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    ny_1060

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    初めてのドライブデート(5章後キスブラ)

     この男と並んで車に乗ったことなど、数え切れないほどある。新鮮さなど疾うに無いはずだ。それなのに。
     ――つい視線が行ってしまう。
     今日はキースがハンドルを握っている。それは珍しいと言えばそうかもしれない。でも、車内という密室に二人きりであることに今更胸を騒がせるような間柄でも無ければ、ハンドルを握る手の大きさにときめくなどということも無い、はず、なのだ。
     ――関係性一つでこうも心持ちが違うものか。
     俺とキースは先日恋人になった。ディノがエリオスに復帰して、ルーキーズキャンプも終わり、束の間の落ち着いた時期にオフを合わせて、今日は俺の車で郊外にドライブに出掛けている。所謂、付き合って初めてのデートというわけだ。
     ドライブを提案したのは意外なことにキースだった。田舎に行ってのんびりしようぜ、オレも半分運転すっからと、少し照れたような笑みを浮かべて言ったキースに、「酒は飲めなくても良いのか」とまず確認してしまった俺は悪くないだろう。大好きな酒よりも俺との時間を優先してくれることが嬉しいなど、俺も大概舞い上がっているようだ。

     ニューミリオンの慣れた街並みを走っている間はまだ良かった。問題はハイウェイに乗ってからだ。これと言った景色も見えず、運転の邪魔になるだろうと会話を続けるのも憚られ、そんな中で俺は急激に隣のキースを意識し出してしまった。
     キースの手が好きだ。身長はほとんど変わらないのに俺より少しだけ大きな手は、節くれだっていて少し乾燥している。
     ハイウェイでキースが進行方向から視線を逸らさないのを良いことに、隣の彼をちらちらと盗み見てしまう。いつもながら気怠げな横顔に今日は何故か何とも言えない色気を感じてしまって、どうしようもなく鼓動が早まる。

     やがて車は下道に降り、長閑な田園風景が広がる。奥に見えるのは牧場だろうか。車が減速し、停まった。そうか、もう一般道だから信号があるんだな……呑気にそんなことを考えていると、不意に後頭部を掴まれ、眼前に影が落ちた。

     ◇ ◇ ◇

     顔の右半分に穴が開きそうだ。
     さっきからブラッドの視線を感じて仕方ない。オレの運転する姿がそんなに珍しいか? まあ、ブラッド自身が運転が好きだし、今までコイツの車に乗るのは大抵オレが酔い潰れた時だったから、当然運転するのはブラッドだったわけだけれど。
     駐車場を出てからちらりちらりと感じていた視線は、ハイウェイに乗ってから半ば無遠慮に注がれるようになった。進行方向に集中している体で、あるいはブラッドがかけた音楽に集中している体で、しばらく素知らぬふりをしていたオレだが、ついブラッドがどんな顔でオレを見ているのか気になった。
     一瞬だけ隣に目を向けると、思った以上に熱い視線とぶつかる。と、その視線はふいっと逸らされてしまった。
    「……運転に集中しろ」
     ……可愛い!!
     愛おしさがカンストして、内心叫び出したいほどの衝動に駆られる。幸いもうすぐ出口だ。こんなブラッドが隣にいるのに大人しく前なんか向いていられない。
     赤信号で停車したタイミングでブラッドの頭を引き寄せてキスをした。お小言は御免なのですぐに離れてハンドルを握り直す。
     ちらりと盗み見たブラッドの耳が赤い。
     ――え?
     もしかして、コイツこういうの、嫌いじゃない……?
     突然心臓が派手な音を立て始めた。何だこの可愛い生き物。ああ、もう一回キスしてぇ。でも赤信号の度にするのも芸がねぇよな。いや、本音はそれだけじゃとても足りない。目的地が遠すぎる。
     そんなことで頭をいっぱいにしていたオレは、隣のブラッドが、赤信号の度にまたキスされるんじゃないかと密かにそわそわしていることなど知る由もなかった。
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