愉悦の深夜律紀は自室のデスクに向き合い、机の上に広がる報告書のコピーや証拠品の資料に目を通しながら、深いため息をついた。事件は予想以上に複雑で、手がかりも少なく、気づけば時刻は深夜を指していた。仕事が進展せず、焦りと苛立ちが募っていく。
そのとき、数回のノックが響く。
「……どうぞ」
扉が静かに開くと、夏無が入ってきた。彼女は律紀の様子を見て、すぐにその場の空気が重いことに気づく。困ったように小さく微笑むと、丁寧に紅茶を注いだ。
「律紀くん、少しお茶でも飲んで、休憩してください」
「……ありがとう、夏無」
律紀は少しだけ顔を上げ、夏無から渡されたカップを受け取った。彼の目はまだ書類に向けられたままだが、夏無の存在に、少しだけ心が軽くなるのを感じた。
1906