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    フクロウの巣

    ひぜさにやら右ひぜやらとりあえず好きなものを詰め込む。
    顔のある女審神者いるので要注意

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    フクロウの巣

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    真夏が過ぎてしまったため供養上げ

    膝枕はデフォルトじゃないんですか、そうですかガサゴソうるさい

    肥前忠広は耳の奥で鳴る音に顔を顰める。その瞬間パキッと書類に貼り付ける為のメモに書きつけていた鉛筆の芯が折れた。それと共に自分の心持ちもどこかで折れてしまったように感じて、ガリガリと後頭部を掻きながら項垂れる。
    もう数日この妙に気に触る音に気を取られ、ただでさえ暑さで削られる集中力が霧散する。うんざりする気持ちを深々とした溜息に乗せた。

    …数日前、まだ日が出て数刻も経たないのに風の恩恵も何もない広い畑はもう蒸し暑かった。
    今日中にはすっかり消費されてしまうであろう艶々としたナスやきゅうり、トマト、オクラなど夏野菜をカゴに入れては台車に積んでいく。食欲を刺激されるような光景も、いつもならまだ寝ているあるはずの時間帯と暑さの前には少し色褪せてしまう。
    「暑くなる前にやってしまった方が楽だし、野菜も美味しいよー。」
    そんな名誉永久畑当番(内番にあらず)の桑名江に昨夜早朝からの作業を強制的に約束させられた南泉一文字と共に、朝早くとも結局暑い最中しぶしぶ行っていた畑仕事は、厨に収穫物をすっかり運び込んでしまうと一旦終わり、と声かけられた。
    厨当番の刀から受け取った少し甘酸っぱい水の入ったグラスを煽り、額から首筋まで水を被せたように滴る汗を、首に掛けた手拭いでグイッと拭う。
    拭っても拭っても滴る汗に辟易としながら道具を片付けよう、と転がったままの籠に手を伸ばした瞬間ガサリと異音が響いた。
    「?」
    何か動物でもいただろうか?と振り返る。
    …たまに厨の匂いに釣られてやってくるかなり人馴れした半野生の動物がいたりする。大概、行儀良くしていればおこぼれに預かれることがわかっている為か厨の中に入らず、入り口で慎ましやかにおねだりの声をあげたり、出てきたモノの足元に擦り寄ったりしてくるのだ。
    しかも今は暑さにすっかりしょげている南泉一文字もいる。猫ほいほいなこの打刀がいるだけでも半野良な猫たちが寄ってくるだろう。
    しかし、振り向いても賑やかな厨の入り口とが見えるだけ。しかも異音気がついた様子もなく、朝食前の準備に追われている様子しか見えない。そしてその前にいる南泉も気づいた様子はない。
    …気のせいか?
    キョロリと切長な沈んだ赤があたりを見渡すが何事もない。
    …気のせいだな、と断じジリジリと陽に焼かれ始めた籠をとって踵を返した。その瞬間

    ガサゴソッ

    と、左耳の中で大きくかさついた音が響き思わず耳を抑える。驚いた瞬間に落とした籠の乾いた音に気がついたのか南泉一文字が怪訝そうな顔をして顔を覗き込んでくる。
    「なんだ、耳、どうにかしたのか…にゃ?」
    「いや、…なんか急に耳ん中で音が…」
    「音ぉ??」
    訝しげな南泉一文字がちょっと見せてみろ、と抑えていた手を外させてジロジロと左耳を見る。なんか入ったかぁ?と間伸びしたような声で呟き無遠慮に耳介を引っ張ったり折り畳んで耳の裏を見たりする。ゾワゾワとする嫌な感覚に手を払い除けたくなるが、中の音の原因も気になる。唇を噛みつつじっと動かないことに神経を注ぐ。
    「耳んとこに傷もねーし、中はわかりにくいけど、虫とか入った感じにはみえねー…にゃ」
    「そーかよ。…手間かけたな。」
    ゾワゾワとした嫌な感覚を消したくてゴシゴシと耳を擦り違和感を消す。そうすると、少し中の音も擦過の音に紛れて少し落ち着いたように感じる。
    「ま、あんま気になるようなら主に見てもらうんだ…にゃ?」


    …と、言われたもののガサゴソと動くと稀に鳴り出す耳の違和感を肥前は数日の間、何もできないでいた。いつも鳴っているならばいっそ慣れたであろう擦るような音は思わぬ時鳴る。どうにかしようと耳を擦ったり引っ掻いたりしてみるがなんの対処にもならず、次第に痒みさえ覚えるようになってきている。
    が、それだけなのだ。
    別に痛みがあるわけでもない、そして自分が気にしなければなんて事のない事なのだ。
    そもそも人の体は鋼の時とは違い始終どこか音が鳴っている。それは心臓であったり、筋肉が伸びる音であったり、飲み下した食べ物を消化していく音であったり。
    顕現したばかりの時もそれがいやに耳につき、止められないのかと、時の政府の人間に聞いたことがあったが、それは無理だと嘲にも似た苦笑いされたことがあった。
    …この本丸の審神者がそういった類を馬鹿にするような人間でないことは重々承知している。お気楽暢気が売りだよという割りに言葉がストレートで切り込んでくることもしばしばなことが多いこの本丸の審神者は、疑問に思うことを馬鹿にはしないし、疑問に思うことをむしろ推奨している。好奇心結構、疑問に思うなら聞くなり調べてみるなり実践してみるなり納得するまでして楽しめば暇なんてない、と笑うような審神者だ。
    …が、人の身であればあり得そうな多少の不便をわざわざ審神者に言う気にはなれなかった。審神者の好奇心に巻き込まれたくない、とも言う。


    が、あっさりと気がつかれるときは気がつかれてしまう時もある。
    「随分と集中力が散漫だけど、大丈夫かい?」
    溜め息が多いのは毎度のことだけどね、と続ける言葉はどこか軽口めいている。
    「遠くで爆発でも聞こえたかい?それとも木綿を裂くような悲鳴?」
    「爆発物は俺と陸奥がいない時には触らないと約束させたし、次したら全部捨てると誓わせた。悲鳴はそもそも絹だろ、そりゃ」
    「絹を裂くような悲鳴を出せる御仁がこの本丸に何人いるかねぇ…」
    君のとこの末っ子はなかなか好奇心が旺盛で何よりだねぇ、とわらいごとではない事を何事もないようにケラケラと笑い飛ばす。お気楽な審神者に思わず頭が痛くなるのを感じた。
    「…笑い事じゃないだろうがよ」
    南海太郎朝尊と驚きを愛する白い太刀がともに連隊戦で使う水鉄砲をもっと大容量にして圧を上げられないかと実験した挙句、火薬を用いた水大砲なるトンチキな物を試して、干していた洗濯物を硝煙の匂いたっぷりに水浸しにして、陸奥守吉行と洗濯物係がこっぴどく説教をしていたのはつい数日前のことだ。もちろん、肥前もきっちりと詰めさせてもらった。その結果が約束にも現れている。
    「誰も大怪我してないなら重畳重畳。ただの人の子ならかなり痛い目を見るかもしれないけど、君たちの頑丈さにはある程度信用はしているからね。…さて、そんな頼れるにいやんがため息をついている訳を教えてくれるかな?」



    きっとこのあと、マッサージチェアに座らせてスコープ付き耳かきを引っ張り出してくる物好き三十路審神者と、まだ惚れていないけど少し期待してしまった肥前。
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