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    五伏版ワンドロワンライ 第43回「純愛」

    ※現在軸(28×15)
    ※付き合ってない二人
    ※伏視点

    「ねぇ、恵って僕のこと好きなの?」
    「は?」

     それは何の前触れもない、突然の問いかけであった。いつものようにつけてもらっていた稽古の合間、派手に転ばされた俺が立ち上がるまでの隙間時間にかけられる助言の数々がひと段落し、さぁ稽古の再開だと意気込んだタイミング。なんともないようにかけられたその一言に、俺の喉からは無意識に非常に低い疑問の声が吐き出された。

    「いやだから、恵って僕のこと好きなの?」
    「二回言わないでも聞こえてますよ。聞こえた上で『は?』って返してんですけど」
    「いやいや。質問してるのこっちだし」
    「質問の意図も何も分かりません」

     構えた体勢のまま脱力してしまいそうになり、慌てて上体をまっすぐに起こす。そうしてその場に立ったまま前を見据えると、しゃがんだままの五条先生を自然と見下ろす立ち位置へと変わった。
     あまりにも突然であった。それが何を意味するのかも、何を思っての問いかけなのかも分からない。ただ、無表情を装った顔を通り越した首後ろ、そこにつぅと汗が一筋垂れていくのを感じた。疲労からではない心臓の鼓動が、耳のすぐ近くで鳴り響く。
     ひた隠しにしてきた感情であった。自覚して以降、決して表に出ることがないようにしてきた、奥の奥にある感情であった。
     大丈夫だ、気取られるようなことは何一つしていないという確信がある。単なる気まぐれであろうその会話をさっさと終わらせるべく、俺はさらに言葉を連ねようとした。が、彼はそれを許さないと言わんばかりに会話を止めない。俺が口を開き、声を発するよりも先にしゃがみこんだままの彼の目が俺へと向けられた。

    「意図ねぇ。まぁ、最終確認ってところかな? 僕だってなんの確証もなく言ってるわけじゃないし」
    「……マジで意味がわかんないんですけど」
    「それ、本気で言ってる?」
    「……」
    「で。どうなの。好きでしょ」
    「いいえ」
    「はいダウト」

     即答で否定した言葉を、これまた即答で否定し返される。なんだよそれ。なんで俺の答えをアンタが決めるんだ。俺がいいえっつってんだからそれが正解だろうが。

    「はぁ、もうさっさと認めてよ。そこを越えないと話が進まないじゃん」
    「だからいいえっつってんでしょ」
    「だから嘘つくなっつってんだよ」
    「頭イカれてるんですか? そもそもなんですか、好きって。なんでそこまで自信過剰なんです?」
    「知ってるからだよ。君が僕を好きなこと」

     先生のその言葉に、思わず呼吸が數瞬止まる。
     それは予想でも所感でもなんでもない。純然たる事実であった。そう、彼は確信を持ってこの問いかけを俺に投げかけているのだ。
     絶対にバレないようにしてきた。他の人といるときだって、意識して封じ込めてきたはずだった。それをこの人は、いともたやすく引き揚げ、巻き取ってしまう。
     それでも俺の口は必死に可能性を探そうと否定の言葉を紡いでいく。とはいえそれも、すぐさま先生によって叩き落とされることとなった。

    「……何を根拠に、そんなこと言ってんですか。ありえないでしょう、俺がアンタをなんて」
    「ありえてるのは恵が一番わかってるでしょ。何年君のこと見てきたと思ってんの。他の誰が気づかなくても、僕が分からないわけがない」
    「……」
    「ねぇ。恵って、僕のこと好きだよね」

     とうとう問いかけが付加疑問文へと変えられた。俺の意思を介入させるなという無言の圧力を感じ、とうとう口からため息がこぼれ落ちる。なんでこんな形で引きずり出されなきゃいけないんだ。そんな苛立ちも、もうこのどうしようもない相手を好きだと自覚した時点でとうに諦めている。
     いつの間にかサングラスはずらされ、蒼玉が俺の視界に映り込んでいた。その目で一体何を見透かすというのか。一気に馬鹿らしくなって、俺は全身から脱力させ、首をガクリと折り下を向いた。

    「……………………はい」
    「うわ、すっごい嫌そう」
    「当たり前でしょうが。何を好き好んでバラさなきゃいけないんですか。いい加減にしてくださいよ」
    「え、悪いの僕なの? バレちゃった恵自身のせいじゃない?」
    「俺は完璧でした。アンタのせいです」

     はぁぁ、とこぼれ出たため息はあまりにも大きく稽古場に響き渡る。そのまま俺もその場に尻をつき、あぐらをかいた。全くもって遺憾だ。生涯隠し続けると誓ったそれが、当の本人によって崩される未来なんて夢にも見ていなかった。
     だったらさっさと引導を渡してくれればいいと、俺は自身の両手を見つめながら言葉を続ける。

    「俺から言うつもりも、アンタとどうこうなりたいって気持ちも全く持ってません。俺だけの問題として、俺の中だけで終わらせるつもりです。なんで、先生が気づいたことも今日のことも、全部なかったことにしてください。そりゃ、長年見てきた相手から懸想を抱かれてるなんて気持ち悪いでしょうけど。俺からは何も見せないように……気づかれないようにするんで。お願いします」

     案外、言葉は淡々と口から出て行った。それは全て本心であったし、今度こそそこに嘘も偽りも存在しない。だから言い切って最後、俺はようやく視線を上げて、その人の顔を真っ直ぐ、真正面から見つめることができた。
     幼い頃からずっと見続けてきた、見慣れたその姿。そのガタイの良さも、無駄に整った顔立ちも、日本人離れした頭髪も、表情も、匂いも、声も。
     染み付いてしまったその全部に、きちんと蓋をし直すから。だからどうか、思い続けることだけは許してほしいと。
     そう口にした俺の目の前で、先生はその薄い唇を閉じたまま、こてんと首を横に倒した。

    「え、嫌だけど」
    「……はぁ」
    「なんでなかったことにしなきゃいけないの。なんのために僕が恵に聞いたと思ってんのさ」
    「知らねぇよ、自分のことだろ」
    「だったら考えろよ。お前の得意分野だろうが」

     自分なりに覚悟とけじめを込めた願いであったはずのそれを一刀両断したそいつは、説明責任を放棄して全部をこちらにぶん投げてきた。何を考えているのか、さっぱり本気で全くわけがわからない。一体俺に何を求めると言うのだ。
     だというのに、その人は俺からその双眸を全く外すことなく、まっすぐに前から見据えてくる。その視線の強さに、俺は思わず息を飲んで固まってしまった。

    「分かった?」
    「……わかるわけないでしょうが」
    「はぁー? なんで?」
    「なんでって、そんなの──」

     きまってるでしょうが。
     そう続けられるはずだった声は中途半端なところで途切れ、消える。動いていた口が突然押さえられ、声の吐き出し先を失ってしまったから。
     押さえつけるその力はあまりにも弱くて、柔らかくて、暖かな体温であった。
     暗くなった視界の中、パチパチと瞬きを繰り返していると、唇に空気が触れ、呼吸が戻ってくる。

    「分かった?」
    「……わか、りません」
    「はいダウト」
    「っ」

     こぼれ落ちた否定の言葉は、またしても即答で叩き落とされる。うるせぇだったら聞くなよと思う。仕方がないだろ。思考が追いつかないのだ。なんで、どうしてを飛び越えて信じられないの言葉が浮かんでくるのだ。
     そんなの、わかるわけがないだろう。

    「言うつもりも、どうこうなるつもりもないって? ふざけんなよ、終わらせてたまるか。何のために引きずり出したと思ってやがる」
    「は、」
    「こっちはとっくの昔からどうこうなりたくて仕方なかったっつってんの」
    「……なん、だよ、それ」

     ダメだ、これ以上はキャパオーバーだ。わかるわからないじゃない、気絶する。思わず一歩引けた腰を、だが先生の右手が伸ばされ、引き戻されてしまった。いつの間に取ったのか、色ガラスを通さないで間近で見る六眼のその虚空は、あまりにも刺激が強すぎる。
     一気に上がった体温につられ、首の後ろなんて既にびっしゃびしゃになっているだろう。歪んでしまいそうな視界の中、映り込むその人のひどく楽しそうな笑みは、あぁ、昔から何度も見てきた、自分のいっとう好きな顔であった。心の底から楽しくて仕方ないと思っている、その意地悪げな笑みが!

    「だ、騙し討ちだ」
    「はぁー? 純粋な駆け引きでしょ」
    「無効だろそんなもん! こんな、だってこんな」
    「恵」

     激昂しそうになる俺の両手が、彼の手で上から押さえつけられる。より一層縮まる距離に息を詰めると、頭の上から静かな声が降ってきた。
     降り続けて止まないその声に、言葉に、指先がじんと痺れていく。
     それがはたしてどんな感情によるものなのか、今の俺に理解することはできなかった。


    「何年一人で抱え込んできたんだよ」
    「僕にバレないようにってどんだけ気を張ってきた。それをずっと続けてこの先も隠し通して、自分の中だけでケリつけようって?」
    「気持ち悪いなんて思えるか。可愛いと思うに決まってんだろ、そんなもん」
    「お前の『ソレ』を受け止めさせろっつってんの。だからほら」


     黙って俺に愛されてろよ。


    じゅん - あい 【純愛】
    純粋でひたむきな愛情。
    見返りを求めない、無償の愛。
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    ytd524

    DONE※ほんのり未来軸
    ※起伏のないほのぼのストーリー

    伏から別れ切り出されて一度別れた五伏が一年後に再結成しかけてるお話。
    akiyuki様が描かれた漫画の世界線をイメージしたトリビュート的な作品です。
    (https://twitter.com/ak1yuk1/status/1411631616271650817)

    改めまして、akiyukiさん、お誕生日おめでとうございます!
    飛ばない風船 僕にとって恵は風船みたいな存在だった。
     僕が空気を吹き込んで、ふわふわと浮き始めたそれの紐を指先に、手首にと巻きつける。
     そうして空に飛んでいこうとするそれを地上へと繋ぎ止めながら、僕は悠々自適にこの世界を歩き回るのだ。
     その紐がどれだけ長くなろうとも、木に引っ掛かろうとも構わない。
     ただ、僕がこの紐の先を手放しさえしなければいいのだと。
     そんなことを考えながら、僕はこうしてずっと、空の青に映える緑色を真っ直ぐ見上げ続けていたのだった。



    「あっ」

     少女の声が耳に届くと同時に、彼の体はぴょん、と地面から浮かび上がっていた。小さな手を離れ飛んでいってしまいそうなそれから伸びる紐を難なく掴むと、そのまま少女の元へと歩み寄っていく。そうして目の前にしゃがみ込み、紐の先を少女の手首へとちょうちょ結びにした。
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