極彩色がまぶたの裏に焼き付く。あまりにも長く幸せな走馬灯の中にいた。
ペンを動かす音は止まらない。なぁ、と声をかけても全く反応がない。
「おい。」
「ん。」
「もう寝ろよ」
「まだ。」
死に急ぐように声を発する。俯いた小麦色の髪がふわふわと揺れる。始末書、いや、…違う。反省文を書く彼女の瞳は、藍にのまれる。
「こんなのでいいのかな。」
「いいんじゃないか?」
「いいよね、」
淡い色から涙が落ちる。そんな涙も拭えない。
「残ったのはこれだけか。」
指環をにぎる。細い指の中には、彼の文学があった。
「後悔はしてないよ。あの場では、あれが優先的だった。」
「あぁ、後から転生しやすい俺と、しにくい露風を、考えるんだったら。」
「はは、…なんだろう、司書室も、広くなっちゃったや。」
「そうだな。」
「珈琲でも、淹れようかな、」
「珈琲よりアンタは」
「いややっぱり紅茶にしよう。」
「ほらやっぱり。」
俺の声は届かない。これから彼女が歩む先を俺は知らない。『俺』は知ることができない。
『絶筆報告書 5/*○ No.12 について』
書類を封筒に入れる。
あまりにも綺麗であまりにも切ない極彩色の走馬灯をみた気がした。寝れない。彼は、もういない。左の中指に指環をはめてそっと唇を当てた。あまりにも拙くあまりにも、片想い同士のあたしたちに似合った口付けは、相手を知らないまま、砕けて消える。唇を離した。揺らいだ瞳から涙が落ちる。
スペシャルサンクス、相互フォロワー。