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    五伏版ワンドロワンライ 第47回「落ちる」

    ※現在軸(事変前)
    ※付き合ってない
    ※五→伏

    これが恋だと自覚する五のお話。
    少し糖度高めかもしれませんので、やんわりと読んでいただけたら嬉しいです!

     からから、ころん。コロン、カラン。

     上から放ったビー玉が、透明なレールの上を小気味良い音を立てながら滑り落ちていく。そうして最後、カコン、と音を立てて受け皿に落とされたビー玉を拾い、再びレールの上から放ってやった。

    「ぼっちゃまは本当に、その玩具がお好きですねぇ」

     そう言って笑ったのは乳母だっただろうか。そうして初めて、俺はこの玩具が『好き』なのだということに気がついた。
     何も考えていなかった。ただ上から放ったビー玉が、コロコロと流れ、滑って、そして下まで落ちてくる。その流れをただもう一度見たくて、見たくて。

     あぁ、そうか。『好き』だから、何度もやってしまうのか。

     初めて自分の行動に意味が持たされたようで、なんだか不思議な気分だった。それでも俺はビー玉を拾うことをやめなかった。受け皿に落ちてきたそれをまた摘み上げて、レールの上にコトンと落とす。

     からから、ころん。コロン、カラン。

     透明なレールの上を転がるビー玉の色は、果たして何色だっただろうか。
     キラキラと輝くその光景の中、ただそれだけが今でも思い出せないでいた。




    「はーい、お疲れ〜! 無事全部祓い終えたみたいだねぇ」

     パン、と両手を叩いて終了の合図を出すと、気を張っていたらしい一年生三人組はその場にへにゃへにゃと崩れ落ちる。外傷が見当たらない割に全員疲弊している様子で、僕はうぅん、と小さく首を捻った。

    「そんなに疲れた?」
    「そりゃあそうでしょ……」
    「倒しても倒してもまだいるんだもん……」
    「……」
    「ほら、伏黒なんかもう気ぃ失ってる」
    「失ってねぇよ……」

     悠仁の言葉に言葉を返す恵もかろうじてと言ったところだ。なるほど、今の彼らに必要なのは効率の良い戦い方の会得と基礎体力といったところだろうか。前者・後者、不足している箇所は三人それぞれではあるが、この辺りはひとまとめに訓練できる内容だろう。
     今後割り振る任務と基礎訓練の割合を考え直すかと頭の中で整理していると、ようやく体力が戻ってきたらしい野薔薇が「あぁ〜!」と大声を上げた。

    「お腹すいた! 五条! 今日こそ回らない寿司よ! ザギンよ!」
    「えぇっ 疲れた時こそ肉だろぉ」
    「何言ってんのよ! 疲れは金で癒すものでしょーが! 普段食べれないチョーー美味しいものを摂取してこそ元気が貯まるってもんでしょ!」
    「えぇぇ 何それ横暴すぎねぇ」
    「あー、お二人さん。悪いけど僕このあと用事あるからご飯は無理よ?」
    「「えぇっ」」
    「とはいえみんなよく頑張ったしね。恵」
    「はぁ。わかりました……ほら、行くぞ」
    「え? 行くって何が?」
    「五条先生のカードで好きなもん食っていいってことだ。早く二人で行先決めろ」

     僕の意図を正しく汲み取ったらしい恵に満足して、僕はポケットから携帯を取り出して時間を確認する。今から真っ直ぐ向かえばギリギリ間に合うだろう。じゃあ少しだけコンビニにでも寄ろうか。

    「……は? 待って、五条のカード?」
    「なんだよ」
    「え、もしかしてアンタ、ずっと持ち歩いてんの?」
    「別に使ってねぇぞ」
    「そういう問題じゃないわよ、馬鹿! はぁぁ、しかも何よこれ! こんなカード初めて見るんだけど」
    「別にカードなんてどれも同じだろ。ほら、さっさと決めろ。俺も腹減った」
    「釘崎ー、もうそこの焼肉食べ放題行こうよー」
    「ダメに決まってんでしょうが!」

     うんうん、仲良きことは美しきかな!
     賑やかで微笑ましいやりとりをBGMにしながら、僕はその場をそっと後にする。はてさて、今週の新商品は何があるだろうか。口の中はすっかり甘いものを食べる状態になっていて、僕は小走りになりながら、目に入った青い看板のお店へと身を潜らせた。




     からから、ころん。コロン、カラン。




    「……あれぇ、なんで?」
    「なんでじゃないでしょ。今日の報告書担当にわざわざ俺を指名してきたのは誰ですか」
    「……あ! 僕だ!」
    「はい、正解です。お願いします」
    「えぇー、恵ったらスパルタすぎない? もっと労ってよ僕を」
    「だったらアンタも俺を労ってくださいよ。何が悲しくてこんな夜遅くまで待たなきゃいけねぇんだ」

     一仕事を終えてそこそこ疲労感の溜まった中、帰宅した部屋にあった恵の姿に、僕の体は一気に脱力していく。恵がいるなら全部任せちゃえと、僕はリビングソファへ直行して寝転がると、右手を上げてひらひらと左右に振った。

    「ん」
    「ったく……はい、これです」
    「んー」
    「飯はそれ終わってからでしょ。てか俺、適当なのしか作れませんよ。知ってんでしょ」
    「んー? んー……あ、そうだ」
    「ダメです」
    「えぇー」
    「アンタ風呂入ったらすぐ寝るでしょ。はい、もう雑談は終わりです。さっさとしてください」
    「はぁい」

     そう言うと恵はソファから離れてキッチンへと向かう。なんだかんだ面倒見の良いこの子は、いつだって僕のことを甘やかしてくれるのだ。それに思わず口元を緩めながら、僕は手渡された報告書にざっと目を通していく。今日のを含めて三件分だ。確認作業は十分とかからずに終えることができた。修正箇所を赤字で指摘し終えて上半身をぐぅ、と伸ばしていると「できましたよ」と声がかかる。そうして僕はテーブルに並べられた野菜炒め定食の前で両手を叩き「いただきます」と声を上げた。

    「そういえば先生」
    「んー?」
    「返しますね、これ」
    「……えっ、なんで?」

     僕から受け取った報告書を見ていたかと思うと、突然恵がテーブルの上にソレを滑らせてくる。見覚えのあるクレジットカード。僕名義のもので、恵に必要経費の支払い用にと高専入学前から貸していたものだ。今日の支払いもそれを使っただろうに何故。
     突然のことに思わず声を上げると、恵はきょとんとした表情を見せた後、どこか不思議そうな顔で首を傾げてくる。

    「いや、考えてみたら俺ももう任務で給料入ってますし。寮に入ってからはこのカード使う機会もなかったんで」
    「いやいや、いつ必要になるかわからないじゃん。持っといてよ」
    「どんなタイミングですか、それ」
    「例えば任務で急遽スーツが必要になった時とか」
    「それこそ使えないでしょ」
    「えぇー、やだやだ。持っててよ恵。これは返品不可です」
    「なんなんですか……はぁ」

     そう言いながら困った顔をしつつも、恵は僕が戻したクレジットカードをしっかりと摘み上げ、自身のポケットに入れてくれる。そう、それでいいのだ。何故だか訪れる安堵の気持ちのまま再び箸を動かし始めると、恵はひとり納得したように「あぁ」と頷いた。

    「またいつものアレですか」
    「ん?」
    「どうせ、俺の困ってる顔が見たいとかそんなでしょ。アンタ、昔から事あるごとに俺にイタズラしては笑いこけてましたし」
    「あぁー、うん。そんなところ」
    「変わんねぇな、ほんとに」

     はぁ、とため息をついて再び報告書に視線を戻す恵の顔を、僕は野菜炒めを咀嚼しながらじっと見つめてみる。その眉間にはまたシワが寄っていて、なるほど、確かにその困り顔は楽しいなと、遅れたように笑いがこみ上げてきた。そう、昔からだ。恵が困ったり、きょどったりしてる顔を僕にだけ見せてくるのはすごく楽しい。だからついつい何度もやってしまうわけで、だから今日だって──。

     ん? あれ?

     ふと感じた違和感に、思わず僕はピーマンを噛む動きを止めてしまう。口を閉じたまま、咀嚼できないで固まったまま、頭の中で必死に違和感の原因を探ってみるが、何も思い出せない。
     ただ、何かキラキラと、光を反射した何かがするする、僕の元まで転がってくるような図が見えた。

     からから、ころん。コロン、カラン。

     耳の奥で聞こえてくる涼やかな音。座敷の上に直置きされたプラスチックの滑り台。輝くそれを持ち上げた僕は、何度も何度も、それを上から下へと落として。

     コロン。

    「っ、は?」

     突然、外から与えられた刺激に、僕の思考は一気に現実へと戻される。すると目の前、報告書を手にして座っている恵が、僕に向かって右手を伸ばしていた。若干ぼやけている視界に、あぁ、今僕はデコピンされたのだということを後から理解する。理解して、ゆっくりと痛みに襲われた。

    「〜〜っ……たぁ…… え」
    「っぷ……くく……」
    「え、いや、え? なに?」
    「アンタ、すっげぇアホ面してますよ、今……ふはっ」
    「え、えぇ……?」

     何が面白いのか、恵はツボったようにずっと肩を震わせて笑い声を上げる。僕は呆けたままそれを見つめるしかできなくて、開いた口からこぼれそうになった食べかけのピーマンを慌てて戻し、咀嚼もせずに飲み込んだ。

    「ちょっとだけ、アンタの気持ちが分かりました。普段見れない顔が見れるって、面白いもんですね」

     そう言って笑った顔に、僕の中で再び音が聞こえてくる。ようやく気がついた違和感の原因に、一気に顔へと熱が集まっていくのがわかった。

    『ぼっちゃまは本当に、その玩具がお好きですねぇ』

     からから、ころん。コロン、カラン。

     ビー玉が滑って、落ちていく音。
     それはきっと、恋に落ちる音。
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    🇱🇴🇻🇪😭🙏💘💘💘😍
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    Replies from the creator

    ytd524

    DONE※ほんのり未来軸
    ※起伏のないほのぼのストーリー

    伏から別れ切り出されて一度別れた五伏が一年後に再結成しかけてるお話。
    akiyuki様が描かれた漫画の世界線をイメージしたトリビュート的な作品です。
    (https://twitter.com/ak1yuk1/status/1411631616271650817)

    改めまして、akiyukiさん、お誕生日おめでとうございます!
    飛ばない風船 僕にとって恵は風船みたいな存在だった。
     僕が空気を吹き込んで、ふわふわと浮き始めたそれの紐を指先に、手首にと巻きつける。
     そうして空に飛んでいこうとするそれを地上へと繋ぎ止めながら、僕は悠々自適にこの世界を歩き回るのだ。
     その紐がどれだけ長くなろうとも、木に引っ掛かろうとも構わない。
     ただ、僕がこの紐の先を手放しさえしなければいいのだと。
     そんなことを考えながら、僕はこうしてずっと、空の青に映える緑色を真っ直ぐ見上げ続けていたのだった。



    「あっ」

     少女の声が耳に届くと同時に、彼の体はぴょん、と地面から浮かび上がっていた。小さな手を離れ飛んでいってしまいそうなそれから伸びる紐を難なく掴むと、そのまま少女の元へと歩み寄っていく。そうして目の前にしゃがみ込み、紐の先を少女の手首へとちょうちょ結びにした。
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