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    ny_1060

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    2025キスブラ書き初めです。こっそり付き合っている二人です。
    ※ノースのお正月イベストのネタバレがあります※

     ヒーローにとって十二月は繁忙期だ。【クリスマス・リーグ】は勿論のこと、街全体の人出が増え浮き足立つ季節には、何かとサブスタンス絡みのトラブルも起きやすくなる。年が明ければ通常の繁忙度に戻り、まとまった休暇も取れるようになるのだが。 
     今年も無事に新年を迎えられて良かった――慌しかった年末を思い返しながら俺は車を走らせていた。実家に向かうこの道を走るのは随分と久しぶりに感じる。懐かしさと同時に胸の奥に澱のように降るものがあって、俺は一人溜息をついた。
     うちの両親は、俺の私生活に殆ど口出しをしない。自分で言うのも何だが、家柄に鑑みればいっそ思い切りの良い程の不干渉とさえ言える。だからこの件は俺が一方的に気を重くしているだけなのだが、近年実家から足を遠のかせる一因には間違い無くなっていた。
     恋人のキースとの関係を、俺は両親に明かしていない。両親だけではない、フェイスやオスカーにも告げていない。俺達から打ち明けたのはディノとジェイだけで、他に気付いているのはリリー教官とヴィクターくらいだろうか。
     ニューミリオンでは未だに同性愛に対する偏見や忌避感が根強い。俺はヒーローこそがそのような謂れの無い偏見に立ち向かうべきだと考えているのだが、キースに懇願されて渋々折れ、少なくとも第十三期研修の間は関係を明らかにしないことを了承した。
     だから俺は年始の休暇を活用して実家に帰るという、傍から見ればごく自然な動きをしている訳だが、それは即ちキースとの時間が取れないことを意味する。帰る実家も何も無い(と本人は言っている)キースは、タワーのウエストチームの部屋で、他のメンバーが帰省した後の一人の時間を満喫したり、イエローウエストの自宅に帰ってゴロゴロしたりする、らしい(俺はたまには掃除をしておけと言ったのだが、実行されているかは極めて怪しい)。つまり、俺もチームメイトも家族で過ごす中でキースだけが一人なのだ。
     今頃何をしているだろうか――今日になってからもう数回目の疑問を頭の中に浮かべていた時、ハンドル傍に固定してあるスマートフォンの通知音が鳴った。見れば、ロック画面に入り切るほどの長さのメッセージが表示されている。
    『そろそろ向かってる頃か?ゆっくりして来いよ〜』
     一人置いて行かれるのに、本当は重度の寂しがり屋の癖に――胸中に渦巻く想いに一旦蓋をして、俺はハンドルを握り直した。


     二日後。実家を出てタワーに戻る車中で、再び聞き慣れた通知音が鳴った。
    『今日は何時頃戻る?』
     俺が帰省している間、一度も連絡して来なかったキースからだった。
     俺は車を停め、スマートフォンを手に取った。
    「もしもし、キースか」

     行先をタワーからイエローウエストのキースの家に変更して数十分後、玄関のブザーを押す。
     俺達は互いの家の合鍵を持っていない。本当は持ってて欲しいけどやめといた方がいいよな、そう少し寂しそうに言ったキースの顔が浮かぶ。
     落ち着かない足音が聞こえ、ドアが開く。酒を飲んでいたらしく、顔を赤くしたキースに出迎えられた。
    「よう」
    「邪魔する」
     それだけ交わして家に招き入れられた途端、俺は思わず足を止めた。
    「この匂いは……」
    「あ〜、夕飯まだだろ?一応、食うかなと思って作っといたから」
     リビングに足を踏み入れて、俺は目を瞠った。
    「これは……おせち料理か……?」
    「ノースが『ニューイヤー・ヒーローズ』に出たろ?そこでレンの実家のおせちのレシピが公開されててさ、見よう見まねだけど作ってみた。あ、このジューバコ?はマリオンからの借りモンだけどな」
     マリオンに重箱を何のために使うと説明したのかだとか、これだけの料理を一人で用意するのにどれほど手間がかかったのかだとか、そのような疑問はしかし、温かい腕に包まれた瞬間に霧散してしまった。
    「……ブラッド」
    「……何だ」
    「何でもねぇ」
     十数秒抱き締められていただろうか、キースは徐に俺から離れ、朗らかに言った。
    「よし、食うか!あ、日本酒は飲まずに取っておいたからな」
     二人きりの食事は随分と久しぶりで、何を話す訳では無くても胸が弾んだ。キースの作ってくれたおせち料理の数々はどれも優しい味がして、俺は気付けば夢中になって箸を伸ばしていた。
     ふと、ソファーの隣に座るキースを見やると、丁度目が合った。キースは日本酒の入ったグラスを傾けながら、俺の方を柔らかな眼差しで見ていた。その瞬間、温かいものが沁み渡るように胸に広がる。
     ――ああ、この男の隣が一番安らぐ。


    「ご馳走様でした」
    「オソマツサマでした。残りは明日の朝だな」
    「ああ、楽しみだ」
    「そりゃ何より……どうした?」
    「何でもない」
    「ほいほい」
     俯いて固まっていた俺の頭が不意に引き寄せられ、キースの肩に預けられる。別に甘えたいなんて言っていないのに――一瞬浮かんだ強がりはしかし、柔らかく頭を撫でられたことで引っ込んでしまった。
    「……オレに会いたかった?」
    「……お前はどうなんだ」
    「オレ?オレはな……」
     キースが俺の顔を上向ける。一瞬視線が絡んだかと思えば、キースは俺の耳元に唇を寄せた。
     囁かれた言葉に反応する暇も無く、顔中にキスが降ってくる。そのまま深く唇を重ねられて、俺は為されるがままソファーに背中を沈めた。

    『……この三日間、お前のことばっかり考えてたよ』
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