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    じぇひ

    @Jjjjehi_51

    月鯉  いろいろかく

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    じぇひ

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    転生現パロ

    鯉月③ProloguePrologue
     月島の体温が段々と霧散していき、それでも、とこぼれ落ちる熱を拾うようにして抱きしめていれば部屋には日が差し込んですっかり夜は明けていた。手首にしっかり結ばれた組紐と日光に照らされた髪と目が全く同じ色だと言うことをこの男は気づいたのだろうか。

     それから月島の墓に寄る日々が晩年まで続く。己の足が言うことを聞かなくなっても。溝をなぞらなければ墓を認識できなくなっても。それでも毎日毎日手を合わせれば、ある日カンシロギクが供えられていた。どうして認識できたのか判らない。けれど、それは確かにカンシロギクであった。そこで私の意識は途切れた。

     初めて小遣いを貰った時、何故だろう。紫のミサンガを迷わず買っていた。
     
     あの時買ったミサンガはもう10年も経つと言うのに擦り切れる素振り見せなかった。ちゃちな作りに見えるのに、不思議なこともあるものだと視界に入るたび思うのだった。ビール缶とカップ酒ばかり詰まったゴミ袋を外に放り出して基の一日は始まる。
     思えば偶然に偶然が重なって紫のミサンガは自分の左手首についている。あれほどケチな親が小遣いをくれたのも、腹が減っていながら菓子パンではなくミサンガを選んだのも。何かとてつもない引力に引かれているのかもしれない。登校中、そんな空想も友人に話かけられたから中断させた。
     「おはよう基。」
     「ああ、おはよう鯉登。」
     糊の利いた真っ白なシャツに涼しげな髪、そのシャツに負けないくらい白い肌をした友人は平之丞といった。いかにも育ちの良さそうな彼とは真反対の境遇である自分だが、不思議と話が合う。小学生の頃からの付き合いだった。
     転校生として紹介された当時の平之丞はその外見の良さと珍しさから多くの注目を集めていた。けど小学生というのは異物に激しく反応を示すものだから聞きなれない方言を操る平之丞はいい意味でも悪い意味でもよく目立っていて、後から聞けば本人も居心地が悪かったと遠回しに言っている。自分はといえば幼い頃からの歪な家庭環境もあるのか、的事を俯瞰的に見れていたことと、仄かな懐かしさを覚えて接しているうちに同じ高校にまで進学するくらいには親しくなっていた。腐れ縁、とも言うのかもしれない。

     「そういえばもうすぐ弟が生まれるんだ。」
     ほら、と見せてきたのはエコー写真だった。どこが頭で足なのかわからないのにむぜおとっじょじゃろ?と嬉々として写真を突き出す。
     「生まれたら、基、弟に会ってくれないか?」
     咥えていたストローを落としそうになって掴もうとすれば椅子から転げ落ちそうになって、今パックジュースを握っていたら中身が噴き出ていたに違いない。
     「いいのか?」
     赤ん坊、というものに触れる機会がなかったから正直会ったとしてもどう反応すればいいのか分からなかった。
     「水臭いなあ。あてんむぜおとっじょを自慢しよごたっだけじゃっで、気軽に来てくれ。」 
     「鯉登はブラコンになりそうだな。」
     「こげんむぜとじゃっで仕方がなか。」
     「否定はしないんだな。」
     ここ数年の付き合いで平之丞の性格はなんとなく掴めてきたから、生まれた後を思うと凄まじい兄バカを発揮していそうなのがありありと浮かぶ。
     「いつ生まれるんだ?」
    「12月23日。会わせられる日が決まったら連絡するからよろしくな。」
     「あと半年か。楽しみにしておく。」
     そうか、と笑えばクラスメイトが息を呑むのがわかった。平之丞は自分の顔の良さを理解しきれてきない時がある。じゃあと自分の教室に戻っていく平之丞に手を振った。
     半年後か。案外近いな。無事に生まれるといい。
     なぜだかミサンガをさすっていた。

     「来世があるなら、またお前と共にいたい。」
     耳馴染みのいい声だった。来世、というのは突飛な話だ。
     「きっとお前は逃げるだろうから私の方から探しにいくぞ。覚悟しておくんだな。」
     にやりと笑う顔が美しい男だった。けれど、その瞳は悲哀の色を帯びていて、揺れていた。案外涙脆いのだ。どうしてか、左頬にある傷跡をなぞるように手を添える。自分は目の前の男の涙に弱いようで、胸が締め付けられる。
     そうして目を覚ました時、開きづらい瞼を擦れば自分が泣いていた事に気づいた。なぜなのか思い出せない。こういうことが、結構あった。

     珍しく、雪が降っていて、明日はホワイトクリスマスになるなと周りが浮き足立っている。祝日とはいえ大した予定がなかった自分は図書館で自習をしていた。平之丞の弟は無事に生まれたのだろうか。連絡が来ないことを思えばまだなのだろう。そろそろ閉館だと館内アナウンスが流れる。なんとなく気が散ってしまい思うように進まなかった課題を閉じた時だった。
     マナーモードにし忘れていたスマホが大きな音を鳴らした。平之丞からだ。周りの鋭い視線を背中に感じつつ急いで退館。人通りの少ない場所を見つけて電話に出ればビデオ通話だったようで今にも泣きそうな平之丞の顔が映る。
     「生まれた!」
     おお!と自然と声が漏れていた。よかった。無事に生まれたのか。
     「眉毛があてにそっくりでほんのこてむぜど。おとっじょは父似やった。今はっしゃくしゃな顔ももう少ししたやきっと凛々しかなっとじゃろうな。ああむぜねぇ。真っ赤な顔してよう泣いちょっ。元気な証だって皆んながゆちょった。足もよう動いちょっ。将来きっと健脚や。むぜねぇ。院内は電話禁止やったで見せれんのや。ごめんなあ。はよ基にも見せよごたっじゃ。ああでもあてんおとっじょじゃっでな。」
     じゃあなんでビデオ通話にしたんだよ、と内心ツッコミつつ。さすがに聞き慣れた平之丞の方言も、ここまで早口で言われたら聞き取れない。
     「落ち着け落ち着け、さすがにそこまで早口だとわからない。まあとりあえず可愛いってことはわかった。よかったな、おめでとう。おっかさんにもおめでとうございますと言っておいてくれ。」
     すまん、すまんと照れたように笑って、そうだよなあと頭をさすっている。
     
     あれからかなり高い頻度で男と話す夢を見た。場面や内容も様々で雪の中かと思えば木造建築だったりする。美しい男だ、という印象と左頬に走る傷跡は覚えているのにそれ以外はてんで思い出せなかった。そして困った事に夢の中の自分はその男に好意を抱いているらしい。実際目が覚めた後心が満たされている気がする。
     けど、いいことばかりがあるわけでなくて。翌朝自分が涙を流しているのに気づくのも珍しいことではなかった。最初は疲れているからだと考えないようにしていたけれど腫れぼったい瞼になっている時は決まって例の夢を見た後だった。夢と現実が混ざり合って、自分の中にもう一人誰かがいるような、そんな異物感と違和感があった。

     夢について頭を悩ませているうちに、平之丞の弟はすくすくと育っていたようだ。そろそろ会わせられるかもしれない、と予定を聞かれる。もうそんなに経ったのかといえば、おじいちゃんみたいな事を言うな、と笑われる。毎日弟の事を聞かされているので会わずとも成長具合を把握していた。こちらを見て笑ったんだ、とか私のことを目で追うようになってきた!だとか殆どが微笑ましい内容でいつしか学校に来て荷物を下ろした後平之丞の弟自慢を聞くのが日課になっていた。
     「明後日、空いてる?」
     「ああ、特に予定入れてない。」
     「よかった!うちに遊びに来ないか?」
     「音くんか?」
     「うん。やっとだな。近頃の音はすごいぞ!昨日なんて私の方を見てあ〜って言ったんだ。」
     お兄ちゃんって呼ばれた!と言っていたけどいや、気のせいだろと思ったのは心のうちにしまっておいた。そうか、そろそろ会えるのか。何かお土産でも持ってくべきなんだろうな。生まれたての赤ん坊って何あげればいいんだ……?など考えていれば始鐘がなった。


     「鯉登少尉、本日付で貴様の補佐官となる月島軍曹だ。何かと有能なやつだから、仲良くやるように。学ぶことも多くある筈だ。」
     そう色男に紹介されれば、眼前の"鯉登"と呼ばれた将校は頬を赤らめて返答する。凛々しい姿ばかり見ていたからなんだか可笑しかった。いや、昔は割とこうだったのかもしれない。
     はい。と声を張り上げて敬礼すればそれに伴って落ち着きを取り戻したのであろう夢の男がこちらを見直る。
     「鯉登音之進だ。宜しく頼む。」
     「え。」
     穿つような衝撃が頭の中を駆け抜けて暗転した。

     いやいや、まさかと今朝のいつにも増して奇妙な夢を反芻していればもう半分といったところまで進んでいた。平之丞はいかにもな高級住宅街のど真ん中にある。小学生の時に行ったきりだった為地図と睨み合いながら歩いていた。何せ景色が変わっていて記憶の中の物とは全く違うように感じるから凄い。毛並みの整ったでかい犬や綺麗に舗装された歩道を進む。
     
     インターホンを押せば凄い勢いで扉が開いた。挨拶も早々に切り上げられて家の中に押し込まれる。赤ん坊に会うのだから清潔にしないとな、洗面所を借りればぷつりとミサンガが切れた。同時に何かの合図だとでもいうように心臓が早鐘のよう激しく胸打つ。
     はやく、はやく会わなければ。どうして?わからない。そうだ。ずっと、ずっと逢いたかった。
     動揺した。いろんな感情が濁流のように流れてくる。ジャーッと流れる水の前でただただ茫然とするだけだ。
     迎えに行かなくてはいけなかった。
     大切な人だった。逢いに行くと約束した筈だ。夢の中の男の輪郭が鮮明になる。さらりとした手触りの紫紺の髪。凛々しい眉毛。ゆらゆらと燃えるように熱い目でこちらを覗き込む瞳。それから汗がよく似合う褐色の肌だとか子どもの様なあとげなさの中に見える大勇や光。そうだ、共に戦場も駆け抜けた。
     彼の名は、
    「音之進と言う名前だ。可愛いだろう?仲良くしてくれると嬉しいよ。」
     ああ、全部繋がった。やっと約束を果たすことができる。そう思うと熱いものが頬を伝った。平之丞が驚きティッシュを寄越すから何事かと顔に触れれば、確かに自分は泣いていた。
    百年、百年待っていてくれてありがとうございます。そう懺悔する様に膝をつけばきゃっきゃっと笑う。指を一つ伸ばせば、確かに握ってくれる。その悠久とも思えた年月振りの温もりをきっかけに止めどなく涙が流れた。既に切れたと言うのに手を伸ばしてミサンガを欲しがるからまだ小さい腕に、断りを入れて優しく結びつける。何て嬉しそうな顔するのだろう。
     「音之進さん……。」
     
     その後どうやって家を後にしたかわからない。平之丞や彼の両親には随分と心配をかけてしまった。明日、一番に謝ろう。来た道を戻り電車に乗って家へ帰っても全身を駆け巡る熱は冷めやらなかった。
     
     
     
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    zeana818

    MAIKINGベッターにも1、2、は公開してたんだけどこれは書き切りたいなあ〜って思って3まで書いた。リーマンの月とJK鯉ちゃんです。JK鯉はイキのいいセーラー服祓魔師で、押しかけ女房志望。※女体化注意
    剣の娘と月と猫 1 月島は、目の前で繰り広げられている光景を、頭の中で整理しようと四苦八苦していた。
     会社から帰るいつもの道である。月島のアパートは都内の勤め先から地下鉄で四十分ほど、駅から歩いて十五分ほどだ。抜群とは言えない立地だが、独りで暮らすには充分以上に広く安価なのが気に入っている。
     奨学金で大学に通い、中堅どころの商社になんとか就職して早や八年。帰宅は大概夜遅くて、人通りも少ない。途中のコンビニで夜食や酒のつまみを買い、それをぶら下げて歩いていると、ふらりと猫が目の前に現れる。
     右目が潰れた黒猫だ。
     いつも、何か分けてもらえないかと足元に絡みついてくる。月島が買うものは何しろ酒のつまみが主なもので、分けてあげられるような食べ物がない。弁当の白米を少しあげるくらいだ。かと言って、猫缶をわざわざ買ってやるのも気が引けていた。そんなものを買ってやったら、飼ってやらねばなるまい。月島のアパートはペット禁止であった。
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