豆板醤と甜麺醤。「そういやお前がたまに食べてる店ってどこにあるんだ?」
ある日の昼下がり、エフレンから振られた話題にヨルンは首を傾げることになった。
話が結びつかない様子を見かねてか「アカウントに写真あげてるだろ」とエフレンが話を促すと、ヨルンはようやっと彼が勘違いをしていると理解する。
「あれ自前だぞ」
「そうなのか!?」
時折生存報告に上げている写真を店売りのものと見間違えてしまった、ということだったらしい。
……エフレンが驚いたのはそれだけではなかったようだが。
「お前って自炊するんだな」
「自炊というほどじゃない、気が向いた時だけだ」
特段食事に興味があるわけでもなく、調理が楽しいというわけでもない。ただ外に出向くのが面倒だったり、配達を頼むにせよ好みのものがなかったりした時に仕方なく作る程度のものだった。
そもそもヨルンの好みの味というものが少々特異なため、大体自前でないとないと言った方が正しい。
そんな事情も知らないエフレンは興味深そうに「へぇ」とニヤニヤしている。
「なあヨルン、作ってくれよ。あの美味そうな麻婆豆腐。費用出すから」
「いやアレはとても人様に出せるようなものじゃ……」
「いいって、俺もなんか作るから」
今度はヨルンが面を食う番だった。エフレンが台所に立つ姿を想像してみたが、何ともシュールなことで思わず「作れるのか」と聞き返すと「それなりに」と多少腕に覚えがあるような顔で言う。
「な、いいだろ」
「ふむ……」
あれをエフレンに出すかどうかはさておいて、彼の料理姿には少々興味が湧いてきた。
「おそらくだが、辛いぞ?」
「上等だ」
「……後で泣き言喚いても知らないからな」
そういうことならまあ問題ないかと頭の中のレシピを思い出しつつ、「このまま買い出しに行こうぜ」と誘う彼に「そうだな」と普段通り乗ってやる。
さて、あれを作るには何が必要だったか……。