あれは6歳の時。
夜に降った雪が根雪になって。
キラキラと朝日にきらめいて、雪雲一つない青空が広がっていた。
母が身罷ったのは、そんな朝だった。
母と師を同時に失い。
幼い私は、ただ悲しみに暮れていた。
道を見失う迷子の気持ちは、このようだろうか。
毅然とした態度だと、御父様に褒められた。
涙が出なかったわけではない。
泣き腫らした瞳の周りには、赤い染みがいくつも浮かんでとれなかった。
「大丈夫ですよ」と、侍女が化粧で隠してくれた。
父はそれを知らない。
それから6年が経った。
はじめの年は、母を亡くしたばかりだからと言われ。
次の年は、まだ悲しみが癒えぬのだからと言われた。
その次の年は、幼いからと。
次の年には、疑いが混じった。
それからは殺した落胆のため息や、声を潜めた会話を耳にするようになった。
その頃には、自分でも力は目覚めぬのかと焦りが生まれた。
気持ちばかりが先に出て、よく修行の後に倒れたり、熱を出すようになった。
幾日も幾日も祈った。
祈る意味さえ分からなくなる程に。
それしか望みはないとばかりに。
それでも目覚めは訪れなかった。
12になろうかという時。
ついにその日がきた。
退魔の剣が見つかったと、知らせが届く。
しかも、それを携えているのは剣に選ばれた剣士だという。
胸の早鐘が、神殿の鐘のように全身に響いた。
力の目覚めぬ自分は、どのように映るのだろうか。
何を言われるのだろうかと。
けど、恐怖はすぐに消え失せた。
初めてその姿を見て、それは驚きにかわった。
彼は年端もいかない子供だった。
私と同じ。
細くて、小さくて、整った顔立ち。
一瞬、女の子なのかと見間違えそうだった。
けど、その瞳を見た時。
気がついた。
その静かな水面の青は、あの日の青空と同じ色だと気がついた。
背中に冷たい物がはしる。
「お目通り叶い、恐悦至極に存じます。姫様」
声は男の子の物だった。
女神の定めた運命──死を思わせる青空を金の稲穂が飾る。
それが私と彼の初めての出会いだった。
みたいなのが書きたい。
それで4年ほど、顔は合わさなくとも噂だけ互いに耳にしてるリンゼル。
姫様は恐れを。
近衛は憧れと尊敬を抱いてるやつ。
んでもって、ギクシャクしながら皆の前で仲良くさせられるとか。舞踏会で踊らされたりとか。
近衛の好感度がどんどん下がっていくリンゼル…。