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    ytd524

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    貴方とカメラで想い出を。

    ※伏入学後・虎入学前
    ※初任給でカメラを買った伏の話

    フォロー様のお誕生日記念に書いた、五伏の短編小話です。
    こっちに上げるの忘れてたことに気がついたので、今更ですがぽいぽい!

    「カメラを買いました」
    「……んんん?」
    「いや、アンタが聞いてきたんでしょうが。なんでそんな面白い顔すんですか」
    「だって恵とカメラって組み合わせがあまりにも噛み合わなくて……え、高校デビュー? あっ、高専デビュー?」
    「違います。てか相当失礼だな」
    「えー、でもそうじゃん。らしくないって自分でも思ってるでしょ」
    「……まぁ、はい」

     そう言いながらカメラを持つ恵に、僕はやっぱり疑問符を浮かべてしまう。だってカメラ。このご時世、スマートフォンのカメラ機能も発達してる中でわざわざカメラを買うなんて、余程こだわりのある奴か、何か『撮りたい物』のある奴以外いないだろう。加えて恵が今持っているカメラはデジカメじゃなく、いわゆる『一眼レフ』というタイプのものだ。カメラ本体とレンズが分かれてて、用途に合わせて望遠レンズとか接写用のマクロレンズとかに付け替えれるタイプ。まぁつまり、ゴツくてお高いタイプのもの。
     そんな本格的なカメラを、大して写真に興味のない恵が買ったと言うのだ。しかも呪術師としての初任給を、ほかでもない『それ』に当てたと言うのだ。そんなの疑問に思って然るべきだろう、面白い顔と言われる筋合いはない。

    「空が」
    「ん?」
    「綺麗だなぁと思ったんですよね」

     どこか芯のない声だと思った。ぼんやりとした様子で空を見上げながら言うものだから、つられるようにして僕も顔を上へと向ける。
     なんてことはない、いつもの空だ。ちぎれた薄い雲が広がり、遠くに見える山の際まで伸びている。陽が沈みかけているからだろうか、太陽の側だけがやけに橙……いや、黄色? とりあえず色が眩しくて、僕たちのいる真上の空とは違ったもののように見えていた。
     なるほど、こんな色の移り変わりを、恵は綺麗と称しているのかもしれない。いつだってフィルター越しに見える僕の視界に写るそれと、恵の見ているそれが同じ景色なのかはわからないけれども。

    「高専に入ってから初めて一人で任務に出た日、雨だったんです。雨の中も散々連れ回されたんで、別にそれはよかったんですけど、やっぱ一人だと思うと多少は不安で。だからまぁ、無事に終わって、あぁ、よかったなぁなんて思いながらふと空を見上げたんですよ。そしたら、一面灰色の中にこう、ぽっかりと穴が開いていて」

     思い出しながら紡がれる言葉もまた、僕の隣をすり抜けて遠くへと飛んでいく。少し風が吹けば消えてしまいそうなそれらは、きっと恵からしたらなんともない世間話なのだろう。けど僕はそれらを聞き逃したくない一心で、じっと耳をそば立てながらその後頭部を見つめた。
     ちょうど彼との一直線上に、雲を纏う陽が浮かんでいる。

    「綺麗だなと思って、初めて携帯で写真撮ったんです。でも、撮った時にはもう穴は閉じてて、ただ薄暗い空だけしか撮れなくて、もったいなかったなぁって」
    「それで、カメラ?」
    「なんか、ふと思い出したんですよ。あぁ、あの空撮り逃したなぁって」
    「ふぅん」
    「あと、アンタが青春青春うるさいんで、まぁちょうどいいかなって」
    「はい! そうやって後付けで僕を貶すのはよくないと思います!」
    「自覚あったんですか、よかったです」

     言いながらくつくつと笑う姿に、あぁ、この子もちゃんと成長してるんだなぁなんて当たり前のことを思う。ちょっと前までの彼なら感じ得なかったであろう感情を持ち始めたこと。そのことにひどく安心してしまうのは、きっと親心だ。

    「まぁ、買ったところで結局出番はないままですけどね。今日はただの下見って聞いたんで、じゃあちょうどいいかもなと思って持ってきただけですし。普段は部屋に置きっぱですよ」
    「ねぇ、まだそれ、一枚も撮ってない?」
    「え? あぁ、はい。買ってすぐ試そうとしたらバッテリーがゼロで。今朝充電してきました」
    「じゃあさ、僕を撮ってよ」
    「は?」
    「恵の最初の一枚」

     そう言うと、恵は驚いたように目を丸くして僕の方を振り返った。いや、これは怪訝な表情だな。何言ってんだこいつって顔だ。

    「いいじゃん。青春満喫のためでもあったんだろ? ポートレートなんて陽キャまっしぐらだよ!」
    「ぽ……? いや、なんすか陽キャって。マジでそんな気さらさらないんすけど」
    「えぇー、つれないなぁ。せっかくこんなに良質な被写体がいるって言うのに」
    「自分で言いますか」

     言いながら唇を尖らせてみるけれど、恵の表情は特に変わることなく、眉間のシワだって寄ったままだ。時々この子は、無自覚にこだわりの強いところがある。きっと彼の撮りたいと思ったものだけがカメラの中にたまっていくのだろうなと思うと、どこか楽しみなような、寂しいような、なんともいえない感情に襲われた。
     まぁ、近いうちにそのカメラにもきっと出番はくるだろう。そう思いながら「帰るよ」と足を帰路へと向けたところで、突然恵に声をかけられる。

    「あっ、五条さん。ちょっといいですか」
    「ん? なに──」

     パシャ。

     聞こえてきた音にえ、と思う間さえなかった。振り向いた先、いつの間に構えていたのか、恵の持つカメラの大きなレンズと視線がぶつかる。思わず固まる僕の前で、カメラを下ろしながら恵はにんまりと、どこか意地の悪そうな笑みを浮かべた。

    「あほづら」
    「え、いや待って 今明らかに気の抜けた顔してた!」
    「当たり前でしょ、そこ狙ったんだから」
    「消して! 撮り直して! ちゃんとイケメンにして!」
    「大丈夫大丈夫、ちゃんとイケメンですよ」
    「嘘だぁ!」

     慌てる僕を見る恵の顔は『してやったり顔』というやつで、あぁ、これは確信犯だったのかとようやく気がついた。気がついて、僕まで笑ってしまった。おかしいだろ、こんな人気のない場所で夕暮れ時に笑い転げる大人と子供。なんかもう全部がツボってしまって、僕は自身の右手をあげる。

    「めぐみ」

     一言、名前を呼ぶと、恵もまた楽しげな笑みを浮かべてカメラを構えた。再び向けられるレンズの中、果たしてどんな光景が恵の視界に広がっているのだろうか。
     どうか少しでも、綺麗だと思ってもらえていればいいのにと、僕はサングラスの奥の瞳をゆっくりと細めた。
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    ytd524

    DONE※ほんのり未来軸
    ※起伏のないほのぼのストーリー

    伏から別れ切り出されて一度別れた五伏が一年後に再結成しかけてるお話。
    akiyuki様が描かれた漫画の世界線をイメージしたトリビュート的な作品です。
    (https://twitter.com/ak1yuk1/status/1411631616271650817)

    改めまして、akiyukiさん、お誕生日おめでとうございます!
    飛ばない風船 僕にとって恵は風船みたいな存在だった。
     僕が空気を吹き込んで、ふわふわと浮き始めたそれの紐を指先に、手首にと巻きつける。
     そうして空に飛んでいこうとするそれを地上へと繋ぎ止めながら、僕は悠々自適にこの世界を歩き回るのだ。
     その紐がどれだけ長くなろうとも、木に引っ掛かろうとも構わない。
     ただ、僕がこの紐の先を手放しさえしなければいいのだと。
     そんなことを考えながら、僕はこうしてずっと、空の青に映える緑色を真っ直ぐ見上げ続けていたのだった。



    「あっ」

     少女の声が耳に届くと同時に、彼の体はぴょん、と地面から浮かび上がっていた。小さな手を離れ飛んでいってしまいそうなそれから伸びる紐を難なく掴むと、そのまま少女の元へと歩み寄っていく。そうして目の前にしゃがみ込み、紐の先を少女の手首へとちょうちょ結びにした。
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