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    ytd524

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    ytd524

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    くっつきくっついて、くっつきそうな話。

    ※酔っ払い五とお迎え伏
    ※酔っ払いのテンションは上がって下がってまた上がってます

    「くっつく話」「くっつきそうな話」「くっついた話」
    どれを書こうか悩んでアンケート取ったら同数一位になってしまったため全てミックスしました。
    いつも以上の雰囲気小話ですので、何も考えずにお読みください。

    「磁石ってあるじゃない」
    「ありますね」
    「あれってさぁ、S極同士N極同士は反発するけどさぁ、S極とN極ならくっつくじゃない」
    「そうですね」
    「僕はさぁ、S極なのよ。悟だから」
    「はぁ」
    「んでもって、恵はN極なの。恵のMに、ほら、Nの形が入ってるから」
    「はぁ」
    「つまりさぁ、僕と恵はさぁ、S極とN極なわけよ。どうなると思う?」
    「さぁ」
    「んふふ〜……くっつく」

     ガバァ、と音が鳴りそうな勢いで五条先生は俺の背中に覆いかぶさると、ひどく満足そうな笑い声を上げて全体重を乗せてきた。いや待ってくれ、重い。全体重はやめろ、マジで重い。

    「はぁ〜〜、これで僕たちはずっとくっついたまんま! 離れられないよ〜!」
    「あの、これシラフじゃないですよね?」
    「安心しな。間違いなく酔っ払いだ」
    「ありがとうございます、安心しました」

     そう言いながら向かいに座る家入さんは、テーブルの上に置かれた塩辛を箸でつまむ。
     アルコールの匂いに満ちた、大人の通う店だ。そこに何故未成年の俺がいるのかはお察しの通りである。誤ってコークハイを一気飲みしてしまったらしいこのご機嫌な下戸は、酔っ払っているというのに(いや、だからこそなのか)俺へと鬼のような着歴を寄越したのである。任務が終わったタイミングで携帯を開いたと同時に鳴り出した着信に出てしまったのは、もはや条件反射だ。

    『めぐみ、きて』

     それだけ言って切断された電話と、残された何十件もの履歴を見せられた俺に、選択肢などなかった。結果、方々に聞き回って家入さんと連絡を取り、こうしてピックアップに来たというわけである。
     いや、それにしたって電話越しの雰囲気と明らかに違うのではなかろうか? アレはガチギレした時の声だったぞ?

    「浮き沈みが激しいだけじゃない? 酒飲んだのも久しぶりだろうし、鬱が躁になって、今はハイ」
    「なんですかそれ、厄介すぎません?」
    「ねぇねぇ恵ぃ、磁石ってさぁ」
    「はいはいくっつきますよ。でも俺も五条先生も磁石じゃないのでくっつきません」
    「えぇーーー」
    「ンンッ、ふ、ふふ」

     なんともまぁ子供じみた不満の声だ。家入さんはそんな先生の様子がツボなのか、口元を押さえて顔を真っ赤にしている。あぁ、これはアレだ。この人も相当ご機嫌なんだな。

    「それじゃあこのまま連れ帰っていいですか」
    「いーよ。悪いね、お守り任せちゃって」
    「いえ、悪いのはこの酔っ払いなんで」
    「ほどほどにしておけよ」

     そう言いながらくつくつと笑う家入さんに頭を下げ、背中に巨体をくっつけたまま立ち上がる。「わぁ」なんて楽しげな声を上げてくるものだから尚更たちが悪い。自分で歩いてくれ、頼むから。
     そんな思いも虚しく、なんとか引きずるようにして出た店の外は、都心部らしい光の海であった。
     行く道、通る道、どこもかしこもキラキラと輝いて、夜なのに暗い場所がないという状態。山奥にある高専では決して拝めない景色は、けれど呪術師にとってはある意味見慣れた光景でもある。こういった夜の街には決まって人の恨み辛みが溜まりやすい。俺自身、年齢という制限があるためそんなに頻繁ではないが、こうした『夜の街』での任務は何度かこなしたことがあった。
     だからこそ新鮮なのだ。任務も何もなしに、しかもこの人と一緒に、こんな明るい街を歩いているという今が。

    「あっ流れ星」
    「はいはい、よかったですね」
    「すっごいよ恵、めっちゃ流れてる!」
    「そうですか。実はそれ、先生が流れてるんですよ」
    「マジかぁ。願い事間に合うかなぁ」

     俺の背中におぶさったまま、酔っ払いは自身の頭をぐらんぐらんと左右に揺らして空を見上げていた。そりゃあ流れて見えるだろう。しかもそれは星じゃなくて街灯だ。ここまで見事に出来上がってしまうとは、下戸というのは恐ろしいものだと思う。
     せめて、俺の体質がここまで酒に弱くありませんように、と願っていると、背中から再び「恵ぃ」と名前を呼ぶ声が聞こえてくる。

    「今さぁ、くっついてんね、僕たち」
    「はぁ、そうですね。一方的にくっつかれてますね」
    「磁石ってさぁ、一回くっつくと、引っ張んないと取れないんだよ」
    「そうですねぇ。俺たちは磁石じゃないんで関係ないですけど──」

    「磁石だよ」

     すぅ、と。静かな声で紡がれたその断言に、俺は思わず目を見開く。酔っ払いの戯言だろうと、また軽い言葉で流すこともできるはずなのに、何故かその言葉に対して、俺の口から声が発せられることはなかった。

    「僕だけじゃダメなんだよ、恵。恵からもくっついてくれなきゃ、取れちゃうよ」

     いつの間にか俺の足は道のど真ん中で止まってしまった。五条先生は俺の肩口に顔を埋めると、まるで擦り付けるかのようにぐりぐりと額を押し付けてくる。いつもはアイマスクで持ち上げられている毛先が耳元をくすぐり、少しだけ背中がぞわっとした。

    「ちゃんとくっついててよ、おねがい」

     そう言うと先生は口をつぐみ、そのままおんぶ虫の体勢で止まってしまう。
     あぁ、家入さんのいう通りだ。なんて浮き沈みの激しい酔っ払いだ。流れ星はどこにいった、どうせまだ願いこと終わってないだろ。

    「めぐみ」

     あぁ、もう。そんな声を出されては、どっちが子供かわかったものじゃない。俺は未だに動く気配のないその頭に右手を乗せると、少し乱暴にかき混ぜてため息をついた。

    「そういうのはね、シラフの時に言うもんです」
    「……もう酔ってない」
    「嘘つけ」
    「めぐみぃ」
    「はいはい、帰りましょうね」

     そうして歩みを進めると、五条先生の体は再び俺に引きずられるようにして前へと動いていく。
     あと五分も歩けば駅に着く。高専まで戻れば、もしかして本物の流れ星が見えるだろうか。

    「ねぇ、今日僕んところ泊まってってよ」
    「いいですよ」
    「だよねぇ……えっ?」

     俺の返事が予想外だったのか、先生は心底驚いたといった声音で反応を返してきた。何をそんな驚くのか。俺は自然とこみ上げる笑いのまま、肩越しにその大きな酔っ払いを振り返る。

    「だって俺ら、磁石なんでしょう? だったらもう離れられないじゃないですか」

     さぁ、この言葉遊びの答えを、明日の朝受け取りに行こう。
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    🇱🇴🇻🇪😭🙏😇👏💘💘💯💘💞
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    ytd524

    DONE※ほんのり未来軸
    ※起伏のないほのぼのストーリー

    伏から別れ切り出されて一度別れた五伏が一年後に再結成しかけてるお話。
    akiyuki様が描かれた漫画の世界線をイメージしたトリビュート的な作品です。
    (https://twitter.com/ak1yuk1/status/1411631616271650817)

    改めまして、akiyukiさん、お誕生日おめでとうございます!
    飛ばない風船 僕にとって恵は風船みたいな存在だった。
     僕が空気を吹き込んで、ふわふわと浮き始めたそれの紐を指先に、手首にと巻きつける。
     そうして空に飛んでいこうとするそれを地上へと繋ぎ止めながら、僕は悠々自適にこの世界を歩き回るのだ。
     その紐がどれだけ長くなろうとも、木に引っ掛かろうとも構わない。
     ただ、僕がこの紐の先を手放しさえしなければいいのだと。
     そんなことを考えながら、僕はこうしてずっと、空の青に映える緑色を真っ直ぐ見上げ続けていたのだった。



    「あっ」

     少女の声が耳に届くと同時に、彼の体はぴょん、と地面から浮かび上がっていた。小さな手を離れ飛んでいってしまいそうなそれから伸びる紐を難なく掴むと、そのまま少女の元へと歩み寄っていく。そうして目の前にしゃがみ込み、紐の先を少女の手首へとちょうちょ結びにした。
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