流星群のシンアニそれは星のきれいな静かな夜だった。
夜更かし以外はきっと誰しもが眠りの中にいる頃、アニスは一人部屋を抜け出して約束の場所へと向かう。
実際にはそれはロマンチックでもかわいいものでもなかった。単なる業務連絡に過ぎないのだから。
暗がりには誰もいない。息を切らせたアニスの呼吸音が聞こえているだけだ。近くの壁に背を預けると深く息を吸い込んで整えていく。
丁度それが終わった頃に、眼前に翻るものがあった。アニスが伏せていた顔を上げれば、いつしか会うのがお決まりになってしまった人物がそこにいた。
「シンク……」
ほ、と息をつくアニスを一瞥すると、シンクが無言で手を差し出す。いつものように書類を渡して、それで終わりのはずだった。
その瞬間、上方がぱっと明るくなる。アニスは思わず空を見上げた。
「わ、あ……」
空から降るたくさんの星。
「流星群……」
それはどちらの言葉だったろう。
幾多もの星が流れては消え行く。今日の預言には詠まれていなかったはずなのに。そう頭の片隅で思いながら、アニスは一時現実を忘れてただ綺麗な光景に魅入っていた。
こんな光景を見るのは初めてで、多分はしゃいでいたのだろう。
「すごい、きれいだね」
「ーー」
親しい友人にするかのように話しかけてしまう。シンクからの反応は特になくとも、不思議な高揚感に包まれたアニスがそれを気にすることはない。けれど、シンクがどんな風に思って何を感じているのかは気になった。
アニスが何も言わないシンクを見れば、流れる星の下にシンクの姿が何度も照らされては陰ってが繰り返されていく。
一体何を思っているのか、どんな表情をしているのか。知りたいと思った。仮面で隠れていて口許しか見えないけれど、用が済んだのに立ち去らずに一緒になって星を眺めているシンクのことを。
どれくらい経っただろう。いつの間にか星は流れていってしまっていた。
束の間の美しい光景。それは一瞬の内に消え去って、今はただ元の星明かりの照らす闇が降りていた。
「また、同じ時刻の次の場所で」
普段と何ら変わらない声色のシンクは、そう言い残して闇夜に消えていく。
さっきまでのことはアニスの見た幻だったのだろうか。図らずも星降る美しい光景を二人で見たこと。
幻想は忽ち消え去って、アニスはそっと息をついた。