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    午後24時の待ちあわせ webアンソロ
    お題:待ちあわせ

    前中後編の三部構成です。
    三編とも短いお話なので、お暇つぶしにまったりと読んでいただけますと幸いです。

    中編:https://poipiku.com/2336241/4593197.html

    待ちあわせ - 前編 五条先生と出会って、初めてもらったものは携帯電話だった。

    『僕ってあちこち飛び回ることが多いからさ、予め日時合わせて稽古とか難しいんだよね。君んち、家電もないでしょ? 僕が予定空いたタイミングでそこにメール送るから、鳴ったらちゃんと確認してね。あ、充電切らすなよ? 充電の仕方わかる?』

     言われるがままに押しつけられたそれは、クラスメイトが持っているものと同じ、いわゆる『キッズケータイ』というものであった。シンプルな真っ白色の本体はパカ、と縦向きに開くことができて、液晶画面と数字のついたボタンがそれぞれ配置されている。
     本体に見覚えがあるとはいえ、使い方はからっきしだった俺に、結局五条先生は家まで上がり込みそれらの使い方をいちから教えてくれた。と言っても、自分が普段使っているものと色々仕様も違ったのだろう。『なんだこれ』『え、ネット繋がんないんだけど』『まぁいっか』と、それぞれ適当にいじくり回して必要なところだけ覚えることとなった。(余談だが、キッズケータイに防犯ブザー機能があることを知った先生が面白半分で鳴らしてしまったせいで、その日は隣から思い切り苦情を吐かれることとなった)
     そうして受け取った携帯は他の用途に使われることも一切なく、言うなれば『五条先生からの連絡専用受信機』みたいなものになった。そう、受信機だ。こっちから連絡を取ることもしなかったし(そもそもやり方もわからない)、なんだかんだ結構な頻度で連絡を受けては落ち合っていたため、必要がなかったのである。
     だから、この携帯にあるメールボックスは、五条先生から送られてきたもので埋め尽くされている。

    『4月9日 14:00 公園』

     これは一番最後の受信ログだ。確か俺が九歳かそこらの頃。小学校高学年に上がった頃『いやーiPhoneってやっぱかっこいーよね!』とテンションの上がった先生によって新しい携帯に移行させられたため、そのタイミングでこのキッズケータイはお役御免となったのだ。
     ちなみにメールは二日おきか三日おき、長く空いた時でも一ヶ月はしないというスパンで送られてきたため、一番最初のメールまで遡るのは相当手間がかかる。なんといったってタッチスライドができないのだ。ひたすら右ボタンを押してページを送り続けなければいけない。無心で押し続けた結果、見つけた最初のメールがこれだ。

    『5月21日 15:00 公園』

     何も変わらねぇ。思わず笑ってしまいそうになるのを押さえつつ、次のメールに送ったところで、俺は堪えきれずに息をこぼした。

    『5がつ21にち、おひるの3じ こうえん』

     あの時俺はきちんとこの場所に辿り着くことができたんだっただろうか。思い出すことなんてもうできないけれど、まぁ多分大丈夫だったんだろうとは思う。
     そんな懐かしい気持ちに浸りながら、俺は手元のキッズケータイに残るメッセージを一つひとつ、ぼんやりと送り続けていった。



     なんでこんなことをしているのか。それは単純な話で、しばらくできていなかった大掃除をするかと寮の箪笥を開けた時、偶然未開封の段ボールを見つけたためだ。家にあるものをとりあえず詰め込んで引っ越しをした時の開け忘れだったのだろう。開けてみたら冬服と壊れかけのウォークマン、そしてこのキッズケータイが出てきた。
     もはや梱包したことすら忘れていたそれは、目立った傷もなくもらった時のままそこにあって、まだ起動できるのだろうかなんて興味心のままに充電スタンドに立てかけてみたところ、きちんと充電ランプが点灯してくれたのだ。そうして掃除を終え夕飯も食べ終え、あとは寝るだけとなった時にそれを起動してみたところ、問題なく電源が入った。結果、おもちゃを手にしたような気持ちで久々にこれをいじくってしまった、というわけだ。
     そう、まだ漢字も覚えていない俺にとって、メールの文章を送るという行為は未知の世界であった。だからこちらから承諾の連絡もすることなく、ただ受け取ったメールで指定された場所に向かう日々だったのだ。そうだ、ひどい時には『三十分後に駅前』なんて時もあった。今なら彼の忙しさの理由が分かるが、当時の俺はいつだって不貞腐れながら待ち合わせ場所に向かっていたように思う。

    「あ」

     ふと、ページを送る手が止まった。日時と場所が書かれるだけのメールの中、それだけは全く違う内容が書かれている。

    『なにかあった?』

     受信日時は八月九日の十三時五分。もしかして、と思い一つ前のメールを見ると、そこには予想通りの文章が並んでいた。

    『8月9日、おひるの1じ はしのところ』

     そうだ、これは覚えている。待ち合わせに指定された日に体調を崩してしまい、家から出ることを津美紀に止められていたのだ。そのことを五条先生に伝えなきゃいけないと思いつつも、使い方のわからないそれはメールを読むことしかできなくて、俺は届いたメールを見て、津美紀の目を盗んで出て行こうとした。だがそれよりも先に五条先生が家までやってきて、リビングで鉢合わせることになったのだ。

    『体調悪いなら電話してこいよ』

     そう言った五条先生は、俺のことを布団まで押し戻して夜までそこにいてくれたんだったか。起きた俺に真っ先にショートカット通話のやり方を教えて『何かあったらここで電話! 何かなくても電話!』といい含めて帰っていった。だが結果、この携帯から五条先生に電話をかけるなんてことは一度もなかったのだけれど。

     あぁ、懐かしいな。このメールには『津美紀も連れてくるように』と書かれている。そうだ、ちょうど五条先生の空き時間が地元の夏祭りと被ったからって連れ出されたんだ。こっちのメールには何故か日時と場所の後に『食べたいもの考えておいて』とあるから、多分夕飯を奢ってもらったのだろう。全く覚えていない。
     そうして三年分、メールを追いかけ終わる頃にはもうすっかり夜も更けてしまっていた。何をやっているんだ、明日は体術訓練があるのだから、さっさと寝たほうがいいと思っていたはずなのに。そう思いつつも心は非常に穏やかで、なんとなしに俺は最後のメールに向かい合ったまま、ボタンを押した。
     日時と場所しか書かれていない、まるで人情も感じられない義務的なメール。それでも、今読み返してはっきりと伝わる暖かさが、何故だかひどく心地よかった。
     ──五条先生もまた、そんな気持ちでメールを打ち込んでいたのだろうか。
     そう、そんなことを考えながらのその行為は、本当に気まぐれのものであったのだ。

    『6月12日 19時 山の麓』

     たったそれだけを打ち込んだ返信メールを見ながら「なんてな」と呟き、なんとなしに送信ボタンを押した。ただ味わってみたかったのだ。このメールを送っていた時の五条先生がどんな気持ちだったのか、知ってみたくて。だから、そう。画面の真ん中に表示されたメッセージを見て、頭の中が一瞬で真っ白になった。

    『送信完了しました』

    「…………は?」

     わけもわからないまま、ポカンとその画面を見つめる。表示されているメッセージの内容は理解ができるのに理解ができない。わけのわからないまま、俺は意味もなく携帯を折り畳んで、再び開いてみた。やはりメッセージの内容は変わらないまま、画面の真ん中に表示され続けている。

    「……いや……は?」

     ボタンを押すとメッセージは消え、受信フォルダへと画面が戻った。だがいつまで待っても宛先不明のメールすら返ってくることはなく、念のためと見にいった送信済みフォルダには先ほど入力したメールがきちんと、本日の日付で残されたままになっていた。
     いや、なんでメールアドレス変えてねぇんだよ。変えろよ。いや、いや。それ以前にだ。

    「……なんで契約しっぱなしにしてんだよ……」

     思わず溢れでた言葉は誰にも拾われることなく、俺は一人、頭を抱えながらベッドへと突っ伏した。そうして五条先生の雑さにため息を吐きながら、全部明日考えて仕舞えばいいと、俺はその体勢のまま意識を手放した。



    next... 6/12 16:00
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    ytd524

    DONE※ほんのり未来軸
    ※起伏のないほのぼのストーリー

    伏から別れ切り出されて一度別れた五伏が一年後に再結成しかけてるお話。
    akiyuki様が描かれた漫画の世界線をイメージしたトリビュート的な作品です。
    (https://twitter.com/ak1yuk1/status/1411631616271650817)

    改めまして、akiyukiさん、お誕生日おめでとうございます!
    飛ばない風船 僕にとって恵は風船みたいな存在だった。
     僕が空気を吹き込んで、ふわふわと浮き始めたそれの紐を指先に、手首にと巻きつける。
     そうして空に飛んでいこうとするそれを地上へと繋ぎ止めながら、僕は悠々自適にこの世界を歩き回るのだ。
     その紐がどれだけ長くなろうとも、木に引っ掛かろうとも構わない。
     ただ、僕がこの紐の先を手放しさえしなければいいのだと。
     そんなことを考えながら、僕はこうしてずっと、空の青に映える緑色を真っ直ぐ見上げ続けていたのだった。



    「あっ」

     少女の声が耳に届くと同時に、彼の体はぴょん、と地面から浮かび上がっていた。小さな手を離れ飛んでいってしまいそうなそれから伸びる紐を難なく掴むと、そのまま少女の元へと歩み寄っていく。そうして目の前にしゃがみ込み、紐の先を少女の手首へとちょうちょ結びにした。
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