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    まちこ

    twst/ジャミ監が好き rkrn/di先生が熱い 好き勝手書き散らす場所にします みんな幸せになれ

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    まちこ

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    エイプリルフールジャミ監

    珍しく一人で歩いているジャミル先輩を見つけた。背筋を伸ばして静かに歩く姿はいつも通りきれいで見惚れてしまう。

     でもいつもなら見惚れて終わりだけど、今日はそうじゃない。


     朝顔を合わせるや否や、エースからデュースに彼女が出来たと聞かされた。そんな思い人がいたのか!そして結ばれたのか!と友人の春が嬉しくて急いで購買で買ったクッキーを渡してお祝いしたら顔を赤くして思いっきり否定をされてしまった。そして「ユウこそジャミル先輩と付き合ってるって本当か!?」と事実無根のうわさでぶん殴られる。「エースが言ってたぞ!」・・・の一言で、どちらも事の発端がエースの嘘だと分かった私たちは教室でジャックとエペルに意気揚々と話しかけていた嘘つき野郎の襟首をつかんでやった。



    「あんた、なんちゅう嘘を!」

    「しょうもない嘘をついて何が楽しいんだ!ジャック!エペル!こいつの言うことは信じちゃダメだぞ」

    「はーなーせーよー!今日は嘘ついてもいい日なんだぞ?知らねえの?」

    「はあ?」

    「エイプリルフール!お前の世界、こんなイベントもなかったわけ?」



     それは私のセリフで、こっちでもエイプリルフールが通用するということにびっくりした。



    「それでも言っていいことと悪いことがあるんだゾ!」

    「グリム」

    「高級ツナ缶セールなんて嘘つきやがって!結局いつも通りにしか買えなかったんだゾ!?」

    「そこは、買わなければいいだけの話じゃない・・・?」



     エペルの言葉なんて耳に入ってないグリムはエースに飛びついて噛みつく。二人のいつも通りの喧嘩のスタートに私たちはため息をつくしかなかった。



     ・・・というわけで、エイプリルフールが通用するということを知ってしまった今、エースに騙されたおかげでたまった鬱憤を晴らす意味も込めて誰かに嘘をつこうとしていたわけだ。そしてそのターゲットに私が選んだのが、ジャミル先輩だった。

     まあエイプリルフールなんて口実でただ話したかっただけだけど。



    「ジャミル先輩!」

    「・・・君か。どうしたんだ?」

    「ちょっとお話したいことがありまして」



     そこで、声をかけたはいいもののどんな嘘をつくか考えていないことにいまさら気づいてしまった。


     ば、バカじゃん・・・!


     目の前のジャミル先輩は首をかしげてじーっとこっちを見ていて私が話しだすのを待っているようだった。じんわり冷や汗が背中に滲む。何か、何かないか。焦れば焦るほど何も思いつかなくて口元だけが引きつっていく。



    「・・・で?」

    「あ、のー」



     ジャミル先輩の視線が痛くなってくる。時間を取らせていることがとてつもなく申し訳なくなってきた。



    「き、嫌い!」

    「・・・は?」



     焦ったら人間何を言い出すか分からないものだ。私も自分で言っといて何を言ったか分からなかった。確かに、確かに嘘だけど、これが嘘だということは私にしか分からないことで、ジャミル先輩からしたら呼び止められて突然暴言を吐かれただけというとんでもない状況なわけで。
     乾いた笑いだけ零してこの状況をどう切り抜けようかと必死になっていたらふいに腕を引っ張られた。まばらだった生徒の隙間を縫うように早歩きで引っ張って連れていかれたのは校舎の大きな柱の陰。誰の目にもつかない場所だった。

     ・・・私、締められる?

     思った瞬間軽い力で肩を押されて私は壁に少しだけ背中をついた。そして起き上がる前に、顔の横に勢いよく手が付かれる。足と足の間にジャミル先輩の膝が入って、一切痛い思いをしないまま完全に身動きを封じられた。



    「せんぱ」

    「誰が」



     人差し指が私の胸元を小突く。



    「誰を」



     そのまま流れるように先輩の人差し指は私の顎を掬った。



    「嫌いだって?」



     口角を上げてにやりと笑ったジャミル先輩は、絶対に全部を見透かしている。顔がどんどん熱くなっていって視線を逸らすことでどうにか恥ずかしさと情けなさから逃げようとしたけどそれも許されなかった。



    「・・・ごめんなさいぃ・・・!エイプリルフールの嘘でぇ・・・!」



     正直になった方がマシだ!!泣きそうになりながら白状するとすっと顎を掬っていた指が離れる。




    「なあ、知ってるか」

    「へ?」

    「嘘は午前中だけしかつけなくて、午後からはネタバラシをくちゃいけないんだぞ?」

    「・・・え!?」



     ぱっと一気に私を開放したジャミル先輩はわざとらしくため息をつくと「まさか面と向かって言われるほど嫌われているとはな」と首を横に振った。全身が冷たくなった私はばたばたと手を振って大きな声を出して弁解する。



    「嘘です!嘘です!嫌いじゃないです!」

    「・・・ほう?」

    「むしろジャミル先輩のこと好き・・・あ」



     全身の動きを止めた私を見てジャミル先輩は大きく噴き出した。口元に手を当てて肩を震わせて声無く笑っている。


     やってしまった・・・!!


     耐えられなくなってその場にしゃがみこむ。顔が痛いほど熱くて目の奥がジンジンする。泣きたい。いや、消えたい。魔法が使えたならいますぐ消えるしジャミル先輩の記憶も消したい。今日ほど魔法が使えないことを恨んだこともないかもしれない。



    「それは本心?」



     上から聞こえていたはずのジャミル先輩の声が前から聞こえてきた。首を横に振ろうが縦に振ろうがもう何もかも手遅れだから黙秘を貫く。隠しておくつもりだったのになあ。ジャミル先輩は警戒心が強い人だから私みたいな得体のしれない女なんかに告白されたって嬉しくないだろうし。それもこれもしょうもない嘘をついたエースのせいだ。エイプリルフールが通用することを知らなければこんなことにならなかったのに!これは五発はぶん殴らないと気が済まな、い?


     前髪を上げられて額に柔らかな何かが触れる。普段は小さくて聞こえるはずのない鈴の音がひどく近い。



    「人の気持ちを聞かないで落ち込むのはどうかと思うが」

    「な、ん」

    「好きだよ」



     柔らかな何かが触れた場所を指先でなぞる。まさかの出来事にたまらず勢いよく顔を上げると思いのほか近い場所でジャミル先輩は笑っていた。



    「先、輩」

    「まあ、嘘だがな」

    「・・・はぁ!?」



     すん、といつもの表情に戻ったジャミル先輩が私の手を引っ張って立ち上がらせる。皺が寄った私の上着をぱんぱんと払って背中を向けようとした先輩の手をひっつかんだ。



    「どういうこと!?」

    「俺はとても傷ついたんだ」

    「それは絶対嘘!」

    「バレたか」



     ひっつかんだはずの手はいつの間にか繋がれていて、心底楽しそうに笑うジャミル先輩が分からなくて頭が混乱した。









    「午後にはネタバラシ?なにそのルール。聞いたことねえよ」



     授業が終わった教室を飛び出す。鏡の間へ歩いて行くきれいな髪の嘘つき先輩をひっ捕まえて肩を思いっきり叩いた。



    「連続で嘘つくのはずるい!」

    「やっと気づいたか」

    「・・・エイプリルフールを利用するのも、ずるい・・・」

    「君が言えた義理か?」

    「・・・ほんとのこと、ちゃんと教えてください」

    「明日な」



     ジャミル先輩は私の手をほどくと、にっこり笑って人混みの中に消えていった。
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