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    さつき

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    さつき

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    硝子お姉さんと津美紀ちゃんと手荒れのお話。硝子さんは伏黒姉弟と交流があるという幻覚。最終的には悟硝とつみめぐのお話にしたいと思ってます。

    玉手 ひどく複雑で、数奇で、皮肉な縁あって、年齢が2桁にも満たない幼い姉弟と五条と私と、誰1人として血縁のない4人で家族の真似事のような時間を時折過ごしている。

     その姉弟のうちの姉の方、津美紀とともに、炊事の後片付けを終えて、冬の足音が聞こえ始めた頃に五条が持ち込んだ円形の炬燵に2人並んで足を滑り込ませて腰を落ち着ける。
     少女が宿題の準備をする傍ら、手近にあった鞄の中から細長いチューブ型のハンドクリームを取り出す。キャップをくるくると回し外して、手の甲にチューブを軽く当てて中身を押し出し、再度キャップをくるくると回し嵌めて天板に置く。左右の手の甲を擦り合わせると、ふわりと、甘すぎない程度に花の香りが広がる。ルーティンと化した淀みない一連の動作で、掌と指先にもハンドクリームを伸ばして、水仕事後の手を保護しながら労った。そして、ハンドクリームを鞄に戻そうと手を伸ばそうとしたところで、ふと、左手側から視線を感じて、その視線の主に目を向ける。少女は宿題のドリルとペンケースを広げる手を止めて、興味ありげにハンドクリームと、それに触れようとする私の指先を、やや前のめりになって小さな唇を少し開けたまま見つめていた。その視線の意味を思案し、もしかしたら、少女が置かれている境遇を考慮するとハンドクリームを塗るという行為が未知なのかもしれない、と瞬時に思い至った。

     同じ水仕事後の手を保護してあげようと、仕舞う、という予定を変更してハンドクリームを手に取り、少女に体ごと向き合ってキャップを再度外す。
    「津美紀、手出して」
     少女は私の呼び掛けに驚いたのか、小さく肩を揺らして、宿題に添えられていた小さな手を炬燵布団の上にさっと下ろした。そして、注視していたことがバレた気まずさからか、一瞬だけちらりと私と視線を合わせてから、きゅっと結ばれていく小さな握り拳に向けて視線を落とした。こちらに手を差し出す気配はなく、なにやら言い淀んでいる。
    「えーっと…」
     買い物帰り等、時折手を繋いだりする時には、こちらが照れてしまうくらい嬉しそうに手を差し出すのに。そういえば今日は繋いでないな、と急に感じ始めた違和感が実は根深いもののように思えてきた。
    「津美紀、どうした?」
     私の問いかけに、少し躊躇ったように、いつもの人懐こいものとは異なる、頼りない声色で、視線を手もとに落としたまま、ぽつりぽつりと話し始める。
    「あの、私の手、硝子さんの手みたいにすべすべしてなくて。この前、友だちからもちくちくしてる、って言われたし。だから、その、少しはずかしくて」
     そんなことか、と少々面食らいつつも、少女なりに感じた引け目や、悪意の無い一言に小さな心の傷を負い、その感情と向き合いながら勇気を出して言葉を紡いでいるであろう様子がひどく健気に感じられた。躊躇しながらも真っ直ぐに吐露してくれたやさしくて、純粋無垢な少女の心をこれ以上傷付けないように、出来るだけやさしく、丁寧に伝えてあげたいと、少女の伏せられた目と小さな両の手を見つめつつゆっくりと左手を伸ばす。
    「料理とか洗い物とか洗濯とか。ただでさえ手が荒れるのに、冬は乾燥してさらに荒れる。私も頻繁に手を洗ったり消毒したりするから気を抜くとがさがさになったり血が出たりする。だから、こうやって手入れしてる。津美紀も気をつけないとな」
     軽く握り込まれた右の小さな拳をやさしく掬い取り、手の甲に軽くハンドクリームのチューブを押し付けてちゃぶ台に置く。

     少女は攫われて行った右手を追いかけるように視線を、顔をあげて、私の所作をぽかん、とした表情で見つめている。その表情を意に介すことなく、両の手でやさしく包み込むように、自身のものより一回り小さい手の甲と掌、指の爪の先まで丁寧にハンドクリームを馴染ませていく。
     成程。先日、手を繋いだ時にはあまり気にならなかったが、冬のものへと変わった空気にさらされた指先の手触りは、ほんの少しだけ硬くなり、かさつき、丸みを帯びた爪は艶を失っていた。
     こうしてまじまじと見てみると、俗に言う子どもの手とはかけ離れた、あまりにも大人びた手をしており、本来ならば負わなくていいはずの苦労を映し出しているかのようだった。大人びた振る舞いをしていても、しっかりもののお姉ちゃんとして振る舞っていても、まだ小学2年生の、年相応の子どもなのだと、唐突に突き付けられたような気がした。
     家事も、義弟の世話も、人並みの家庭であれば。こんな境遇でなければ。私とは異なるものの、「普通」との違いへの苦悩は声に出さないだけで、言葉にできないだけで、吐き出す術を知らないだけで。心の中で燻り続けては少女の心を蝕んでいるのかもしれない、と思い至り、その感情や葛藤ごと慈しんであげたいと思った。

    「津美紀の手は働き者の手だね。恥ずかしいことなんかじゃないよ」
     こんなことで傷つく必要はないのだと。違う意味合いを持っているのだということが伝わればいい。
     小さな右手を元の位置に戻し、もう片方の手を掬い取って同じようにチューブを押しつけてから、小さな手を包み込んで、丁寧に、労わるようにハンドクリームを塗り込んでいく。

    「恵のこともこの家も守って。私たちに美味しいごはんを作ってくれる。とてもやさしくて強くて、頑張り屋さんの手だ。私は津美紀の手、好きだよ」
     私の言葉にハンドクリームが馴染んでいく手を見つめる少女のくりくりとした大きな瞳から、今まで声に乗せることのできなかったであろう想いがぽろぽろとこぼれ落ち、ぱたり、と炬燵布団の布地を色濃く滲ませた。そして、ぐすり、と鼻を啜って、艶々とした黒髪を揺らしながらほんの少し俯いて、言葉を紡いだ。
    「私も、硝子さんの手、やさしくて、強くて、大好き」

     子どもの涙という、不慣れなシチュエーションに一瞬だけ瞠目し、戸惑いつつも、真っ直ぐに伝わったであろうことを嬉しく思い、自然と唇が弧を描いた。
     また同時に、震える声で紡がれた自身の手の評価を面映く思いつつ、まだ遠すぎない記憶の中、古びた教室にて、クズで最強な2人の思いつきの戯れに付き合わされて片手ずつハンドクリームを塗られた際に「強い手」と評されたことを思い出した。図らずもあの行為が自分の中で息づいており、少なからず救いになっていたことを自覚させられ、むず痒さを感じつつ、よしよし、と頭を撫でながら小さな肩を引き寄せた。

     この少女のかわいらしい笑顔の奥に秘められた、「普通」と違うことへの苦労や苦悩、似つかわしく無い重責が少しでも晴れて、自分を認めて、労ってあげられるようになればいい。かつての私のように。
     冬の始まりの何気ない日常の一幕。ハンドクリームのやさしい香りに包まれながら、そんなことを思った。



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    さつき

    DONE硝子お姉さんと津美紀ちゃんと手荒れのお話。硝子さんは伏黒姉弟と交流があるという幻覚。最終的には悟硝とつみめぐのお話にしたいと思ってます。
    玉手 ひどく複雑で、数奇で、皮肉な縁あって、年齢が2桁にも満たない幼い姉弟と五条と私と、誰1人として血縁のない4人で家族の真似事のような時間を時折過ごしている。

     その姉弟のうちの姉の方、津美紀とともに、炊事の後片付けを終えて、冬の足音が聞こえ始めた頃に五条が持ち込んだ円形の炬燵に2人並んで足を滑り込ませて腰を落ち着ける。
     少女が宿題の準備をする傍ら、手近にあった鞄の中から細長いチューブ型のハンドクリームを取り出す。キャップをくるくると回し外して、手の甲にチューブを軽く当てて中身を押し出し、再度キャップをくるくると回し嵌めて天板に置く。左右の手の甲を擦り合わせると、ふわりと、甘すぎない程度に花の香りが広がる。ルーティンと化した淀みない一連の動作で、掌と指先にもハンドクリームを伸ばして、水仕事後の手を保護しながら労った。そして、ハンドクリームを鞄に戻そうと手を伸ばそうとしたところで、ふと、左手側から視線を感じて、その視線の主に目を向ける。少女は宿題のドリルとペンケースを広げる手を止めて、興味ありげにハンドクリームと、それに触れようとする私の指先を、やや前のめりになって小さな唇を少し開けたまま見つめていた。その視線の意味を思案し、もしかしたら、少女が置かれている境遇を考慮するとハンドクリームを塗るという行為が未知なのかもしれない、と瞬時に思い至った。
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    yokoyoko221

    MEMOここに置いとく、

    103のボーイたちのラブについて失礼します、読みて〜になった話、マジでしょうもないし今まで書いてた世界線と話が違う!になりそうな話、でもまあこんなんかもわからんめちゃ仲良しで色々あってよく一緒のベッドで寝る先輩とちがさき
    いやなんだけどちがさきがぬくのだるいなって思った瞬間があった日とかに夜先輩と布団入って、先輩といっしょにできたらめちゃいいのになー、人にやってもらう方が一人でやるよりいいし、好きで安心の相手だしいいじゃん、と思うけど別に思うだけ、しかしあるとき一人でソファぬいていると帰ってこないと思っていた先輩が帰ってきてしまい(ご都合展開)、先輩は「あ、ごめん。でも鍵閉めろよ」て普通に出て行こうとするから「ちょっ、ま、先輩」「なに」「たまってません?」「は?お前だろ」「見苦しいもの見せたので、お詫びにぬきますよ」「…は?」になる。しかし先輩も脳内で言葉にはなってなかったが、実は同じようなことを感じていたのだった!(そうなの?)そして服着たままぬいてもらう先輩。そして結局ぬいていないちがさきに「お前のまだだろ」でぬいてくれる先輩。ふぃ〜。で終わって服着たところで「気持ちよかった〜、またしましょうね」とかぬかすちがさき、せんぱいは「そうなの?」とかしか言わないけど、その後何度かちがさきからの誘いにより行われる。毎回言質のように「気持ちいい、またしましょうね」というちがさき。さんかいめくらいに先輩が「ねえ俺これでもしちがさきに恋人できたとか言われたら、いやなんだけど」と爆弾発言(思ったことをそのまま言ったらホームランだったパターン)。ちがさきのなかで、降り積もった先輩への愛情が爆発した(そして構ってほしいという気待ちが爆裂に満たされた)瞬間であった。先輩、かわいい!俺、先輩以外いらん!!(ゲームと芝居はいる)の感情が秒でたるちの脳内を支配、「俺!そんなのないです!ちかげさんが、いたら嬉しい!」と思ったことをそのまま言ったらそれはまたホームランであり、「わかった」になるちかげ。ハッピーエンドです。は?(は?)
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