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    ny_1060

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    ny_1060

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    看病/お見舞い(キスブラ)

     久々に無茶をした。
     白い天井を見上げる。左腕には針が刺されていて少し煩わしい。枕元に置いておいたはずのタブレットはいつの間にかなくなっていた。ヴィクター辺りが没収したのだろう、勝手なことを。
     体調が良くないのは朝から自覚していた。そうでなくてもこのひと月、時間休すら取れていないし、直近一週間ではほぼ徹夜の日が二日三日あったことを考えれば、コンディションが万全であるはずがなかった。
     それでも休む訳には行かず、朝から会議を三つこなし、昼には司令との打ち合わせ、午後は丁度手薄だったセントラルでの出動要請に応えてサブスタンスを回収、戻ってきて直ぐに二時間の会議に臨み、終了後執務室に戻る途中で俺は倒れた、らしい。温厚なノヴァ博士の困り果てたような顔が浮かぶ。駆け付けてくれたオスカーの蒼白な顔も。近しい者たちに心配をかけるのは本意ではないが、やるべきことがある以上致し方ない。
     そろそろ日付が変わる頃だろうか。あいつは来なかったな――そんな考えを頭から追いやる。いつまでも学習しない俺に腹を立てているのだろうと想像はつく。幼い子どもではないのだから、体調不良の時に人恋しくなったりなどしない。そう、別に会いたい訳ではないのだ。ただ脳裏を過ってしまっただけで。
     もう眠ってしまおう。誰に対する弁解でもないがそう決意して、目を閉じる。溜まった疲れのせいか、程なくして俺の意識は沈んだ。

     
     ふと意識が浮上する。目を開けて視線を緩慢に動かすと、見慣れた男が枕元の椅子に腰掛けてこちらを見ていた。
    「悪りィ、起こしたか」
    「……構わない」
     沈黙が降りる。俺は何の変哲もない天井を睨んでいた。
     我慢比べに負けたのは俺の方だった。
    「……怒っているのだろう」
    「……そうだよ」
     思いの外抑えた声音に驚いた。『わかってんじゃねぇか』とでも言われると思っていた。やや意外な反応にキースを見やると、何故だか途方に暮れたような顔をしている。
    「……何だ、その顔は」
    「……お前に怒ってるわけじゃ、いや、それもちょっとはあるけど、それは大したことねぇって言うか、」
     キースは俺から目を逸らしてガシガシと頭を掻いた。無言で続きを促すと、辛うじて聞き取れるくらいの小声でキースは言った。
    「……お前に倒れるまで無理させた自分が不甲斐ないっつーか」
     根を詰めてるのは知ってたけど、もう少し息抜きとか何とかさせられたんじゃねぇかとか、オレだってメジャーヒーローなんだから、無理やりでもぶん取れる仕事もあったんじゃねぇかとかさ。
     ぽつぽつとキースは続ける。
    「……お前が気に病むことではないだろう」
     恋人の体調管理にまで責任を感じなくても良い、というくらいのつもりで言ったのだが、目が合ったキースが傷付いたような顔をしていて、俺は己の失言を悟った。
     キースは片手で顔を覆って俯く。
    「お前が倒れたって聞いた時、生きた心地がしなかった……」
    「……」
    「心配くらい、させてくれよ……」
     呟く声は震えていた。
     手を伸ばしてキースの手を取り、冷え切った指先を握り込む。
    「……すまなかった」
     俺の謝罪はどこまで伝わっただろうか。
     弱々しく握り返された手に、少しでも俺の熱が移るようにと願った。
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