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    ytd524

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    リクエスト
    お題:「俺(僕)の男に手を出すな」とモブに宣言する五伏

    ※34×21
    ※事変はなかったことに
    ※全体的にいかがわしいけどなんちゃってです

    リクエストくださりありがとうございます!すごく恥ずかしいので羞恥に耐えられなくなったらフォロワ限にします!はっずい!!

     密閉された薄暗い空間。そこまで狭くないはずのフロアは、だが一箇所に人が収集しているせいでどこか圧迫感のようなものを与えてくる。その人だかりを横目にしながら、伏黒は一人、カウンターの中でシェイカーを振っていた。シャカシャカと小気味良い音を立てながら流暢な動きで行われるその動作は、薄暗い中だからこそなのか、ひどく艶美な所作に見えてくる。それは伏黒の目の前に座る男にとっても同じで、彼はテーブルに肩肘をつきながら、伏黒がカクテルを作る様をじぃ、と見つめ続けていた。
     高さの低いロックグラスの中へと注がれた中身は、何も色のついていない、無色透明な液体であった。シェイカーの中に加えていた氷をひとつ、ふたつとグラスの中に入れていくと、カラリ、とひどく涼しげな音が辺りに響き渡る。そうして最後、バー・スプーンでひと回しさせたそれを細い指先が持ち上げ、テーブルの上へコトリ、と音を立てて置かれた。

    「お待たせいたしました。カミカゼでございます」
    「あぁ、ありがとう」

     男はそのグラスを早々と受け取り、にっこりと口元に笑みを浮かべる。そうして伏黒から視線を一切外すことなく中身を一口流し込むと「とても美味しいよ」と甘ったるい声で囁いた。この喧騒の中、ギリギリ聞こえてきたその声を、だが伏黒は聞こえなかったものとして視線を逸らし、手元のバー・スプーンを水を張ったタンブラーの中へと落とす。そしてカクテルを作るのに使用した酒瓶を裏手の棚へと戻しながら、バレないようにはぁぁ、と深いため息を吐いた。

     なんだってこんなことになったのか。いや、これは誰のせいでもない。強いて言うなら虎杖や狗巻、そして乙骨のせいであろうか。こんな任務、自分以外にも適している人間がいたはずだというのに、全員が揃ってして不在だったのだからこんな羽目になったのである。それだって別に本人たちが悪いわけではないと分かってはいるのだが、それにしたって誰かに恨み言ぐらい吐きたくもなるだろう。
     そう、なんだってこんなことをする羽目になったのか。
     ──ゲイのストリップバーに、潜入しての任務などということを。



    『…………は?』
    『気持ちはわかる。だが堪えてくれ』
    『いや、堪えてって……はぁ?』

     呼び出しを受けた高専の学長室。久しぶりの学び舎を懐かしんだのも束の間、渡された任務内容に伏黒は真顔のまま声を上げた。理解が追いつかないとはまさにこのことであろう。ぽかんと口を開けたまま、しばらくの間無言を続け、そうしてたっぷりと時間を置いた後『お断りさせてください』との言葉だけが口から吐き出される。
     だが無情にも、その任務を与えた張本人、夜蛾が伏黒の言葉に頷くことはなく、再び『堪えてくれ』と小さく口にした。

    『いや……無理でしょ……え? 無理ですよ』
    『君以外の方が無理なんだ。諦めてくれ』
    『とうとう堪えてじゃなくなりましたね』
    『違和感なく潜入できる人間が限られている。わかるだろう』

     そう言って視線を向けてくる夜蛾に、伏黒は思わずぐ、と息を詰める。
     理解はしていた。特殊な環境下にある店の中、最も重要なのは『バレることなく自然に溶け込める人間性』であること。その点でいくと、見た目が派手な虎杖、言葉での受け答えに難のある狗巻、雰囲気に馴染まないであろう乙骨が、それぞれ除外されていく。パンダは論外だ。
     だが、伏黒が除外されなかったとして、それはあくまでも消去法の話だ。はたして伏黒がこの任務に向いているのかという意味ならば、答えは否だろう。だというのに、他の選択肢がないのだと、夜蛾は伏黒の言葉にただ首を振り続けるしかできなかったのだ。

    『すまない、恵。三日の辛抱だ。奴の行動範囲上、必ずその間に現れる。そこを叩くためには、一番無防備になる店内でないと厳しいんだ』

     そう言いながら組んだ両手をぎゅ、と握りしめる夜蛾の姿を、伏黒は真正面から見つめる。申し訳ないのだと、一目見ただけで伝わってくるその感情と態度に、浮かんでいた様々な言葉はすぅっと胸の奥に落ちて行った。
     そう、理解はしていた。だからこそ伏黒自身、それ以上強く出ることもできないわけで。

    『…………わかりました』

     あぁ、これが成人を迎えると言うことかと。手渡されたタブレット端末を受け取りながら、伏黒はひとり、遠く天井の向こうを見つめ続けた。



     そしてこのゲイバーにバーテンダーの見習いとして潜り込んだのが二日前。つまり今日が三日目、最後の一日である。この二日間はターゲットが現れる様子もなく、ただひたすら真顔でカクテルを作り続けて終わったわけだが、調査の通りならば確実に今日、ここへやってくるはずなのだ。だからこそ伏黒も、こうしてすぐ間近で下卑た視線を送ってくる輩がいても、何も言わず、ただひたすらに耐え続けているのだ。

    (いや、なんでこんな冴えないバーテンダーに色目使ってんだよ。ストリップバーだろ、ここ。ステージ見てろよ)

     理解できない相手の行動に心の中で嘆くが、やはり男が移動する様子は一切ない。左手側、この部屋の一番奥に設置されたステージでは、今まさにダンサーがポールに足をかけ、観客がわぁ、と沸いているところであった。だというのに目の前の男はやはり伏黒のことだけを見つめ、ゆっくり、一口ずつ作ったカクテルを口に含んでいく。あまりにも粘着質なその視線を背中で受け続けながら、伏黒はただただ、この時間の終わりが早くくることを願い続けた。

     カラン、と氷の鳴る音がする。
     その音に呼ばれるように振り向くと、男の持つロックグラスの中身が空になっているのが視界に入った。思わず出たのは安堵の息である。これでようやく任務に集中できると、早々に手を伸ばして空になったグラスを戻そうとした、その時だった。

    「え」

     男の手が、伏黒の手首をガシ、と掴んだ。時計もしていない、シャツの袖から伸びる、男性にしては細いその手首は、男の掌が十分に余った状態で覆えてしまう。少しかさついた指先が肌を撫でていく感触に、伏黒の背筋はぞわっと粟立った。

    「ねぇ、おかわりを頼めるかな」
    「は……いや、あの」
    「そうだね……アイ・オープナーを一杯、頼むよ」

     親指でくすぐるように、男は伏黒の手首を何度もなぞっていく。浮き上がった血管を、まるで愛おしむかのように揉み込んでいくその感覚に、とうとう伏黒は「うわ」と声を上げてしまった。これはもうダメだ。気持ち悪いことこの上ない。
     わっと上がる歓声に、ステージ上のショータイムもフィナーレを迎えようとしているのが分かった。きっと次のステージに合わせて、ターゲットももう間も無く来店する可能性が高いであろう。だがもはや、伏黒の我慢も限界に達していた。

    「君、アイ・オープナーのカクテル言葉は知っているかい?」
    (知るかよ知らねぇよさっさと帰れよ)
    「こんなところで働いているんだ、君だってそのつもりで誰か探していたんだろ?」
    (んなわけねぇだろわざわざ店員から選ぶな客で選べ)
    「こんなに魅力的な子と出会ったのは初めてだよ……ねぇ、これが運命の出会いなのかな」
    (店員と客で会っただけで運命になるならコンビニにでも通い詰めてくれ)
    「あぁ……ねぇ、君。名前教えてよ」
    (あぁ、もう、もう!)

     一方的に語り続ける男に、いよいよ伏黒は眉間のシワをぐ、と寄せる。
     すみません、夜蛾さん。やっぱり俺にこの任務は荷が重すぎました。次回からはもう少しスマートな奴を探してください。
     心の中で謝罪の言葉を並べ、伏黒はふぅ、と息を吐く。その様子に男は瞳を細め、にんまりと口元に笑みを浮かべた。何を勘違いしていると言うのか。その男に向けて罵倒の言葉を浴びせるべく引こうとした右腕は、だが突然二の腕を掴まれた感触によって動きを堰き止められる。

    「はっ──」

     声を上げる余裕すらなかった。突然のことに驚き上がった声は、すぐに塞がれ、飲み込まれてしまう。薄暗い空間の中、すぐ間近に映ったその瞳は、本来の色を隠してしまい認識することができない。ただ、その奥に見える瞳孔が深く、真っ直ぐに向けられている状況に、伏黒は小さく背中を震わせた。

    「ん、んんっ、ふ……ぁ」

     軽く開かれていた唇の隙間、差し込まれた熱が乱雑に口内を蹂躙していく。その度に上がる粘着質な水音と艶やかな声は、ステージ上の音にかき消され、ほとんど周りに漏れ聞こえることがない。ただ一人、伏黒の手を掴んだままでいた男だけが、目の前で繰り広げられるその甘美な行為に息を呑んでいた。
     だがそれも長くは続かず、くちゅり、と一つ音を立てた後、その行為はあっさりと終わりを告げた。

    「んっぁ、」

     離れていく熱に引きずられるように、伏黒の体はふらりと前へと傾いていく。その体を受け止めるようにして抱き込むと、突然現れたその人は、未だ掴まれたままの伏黒の手首に視線を落とし、そしてその腕の先へと顔を向けた。
     薄暗い中でも分かるほとに明るい、色素の薄い頭髪。滑らかな肌。すぅ、と通った鼻筋。濡れた唇。何よりも端麗なその顔を真っ直ぐに受け止めた男は、真っ赤になった顔のまま、引きつった笑みで「へあ」と間抜けな声を発した。

    「……僕の男の子に、手ぇ出さないでくれる?」

     一切の感情の乗らないその声音に、男は反射的に自身の手を引っ込めた。そのまま表情を変えることもなく、男は「へ」「は」「あは」などと口にしながら立ち上がり、後ずさるようにしてその場から離れて行く。男の向かった先が出口でもステージでもなかったことに思わず舌打ちをしていると、腕の中にいる伏黒が「はぁ」と小さくため息を吐いた。そこにはもう、先ほどまでの熱は残っていない。

    「……誰がアンタの男の子ですか」
    「恵が僕の男の子」
    「違います」
    「なによぉ。助けてあげたんじゃん」
    「やりすぎですよ……なんですか今の」
    「……間男にお灸を据える本妻?」
    「ツッコミどころだらけです」

     そうして再びはぁ、とため息を吐いた伏黒は、両腕をつっぱね、その胸の中から体を引き離した。そのまま袖口で自身の口元を拭い、目の前に立つその人へと視線を向け、名前を呼んだ。

    「何しに来たんですか、五条さん」
    「いやぁ。恵がゲイバーに潜入したとか言うからさぁ、遊びに来ちゃった!」
    「ふざけてんですか」
    「でも本当に襲われかけてたじゃん。ねぇ、なんでわざわざ店員にアタックしかけてきたんだろ? こんな場所、よりどりみどりなはずなのに」
    「俺が知るわけないでしょうが」
    「ふぅん?」
    「てかアンタが来たってことは、任務ももう終わってんですか」
    「うん。ここくる前に偶然出くわしてね! ちゃちゃっと片しといた」
    「じゃあ我慢する意味もなかったんじゃねぇか……アンタももっと早く来てくださいよ」
    「あはは、ごめんって」

     カラリと笑うその人に、伏黒は呆れた顔を返しながらカウンターの中を片付けていく。間も無くショータイムも終わりだ。ちょうど次に来るスタッフと交代しても問題ないタイミングであろう。そう思いながら腰後ろに結ばれた紐を解こうとした時、「ねぇ」と声がかけられた。

    「僕にも作ってよ、一杯」
    「はぁ? アンタ飲めないじゃないですか」
    「うん。だから僕に作って、それを恵に飲ませる」
    「意味がわからねぇ……はぁ、一杯だけですよ。俺も強くはないんですから」

     そう言うと、伏黒は紐にかけていた両手を離し、再び自身の前にシェイカーを用意する。そして後ろの棚を見ながら「何にするんですか」と声をかけた。その後ろ姿をじっと見つめながら、男性は真っ直ぐに言葉を投げる。

    「アフィニティ」
    「……またそんな、度数高いの選んで」
    「いいじゃない。一杯だけなんだから」

     男性の声を受けながら、伏黒はカクテルグラスを手に取ると、必要な酒瓶を一つずつ用意していく。スコッチウィスキー、ドライベルモット、スイートベルモット、そしてアンゴスチュラビターズ。並べたそれらを氷を入れたグラスの中へと注いでいき、バー・スプーンでくるくるとかき混ぜていく。カラカラと、氷がグラスにぶつかって鳴らす音がひどく耳に残る。無言のまま、氷の音だけが響くバーカウンターの中、伏黒は一人、上がって来そうになる熱をそっと自身の中で押し留めていた。

    「ね、恵。アイ・オープナーのカクテル言葉って知ってる?」
    「……見てたんだったらさっさと助けに入ってくださいよ。知るわけないでしょう」
    「『運命の出会い』」
    「……」
    「あいつ、恵との出会いが運命だって疑わなかったんだねぇ。ウケる」
    「ウケません……うわ、また鳥肌立ちそう」
    「じゃあ、アフィニティは?」
    「は?」
    「なんだと思う?」

     バーカウンターに両手をつき、上半身を若干乗り出してくるその人に、伏黒は思わず両目をぱち、と瞬かせる。それこそ知るわけがなかった。だが、それは先ほどまでとは違う。
     知るわけがないし──知りたくない。

     最後のステアを終え、グラスの中がカラン、と一つ音を立てる。そして中身をカクテルグラスへと移し替えると、伏黒は迷うことなくそのグラスを男性へと向けてテーブルの上を滑らせた。

    「お待たせしました」
    「あれ、考えもしない感じ?」
    「アンタの遊びに付き合う気力も残っていないんで」
    「あはは。じゃあこの話は後でにしようか」

     鳴らされていた音楽がジャン、と最後の音を上げて終わる。わっとわき起こる歓声にショーが終わったのだと思いながら、伏黒は差し出したグラスを自身の元へと引き寄せた。
     だが、それは自分で持ち上げるよりも先に、男性によってテーブルから浮かされる。

    「は」
    「恵」

     持ち上げられたカクテルグラスは迷いなく伏黒の口元へと寄せられ、傾けられる。グラスの中身がゆっくりと口内へと流し込まれ、その度数の高さに思わず眉間のシワが深くなった。

    「んっ……!」

     口を開いて抗議の声を上げることもできないまま、ただ流れ込んでくるそれをなるべくゆっくりと嚥下していく。胸の奥、押し込めていた熱が再び持ち上がってくる感覚に両手でエプロンの表面を掴むと、ようやくグラスの傾きが直され、唇から離された。半分近くなくなった中身に睨み上げると、男性は口元だけに笑みを浮かべたまま伏黒の視線を受け止める。そして交わった先、細められたその瞳の奥に、伏黒は思わずは、と息を吐いた。

    「ねぇ、飲みきってよ」

     たったその言葉だけで、再びグラスは伏黒の唇へと押し付けられる。それを止めることなく受け止めたのもまた、伏黒自身の意思であった。
     あぁ、このグラスの中身が空になった時、はたして自分はどうなるのだろうか。
     ふわふわとおぼろげになる意識の中、再び流し込まれたその焼けるようなアルコールを、伏黒はこくん、と飲み干した。
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    ytd524

    DONE※ほんのり未来軸
    ※起伏のないほのぼのストーリー

    伏から別れ切り出されて一度別れた五伏が一年後に再結成しかけてるお話。
    akiyuki様が描かれた漫画の世界線をイメージしたトリビュート的な作品です。
    (https://twitter.com/ak1yuk1/status/1411631616271650817)

    改めまして、akiyukiさん、お誕生日おめでとうございます!
    飛ばない風船 僕にとって恵は風船みたいな存在だった。
     僕が空気を吹き込んで、ふわふわと浮き始めたそれの紐を指先に、手首にと巻きつける。
     そうして空に飛んでいこうとするそれを地上へと繋ぎ止めながら、僕は悠々自適にこの世界を歩き回るのだ。
     その紐がどれだけ長くなろうとも、木に引っ掛かろうとも構わない。
     ただ、僕がこの紐の先を手放しさえしなければいいのだと。
     そんなことを考えながら、僕はこうしてずっと、空の青に映える緑色を真っ直ぐ見上げ続けていたのだった。



    「あっ」

     少女の声が耳に届くと同時に、彼の体はぴょん、と地面から浮かび上がっていた。小さな手を離れ飛んでいってしまいそうなそれから伸びる紐を難なく掴むと、そのまま少女の元へと歩み寄っていく。そうして目の前にしゃがみ込み、紐の先を少女の手首へとちょうちょ結びにした。
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