事は今まで誰にも言った事がなかった水神には何が起こっているのか分からず開いた口が塞がらなかった。
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「なんでそれを...」
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「ボクは正直ダイヤモンドにも金にも全く興味あらへんで。そやけどそれらを沢山手に入れて売れば助けられるんや、あきのことを。」
糸目がゆっくりと開かれ、妖艶な紫色の双眸が水神を見据えた。
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「ボクのものになってや、あき。」
歯を見せて笑う彼にはエリート警部の水神でも敵わなかった。