ごはんを食べよう⑧ イソップは素直にそう答えた。
今まで──荘園に来るまで──イライに出会うまで、イソップは食事に関して何かを思うことはなかった。
食事は体を動かすために必要な作業で、面倒なことだったからだ。
それが、イライとこうして何かを食べるようになってから、特別なもののように思えるようにかった。
イソップはソフトクリームをスプーンで掬った。一口口に含むとすうっと溶けていく甘いミルクの味が舌に心地よい。
目の前には上機嫌にソフトクリームを舐めているイライがいて、ああ、いいなと思った。
「イライ」
「何、イソップくん」
「僕、あなたが好きです」
イソップの落とした爆弾に、イライは目を見張り、そうしておいてからゆっくりと瞬いた。
ぱち、ぱち、と繰り返される瞬きに、イソップの手がじっとりと湿る。
「私も、君が好きだよ」
「……イライ、わかっているでしょう」
誤魔化された、と思った。
責めるような語調になったのは、想いを受け取ってもらえなかったからではない。
「私、は」
手元のソフトクリームに視線を落とすイライは目を閉じて、ふうっと息を吐いた。
溶けてきたソフトクリームごとコーンを口に放り込んで噛み砕いたイライは、小さく首を横に振った。
「……本当に、君を好きだよ」
「……そう」
イソップはグッと手を握った。荒れ狂う感情の波が落ち着くのを待って、イライへ手を差し出す。
すっかり溶けてしまったソフトクリームは、ただ甘いだけの液体だ。
この恋も、甘いだけならよかったのに。
イライはイソップの手とイソップを交互に見て、おずおずとその手を握った。
「夜ご飯、何にしますか」
「……シチューがいいな、ほら、この間ルーを買ったでしょ。白いやつ」
「クリームシチューですね」