Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    しらたき

    @shiroguno

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 13

    しらたき

    ☆quiet follow

    航海日記をみょーんと伸ばした小説とも言い難い何か 主人公がAC主義者でエンジニア騙った時の話

    あなたの役割は、AC主義者です


    AC主義者、人間でありながら人類の敵であるグノーシアの味方をする、道理を失った人間。普段の自分なら全く共感することのできない人種。
    しかしAC主義者と言う役割を割り当てられた途端、今までの自分と全く異なる思考へと変化してしまう。この宇宙は残酷だ。こんな宇宙に存在している自分に耐えられない。消えたい。消してほしい。この船に乗り込んだグノーシアに協力すれば、消してもらえるだろうか……

    議論が始まった。
    いつも通りグノーシアを見つけ出し、排除するための議論が。今回の自分にとっては、グノーシアを見つけ出し、勝利へと導かせるための議論が。

    初日の動きとしては、エンジニアやドクター、留守番に名乗り出てもらうのが定石だと自分は考えている。何も情報がない初日の唯一の情報となり得るからだ。特に留守番は確実に人間の味方であるため、初日に名乗り出てほしいところだ。……自分が人間側であればの話だが。

    「そういや留守番って誰なんだ?」
    しげみちの間の抜けた声がメインコンソールに響く。するとオトメが笑顔で手を挙げた。
    「ビビビってされると、グノーシアさんになるんですよね?あたし、この船出られないので、はい……ビビビされてないはずなのです」
    「オトメが船に残ってたこと、証明できると思う。私も船にいたから」
    その後、すかさず相方であるジナもまた留守番だと明かした。
    余計なことを…… しかし確定してしまったものは仕方がない。今の自分にできることは、目立ちすぎないように議論を拡散することだけ。エンジニアなどを騙ることも考えたが、誰かに名乗り出るよう促されるまでは控えようと思った。ここで本物を排除できればこちら側に有利に進められるから。まあそんな美味しい展開は期待するだけ無駄だろう。

    この後、他の役職を明かせと提案されることはなく、議論は進んだ。結果、コメットのコールドスリープが決定した。
    「わかった、僕はコールドスリープね。皆……ガンバレ、負けんなよ!」
    いつもの自分なら別れを告げていたが、今の自分にはただコメットがグノーシアではないことを祈ることしか出来なかった。

    やはりAC主義者は疲れる。普段と違う思考回路に振り回されている気分だ。特に何も嘘をついていなくとも、その場にいるだけで落ち着かない気分になる。ああ早く消えてしまいたいな。情報収集なんてどうでもいい……ループしてしまえば、AC主義者ではなくなればこの頭痛からも解放されるのに。それでもループから解放されるための何かが起こることに期待して無理矢理身体を動かし、自室へと戻る。そのままベットに倒れ込み、明日のことについて考える。明日は流石に役職を騙った方がいいだろうか。カミングアウトが遅すぎると逆に怪しまれそうだし、議論中盤まで促されなかったら自分から騙ろうか。演技力にはまだ自信がないけれど、グノーシアの役に立てるなら。まあここで消されるのが、今の自分にとっては一番の幸せなんだろうけど。その場合は誰を調べたことにしようか。……仲が悪くなると少々面倒くさい、レムナンあたりを人間だったことにしようかな。

    2日目、沙明の姿が見当たらなかった。グノーシアに襲われたのだ。あの生きたがりを消すより自分を消してくれれば良かったのにという思考を振り払い、議論に集中する。
    するとククルシカが何かを探すかのようにキョロキョロと辺りを見渡していることに気づいた。あの動きはエンジニアは誰かと問いかけている動きだ。自分はすかさず手を挙げた。すると議論中ずっと俯いていたレムナンが驚いたかのように顔を上げ、言った。
    「!……エンジニアは、この船にひとりしか乗っていません。それで、それなのに……僕、エンジニアなんです!」
    なるほど、彼が今回のエンジニアか。初日にエンジニアがいなくなる可能性はかなり低い。恐らく本物だと仮定して動くことにする。……なんとなく人間判定した人物が本物のエンジニアだったなんて、ついてないな。対立しないように人間判定したのに、結局対立する羽目になってしまったし。まあ過ぎてしまったものは仕方がない。必死で自分こそが本物であり、レムナンはAC主義者なんだと思い込むことに専念した。
    その矢先、留守番のジナが声を上げた。
    「自分は人間だと……みんなの前で、ひとりずつ、誓って。そうすれば、信じられるから」
    人間だと言え。演技力は低い敵陣営にとっては死刑宣告にも等しいが、自分はAC主義者。人間であると誓うことは嘘にはならない。ここで宣言しなければ無駄に疑われることになってしまうため、素直にその提案に従い人間であることを宣言した。その後も1人、2人と自分が人間であることを誓っていく。
    するとラキオがその流れを止めるかのように言い放った。
    「断る。そういう旧世代臭いやり口は好きじゃないンだよね」
    ただでさえ皆の反感を買ってコールドスリープしやすいのに…… 今日はラキオが投票で選ばれそうだな。感情ではほぼ動かないラキオが辞めさせたということは、恐らくグノーシアだろう。本来なら庇うべき相手だが、こんな怪しい動きをされた後に庇ってしまえば自分が怪しまれてしまう。最終的にグノーシアが1人でも残っていればこちらの勝ちだから、申し訳ないけれどここは見限ろう。当然のようにラキオが疑われていく流れに適当に同調をする。弁護する人はおらず、予想通りラキオのコールドスリープが決まった。

    いつも通り凍る直前まで喋り続けていたラキオのコールドスリープを見届け、部屋へと戻るとすると、オトメに声をかけられた。
    「あの、少しいいですか?」
    なんだろう?もしかして嘘つき報告か、それとも…… 笑顔で振り向き、オトメの次の言葉を待つ。
    「あのね、あのね、そうだん? なのです。
    いまは、グノーシアさんがいるから……どのひとが大丈夫なのか、わからないの」
    不安げな顔でオトメは言葉を続ける。これは協力関係を結びたい時の言葉だな。何周もループを繰り返すうち、誰がどのように協力したいと申し込んでくるかということも大体わかるようになってきた。
    「……それで、いっしょにがんばれたらいいなって」
    自分はすぐに協力しようとオトメに告げた。オトメは留守番で人間側の味方であることははっきり証明されている。その人が自分の味方になってくれれば心強いことこの上ない。オトメには申し訳ないが、利用させてもらおう…… 嬉しそうに笑うオトメを横目に罪悪感が芽生え、よからぬことを考えている自分に嫌気がさした。

    3日目、オトメが消えていた。その事実に自分は少し安心した。これで協力者を騙さなくてもいいんだ…… エンジニアを騙っている以上、全員を騙していることには変わりないが、あの罪悪感に苛まれ続けることはなくなったのだ。
    議論が始まってすぐに夕里子は人間だったと報告をする。もちろん嘘だ。夕里子はカリスマ力も高く、疑われた際の攻撃力が高い。だから彼女に人間判定を出すことによって少しでも信用してもらおうと考えた。もう1人のエンジニアも報告を続ける。
    「僕の調査結果も……同じです。ログを見る限り、夕里子さんはグノーシアではありません」
    まさかの調査先被りに少しシンパシーを感じてしまった。味方だとありがたいという自分と同じような気持ちで調べたのだろうかと思うと少し笑いが込み上げてきた。2人のエンジニアから人間判定をもらった夕里子はほぼ確実に人間であると他の乗員にも思われるだろう。みんなの顔を見渡す。みんな夕里子の方を見て少し安心したような顔をしていたが、シピだけは眉間に皺を寄せているように見えた。気のせいか……?
    大して人間側に情報が落ちなかったエンジニア報告の後、ドクターに名乗り出るようにとステラが促した。3日目にもなって本物のドクターは残っているのだろうか、と周りを見渡す。すると、シピが手をあげていた。
    「ドクターは俺だよ。コールドスリープした奴なら全員調べてあるぜ。今んとこ、見つけたグノーシアはラキオだな」
    ラキオがグノーシアだったと報告するなら本物っぽいな。他にドクターだと名乗り出るものはいなかった。自分の考察だとグノーシアは後2体潜伏しているはずなので騙りが出ないことには驚いたが、シピを本物だと仮定することにした。
    そのシピが続けて口を開く。
    「ただのカンだけど、な。レムナンは……駄目かもしんねー」
    シピは直感に優れるはずだが、自分の嘘に気づいていないのだろうか。それともただ単にこの宇宙のシピはレムナンのことを嫌っているのだろうか……なんにせよこれは好都合だ。自分もレムナンを疑っていた、というか自分目線敵であることは確定なのだから疑っていると言わざるを得なかった。
    しかし、真偽の分かっていないエンジニアを早々に凍らせてしまうのは人間側にとって大きな痛手となり得るため、弁護の声も大きかった。レムナンがいつも以上に悲観的な表情で哀しみの意を示したことも大きかったのだろうが。
    結局この日はジョナスがコールドスリープすることに決定した。ずっと留守番であるジナが疑い続けていたからだろうか。これまでの挙動からジョナスはグノーシアではないだろうと思っていたため、内心ホッとしながら別れを告げた。

    議論も明日で4日目。そろそろボロを出して破綻しないように気合を入れ直さなくては。ベットに寝転がりながら自分の頬をぱちんと叩く。今までのログを見返しながら議論の流れを脳内で整理する。この中だと人間っぽいと感じるのはステラ、しげみちあたりだろうか。これまでの経験と照らし合わせて、議論の立ち振る舞い方からどちらもグノーシアであるようには見えなかった。となると残っているのはセツとククルシカとSQ……誰であっても心強いな。それはともかく、明日の報告はどうしようか。ここで無闇にグノーシア判定を出して敵を作ってしまうのは愚策だろう。グノーシアらしき人に人間判定を出せばとも考えたが、ここは怪しまれないことを優先させるため、ステラに人間判定を出すことにした。自分に明日がくればの話だが。明日なんて、来なくてもいいが。

    4日目、ジナの生体反応が消えていた。これで留守番2人ともが襲われてしまったことになる。確実に味方だと言える2人が消えてしまい、乗員たちの不安な気持ちが煽られた。
    報告を求められる前に今日も自分から偽の調査結果を報告する。ステラは人間だった、と。するとレムナンが訝しげな顔でこちらを一瞥した後、報告を続けた。
    「また……調査結果が同じになってしまいました。ステラさんは、グノーシアではありませんでした」
    報告後、何故自分が調査した人と同じ人を2日連続で調べているんだとでも言いたげな顔でレムナンがこちらを見てくる。それはこっちのセリフだ。まあ
    本物と同じ結果であるなら自分の破綻もしづらくなるし、人間側にも情報があまり落ちないため、こちら的には好都合ではあるが。
    続けてドクターのシピが報告する。
    「ジョナスはグノーシアじゃねーな。ジョナスには悪い事したぜ」
    やはり人間だったか。まだまだ議論は続きそうだと思わずため息が漏れてしまった。そんな自分を見てか、セツが自分に疑いを向けてきた。
    「誰かを疑わなければならないなら……確率から見てエンジニアから疑っていくべきだと思う」
    セツは自分と同じようにループを繰り返している。自分の疲労した様子を見て本物ではないと判断されたのだろうか。なんにせよここで凍らされるわけにはいかない。凍らされるよりは襲われる方がマシだ。否定しよう……そう思った瞬間、ステラが即座に弁護してくれた。
    「そのように敵視するのは、早計に過ぎませんか?それに未だ情報が不足がちな現在、エンジニア権限者を失うのはあまりに大きな痛手です」
    ステラに人間判定を出して味方に引き込んでいてよかった。基本ロジカルに議論を進めてくれるが、信じたいと思う相手に対しては感情的になるステラの性質を利用しているようで心は傷んだが、素直に感謝した。
    「しかし疑わしいものから凍らせていくならば……お前の番です」
    その弁護も虚しく再び突きつけられる自分への疑い。夕里子がこちらをはっきりと見据えている。やはり偽の人間報告に絆されることはなかったか。元々自分に対して辛辣なところもあったし、この程度で信頼を勝ち取ることはできていなかったか…… この流れはまずい。先日のレムナンの真似ではないが、哀しんで他の人の同情を引いてみることにした。眉を下げ、目に涙を浮かべ、諦めたかのように俯く。すると今度はセツが弁護に回ってくれた。先程のステラの言葉に動かされたのだろうか。続けてSQも弁護に加わる。弁護というにはいささか大袈裟すぎる気もするが、その分効果は大きいだろう。とにかくこれでみんなの信頼を得られたことに安堵した。
    皆が皆を疑う緊張感漂う中、しげみちが軽い口調で雑談を持ちかけてきた。
    「なあ、ここの食堂のメシって、ちょっと虫みたいなニオイせんか?正直カップ麺恋しくなってきたわ……」
    雑談に乗る気にはなれなかった。乗ってしまえば、グノーシアから消してもらえる確率が下がってしまうから。
    そんなしげみちをククルシカがキッと見据える。そんな話をしていて良いの?と言いたげに睨みつけている。そしてその目は疑いの目へと変わった。手振りでみんなの視線を集めてから、こんな時に雑談なんて始めるしげみちを信用して大丈夫?本当に?と表情だけで問いかける。今回のククルシカはしげみちのことを嫌っているんだろうなとククルシカの自由奔放さにある意味関心していると、シピがしげみちの弁護に回った。
    「ククルシカは、どうしてしげみちを疑ってんだ?もしかして、雑談を挟まれるのがそんなに嫌だったのか?はは、俺にはよく分かんねー」
    それを聞きSQも再び大袈裟に弁護に加わる。さっきからSQは弁護によく加わるな…… これまで重ねてきたループの傾向から、彼女は人間であろうとグノーシアであろうと、自分の保身を優先しがちに思える。だから無闇に人を疑ってしまうことで敵を作ることを恐れているのだろうか。
    そんなことを考えていると、今度はしげみちがククルシカを疑い始めた。疑われたら疑い返す、ロジックより感情で動きがちな人がよくやる動きだ。そんなやりとりを少しだけ微笑ましいと思ってしまった。一方の疑われたククルシカは悲しそうに俯いている。その姿は儚げで、今にも消えてしまいそうだ。そんなククルシカの姿を見てみんなはすかさず弁護に入る。こんなに無垢な子を疑うなんて……としげみちに疑いの目を向ける者も出始めた。

    投票の時間がきた。これまでの投票では議論の流れから投票すべき人はほぼ決まっていたようなものだったが、今回の議論は混沌としていたから投票先はばらけるだろうな……そんな自分の予感はあたり、しげみちと夕里子で再投票することになった。しげみちはともかく、夕里子も決選投票に上がってきたのが意外だった。夕里子は自分とレムナン、2人のエンジニアから人間であると報告されている。そんな夕里子に票を入れるなんて、どちらのエンジニアも信じられないと言っているようなものだ。どれだけ疑り深いんだみんなは。正直どちらが凍っても困ることはないだろうが、自分目線では人間確定している夕里子を疑うことはできないため、しげみちを疑いつつ夕里子を弁護した。その甲斐もあってか、しげみちのコールドスリープが決まった。信じてもらえなかったのが悔しいな!そんな彼の恨みの一切ない言葉が自分の良心を苦しめた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    しらたき

    TRAINING直感なんてものが働いてしまったせいで過剰にレムナンの方に注意を向けてしまい、目をつけられてしまって最後まで残されて鬱憤を晴らされるラキオ…みたいなのを書きたかったけど思ったより可愛そうなことになってしまったしレムナンがすごいヤバい奴になってしまった…

    なんでも許せる人向け
    暴力表現あり
    「次元波の測定結果……です。ログを見る限り、ラキオさんはグノーシアではありません」

    初日にエンジニアだと名乗り出たうちの1人の何気ない報告。僕を調べて人間だったという報告。それが何故か酷く違和感のあるものに思えた。もう一方のエンジニアからは感じられなかった不自然な感覚。昨日の報告では感じなかった違和感。なんだこの感覚は。確かに僕はただの乗員だ。ルゥアンでグノーシア騒ぎに巻き込まれてこんな船に乗る羽目になった哀れな乗員。この報告は間違ってはいない、真実だ。なのに…この感覚はなんだ?何故この報告は嘘だと、このエンジニアはまがいものだと脳が警報を鳴らしている?まさか、これが直感というやつなのか?ありえない。そんなものは信用に値しない。もっと論理的に、現実的に説明できなければ僕自身が納得できない。こんなものに頼って推理しても何にもならない。信じられるのは、己の頭脳だけ。ただ、レムナンが本物のエンジニアであるという線を追う気持ちは、どうしても湧いてこなかった。
    3113

    recommended works