おれが志望校を伝えると担任は不可解そうな顔をした。困惑した、という方が正しい。
「イガラシ、きみは多才な人間だ」
次に何が来るかは簡単に予想がついた。
「もう決めたことです」
「わかってる、応援するよ。もっともきみほどの実力なら簡単に受かるだろう」
先生はあごに手をあてた。意志の固いおれを説得させられる言葉を選んでいるようだ。この時間はおれにとって無意味以外のなにものでもない。
「しかし、少し簡単すぎるんだ。勉強して大学に進むつもりならいくつか上の学力の高校を選んだ方がいいし、野球を続けるつもりなら墨谷以外にも強豪が……」
「墨谷以外じゃ野球はできません」
先生がおれの発言の意図を理解しかねた様子で腕を組む。おれは手持ち無沙汰な30秒をもてあました。教室の窓には粉雪がちらついている。
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