Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ytd524

    @ytd524

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 30

    ytd524

    ☆quiet follow

    五伏版ワンドロワンライ 第46回「デート」

    ※現在軸(事変前)
    ※既に付き合ってる二人
    ※初デートで夢の国(冒険の海の方)に行く話

    本当はソ○リンに乗せたかったのですが、グランドデビュー2019年だったことを思い出して泣く泣く諦めました。ソ○リンに乗って目丸くして感動しきりな恵は私の頭の中で可愛がります。

     世間一般で言う『恋人』とは一体何をするものなのだろうか。
     そんな街頭インタビューでもしようものなら、道ゆく人々は間違いなくこう答えるだろう。

    『二人きりでデートをするとか』

     デート。そう、俗に言う恋人関係である二人が出かける行為。デートだ。恋人だけに許された名称だ。
     逆に恋人以外とデートをしようものなら、それはすべからく浮気扱いとなる。それほどデートとは重きを置かれるものなのである。
     デート。恋人同士の二人だけが行うことのできる行為。だがそれは、あくまで一般的な恋人同士に限定された話である。

     とどのつまりは、僕と恵の間でそれは適応されないというわけで。

    「ねぇ恵、デートしたい?」
    「? いえ、別に」
    「だよねぇ」
    「どうしたんですか突然。え、したいんですか」
    「いや? 別に」
    「でしょうね」

     ソファにだらしなく座り込みながら会話を続けていると、僕の恋人であるところの恵はひどく怪訝そうな顔つきでこちらを見ながらコーヒーをすすり始める。なかなかな表情だ、少なくともこれは好意を持つ相手に向ける表情ではないのではなかろうか。擬音で表すなら『げぇ』という表情である。

    「またなんか雑誌かテレビかですか」
    「いんやぁ? なんかふと思っただけ」
    「なんか、ふと」
    「恋人らしい行為ってなんだろうなぁ〜って。少なくともこんなさぁ、ソファで映画を見るでもなくだらだらする行為は恋人同士っぽくはないよね」
    「そうですかね」
    「そうでしょ。これはもう夫婦だよ。……えっ、もしかして僕、恵と結婚してた」
    「十五のガキ相手に何をほざいてんですか」
    「こらこら、年齢は言わない約束でしょ、もー。これでもギリギリを走ってるんだからね、僕は」
    「はぁ、ギリギリアウトラインを」
    「おいこら」

     ぺし、と軽く頭をこづいてやると、恵はマグカップを片手にくつくつとおかしそうに笑う。あぁ、そんな様子は本当に可愛いのになぁなんて考えながら、改めて考える。
     そう、そもそも恋人同士なのが僕と恵だという時点で、世間一般の認識とはズレが生じるのだ。
     性別や年齢はこの際置いておくとしても、僕たちの関係はあまりにも複雑すぎた。だって初めて出会ったのが、この子がまだ六歳の頃だったのだ。それから後見人として恵と、その姉である津美紀の面倒を見るようになってから早九年。その間に恵は反抗期を迎え、グレて、声変わりして、(僕は知らないけど)精通も迎えて。そんな人生形成がされるところをずっと近くで見てきたわけだから、今更デートだときめきだと言われたところでピンとこない。この関係だって、気付いたらここに行き着いていたというだけだから、きっとどこかで一歩、たった二十センチでも、違う道に体を向けていたら、こんなことにはならなかっただろう。それぐらい、今こうしている関係は偶然が重なった結果である。と、僕は思っている。恵はどうか知らないけど。

     まぁつまり、僕たちは今現在、恋人らしい行為というものを何一つしていないのだ。その事実にふと気がついて、こんな言葉がぽろっと出てきたというわけである。

    「なんかさぁ」
    「はい?」
    「僕と恵でデートするって、考えただけでウケない?」
    「分かりますけど、それはそれでむかつきますね」
    「分かってんじゃん! なんでよ!」
    「そもそも二人で出かけるなんて、稽古と訓練以外ないですしね」
    「パルケエスパーニャは?」
    「あれは先生の気まぐれ。ってか、あの時は津美紀もいただろ」
    「可愛かったよね、チョッキー」
    「一番テンション高かったのアンタでしたもんね」

     懐かしそうに言葉を重ねながらコーヒーを飲む横顔を見てると、なんだかこっちも楽しくなってきた。そう、あの時は津美紀も含めた三人で遊び倒したのだ。思い立ったのが朝のことで、まだ眠そうな二人を連れて新幹線に飛び乗って。勢いのままに遊び倒してしまったけれど、結果二人だって最後は楽しそうにお土産まで選んでたし、良い想い出だったと思う。思わせて欲しい。

    (あぁ、そういえばあれが恵、初めての遊園地って言ってたっけ)

     学校遠足で既に経験済みであった津美紀とは違い、初めてジェットコースターや観覧車、バイキングを目の前にした恵は、珍しく目をキラキラとさせていた記憶がある。まぁ僕がからかい過ぎて、最後にはいつもの仏頂面に戻っていたけれど。でも、あの時の恵の顔はすごく年相応って感じで、こっちまでそのワクワクが移ってしまうような気持ちになったものだ。
     ──そういえば久しく、あんな顔見ていないなと、ふと思う。

     そう、なんかふと思ったのだ。
     それならば話は早い。

    「恵、前言撤回」
    「はい?」
    「デートしたい」
    「は?」

    「明日、朝イチでしに行こ。『夢の国デート』」

    * * * * * * * * * *

    「アンタってほんと、行動が突然すぎるんですよ……」
    「んー? なになに? 聞こえな〜い」

     目をしぱしぱと瞬かせる恵は、ひどく不機嫌そうな顔で首元のスカーフに顎を埋める。暖かくなってきたとはいえ早朝だからと出かけ間際に無理やり巻かせたものだけど、お気に召して頂けたのなら何よりだ。機嫌はまだまだ低迷中だけど。

    「せめて夕方までに思いつくとかしません? 分かってますか、行こうって決めたの十時間前ですよ。寝る時間すらありゃしねぇ」
    「大丈夫だいじょうぶ、テンション上がれば眠気も吹っ飛ぶって」
    「アンタと違ってこっちは徹夜に慣れてないんです」
    「あっ、恵! シューティング三十分待ちだって!」
    「聞けよ」

     ごちゃごちゃと言葉を重ねる恵の腕を引っ張りながらアトラクションの列最後尾へと並ぶと、僕たちの後ろにもまたすぐ人の列ができていく。そう、これは朝イチだからこそできる節約術だ。まずは待ち時間の長いアトラクションから選ぶ。ご飯もお土産もその後でいいのだ。
     はぁ、とため息を吐く恵は、けれど普段とまるっきり異なる『遊園地の空気感』に少し浮き足立っているように見えた。そのせいだろうか、掴んだままの手首をそのまま掌に滑らせても特にお咎めがこない。ただ一言、小さな声で「手」と言われただけだ。

    「いいじゃん、このままで」
    「いいんですか」
    「ほら、木を隠すなら森の中ってね」
    「またよく分からない理屈言って」
    「街中よりこういう場所の方が大胆な行動に出られるってものだよ、恵くん」
    「そんなキャラじゃないくせに」

     そういう君だってそんなキャラじゃないだろうに。
     そう思いながらも、声に出してしまったら秒でこの手が解かれてしまいそうなのでぎゅっと口をつぐむ。そのままぼんやり列に並んでいる間も、結局掌が離れることはなかった。浮き足立っているのは僕も同じらしい。

     結果、満を辞して乗った二人乗りの3Dシューティングゲームは、お互いの負けず嫌いが発揮されてしまってだいぶ悔恨を残す結果に終わった。

    「いや、3D映像なんて聞いてないし! 酔うわ、あんなの!」
    「言い訳は見苦しいですよ。ビーバー先生」
    「うっわ! うっわうっわ! 意地が悪い!」

     そもそも3Dメガネをかけてシューティング、という時点でかなりのハンデだろう。僕の目は様々な映像を見て混乱してしまい、結果ドベから二番目のビーバーランクという照合を与えられて終わった。ちなみに恵は僕の二つ上、ヤマネコランク。
     でもそのおかげなのか、恵の機嫌はそこそこ良くなっていたようで、その後もまた食べ歩いたり互いにキャラクターの耳を付け合ったり(いやごめん、僕が一方的につけました)、昔は乗れなかったであろう絶叫系ジェットコースターに乗ったりと時間を過ごして行った。

    「なんか、普通ですね」
    「ん?」

     突然恵がそう口にしたのは、これまたアトラクションに並んでいる間の時。唐突に言われたから一体なんのことかと思ったが、僕の疑問符にすぐ様「デート」と返された。こんな場所で、と一瞬驚いたけれど、列の前後、どちらもわいわい盛り上がっていたので、きっと問題ないと判断したのだろう。であればと、僕もその話題を続けながら会話を進めていく。

    「なに、思ってたよりもドキドキしなかったって?」
    「いや、それこそ今更でしょ。そうじゃなくて、なんていうのかな……普通だなって」
    「何よ、普通って」
    「だって俺とアンタ、十三も歳離れてるし」
    「まだ言うか」
    「アンタがどんだけ子供じみた遊びが好きっつったって、やっぱり俺は、五条先生の半分しか生きてないんですよ」

     言っている間にもまた列が動いていくので、会話はゆっくりと途切れてしまう。ただまぁ、恵が言わんとしていることは分かった。
     そう、僕はこの子が六歳の時に出会って、それから九年、伏黒恵という人間が出来上がる様を見続けてきたのだ。でも、それはあくまでも僕の話。恵は僕が出来上がる様を知らないし、なんならずっと変わりのない一人として見え続けていただろう。
     そんな二人が『何かをする』ことが前提である外出をしたとして、同じように景色を見ることができるのか。どっちかに偏ってしまうのではないか。

    「俺と先生の趣味ってそんな合うわけでもないし、だから部屋で何もせずにゴロゴロしてるのが性に合うと思うんですよね」
    「まぁ、そうね」
    「現に俺、だいぶ疲れてますし、今」
    「え、マジ?」
    「多分今、目の前にベッド出されたら秒で寝ます」
    「えぇー」

     再び動き出した列に身を任せながら不満そうな声をあげると、恵は「どっちが子供か分かんないですね」とため息を吐いた。

    「しばらくはまた部屋の中でいいです」
    「そっかぁ」
    「でも」
    「ん?」
    「案外楽しいんで、またしましょうか。デート」

     そう言いながらこちらを見上げてくる恵の顔を見て、僕の足は思わずその場で止まる。動いた列は止まることなく進んでいくので、僕と恵と、その前を進む人たちの間にだいぶ距離が空いてしまった。
     突然立ち止まった僕に、恵はきょとんとした表情を浮かべていたけれど、すぐにまた意地の悪い笑みを浮かべてくる。昔からよく見慣れてきた、小生意気なクソガキの顔だ。
     あぁ、もう。本当に。

    「ほら、行きますよ」
    「……タチが悪い」
    「今更気づいたんですか」
    「そうね、初めて気づいたかもしれないね」
    「よかったですね。恋人の知らなかった顔を一つ知れて」
    「っ」
    「それもデートの醍醐味なんでしょう?」
    「〜〜っ、あぁ、もう……!」

     だからもう、本当にタチが悪い!
     僕は赤くなった顔を隠すこともできないまま、差し出された手を握って小走りに距離を詰める。

    「こんな子に育てた覚えないんだけどなぁ!」
    「育てられた覚えもないですよ、ビーバー先生」
    「あーっ、禁止! それもう禁止!」
    「ぷっ、はは!」

     そう言って笑う恵はまさしく、僕の見たかった『年相応』で。悔しさと嬉しさでごっちゃになった頭のまま、僕は繋いだ手にぎゅう、と力を込めた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🇱🇴🇻🇪💖💖💖☺👏😭😭💒💞👍💯
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ytd524

    DONE※ほんのり未来軸
    ※起伏のないほのぼのストーリー

    伏から別れ切り出されて一度別れた五伏が一年後に再結成しかけてるお話。
    akiyuki様が描かれた漫画の世界線をイメージしたトリビュート的な作品です。
    (https://twitter.com/ak1yuk1/status/1411631616271650817)

    改めまして、akiyukiさん、お誕生日おめでとうございます!
    飛ばない風船 僕にとって恵は風船みたいな存在だった。
     僕が空気を吹き込んで、ふわふわと浮き始めたそれの紐を指先に、手首にと巻きつける。
     そうして空に飛んでいこうとするそれを地上へと繋ぎ止めながら、僕は悠々自適にこの世界を歩き回るのだ。
     その紐がどれだけ長くなろうとも、木に引っ掛かろうとも構わない。
     ただ、僕がこの紐の先を手放しさえしなければいいのだと。
     そんなことを考えながら、僕はこうしてずっと、空の青に映える緑色を真っ直ぐ見上げ続けていたのだった。



    「あっ」

     少女の声が耳に届くと同時に、彼の体はぴょん、と地面から浮かび上がっていた。小さな手を離れ飛んでいってしまいそうなそれから伸びる紐を難なく掴むと、そのまま少女の元へと歩み寄っていく。そうして目の前にしゃがみ込み、紐の先を少女の手首へとちょうちょ結びにした。
    3152