Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    kuromituxxxx

    @kuromituxxxx

    文を綴る / スタレ、文ス、Fate/SR中心に雑多

    ☆quiet follow
    POIPOI 53

    kuromituxxxx

    ☆quiet follow

    レイチュリ
    体の関係から始まって何にもならないまま一緒にいるだけのふたりのはなし

    #レイチュリ
    Ratiorine

    さよならだけならいくらでも 1 こんな朝はもう何回目だろう。

     薄ら開いた瞼から隣で眠る男の顔をぼんやりとした心持ちで眺める。
     自分の部屋ではない、体に馴染みきらないベッドはどこかのホテルのようにいつ来ても清潔なシーツが広げられている。
     静かな朝の、透明な空気。
     それと同じに静かに繰り返される呼吸と合わせて僅かに上下するからだ。
     どこかの美術館の彫刻みたいに整った顔に掛かった濃紺の髪は夜と朝のあいだみたいな色だ、とこの時間に見ると思う。
     ここは隣で眠るこの男 ―― レイシオの部屋で、こうしてこの場所で朝を迎えるのは初めてのことではない。
     同じベッドで衣服を身に付けていないからだがふたつ並んでいるのはつまりはそういうことで、けれど自分達は恋人でもなければたぶん友人ですらない。
     良くも悪くも『戦略的パートナー』。
     それは仕事上の話で、表向き自分達をそう形容しているけれど、それはこんな風にしている今ですら温度感はたいして変わらないのではないかと思う。
     そこにあるのは互いの利害の一致。それ以上も以下もない。
     好意がなくたって行為をすることはできる。
     そして大体の事柄の始まりに意味なんてないように、自分達がこうなったのだって特に意味はない。
     そのときにお互いがそこにいたという、ただそれだけの、そういうもの。
     それにしても。
     ぐ、とちいさく伸びをしてゆっくり体を起こす。
     それからもう一度、隣で眠る男を見る。
     博識学会の天才教授がこんな風に無防備に自分の隣で眠っているのは未だ不思議な気分になるけれど、正直悪くないとも思う。
     黙ってさえいれば彼はとてつもなくいい男なのだ。黙ってさえいれば。
     そっと物音を立てないようにベッドを抜け出して浴室に向かう。
     隣の男はあと十五分もすれば目覚めるだろう。
     彼は毎朝、自分がセットしたアラームよりも五分先に目を覚ますのだ。
     そんなことを知っている程度には一緒にいる。


    Tap to full screen .Repost is prohibited

    kuromituxxxx

    PROGRESS無数に存在する並行世界のひとつにて、転生できる魂を持つアベンチュリンとその専属医になるレイシオのはなし
    【レイチュリ】明日の僕もどうか愛していて 1 明日にはきっと僕は君のことを忘れている。


     ああ、早く。早く終わればいいのに。
     今日もまた閉め忘れたカーテンから差した陽の光で目を覚ます。朝の透明なきんいろの光の中で瞼を開くのは孤独を確かめることによく似ている。そこにあるのは自分ひとりだけの体温で、ひかりの中にいてもそれに自分の輪郭が溶けることはない。
     アベンチュリンは枕元に置かれた端末に手をのばす。
     液晶に表示された今日の日付を確認する。僕の記憶が確かなら、三日飛んでいる。
    「僕は今回も死ねなかったのか」
     ぽつりと零した言葉も朝の光の中に落ちて溶けてどこかへ行ってしまう。
     ベッドから抜け出して、ひた、と床に裸足の足を着ける。痛みはない。洗面所で鏡を見れば記憶の中と寸分変わらぬ姿かたちのままの自分がいる。平均的な男性より幾分小柄で痩身のからだ、窓から差していた光に似たきんいろの髪、そこから覗くピンクと水色のまるい瞳、首元には奴隷の証である焼印。鏡で自分の体を隈なく確認してみたけれどひとつとして傷痕はなく、だから今回も僕は前回の自分がどう死んだのかがわからない。何度死んでもどうしてか、死んだときのことは思い出せないのだ。
    3220

    related works

    recommended works