月を飲み干す。 夢を見た。
愛しのマフレズがお父様の手で殺されてしまう夢だ。それだけで飛び起きてしまいたくなるというのに、夢の中の私にとってはその世界は現実だったのだろう、必死に歯を食いしばってエドラスを飛び出した。王女としての身分を隠し、慣れない旅装に身を包み、マフレズが教えてくれた剣を携えて。夢を見ている私からしてみたらそれだけでも大偉業だった。あぁ彼女はなんて勇気のある人だろうか、私は今もお父様の暴挙を止められず、いまだ何もできずにいるというのに。
夢の中の私は剣士エルを名乗り、貧民街である人物と再会する。それは一度はエドラス軍と共に戦うもある理由からパーディス王によってマフレズ殺しの罪を擦り付けられた、旅の剣士だった。彼はクラグスピアでも噂になりはじめた旅団の団長で、奪われた特別な指輪を取り戻すべくエドラスを訪れたのだという。パーディス王の野望を阻止するという目的が一致した二人は手を組むことになった。
さも指輪の回収だけが目的といった口振りとは裏腹に、困った人を放っておけない彼と共にエドラスから出立し、道中で情報通なシャルルという旅の青年とも合流する。絵に描いたような英雄譚の、その序章のような旅。心強い彼らの手を借りながら、愛しいマフレズを失った痛みを力に変えて、剣士エルはパーディス王の眼前にまで迫る。
しかし、それでも剣士エルの手は届かなかった。
圧倒的なパーディス三世の力によってねじ伏せられ、夢の中の私は処刑台へと歩く。その歩みは死を目の前にしても悠然としていて、理想を夢見るよりも遥かに気高かった。処刑台の下では仲間たちが……剣士エルに手を貸してくれていた彼が、必死にエルを助け出そうともがいているのが見える。
そんな様子を見て夢を見ている私は必死に祈った。あぁ、どうか奇跡をと。夢の先の私たちに少しでも良い未来を、と。
祈って、祈って、祈って。誰かがエルの名を叫んだ。彼が必至に手を伸ばしているのが見える、夢の中の私もそうできるならそうしたかったのだろうに。
剣が振り下ろされるその瞬間、あの世界の私は何を想ったのだろうか。
……夢から弾きだされるように飛び起きたエリカは、ばくばくと暴れる鼓動に痛みさえ感じながら茫然と天井を見つめる。己の首筋が繋がっていることを確かめるように指でなぞると、眠ったままの温かい熱が指先をそっと撫でた。
「……私、は」
あぁ、祈るだけではだめなのだと。その日、エリカは城の外へ繰り出す決意をした。夢の中の彼女の様に名を偽り、身分を隠して、そうして今できることをしよう。そう思ったのだ。
──そうして生まれた怪盗エルは、ひと月も経たぬうちに大陸に名を轟かせるようになる。かの夢で出会った旅団の様に多くの悪を倒し、良き人々を助け、富を分け与える義賊として。愛しいものたちを守るために、そして守るべきものを二度と失わぬように。
そんな仕事にも少しばかり慣れが出てきた頃、怪盗エルはある悪徳貴族の館に赴いた。薬を独占し高値で売りさばく屑が、今夜も薬師を屋敷に招いて取引をしているという。ならば取引に割り込んで薬も金も、その屑も軒並みかっぱらってしまおう。そんな手筈だったのだが。
「ヨルン……!? どうして貴方が!?」
「なっ? なぜ俺の名前を? 義賊に目を付けられるようなことはまだしていないはずだが」
その取引相手の薬師、というのがなんの因果かあの旅の剣士と同じ顔をしているではないか。思わず口走ってしまった彼の名前に屑貴族が「貴様まさか怪盗エルの内通者だったのか!?」と勘違いをしてしまいさらに現場は大混乱。騒ぎが大きくなる気配がし一度引き上げるべきかと考えた怪盗エルだったが、思うよりも先に状況が動いた。
見知った顔をしたその薬師が、間髪入れず屑貴族の後頭部を薬でぶん殴ったのだ。
「貴様が現れたということはやはりこいつは屑だったのだろう、こいつはくれてやるから俺のことは見なかったことにしてくれ」
気絶し昏倒する屑貴族を足蹴にしつつ、「だめだろうか……?」と少々引いた態度をとる彼。怪盗エルも彼を見逃してやりたい気持ちはあったが、「いや……恐らく無理だ」と首を振らざるおえない。
「すまない、私のミスだ。今のを屋敷の人間に聞かれてしまった。きみはもう私の……怪盗エルの内通者として名を連ねてしまったらしい……」
「冤罪だ……。無関係な一般人を巻き込むとはなんて極悪な怪盗なんだ、エルとかいうやつは」
「あぁ、そうだな。本当に極悪人だ……」
これはとんでもないことになってしまったぞ、とエルは頭を抱えることになってしまった。取引に応じていたとはいえど一般人である彼を、自分のうっかりで巻き込んでしまったのだ。こうなってしまっては彼の身が危ない。
「だが安心してくれ、責任をもって私がきみを逃がす。怪盗エルの名にかけて、な」
たとえ夢の中で見た彼とは関係のない赤の他人だったとしても、エリカにとっては大切な守るべき民なのだ。「ついてきてくれ」と手を差し伸べたところで、エルは言いよどんだ。エルは彼の名を本来は知らないはずなので、呼ぶべきではないとは思ったのだがどうしても口が先走ってしまう。
そんな様子に訝しげな目を向けながらも、彼は”やれやれ”と肩をすくめては見慣れた──夢の中の彼と同じ顔でこう名乗った。
「ヨルンだ。貴様もさっき呼んだだろうに。……こうなったら一蓮托生だ。俺の命預けるぞ、エル」
「あぁ、任せてくれ……!」
思わぬ出会いであり再会に戸惑いながらも、ヨルンは差し伸べられた手を取った。かの世界とは真逆だなと思いながらも、エルは彼の手を引いて屋敷の外へと走り出す。
今宵の旅は、まだはじまったばかりだ。
/
「取引に応じた俺も悪いが、まさか奴が俺の作った薬を転売する屑だったとはな。助けてくれてありがとう、エル」
危うく罪を上塗りするところだったと彼は笑った。
なんとか追跡を撒いた貧民街の一角、怪盗エルが活動する際に使っている隠れ家に移動した。そしてお互い情報確認をしたところ、やっぱり彼はただ巻き込まれてしまっただけの人らしいことがわかった。
どうやら彼はある理由からまともな仕事もできなくなってしまい金に困窮した結果、致し方なくあの貴族が持ちかけた怪しい取引に応じるしかなかったのだという。
だが、エルにはそれ以上に気になることがあった。
「事情は理解するが……、きみは本当に薬師なのか?」
薬師だと名乗る彼は、薬師の象徴ともいえる調合鞄を持っていなかったのだ。認可が下りたものには組合から鞄を与えられる、つまり鞄を持たない薬師は無認可といえるしその時点で信用を持てない存在ということになる。彼は痛いところを付かれたのか、自嘲するように目を細めては「目ざといな。あぁ、薬師ではある。元、だがな」とため息をついた。
曰く、衛兵から一方的に鞄を取り上げられてしまったのだと。
「最近、薬草の取り締まりが厳しくなっているのは知っているか? 使用できる物品と、理由なく使ってはいけないもの、そういった線引きがあるのはいいのだが。今は思わぬものまで規制を掛けられている始末でな、それにうっかり引っかかってしまったんだ」
「一体何を作ろうとしたんだ」
「失礼な、あれはただの眠気覚ましだ。たしかに一度服用したら三日は眠れなくなるが、事務職からは好評だったのだぞ」
「……。」
怪盗エルは頭が痛くなるのを感じた。レブラントが最終兵器と称している眠気覚ましが、ちょうど彼の言う効能と合致したからだ。薬師としての腕がどういったものかは分からないにせよ、彼にもちょっと問題があるような気がしないでもない。
しかし、決して問題はヨルンだけのものではないというのもまた明らかだった。
「第一あの薬草まで取り締まったら傷薬一つ練れなくなるだろうに、何があったのやら」
「なんだと? それほどまでに厳しい規制を受けているのか?」
「あぁ、プラムの葉一枚使うだけでも取り立てを受けそうな勢いだ」
このままだと何もできなくなると彼は猛抗議したようだが、結果的に彼は鞄を取り上げられ無認可に落とされてしまった。こうなってしまった以上は一人でどうにかするしかない。だがそれでも金回りだけはどうにもならず、きな臭くはあったがあの男の依頼を受けるしか道がなかったのだろう。
だが、これは妙なことだった。そもそも衛兵どころか王政に薬師資格を取り上げる力はないのだ。薬師組合と王政は離れているものの、決して野放しというわけではない。そこまでの規制を受けているというのなら城の中でも情報が流れてくるはずだ。だが、エルは城内でそういった噂を聞いたことがなかったのだ。
「きみ、その取り締まりをしてきたのは何者だったか分かるか」
「衛兵の区別までは付かないからな……。あぁだが、上にいるのはエドラスの流通を管理している大臣だとか言っていたな」
「……」
ことは、思ったよりも深刻らしい。
大臣と聞いて思い当たる節があった。奴には少々きな臭いどころか、立場を利用して私腹を肥やしているという噂があった。そして、決定的な証拠が今まで見つからず怪盗エルでさえも手が出せずにいた相手でもある。
「少し探りを入れる必要がありそうだ」
「相手は王家だぞ?」
「だからこそ、だ」
王家は民のために、がエリカの信条である。来るべき時が来たのかもしれないと、エルは思わず微笑んでいた。
「きみの置かれた状況は明らかに異常だ。それに薬品に関しても規制が続くようでは民たちの明日がない、誰かが取り戻さなければな」
パーディス王の政治によって国は荒れ、治安も悪くなるばかりだ。そんな中で使える薬を制限され、いざ使ったとなれば資格を一方的に奪われるとなれば薬師が何もできなくなってしまうだけでなく、民は癒える傷も癒せず死んでいくことになるだろう。生き残るのは薬を独占できる権力を持つ貴族や上層の人間だけだ。
そんなエドラスになってはいけない。そんな国に、なってほしくはない。
そんなことをせずともこの国は、もっと優しくなれるはずなのだ。
「そうか。俺に出来ることがあるようなら言ってくれ、ある程度のものなら用意できる。今だと少々法に触れるがな」
「ふふ、頼もしい限りだ」
一段と難しい仕事を眼前に、怪盗エルは不敵に微笑んだ。
/
目的が定まった怪盗エルの行動力は凄まじいものだった。従者や協力者、そしてヨルンの手を借りながらあっという間に大臣が汚職を行った証拠を取り押さえ、大臣が薬物を独占しそれ以外にもあらゆる不正で私腹を肥やし莫大な資金で豪遊していた事実を白日の下にさらした。
奴の悪行によって他にも仕事を取り上げられ行き場を失っていた者たちも無事に解放され、大体のことが良い形で解決した。ここまできたらヨルンの調合鞄も無事に……と行きたかったのだが、取り上げられる際の猛抗議がよほど気に障ったのか彼の鞄はずたずたに破壊されてしまったようで、結局取り戻すことは叶わなかった。
「すまない。きみの大切な仕事道具だったろうに、こんな形になってしまって」
「いい、気にするな。所詮道具だ、次の相棒を探すさ」
騒動が落ち着いてようやく帰宅できたという薬師ヨルンの治療所で、エルは申し訳なく謝罪の言葉を口にする。
ヨルンはエルを気遣ってか、「さっき王女の従者が事情を聴きに来てくれてな、組合に話を通してくれるそうだ。資格も再発行されるとのことだ」と少々矢継ぎ早に話題を切り上げる。
だがそれでも気持ちが収まらないエルはどうすべきかとずっと悩んでいた。ヨルンは明確に言葉にはしなかったが、取り上げられてしまった鞄を大切にしていたことはよく分かっていた。きっと思い出もあったのだろう、それが修復も叶わないほどに無残な形になってしまったのだ。自分だったらもっと喚いて泣いてしまうかもしれないと胸の奥がジクジク痛んで仕方がない。
そんなエルの様子を見かねてか、「なら、一つだけ要求していいか」と、ある真実を求めた。
「どうして俺の名を知っていたんだ?」
知らないはずの赤の他人のはずなのに、あの日なぜ名を呼べたのか。ささやかな疑問を対価に置いたヨルンにエルは戸惑いながらも、その求められた真実にちょっとした気恥ずかしさを感じていた。
「それは……その、笑わないで聞いてくれるか……?」
夢の中でもう会っていた、なんて夢のような話だ。
「夢で、か……」
「変な話だろう?」
「確かにな。だがそのおかげで見捨てられずに済んだと思えば、まぁいい夢なのかな」
エルにとっては少しはっとする発言だった。あの夢はエリカにとっては悪夢でしかないものだったが、あの夢で彼の顔を知らなければあの現場で彼を助けることをしなかったのかもしれない。悪徳な貴族と取引する悪い薬師だと、何も考えずに切り伏せてしまったかもしれないのだ。
ひやりとしたものを感じているエルとは対照的に、ヨルンはマイペースに「剣士になった俺かぁ」と向こうの世界に想いを馳せている。
そうしてふとこういうのだ、「そっちの世界の俺は幸せ者だな」と。
「どういう意味だ?」
「俺も昔は剣士になりたかったんだ。俺を拾ってくれた父さんと同じ仕事に就きたくて……」
しかし、彼はその父に剣をもつことを咎められたのだそうだ。
どのような事情があったかは分からない。だが、彼とその父はとても仲のいい親子だったのだろう。「実は剣だけは一度も握ったことがないんだ。父さんが、哀しむから」と寂しそうに目を逸らす彼の横顔を、エルは複雑な気持ちで見ていた。
優しい父、偉大な父、エルにとって父親はそういった存在ではなかった。だからだろうか、親愛なる父の話をする彼がほんの少し遠い存在の様に感じてしまう。
しかしふと、気づくものがあった。誰かのためになりたい、助けてくれた人と同じものになりたい気持ちは同じだった。そして、それが叶わずとも何かをしたい。それはエリカがマフレズへ感じる想いと、よく似ていると。
「もしかしてきみが薬師になった理由は……」
「あぁ。その道に行くことは諦めて、父さんを支えることを仕事にした結果だ。……薬を練ってあげたら褒めてくれて、それが嬉しかったのもあるが」
思い出を懐かしみながら、彼は「死ぬ時まで同じ場所にいてやれたら、同じものを背負えていたら……と思わないこともない」とほんの少しばかりの未練を零す。
「きっとそいつは父さんの死に目に会えたんだろう」
だから幸せ者だと。
これまであまり内面を晒してこなかった彼がこういったことを語る姿は、なんだか不可思議な感覚だ。だがそれほどに信じてくれたのだろうこともまた、今まで共に戦ってきたエルには分かった。
夢の中で見た彼はどこにもこういった拠点をもっていない、生まれたころから旅をしていた生粋の旅人だった。だが今目の前の彼は、剣の道を父のために諦めて人々を生かす道に進んだ彼は今をどう思っているのだろう。
「今のきみは、幸せか?」
「どうだろうな」
彼は昔日に想いを馳せるように仕事机を撫でながら「父さんが遺してくれたものも多くある。薬草園も、この治療所も、薬の技術を持てたのもあの人がいたからだ」と今を語る。
「幸せ、なんじゃないかな。俺はあまり不幸を知らないから、実感がないだけで」
エルは彼の治療所を見渡す。剣の道を諦めた結果とはいえど、薬師として懸命に生きてきたことがよく分かる仕事場だ。よく見かける薬草たちに、整えられた棚。たくさんのカルテが収められている本棚には、それと同じ分救ってきた人生がある。長らく留守にさせてしまったのが申し訳ないぐらいだ。
だが、幸せだと語る彼の目にはやはり陰りが見えた。そんな陰りを彼自身も自覚しているのだろう、それを振り切るように彼はエルへと向き直ると「エルはどうなんだ」と問いかけ、そして「あぁでも、怪盗なんてやってる人間には野暮な質問かな」と皮肉と本音を綯交ぜにしたような顔をする。
「そうでもないさ。苦労はあるが充実している、大切なものたちが生きていて、それを守るために今全力で駆けている。それが出来るだけで……、私、は……」
そうしてエルもまた、彼と同じ顔をしているのだと思った。
──満足など、していないのだ。
口先だけでなぞる幸せは確かにあれど、本当に求める世界とは程遠い。もっと何かできるはずだ、もっとなにか”できた”はずだ。胸の内に巣喰う渇望が飢えた獣のように唸っている。果たしてどちらが夢だったのだろうか? そんなこともどうでもよくなるほどに皆あるはずのなかった未来を欲している。
これまでの旅で少しだけ分かったことがある。
あの夢で、あの処刑台に立った”私”は絶望に呑まれながらも何よりも希望を求めて叫んでいた。誰か、誰か私の意志を繋いでくれと。私が守りたかったものを拾ってくれと。戦う理由になってくれた……そして背を支えてくれた彼に向けて。
その叫びだけが今のエルの中に残されている。
もう一人のヨルンと共に戦うことで鮮明になっていった叫びが、何度もエリカをあの夢へと引きずっていく。やり直せるはずだ、塗り返せるはずだと。しかしそれでも怪盗エルは、何度だってその叫びを拒んだ。
私の現実は、こちらなのだと。
私たちが今全力で走っているように、夢の向こうの彼らもきっと全力で走っているのだから。
「向こうの彼らにも負けないぐらい、良い世界にしなければな」
この飢えを制し、人として律して初めて私たちはかの夢に胸を張れるようになる。
火はまだ胸の内にある。まだ終わりではないぞと発破をかけるようにエルは笑いかけると、”まだ巻き込む気か”とヨルンがどこか嬉しそうに顔をひきつらせた。
「ならまだまだここで踏ん張る必要があるな。はぁ、これをきっかけに引っ越そうかと思ったんだが」
「そうはいかないな。きみはもう立派な共犯者だ、まだまだ作ってもらいたい薬がうんとあるぞ」
「今度は合法になるか?」
「もちろん」
畏孵の渇望を飲み干しながらエルは己の人生に向き直る。夢は、夢だ。あちらが現実なのだとして、その気になれば書き換えることだってできたとしても。エルは生き抜いた彼女たちに対し何よりも誠実にありたいと願った。
過去を書き換えずとも、夢に生きる自分たちの物語はこれから編むことが出来るのだから。
「はぁ……エドラスは安泰だなぁ。王はアレだが、あなたがいる」
「マフレズもな」
「……前々から思っていたが、お前わりとマフレズ将軍好きだな」
「ふふん。当たり前だ、彼は私の──」
うっかりそこまで喉に出かけて慌てて怪盗エルはコホンと咳をする。いけないいけない、私はまだ怪盗エルなのだ。こんなところで惚気るわけにはいかない。
「私が狙う宝でもあるのだから」
「未来の王もお前のものか。全く、心強いばかりだよ」
本当の意味で見慣れた仲間たちを引っ張って、エルは己が定めた道を歩き出す。過去ではなく明日へ、未練の残り香が未来への導になるように。
「怪盗エルの名にかけて、なんだって奪い返してみせるとも」
さぁ、明日の話をしよう。