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    はなねこ

    胃腸が弱いおじいちゃんです
    美少年シリーズ(ながこだ・みちまゆ・探偵団)や水星の魔女(シャディミオ)のSSを投稿しています
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    はなねこ

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    シャディミオハネムーンで書いた幼高現パロ時空の幼少シャミ小話のシャミ視点です。ミオへの愛が重たくて若干面倒くさいシャディくん11歳です。

    #シャディミオ

    蜜月予行練習(sideS) カラメル状になるまで煮詰められたりんごは、フォークを刺そうとするだけで崩れてしまいそうなほど柔らかい。ひと口サイズに切り分けたタルトタタンをぱくりと頬張ると、ほろ苦くて甘酸っぱい風味が口いっぱいに広がった。おいしくて幸せで自然と笑みがこぼれる。君とおそろいだね。
     こんなにおいしいタルトタタンならひとりで食べてもおいしくいただけるのだろうけど、きっと物足りなさを感じたはずだ。味のうえでも、気持ちのうえでも、満たされなかったはずだ。こんなにおいしいタルトタタンを俺ひとりで食べるのは勿体ない、君にも食べてほしい――そう思ったはずだ。
     だから、今日は君と一緒でよかった。
     唇の端にヨーグルトソースがついていることに気づかないほど夢中になってタルトタタンをぱくつく君を見られてよかった。おいしいものを食べて幸せでたまらないというふうに目を輝かせる君を見られてよかった。
     こんなとき、先人が残した『幸福は分かち合うようにつくられている』という言葉はあながち間違ってはいないのだなと実感する(あながち、と断定を避けたのは、誰かと分かち合いたくない幸福も存在するからだ。少なくとも俺には、独り占めしたい『幸福』が在るからだ)。
     ねえ、ミオリネ。おいしいタルトタタンを食べるという幸福を君と分かち合うことができて、俺は本当に嬉しいんだよ。どれくらい嬉しいかというと、「ふらふらしちゃう?」と試すようなことを訊かれても真摯に答えられるほどにね。
     ぽろりとこぼれた本音をごまかすように「ここ、ついてるよ」と腕を伸ばし、俺はテーブルの向かいに座るミオリネの唇を拭った(誓って言うが、いまのは意趣返しなんかじゃあないよ)。
    「タルトタタンとヨーグルトを一緒に食べるのって初めてだけど、すごくおいしいんだね」
     ほんのりと頬を染めて、どこかこそばゆそうにもじもじしていたミオリネが、はっとしたように長い睫毛を瞬かせる。
    「あんた、りんごのお菓子が好きだものね」
     その言葉に、そういえば……と思った。これまで深く考えたことはなかったけれど、俺はどうしてりんごのお菓子が好きなのだろう。
     と、ミオリネの瞳が、ふたつ並んだ箱のどちらかを選んで開けろと言われたときのように揺れた。不透明な箱の片方には不安、もう片方には期待。ふたを開けてみるまで中身は分からない。おずおずと、
    「ここのタルトタタン、気に入った?」
    「うん、とっても」
    「そう。なら、よかったわ」
     開けたのは、どうやら期待が入った箱の方だったらしい。安心したように息をついて、ミオリネはくしゃりと顔をほころばせた。笑顔がまぶしくて、俺は思わず目を細める。
     ミオリネ、俺はね――
     君がこの店を選んだのは、りんごやりんごを使ったお菓子が好きな俺が喜ぶだろうと思ったからだということを知っている。
     連れてきてくれてありがとうと遠回しに選択理由を指摘すれば、そんなんじゃないわ、あんたのためなんかじゃないわ、たまたま通りかかったところにたまたま素敵なお店があったから此処にしただけよ――と、白いほっぺたを真っ赤にしてぷりぷり反論することも知っている。
     こうと決めたことに一生懸命な君は、ときに周りを振り回しているように見えるかもしれないけれど、君に振り回されるのも悪くないと思っている俺がいることを――君にならむしろ振り回されたいし、君が行きたいところなら一緒に行きたいと思っている俺がいることを――俺はよく知っている。
     素直かと思えば頑なで、照れ屋かと思えば寂しがり屋でもあって。カレイドスコープのようにくるくると表情を変える、とびきり魅力的で誰よりもチャーミングな、俺の大切な女の子。君はいつまで俺の傍にいてくれるのかな。君はいつまで俺の傍にいたいと思ってくれるのかな。
    「いつかルーブル美術館へ行ってみたいわ。『愛』がテーマの作品も、それ以外の作品も、もっとたくさん見てみたいもの」
     君が思い描く『いつか』に俺もいるのかな。それが五年後でも十年後でも、遠い異国のかつての王宮で『愛』を眺める君の傍らに俺もいるのかな。
     奇遇だね、と俺は微笑む。「俺もそう思っていたところだよ」と言葉を継ぐ。
    「大人になって、ルーブル美術館を訪れて。そのときも、今日みたいに君と一緒なら楽しいだろうね」
     ねえ、ミオリネ。俺はね、いまも五年後も十年後も『いつか』もその先もずっとずっと君の隣にいたいと思っているんだ。
     そんな本心を知られたら「重いわ」と君を引かせることになりはしないだろうかとびくびくしているくせに、君に告げれば最後、この言葉が言霊のように君を縛るということを知っていて未来を語らずにはいられない俺はずるいかな。ずるいよな。
     ミオリネがその可愛い顔に今日いちばんの笑顔を浮かべたのを見届けて、俺はお皿に残ったタルトタタンのかけらをフォークですくった。
     噛み締めたりんごは、ほろ苦くて甘酸っぱい。君がいて、おいしいものを食べて、ああ、なんて幸せなのだろう。
     そして、ふと気づいた。俺がタルトタタンを好きなのは、君を想う気持ちに似ていることも理由のひとつなのかもしれない、と。
     みかんジュースを飲み終えたミオリネがくふんと鼻を鳴らす。
    「そういうあんたもご機嫌じゃない。いいことあったって顔をしてるわ」
    「それはね、君と一緒にいるからだよ」
     次の瞬間、ミオリネの今日いちばんの笑顔が更新された。
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