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    海猫🌊

    @UMI33_73

    さねぎゆのSSや小説を書きます✍︎(^ω^)カキカキ
    どんなCPも読むのは好きです😍

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    海猫🌊

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    何億煎じのネタですが、🍃と🌊で遊郭潜入してるところが見たいっ❣️という個人的願望か抑えきれずに書き始めました。
    Xのツリーにつなげる式が読みやすいと言っていただけるのですが、過去ツリーが長すぎてBANされたため、細切れにしたものをまとめてこちらに載せます。

    もうひとつの遊郭潜入鬼殺隊最高峰の麗人である冨岡がなぜ遊郭潜入のメンバーに選ばれなかったのか、それは口下手だからとか背が高いからなどの理由では無い。
    実は宇髄は、嫁達を送り込む数ヶ月前に不死川と冨岡で潜入捜査を試みている。
    冨岡は遊女の見習いの新造、不死川は冨岡が掴んだ情報を怪しまれずに入手するための客役として。

    吉原ではそこそこ格式のある『高田屋』に、潜入の拠点を置くことを決めた宇髄は、冨岡を受け渡す際その見世の遣手(やりて)の女に金を掴ませ、誰かコイツと2人きりにさせてほしいと言うものが現れても全て断り、遊女となれる年齢に達するまでは、髪が白く、傷だらけの男以外には会わせないようにと釘を刺す。

    「その白い髪の男ってのは、この子とどういう関係の男なんだい?」
    「道理が通らねぇのは重々承知の上での頼みなんだが、そいつはコイツの元許嫁(いいなずけ)だ。金が無くて恋人を売っちまうようなろくでもねぇ奴だが、いよいよ客を取るって前の日には、そいつにまっさらのコイツを抱かせてやりてぇんだよ。もちろんその時も金はたんまり払うからよ」
    「お前さん、役者も霞むくらいの色男の上に、なかなかの友達思いなんだねぇ」
    「そんなカッコイイもんじゃぇよ。じゃあコイツの事、よろしく頼むな」
    「お預かりします。この子は磨き立てれば必ずや目を見張るばかりの絶世の美女になりますよ」
    遣手の女はほくそ笑みながら、宇髄を見送った。

    宇髄が通りに一歩踏み出すと、入り口の塀に腕を組んでもたれかかっていた不死川に横目で睨まれた。
    「テメェ…なんだ今の陳腐な設定はァ。俺ァ人でなしか」
    「気ぃ悪くすんなよ。ここに売られてくる理由なんて、信じらんねぇだろうが、そういうの結構あるんだぜ?」
    「俺が言いたいのはそこじゃねぇ、なんで俺が冨岡のいいなず…」
    宇髄の大きな手が不死川の口を押さえ、顎で店先を指した。
    「今入っていったいかにも成金趣味の男がいただろ。あいつはたいそう口が軽いと評判の、この辺の金持ちのボンボンだ。あいつに見つかれば冨岡の噂は、あっという間に吉原中に広がるだろうぜ。そうすりゃきっとこちらが探さずとも鬼の方からやってくる」

    結果は宇髄のもくろみ通りだった。

    件(くだん)の成金男は、見習いの着物に着替えて奥から出てきた冨岡を目ざとく見つけ、見世の女将を大声で呼びつけて「金はいくらでも弾むから、今日はこの子を自分の部屋に上げてほしい」と懇願する。
    「若旦那、この子にまだ客は取らせられないのでございますよ」とたしなめられても、諦めきれぬとばかりに、『高田屋に入ったばかりの新造の美しいことといったら、まるで天女のようだった。ぜひともあの子の最初の客になりたいものだ』と、翌日になると宇髄の予想通りの噂をばらまいた。
    おかげで冨岡を一目見たいと訪れる客が後を絶たず、見世も冨岡を客引きの材料にしようと、新造を飛び越えて花魁に設えてしまう。
    いきなり、いかにも高価で煌びやかな衣装を着せられた冨岡は眉間に皺を寄せる。
    (俺は人形では無い)
    喉元まで出かかったが、任務開始から日が浅く、まだ鬼の何も掴めていないのに、ここを追い出されるわけにもいかない。
    仕方なく冨岡は、金糸銀糸で大輪の花が織られた絢爛豪華な衣装に黙って袖を通した。

    さて今回鬼殺隊が追っていた上弦と思われる女の鬼であるが、おなじ花魁の身分で、吉原最大の見世に潜伏していた。
    突然降ってわいた冨岡に人気の全てをかっさらわれて、すこぶる面白くない鬼は、苛立ちを抑えきれず、自らの足で冨岡のいる見世に乗り込んできた。
    噂の真意を確かめるためと、此処で生きていたけりゃ自分より目立たぬようにと灸を据えるためだ。

    有名な花魁が急に現れたせいで、高田屋の従業員たちはどよめいた。
    この美しい姫は、たいそう気位が高く、自分の気に食わないものは身の回りの世話をしてくれる禿(かむろ)だろうが、客だろうが平然と酷い目に遭わせたり、不要となればゴミのように見世から追い出してしまうと聞く。この姫を怒らせると、本当にある日突然、この世から跡形もなく消え去ってしまうのだ。(取って食ってしまうのではと揶揄されていたが、それが紛れもない真実であることは、後になって皆が知ることとなる)
    ヒステリックで冷酷で暴力的なこの花魁には黒い噂が耐えなかったけれど、妖艶な美貌だけは吉原随一で、これまでナンバーワンの名を欲しいままにしていた。

    「あら、京極楼の蕨姫(わらびひめ)さんじゃありませんか。わざわざこんな場末のお店に、なんの御用でございましょうか」
    女将が丁寧に堕姫を出迎える。
    「ここに最近入った、たいそう珍しい青い目の色をしたおなごがおるじゃろう?その子に会わせておくれ」
    「それはいくら貴女様でも手順を踏んで頂かないと」
    「お前はいったい誰にそんな口を利いてるの?」
    「大金を積まねば花魁のご尊顔を拝むことも出来ない、それは貴女が1番よく分かっておられますでしょうに」
    それを聞いて、後ろにいた禿がおずおずと声をかけた。
    「蕨姫様、今日は金子(きんす)を持って来ませんでした」
    堕姫の顔色が変わった。
    「はぁ?お前は何一つ満足に仕事ができないんだね」
    怒りを込めて、女児の頬を張り飛ばそうと姫の手がサッと上に上がった。
    その手首を、傷だらけの力強い手が後ろから掴んで止めた。

    「何すんのさ!」
    袖越しに見上げると、真っ白な髪に顔にも真横にかぎ裂き傷の走る、精悍な面構えの男が自分の手首を掴んでいる 。
    振り払おうにも全く身動きが取れなかった。
    それに微かに香るこの甘い匂いはなんだろう…堕姫の足元がふらつく。

    「こんなところで暴れんじゃねェよ。人前で子どもなんて殴ってみろ。テメェの評判は地に落ちて二度と浮上出来ねぇだろうぜ」
    ハッとして周りを見回すと、この見世の客や従業員、通りをそぞろ歩く人々までが、何事かと立ち止まって中を覗いている。

    「あ…ぐぅ…う、うるさい!なんなのお前は!」
    つま先がやっと地面に着くくらいに持ち上げられていた手を急に離され、たたらを踏む堕姫。
    「花魁!大丈夫ですか」
    禿に支えられてなんとか踏みとどまったものの、不死川の稀血の香りにやられて堕姫はまともに立っていられない。
    「帰るよ!」
    禿の肩を借り、ヨロヨロと足元がふらつく状態で遠ざかる女の後ろ姿を睨みながら不死川は確信した。

    「上手く追い返してくれてありがとうよ」
    ふいに女将が礼を言うので
    「いや大した事はしてねェ」
    と自分も見世を出ようとしたところ、女将と一緒にいた遣i手(やりて)の女が目を見開いた。

    「お前さんはウチの花魁の許嫁だった男だろう?」
    「───」
    「お前さんの特徴は、あの男前の紹介屋に聞いた通りじゃないか。我慢できずに花魁に会いに来たのかえ?」
    「我慢だァ?」
    眉間に皺を寄せる不死川を他所に、いい事を思いついたとばかりに女将が手を叩いた。
    「うるさいのを追っ払ってくれたお礼に、特別にどうだい?顔だけでも見ていってやったら」
    (俺は冨岡の『元許嫁』だったな。気に食わねぇが宇髄の譜面通りに動くしかねぇ。冨岡とも、怪しまれずにこの先どうするか打ち合わせなきゃなんねェし)

    「わかった。恩に着るぜ」
    そう言って草履を脱ぎ不死川は廊下に上がった。
    「でも旦那、あの子に絶対手は出さないでおくれよ。あの子の操(みさお)も立派な商売品だからねぇ」
    「手なんか出さねぇよ」
    「そこのお前、この白い髪のお兄さんを花魁の部屋に案内しておあげ」
    「はい」
    不死川は禿の後について、人が五人は横並びで歩けそうな大きな階段を登っていった。
    冨岡の部屋と言って通された場所は、夕闇が迫る空が開け放たれた障子窓から広く見渡せる控えの和室だった。

    「こちらでお待ち願います。花魁は今お化粧の最中ですので」
    「あいよォ」
    張り出した窓に着流しの股を割って腰かける。見下ろした大通りには、今夜も馴染みの女とシケこもうと急に増え始めた男どもが、あちらこちらの見世の格子を除き始めていた。

    こんな所まで来て女をとっかえひっかえして遊びてぇ気持ちが分からねぇな、俺ならたった一人を──。
    俺なら?鬼を殺(や)る為だけに生きてる俺にそんな未来はねぇな。そういや冨岡はどうなんだ?自分と同じと思いたいが、こんな煌びやかな女たちに囲まれていたらアイツだって男だ、変な気起こさねぇとも限らねえ。
    いや、アイツも鬼殺一筋だ。何考えてるか分かんねぇ奴だがそれだけは確信が持てる。

    小一時間待たされて、(冨岡の奴、化粧しながら寝てんじゃねぇのか)と思い始めた頃、先程の禿がやってきて、うやうやしく頭をたれた。
    「お待たせしました。青藍太夫(せいらんたゆう)です」

    襖が開き、現れた冨岡に不死川は息を呑んだ。
    目も魂も奪われる美貌とはこういうツラを指すのだろう。
    高貴で端正で匂うよう、それでいて心を打たずにはおかない美しさの化身が目の前に立っている。
    呆然としている不死川に向かって、白銀の帯を前に垂らし、藤の地に金や銀の花を散りばめ、鋼のようにぴんと張り詰めた着物の裾を引きずりながら冨岡がまっすぐに近づいてくる。

    「それではどうぞごゆっくり」
    禿(かむろ)が後ろで襖を閉めて退室した。
    「どうした?不死川」
    静かだが凛としたこの声は、冨岡に間違いない。
    「座ってもいいか」
    「あ、あァ」
    窓辺に腰掛けたまま、冨岡を見下ろした。

    高い位置に結い上げられた蝶が羽を広げたような漆黒の髷(まげ)に飾られた何本ものべっ甲の簪(かんざし)。それを直すように触れる指先は女の仕草そのものだ。
    粉おしろいを塗られた真っ白なうなじが、大きく抜かれた襟足からのぞく。豪華絢爛な衣装と対比してもなんら遜色のない完璧な美が目の前にある。

    不死川は生唾を飲み込んだ。
    正直、冨岡が部屋に入ってきてから心臓の拍動が早まっている。
    こんなに近くで花魁を見るのが初めてだから緊張してるだけだと自分に言い聞かせたが、本当にそれだけなのか自分に自信が持てない。
    「化粧だけで、狐みてぇにうまく化けるもんだなァ」
    悪態をついて自分を誤魔化そうとしたが、
    「おかしな所はないか」
    素直に聞いてくる冨岡をこれ以上からかう気にはなれず、通りの喧騒を遮るように障子戸を閉め、不死川は冨岡の前にあぐらをかいて座った。

    鬼を炙り出す作戦を立てなければならない。
    「さっきこの見世の入口で鬼に会ったぜ。俺の稀血に酔ってフラフラになって帰っていきやがった」
    不死川は懐から、自分の血の付いた手ぬぐいを取り出した。
    「怪我をしているのか」
    「んなわきゃねぇだろ。おびき寄せる為に腕を少しばかり切ってこいつに染み込ませたんだよ」
    「やめろ」
    「は?」
    「前から言いたかった。自分の血を使うお前の戦い方は危険だ。一歩間違えればその辺に巣食う鬼が一斉にお前を襲ってくる」
    「だからいいんだろぉが。一網打尽に出来るんだからなァ」
    「死に急ぐな。強くても死ぬ時は死ぬ」

    誰かを思い出して言っているのか、冨岡の青い目はどこか遠くを見ているようだった。こいつにこんな切ない顔をさせる奴に、えも言われぬ苛立ちが募る。

    「目を付けていたあの女に間違いねェ」
    不死川は話を無理やり戻して、乱高下する自分の気持ちに蓋をした。
    「花魁か」
    「ああ。あの感じ、下っ端の鬼じゃねぇな。少なくとも下弦以上だ」
    「ならば俺がおびき寄せる。鬼は俺に会いに来たのだろう?」
    「知ってやがったのか。なら話は早ェ」

    花魁に化けた鬼を討ち取る作戦は、宇髄の譜面通りに実行する事とし、決行する日時を決めた。

    その時、にわかに廊下の向こうが騒がしくなった。
    「若旦那、困ります。青藍太夫(せいらんたゆう)は準備中ですゆえ」
    「うるさい!いつもの時間はとっくに過ぎてるじゃないか、私が太夫の顔を見ないと気が済まないと知ってるだろう?いつになったら私の部屋に上げてくれるんだい!」
    「それはまだ」
    「金ならいくらでも払うと言ってるだろう?!」
    声はどんどん近づいて来る。
    「不死川、こっちへ」
    急に手を引かれ、冨岡が隣の襖を勢いよく開けた。そこには朱色を基調にして金糸で刺繍が施された高そうな布団がひと組敷かれていた。
    その布団をまくり上げ、敷布に転がされた不死川に、肩をあらわにした冨岡が覆いかぶさった。
    「それらしい演技をしてくれ」

    「青藍!」
    大声で名前を呼び、無遠慮に部屋の襖を開けて、冨岡にご執心の若旦那と、それを止めていた遣手(やりて)の女がなだれ込んできた。

    冨岡が不死川に唇を重ねたのは同時だった。
    不死川は目を見開いた。合わさる冨岡の唇から、その温度とともに(こいつを追い払ってくれ)という強い意思が伝わってくる。
    (それらしい演技…)
    考えるより先に身体が動いた。
    上にいた冨岡を片腕で抱えるようにして引き倒し、自分が上になって両手で冨岡の頬を包んで紅(べに)が引かれた唇に、もう一度自分の唇を重ねた。
    ついでに舌もねじ込んだが、冨岡は当たり前のように口に含んで受け入れ、不死川の首に腕を回した。

    「せ、青藍?!」
    乱入してきた若旦那と遣手(やりて)の女は、目の前に広がる光景に呆気にとられたが、我に返って今度は大声で怒鳴り始めた。
    「青藍!お前は、私がお前の一番になるっていう約束を違(たが)えるのかい!」
    「あんたも、さっき手は出さないって約束しただろう?」
    不死川が首に巻かれた手をそのままに、あらわになった冨岡の白い肩を抱いて敷布の上に半身を起こした。

    「約束約束って、お二人さんよ、証文でもあんのか?」
    睨みつけてくる大きな目は、顔に走る引きつれたような傷跡が相まって獰猛な狼を連想させた。
    開いた胸元にも大きな傷があるのを見て、二人とも不死川の奥にひそんでいる、得体の知れない恐ろしいものを感じ取って震え上がった。
    それでも見世に大金を落とす上得意の手前、遣手も黙って引き下がるわけにはいかない。
    「青藍!お前は自分が商売品だってこと忘れたのかい!」

    冨岡は抱かれたまま、それこそ蕩(とろ)けそうな目で不死川の顔を見上げて甘い声で呟いた。

    「自分の気持ちに嘘はつけない」

    不死川はドキリとした。一瞬でも、それが冨岡の本心であってほしいと願った自分がそこにいたから。
    (何考えてんだ。これは冨岡の芝居だろうが)
    頭の中で全てを打ち消し、目の前の粘着質な男にトドメを刺すことにした。
    「覚えとけよ。コイツは俺のモンだ。俺以外のヤツが指一本でも触れたらどうなるか今ここで思い知らせてやってもいいんだぜ?」
    不死川のドスの効いた物言いに、言い返す度胸など二人には欠片もなかった。

    「若旦那、今日は別の可愛い子を部屋にやりますから、そちらで楽しんでくださいな」
    遣手の女は取り繕うような笑みを浮かべながら、男の背中を押して襖を閉め、そそくさと部屋から退散していった。

    遠ざかる足音を聞きながら、冨岡も上半身を起こした。
    「これであの男を巻き込まなくて済む」
    「だなァ、いつまでもテメェに付き纏ってたら、いつ鬼に出くわすとも限らねぇからな」
    「分かっていたのか」
    「馬鹿にしてんのかァ?」
    「いや、咄嗟にしては演技も上手かった」
    「演技…じゃねぇって言ったら?」
    「不死川?」
    海のように深い藍色の瞳の奥をのぞき込む。
    瞬きもしないでじっと見つめ返す冨岡。

    顔を近づけると、静かに長いまつ毛が閉じられ、不死川は今度こそ自分の意思で冨岡の柔らかな唇を食(は)んだ。
    冨岡の身体から花のような良い香りが立ち込めて、目眩がしそうになる。
    「テメェの匂いは稀血よりタチが悪りぃな」
    「言ってる意味が──」
    「もっと先に進みたくなる」
    「先…」
    「男同士でも出来るらしいぜ?」
    途端に冨岡の首すじが朱色に染まった。
    今すぐ煌びやかな着物を全部ひん剥いて、己の熱をこの無垢な身体の中にぶちまけることができたならどんなにいいか。
    自分ではどうすることも出来ない衝動に突き動かされ、不死川は冨岡の上に跨って白銀の帯に手をかけた。

    青く澄んだ目が不死川から逸(そ)らされることは無く、帯を解かれても、浜に打ち上げられた人魚のように、冨岡は静かに横たわったままだった。
    こいつなら跳ね除けるくらい、いくらでも出来るだろうに。

    張り詰めたものが、冨岡の同じ位置にあるものに当たった。着物ごしではあるが、冨岡のものも自分と変わらないくらい硬くなっている。
    想定外の反応に不死川は、たまらない気持ちになった。

    「嫌じゃねぇのかよ」
    「いや…?」
    「嫌いな俺にこんなことされて」
    「俺は…お前と仲良くなりたい」
    「なぁ、テメェの言ってる仲良しと、これは違ぇだろ」
    「お前の、くち…づけは好きだ」
    「……」
    「だが、お前の言う『この先』に行くのは、正直少し怖い」
    愛しさが込み上げてくる。少なくともコイツは、こんな場所で勢いに流されて滅茶苦茶にしていいヤツじゃない。

    胸に置かれた冨岡の手が思いのほか冷ややかで、不死川は冷静さを取り戻した。

    「やらねぇよ」
    「不死川?」
    「俺は商売品に手は出さねェ」
    「商売品…か。そうか、そうだな俺は…」
    冨岡の目に悲しみの影が差し、不死川の胸から手を離そうとしたが、不死川がその手を掴んで離さなかった。
    「商売品じゃなくなったら、出すかもしれねェけどなァ。今は鬼を殺(や)るのが先だ」
    不死川は身体を折ってもう一度冨岡に口付けた。自分の気持ちが偽りでないことだけは、冨岡に分かってほしかった。

    「これは俺の勘だが…女の鬼は今日か明日には姿を現すと思う」
    少し惜しいが、冨岡はもう冷静沈着な水柱の顔に戻っていた。
    「ああ。俺が勘づいてるってことは、向こうも同じように勘づいてるだろうしなァ」

    ◇◇◇◇
    同時刻、地中深くに設えたエサの保管場所で、堕姫は兄の妓夫太郎に不死川の事を報告していた。
    「おにいちゃんどう思う?」
    「お前が酔うくらいなら、そいつは稀血の持ち主に違いねぇなぁ」
    「すっごく甘い香りがしたわ。脳が震えるくらいだった。それになんだか…すごく戦い慣れてた」
    「お前の殺気に臆さなかったところを見ると、そいつは余程のボンクラか、鬼殺隊の柱なんじゃねぇのか」
    「柱?!しかも稀血なんて初めてよね。私が食べてもいいでしょ?ねぇおにいちゃん!」
    「お前は相変わらず食い意地がはってるなぁ。構わねぇ腹いっぱい食え」
    「ありがとう!その代わりおにいちゃんには、生意気な花魁をあげるわ」
    「えらい別嬪と評判らしいな」
    「知らないわよ。この私を門前払いするなんて、絶対に許さない」
    「その女は童磨様に献上しねぇか?俺たちを鬼にして蘇らせてくれた礼に」
    「それがいいわ。あの方にギッタギタに食い千切られればいいのよ」
    「ならこのままその見世に向かうぜぇ」

    ◇◇◇◇
    「来る」
    「この禍々しさは…上弦かァ?!やっとお目にかかれるぜェ」
    「ここで戦闘になってはマズイ。人が多すぎる」
    「ならどうするよ」
    冨岡が障子を開けて遥か彼方の山を指さした。
    「あれを目指す」
    「その格好でかァ?」
    「さすがにこれでは無理だ」
    冨岡が髪に挿した幾本もの簪(かんざし)を抜き始めた。
    「その艶っぽい姿も見納めかよ。せっかく似合ってたのに勿体ねェな」
    「お望みならまた見せてやる」
    花魁にしか与えられない、舶来品の衣装箱を開け、冨岡は自分と不死川の隊服と日輪刀を取り出した。

    「木を隠すには森の中ってかァ。隊服もここに入ってたら、まるで芝居の衣装みてぇだな」
    隊服に着替えを済ませた不死川は、脚絆の上から白い革ベルトの1本1本を力強く締めていく。

    冨岡が鏡台の引き出しから小さな袋を取り出した。
    「なんだそりゃァ」
    「匂い袋というらしい。遊女の間で流行っている。見世ごとに香りが決まっているから、あるいはこれで鬼をおびき寄せることができるかもしれない」
    「へぇ」
    「屋根伝いにいくぞ」
    冨岡はいつもの毘沙門亀甲と赤錆色の片身替わりの羽織を翻し、張り出した格子窓の淵に立つ。彼が動く度にふわりといい匂いがした。

    遊郭のはずれまで来たところで
    「どこ行くのよ。この私から逃げられると思ってるの?」
    どこからともなく高圧的な女の声が響く。
    「馬鹿じゃないの?そんなわかりやすい匂いばら蒔いて、見つけてくださいと言わんばかりよね!」

    目の前から闇を切り裂いて飛んできた何かを、瞬時に刀を抜いた冨岡が切り捨てた。
    「私の帯、簡単に切ってくれるじゃないの!けど、帯は一本だけじゃないのよ!」
    言い終わらないうちに何本もの帯が冨岡を目掛けて怒涛のように襲ってきた。
    それらが冨岡の刀を奪おうと次々と刀身に絡みつく。
    「キャハハハ!同時に胴体を二分割にしてやるわ!」
    別の帯が飛んで来た時、フッと息を吸い込んだ不死川が身体を折り曲げ、低い姿勢のまま疾風を如くそれらを全て切り裂き、次の瞬間には堕姫の目の前に立っていた。

    「よぉ鬼ィ、また会ったなァ」
    「お前…あの時の稀血の男じゃないか!食ってやる!食ってやるわよぉ!!」
    「食う?俺をかァ?寝言はあの世で言えや」
    堕姫の頸に不死川の刃が入った。
    「いやァ!おにいちゃん!頸切られちゃう!」
    堕姫が叫んだ途端、帯の束とは違う、鋭く硬い武器が回転しながら飛んできた。(あとちょっとで切り落とせる)頸に刃を食い込ませたまま、不死川は力で堕姫をねじ伏せた。
    「いやー!おにいちゃーん!」
    それを阻止するかのごとく、回転してきたソレは不死川の腕を掠めた。
    不死川が身体を沈めなければ、その武器は確実に彼の腕を引き裂いていた事だろう。
    それが回転の速さを全く緩めず、地面すれすれの所から再び不死川に向かって戻ってきた。
    「キンっ!」
    帯の束をなぎ払った冨岡の剣が不死川の目前で、それをはじき飛ばした。

    「オイオイ~、オマエはぁ~花魁じゃねぇのかよ」
    間延びした声と共に姿をあらわした鬼は、胴体が歪(いびつ)な形にコケ落ちてはいるが、三白眼を黄色く血走らせ、禍々しい力がその凶相にみなぎっていた。

    鬼が、手に戻ってきた血色の鎌を握り直して冨岡に向かってきた。
    八方から飛んでくる鎌の攻撃を刀で受けながら、妓夫太郎の頸を切るタイミングを図る冨岡。
    「お前本当に綺麗な顔だよなあぁ。女じゃなくても男が惚れるよなあ。さっきまでヨロシクやっていたソイツはお前の情夫(イロ)かあ?」

    「おいテメェ、覗き見たぁ悪趣味だな」
    不死川が切り落とした堕姫の頸をぶら下げて立ち上がった。
    「おにいちゃん!切られちゃったよー!」
    胴体から離れても鬼は形を保ったまま持ったまま、叫び続けている。

    「稀血のお前もいい男だよなぁ。お前はあとで妹のエサになれよなぁ。童麿様に渡すつもりだったが、この花魁は勿体ねぇから俺が骨まで食ってやるからなぁ」

    「そいつには指一本触れさせねぇぜ」
    堕姫の頸を屋根の下に放り投げた不死川は、鯉口をきり、瞬時に妓夫太郎の腕を鎌ごと跳ね飛ばした。

    「いてぇ...痛ぇなあ。急に斬ってくるなよなぁ」
    「こいつに触んなっつっただろぉがァ!」
    「お前いい男だなあ。好きなやつ庇って格好つけて、なあぁ」
    みるみるうちに妓夫太郎の手が生えてくる。
    「あ?」
    その言葉を不死川は呆れた顔で聞いていた。
    「テメェどこに目ェ付けてやがる。こいつが俺の助け必要なタマに見えんのかよ。別に俺は帰ってもいいんだぜ?」
    「おまえは妹に食わせると言ったはずだよなあ」
    「そうよ!あんたはワタシのエサなんだから!」
    帯が拾ってきた頭を自分の首に据え付けながら堕姫が叫ぶ。
    「キャンキャンうるせェ鬼だな。それにテメェ、なんでいつまでも生きてやがる」
    「あんたたちはワタシたちに勝てないわよ!永遠にね!そのうち体力がなくなって死ぬだけよ!」
    「残念だったなあ。俺ァ体力有り余ってるから何度でも斬り刻んでやるぜ!!」
    不死川の刀に風がまとわりつき、切っ先は堕姫に狙いを定めた。それを見た堕姫の顔色が変わり、
    「おにいちゃん!助けて!」
    と叫びながら、屋根から飛び降りた。
    それを追って不死川も飛び降りる。
    上から飛んできた鎌が地面と水平に弧を描きながら不死川に向かってきたが、地面を蹴った不死川は、鎌のはるか上を飛び超え、振り下ろす刀で堕姫の頸を撥ねた。
    「ギャー!痛い!なんなのこの男の切り口は!裂けたみたいに痛いよぉ!」
    それを聞いた妓夫太郎は青筋を立てて怒りを顕(あらわ)にし、上から叫んだ。
    「よくも二度も俺の妹の首を斬ったなぁ!それならお前の大切なもんを、お前から取り立ててやるからなあああ」
    妓夫太郎が振り返ると、目の前に冨岡がいた。

    (ハハッ、やれるもんならやってみろや)
    不死川は屋根の上を見上げた。

    「いやがったなあ」
    「お前の相手は俺だろう。油断するな」
    月光を切り裂いて、冨岡の日輪刀が、妓夫太郎の頸を狙って青い水龍のように走った。
    「ぐぎぎ…!」
    刃先が異形の首の皮膚に刺さった。肉に食い込み、頸動脈を切り、骨を割るのが、冨岡の握る柄に感触として伝わってくる。
    首が宙を舞った。
    それまで斬り落とされまいと素手で刀をつかんでいた妓夫太郎の身体が、途端に力を失い、屋根から転がり落ちた。
    冨岡もその後の消失までをその目で確かめるため、屋根から鬼の傍らにふわりと降り立つ。
    「なぜ消えない」
    「こっちもだぜェ」
    「頸を斬っても死なない鬼は初めてだ」

    困惑する冨岡たちに向かって
    「俺たちを怒らせた、お前たちはもう終(しま)いだなあ」
    首だけの妓夫太郎が乱食い歯を見せてニヤリと笑った。

    と、その時、不死川と冨岡は轟音ととも飛んでくる無数の鎌を、ビリビリと震える己の肌で察知した。
    不死川は叩き落とそうと刀を上段に構えたが、冨岡は刃先を地面すれすれに下ろした。
    「水の呼吸、拾壱の型・凪」
    一瞬にして辺り一面が静まり返り、そこに広がる無風状態の海面は鏡のように凪いでいる。
    (なんだこの型ァ)
    不死川が周りを見回すと、こちらに向かって飛んでくる血色の鎌はことごとく、冨岡の間合いに入ると同時に消えていく。

    「お前らあ!次に会う時は、俺らの頸を斬ったことを後悔させてやるからなあ。そのハラワタかっさばいて食ってやるから待ってろよお」
    「おいテメェ!逃げんじゃねェ!」
    不死川が追いかけようとしたが、2匹の鬼は地中にまるで溶けて染み込むように、跡形もなく消えてしまった。
    「チィッ!」
    「不死川、頸を斬っても死なない鬼がいることを、御館様に報告してくれ。俺は一旦遊郭に戻る。あの花魁とともに俺まで忽然と消えたら、警察は余計な捜索をするだろう。それは避けたい」

    ◇◇◇◇
    何事もなかったかのように冨岡は、翌日も看板花魁として、そのまま見世に出るつもりだった。

    「青藍太夫、ちょいと開けるよ」
    女将が襖を開けて入ってきた。

    「まだ準備できていない...が」
    一緒に入ってきたのは、不死川だった。
    「お前さんの許嫁(いいなずけ)が身i請けの金を持って迎えに来てくれたよ。ここまでしてくれたんだから、お前の操はこの男に捧げるんだね」
    そう言い残して部屋を出ていく。
    「もう商売品じゃねぇよな」
    「ああ、けど約束の花魁の衣装を着ていない」
    「いらねェよ、あんなケバケバした衣装より、俺は浴衣姿のテメェの方によっぽど唆(そそ)られる」

    不死川は冨岡の手を引いて、隣に続く閨の間に入った。
    一組だけ敷かれた豪華な布団の上に冨岡を座らせて不死川は後ろ手にゆっくりと襖を閉めた。

    【完】









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