「ぷは〜、今日も酒が美味ぇ〜……ん?」
ウエストチームのリビングの片隅で満足げにグラスを傾けていたキースは、目の前に落ちた影に顔を上げた。ディノが新たなピザを取って戻ってきたのかと思ったら、別人だ。
「キース、誕生日おめでとう」
「お〜マリオン、ありがとさん」
意外、と言っては失礼かもしれないが、わざわざ祝いに来てくれるとは驚いた。クッキー作りの縁、というヤツだろうか。
「これ、プレゼントだ」
目の前にぐい、と綺麗にラッピングされた包みが差し出される。
「マジか、気ィ遣わせたな。開けて良いか?」
「……好きにしろ。オマエにぴったりな物を選んだからな、わかったら生活態度を改めろ!」
そう言い放つとマリオンはノヴァ博士たちの方へスタスタと戻って行ってしまった。
「何だぁ? ブラッドみてぇなこと言うな……」
早速包みを開けると、小箱が三つほど出てきた。
「何なに……エチケットマウススプレー、強烈ミント風味……? こっちは何だ? 消臭機能付きハンド&ボディクリーム……それでこのデカいのは、服・空間用ファ◯リーズプレミアム……」
軽さ的にも性格的にも酒ではないだろうと思っていたが、この方向性は予想外だった。
「要するに消臭剤ってことかよ……そう言や前にも煙草の匂い何とかしろって言われたっけな……」
今年も酒以外の物を、と携帯灰皿を贈ってきた誰かさんをふと思い出す。何だかんだしっかり師弟ということか。
更に袋の中を探ると、ご丁寧にメッセージカードが添えられていた。
『キース、誕生日おめでとう。せっかく子どもに好かれているんだから、子どもたちの良い見本になることも少しは考えたらどうだ? 良い一年を マリオン』
端正な筆跡で綴られたメッセージに、思わず笑いが漏れる。戻ってきたディノに「マリオンからもプレゼントを貰ったのか! さすが、大人気だな、キース!」と大声で言われてマリオンからのプレゼントが衆目に晒されるまで、あと数秒。
◇ ◇ ◇
「ふふ」
隣で頬杖を付いているノヴァが、不意に笑みを溢した。
「どうしました、ノヴァ」
「ん〜、マリオンとヴィクを見てたら嬉しくなっちゃって」
視線の先には、キースにプレゼントを押し付けるマリオン。マリオンがキースの自堕落さを毛嫌いしていたこともあり以前は全くと言って良いほど接点のなかった二人だが、最近では会えば一言二言交わすくらいの関係にはなっているようだ。
「私もですか? マリオンだけならまだ分かりますが……」
「ふふふ、だってヴィクが嬉しそうでさ〜」
「嬉しそう……そうですか」
確かに、マリオンにとって交流の幅が広がっていくことは良いことだと考えてはいた。しかしそれが自分の感情を動かすほどだったとは。
「ヴィク、マリオンをずっと見守ってくれて、ありがとうね〜」
「……私は特段、何も」
「またまたぁ〜」
「……放っておけない気にさせられるのですよ。彼の性質故か、私の気質故か、恐らく両方なのでしょうが」
「マリオンが大人になってきて寂しい?」
不意にノヴァの声色が真剣さを帯びる。
「さあ、どうでしょう……確かにメンターになってからの彼の成長は著しいですが、今は共同生活をしていることもあって、寂しいという感情は湧いてきませんね」
「じゃあ、マリオンの十三期メンター期間が終わったら、打ち上げしようか、おれたち二人で」
「マリオンが入所した際も似たような趣旨の会をしませんでしたか?」
「何回やっても良いじゃない〜、ヴィク、泣かないでよ?」
「泣くのは貴方の方では?」
「あはは、そうかもね。う〜ん、何だか乾杯したくなってきちゃったな!」
「今日の主役を差し置いてですか?」
「うん、だから、ひっそり」
「全く……」
軽くため息をつきつつも、グラスを掲げる。視線の先には、ウィルに呼び止められてお菓子を勧められながら談笑する彼の姿。
「「マリオンの将来に」」