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    ytd524

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    リクエスト
    お題:闇オク五伏

    ※モブ視点
    ※ほとんどモブ
    ※だいたいモブ
    ※前座が長いです

    絶対お求めだったのこれじゃないだろうと思いつつも、私の頭じゃこれが限界でした…
    リクエストありがとうございます!どうか少しでも楽しんでいただけますよう…!

     オークションというものを知っているだろうか。
     売り手によって出された品物に対し、買い手が希望の金額をつけ、最も高額を提示した者にその品物を売買するという競売方法だ。近年ではインターネットオークションなどの一般化にあたり、個人間でオークションでの売買を行う人も少なくないだろう。
     ちなみに個人間ではない、企業などが関わってくるオークションの場合、この敷居は一気に高いものへと変わる。大々的なオークションの中で最もイメージしやすいのは絵画のオークションであろう。一つの会場に集められた参加者が、出展された絵画を実際に見てそれぞれ金額を競っていくのだ。
     壇上にはハンマーを持った外郎の男性。指を上げて金額を提示する参加者。これ以上の競り上がりがないと判断したタイミングでカンカンと打ち鳴らされる木音。ハンマープライス。もう大体想像はついただろう。
     つまりまぁ、そういった大々的なオークション会場で動く金額はインターネットオークションなど非ではない、云百万・云千万の世界ということだ。
     そんな会場の入り口に、今私はいる。

    「チケットを拝見します」

     髪を綺麗にオールバックにしたスーツ姿の男性が、カウンター越しに私へと声をかける。迷うことなく私は手元のチケットを男性の前へと置き、そして一言だけ問いかけを行なった。

    「ところで、手洗いはどこかな。会場に入る前に少しね、ネクタイを直しておきたいんだ」

     私の言葉に男性は会釈を浮かべると「かしこまりました」と口にし、チケットを私へと戻してくる。そのチケットにはきちんと『CHECKED』のスタンプが押されており、そのすぐ右下には今日の日付と『S』の文字が記載されていた。

    「お手洗いはこの廊下を進んだ突き当たり、右手側にございます」
    「ありがとう」
    「お客様」
    「ん?」
    「ウェルカムドリンクのご用意はお手洗い横の部屋で行っておりますので、よろしければチケットをご提示の上お受け取りください」
    「あぁ、ありがとう」

     何ともない顔で告げられた言葉を受け止め、私は真っ直ぐに廊下を進み、手洗いの前を『通り過ぎる』。そうして隣、扉を軽くノックしてチケットをかざすと、中からゆっくりと扉が開けられ、そして中へと通された。
     普段はきっと宴会場に使われているような大広間。その奥側に備え付けられている従業員用と思しき扉まで案内されると、私はその向こう、薄暗がりの中階段を降りて行った。二階か、いや三階分だろうか。最後の段まで降りきり目の前の扉を開けると、そこはとても広い空間へとつながっていた。舞台と客席が設置されたそこは、まるで演劇のための小劇場だ。だが入り口で配られるマスクとカタログ、客席に座る人々の雰囲気や空気感が、それとは全く別世界であることを伝えてくる。
     そして私は受け取ったマスクを顔へとつけ、会場後方の最後列、通路側に腰を据えた。受け取ったカタログには本日の日付、そして目録との記載がされている。
     そう、ここが私の目的地であるオークション会場なのだ。
     ただのオークション会場ではない。実は今日、この会場の一階フロアでもオークションは開催されている。そこでは先ほど説明したような絵画や骨董品など、様々な名品が取り扱われているのだが、この会場は商品が『全く異なる』。仰々しい割りに薄っぺらなそれの表紙をめくってみると、そのページには『名前』『性別』『身体的特徴』『おおよその年齢』がずらっと列挙されていた。

     そう、このオークションで取り扱われるのは生物──生きている人間である。
     俗な言い方だと闇オークションというのだろうか。つまり、限られた人だけがこの会場で人そのものの売買を行い、買った人間を自身の所有物として持ち帰ることができるのだ。
     だからこそここまで厳重(面倒)なやり方でもって会場まで連れてこられたのだが、まぁ致し方ないだろう。私はカタログをざっと流し見しながら、今日の狙いはどれにしようかと考え始めた。

     呪い、というものを知っているだろうか。
     それは人間の負の感情が集まることによって生まれるソレは、蓄積されることで集合体となり、呪霊という形に顕現され世の中に蔓延していく。もちろんそれらが人の目に映ることはないが、結果、呪いを起因とした失踪事件や死亡事故などは、人が気がつかないだけで数多く存在しているのである。
     その呪い・呪霊が見える特別な人間。彼らはそれらを祓い、人々を呪いから救うことを生業としている。それが呪術師だ。
     そんな話を知っている私もまた、見える側の人間だ。だが呪術師『ではない』。そう、私は呪いの力をもって、この地位まで上り詰めた『一般人』なのだ。

     人生なんて単純なものだ。自身の能力さえあれば、運などこちらで作ることができる。そのポストに座るだけの力さえ持ち合わせていれば、あとは勝手に周りがその席を開けてくれるのだ。私はただ、ちょっとだけ呪いをけしかけてやればいい。見える私にしかできないその行動を、見えない奴らに感づかれることなどないのだから。

     だからそう、常の呪いの効力を上げるためと、私は定期的に人間の負の感情を得にくる。つまり、入手した自身の『持ち物』を通して呪いを生み出しているのだ。
     前回買ったものはすぐに壊れてしまったから、今度はきちんと熟慮して選びたいものだ。大人よりは子供の方がいいだろう、ただし年齢が低過ぎてはいけない。自我が目覚め、ただし自己解決能力がまだ育ち切っていないギリギリのライン……であれば少年よりも少女だ。その年頃ならまだ肉体も成熟していないため性別による違いも誤差の範囲である。
     自身の中にある細かな条件まで整理し切ったところで、改めて私はカタログへと視線を戻し、次のページをめくった。今日の出品は十体。カタログもまた、二ページほどめくったところでもう終わりとなる。だが、最後の一枚、視線を滑らせながら裏面を覗いたところで、私の思考はぴた、と止まった。

    (……ん?)

     思考だけではない。動きも止まった。ページをつまみ、めくったところでまるで固まってしまったように全てが動かなくなる。ただ、心臓だけがバクバクと、耳の中で大音量のビートを刻んでいた。
     いや、いやいや。なんだこれ。まさか、そんなわけが。
     目に映ったものを否定しようとするのに、そこに並ぶ文字は何度意識したって変わることがない。首の後ろにつぅ、と嫌な汗が伝っていくのがわかった。
     いや……、いやいや。そんな。まさか。

    「皆様、大変長らくお待たせをいたしました。ただいまより本日のオークションを開始とさせていただきます」

     動けないでいる私を嘲笑うように会場の照明は落ち、壇上の司会者が朗々とマイク越しに開始の宣言を行う。

    「本来であれば一番から順に出品を行うものではございますが……今回の目玉は過去類を見ないものでございますので、それだけを目当てにされていらっしゃることも多いでしょう。ですので、本日は特例としまして、カタログナンバー10の商品を最初の競りとさせて頂きます」

     司会者の言葉で一気に跳ね上がる場内の空気。一気に冷たくなる私の体温。嘘だろうと思う私の目の前で、司会者はカタログに書かれた内容に詳細を加えて説明を続けていく。

    「性別は男性、年齢は自己申告で二十八。ホワイトシルバーの髪にスカイブルーの瞳は、いずれも混じりけのない天然物です。また彼は自身の希望にて出品されておりますため、手数料を除く売り上げは全て、彼の所属する団体に寄付が行われます」

     読んだ内容と齟齬のない身体特徴に、とうとう私の歯はガタガタと震え始めた。所属する団体とはなんだ。いや、そもそもとして自己申告での出品など、明らかな罠だということをどうして誰も気付こうとしないのか。借金のカタに売られて流れ着いた奴らでも、その手前でどっかの身売り業者が経由してここにたどり着くだろう。直でここに来るなどまずありえないはずだ。何故だ、どうして!

    「身長百九十センチという体格の良さではありますが、その顔の造詣は関係者一同お墨付きでございます! 肉体労働の手とするもよし、愛玩用とするもよし! 所有された暁には思う存分、余すところなくご堪能くださいませ!」

     徐々にテンションを上げていく司会者の声に合わせ、会場の人たちもまた沸き立ち始める。そうしてスタッフが緞帳へと手をかけた瞬間、席に座った者たちが一斉に腰を浮かし、その奥を見逃すまいと声を上げた。
     ただひとり、私を除いて。

    「それでは本日の出品、カタログナンバー10! 日本人男性、呼称『サトル』! 一千万よりスタートです!」

     わぁ、と盛り上がる空気の中、開かれた緞帳の奥に現れた一人の男性。もはや見間違えるなんてことはできない。
     呪術界御三家がひとつ、五条家。
     その五条家の当主である、呪術師最強と謳われる男。
     
     五条悟の姿が、そこにはっきりとあった。

    「一千二百」「五百」「二千」「二千五百」

     勢いよく上がっていく金額と会場内の空気。それらに気圧されながら、私はただ一人、席に座ったまま馬鹿になった頭を必死に動かしていく。
     いや、何故だ。ありえない。五条悟がこんな闇オクで出品されるなど、天地がひっくり返ってもありえるわけがない。だが、呪術師は別に警察ではない。ここにいる者たちが全員裁かれる立場だったとして、それを促す権限などは五条悟にありはしない。
     じゃあ何故。いったいどうして彼はここにいるのだ。
     ぐるぐると考えを巡らせていると、ふと私の視線は引っ張られるように壇上へと向かった。そこに佇む男は、出品者よろしく白の肌襦袢を着せられ、まるで正気のないように映る。どこかぼうっとしたような、何の感情も宿すことのないその表情に、ありえないと片付けていた一つの可能性が現れた。

    (……まさか、本当に出品されたというのか? 五条悟が?)

     まるで呪いでも受けたのかというほど微動だにしない、人形のような立ち姿。初めて見る男のそんな姿に、私の胸はゆっくりと高揚感に包まれていった。
     いや、ありえない。だがしかし。
     仮にだ、仮にもしも五条悟が本当に出品されたとするのならば。こんなにも美味しいことはない。幸運にも会場にいる奴らは男の見た目に捕われているため、本来の価値を知り得ない。五千万? 一億? 馬鹿を言うな。そんな金が端金になるだけの価値が、その男にはあるというのに!
     その瞬間、私の体は失った体温を一気に取り戻した。あれほど動かなかった体が嘘のように軽く感じる。五条悟を手に入れた後の自身の未来ビジョンに、私の心は沸き立つばかりだ。

     ──そう、私はこの日本を、世界を意のままにできる神となりうるのだ!

     私は勢いよく自身の右手で二本指を立て、高らかに天井へ向けて突き出す。そして金額のコールを司会者が声にし、そのハンマーが打ち下ろされるのを恍惚とした気持ちで待ち望んだ。待ち望んだまま、視線の先でパチリ、と、男の瞳と目があった。
     吸い込まれそうなほど深い、透き通るほどの青、蒼、碧。
     その奥に見える瞳孔が収縮し、今まさに私を、私の存在を認識していた。
     あ、と思う間すらなかった

    「……あんなの信じるとかアホですか。あの人が本当に出品されるわけないでしょ」

     自身の鼓膜を震わせたその声と共に、私の意識は暗転していく。伸ばした右腕がガン、と地面に叩きつけられた感触だけは、どこか遠いところでぼんやりと思った、ような気がした。




    「──で? 結局当たりだったの?」
    「そうですね。指示された人物像とも一致しますし、間違いないと思います」
    「じゃ、さっさと片して戻ろっか〜。あー、疲れた」
    「あんな馬鹿なことするからでしょ。なんですか、商品として潜り込むって。アホ相手しか釣れないでしょ、そんな釣り糸」
    「いやぁ、僕常々思ってたことがあってさ」
    「なんです」
    「僕っていくらぐらいの金額つくんだろうなって」
    「……はぁ?」
    「そこそこの金額行くだろうなぁとは思ってるんだけどさぁ」
    「いや、それこそ馬鹿ですか。呪術のじゅの字も知らない相手につけられた金額なんて」
    「でも、それでも億は超えたでしょ」
    「……」
    「ねぇねぇ、僕にはそれだけの価値があるらしいけど、そんな僕の手綱を握ってるってどんな気分?」
    「握らせたことなんてないでしょーが」
    「いつでも渡してあげるよ? 恵になら」
    「……」
    「ねぇ、めぐみ」
    「……っ、ん……ちょ、っと……!」
    「あぁ、手綱よりも首輪の方がいい? それなら僕、足枷が欲しいなぁ」
    「っ馬鹿言ってないで、くださいよ!」
    「った! ちょっと!」
    「ほら、さっさと帰るんでしょうが。話はそれからです」
    「あれ、話し続けてくれる気あるんだ?」
    「早くしないと気が変わりますよ」
    「それは大変だ! じゃあ、うん」

    「おやすみ」
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    💯😇💕💕😍👏😭🙏🙏🙏✨
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    Replies from the creator

    ytd524

    DONE※ほんのり未来軸
    ※起伏のないほのぼのストーリー

    伏から別れ切り出されて一度別れた五伏が一年後に再結成しかけてるお話。
    akiyuki様が描かれた漫画の世界線をイメージしたトリビュート的な作品です。
    (https://twitter.com/ak1yuk1/status/1411631616271650817)

    改めまして、akiyukiさん、お誕生日おめでとうございます!
    飛ばない風船 僕にとって恵は風船みたいな存在だった。
     僕が空気を吹き込んで、ふわふわと浮き始めたそれの紐を指先に、手首にと巻きつける。
     そうして空に飛んでいこうとするそれを地上へと繋ぎ止めながら、僕は悠々自適にこの世界を歩き回るのだ。
     その紐がどれだけ長くなろうとも、木に引っ掛かろうとも構わない。
     ただ、僕がこの紐の先を手放しさえしなければいいのだと。
     そんなことを考えながら、僕はこうしてずっと、空の青に映える緑色を真っ直ぐ見上げ続けていたのだった。



    「あっ」

     少女の声が耳に届くと同時に、彼の体はぴょん、と地面から浮かび上がっていた。小さな手を離れ飛んでいってしまいそうなそれから伸びる紐を難なく掴むと、そのまま少女の元へと歩み寄っていく。そうして目の前にしゃがみ込み、紐の先を少女の手首へとちょうちょ結びにした。
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