蛇の目「ごめんなさい.....っ!こんな感じかな...?」
「いや、もっとちゃんと...土下座とかしないと駄目かも.....!!!」
ひとつまたいせきを後にし本部に戻ってきた私たちは、これからボスの部屋に任務報告をしに行くところだった。
が...任務は失敗した為、謝罪の練習をしているのである。
「どどどどうしよう........心臓バクバクだよ......絶対絶対怒られちゃうよ......っ!」
ポチエナをぎゅうっと抱きしめる。
自分も怖いだろうに...慰めるようにペロペロと頬を舐めてくれるのが救いだった。
「あんな小さい子供に負けるなんて...うぅ...何言われても文句言えないぜ.....」
そう、ポケモン博士と共にいた二人組の子供...に私達は呆気なく負けてしまった。
せきばんも入手できず、その上ポケモンに傷を負わせてノコノコと戻ってきたしたっぱなんて....考えれば考える程足が重くなっていった。ニャヘルトもポケモンバトルで負けた罪悪感があるのだろう。耳をヘタリと畳んでトボトボとした足取りだった。
「お腹痛くなってきた....」
「お、俺も....」
ボスの部屋に行くまでの道がこんなに苦痛に感じた事はない。
カチコチになりながらできるだけゆっくり...ゆっくり...廊下を歩く....。
「何してんの?変な歩き方して」
「「うわぁ?!?」」
ビクッと体を震わせ振り返ると、幹部の一人であるパームが立っていた。
上からキャップにブルゾン、短パンにスニーカー...いかにもトレーナーという姿で、頭には...そこが定位置なのだろう。エネコが乗っていた。
「パ、パ、パーム様.....」
「やだなー様付けなんて....。ボクより年上でしょ?いくつだっけ...」
「2人とも19...です...」
「ボク16だから、あんま気にしなくていいよ」
そう言って悠々とボスの部屋へ歩いてくパームに、私達もついてく形になった。
「それで何してたの?」
「ボ、ボスに謝りに行くんです......」
「俺たちそれで...謝る練習を.............」
「へぇ〜失敗しちゃった?任務」
パームは頭の上からエネコを下ろすと、胸の辺りで抱きしめる。ふわふわとしたエネコの体毛に頬擦りしながら、私達の話を聞いてくれた。正直...半分聞いてなかった気がするけど...それでもカチコールのように緊張した私達の体はほぐれていった。
「大丈夫大丈夫。ボス優しいから。ねーエネコ」
エニャ!とご機嫌なエネコを見ていると、なんだか大丈夫な気がしてくる。多分........。
「それに...ボスに用事あるんだよ。一緒についてってあげるから、早いとこ終わらせちゃいなよ」
「パ、パームくん......!」
た、頼もしすぎる....!自分より小さいこの男の子が、何だかキラキラと輝いて見えた。
流石幹部なだけはある....そう感心せずにはいられなかった。
「ボスー入るよー」
ノックもせずにボスの部屋に入る。
さ、流石........。
「し、しつれいしま....す.........」
肝を冷やしながらパームに続いて恐る恐る...部屋に入っていった。
ボスの部屋は黒と紫で統一された、いかにも上層部といった高級感のある部屋だった。
緩んだ体が一気に固まるのを感じる。
風格が違うのだ。
重みのある空気が流れる中、パームは自分の部屋かのようにズカズカと入っていく。
「なんかボスに謝りたいんだってー」
「.......私に?」
ゆったりとデスクから顔を上げたボスの、灰紫の瞳と目が合う。
その瞬間、“へびにらみ”をされまひ状態になったポケモンのように、体が固まってしまった。しかし何とか喋らなければと、脳を必死に回転させ、震える口で言葉を紡ぐ。
「あぁ、あの、ですね.......せきばんの件、なのですが........」
「お、俺たち....ひとつまたいせきの入口で待機してたんですが......」
「ポケモン博士と...二人のトレーナーが...おりまして..........私達......手に入れたものを渡しなさいって.....言ったんですが......」
「は、博士の提案でそのトレーナーとポケモンバトルになりまして.......」
「それで.....ですね.......つまり.....ですね.....」
しどろもどろになりながら必死に言葉を紡ぐ私達を、ボスはその蛇のような瞳でただじ....っと見つめるのみだった。
今は決して暑い時期でもないのに、手汗が止まらない。じわじわと追い詰められていくのを感じる。まさしく蛇に睨まれているようであった。
この人がボスなのだと、感じずにはいられなかった。
「ご、ご、ごめんなさい..........!うぅ.....私...負けちゃいました..............ッ!」
「お、俺もごめんなさい.....!!せきばん回収出来ませんでした........ッ!!」
ついに重圧に耐えきれず、2人してみっともなく頭を下げる。自分たちがやってしまったミスの重みを感じて半泣きになりながら頭を下げ続けた。
そうしているとカタリと椅子の音がして、ボスがこちらに近づいてくる。バクバクと心臓が鳴っていた。
怒られる、どうしよう、怒られる、どうしよう.........!!!
「....顔を上げなさい」
「へ......?」
優しい声色に意表を突かれる。
涙でぐしゃぐしゃに濡れた顔を上げると、ボスに見下ろされていた。
もう、蛇の目はしていなかった。穏やかで慈悲深い目だ。
ボスは怒るどころかするりと頬に手を添えてきて、あまりのことにドキドキと頭が混乱する。大きくて温かい、優しい手だった。
「よく頑張りましたね」
その言葉を聞いた瞬間、いよいよ涙が抑えられなくなった。
ボスは私達の頑張りを否定しないのだ。
失敗したのに、それすらも優しく包んでくれる。なんて温かい。なんて優しい。
この人の為に頑張ろうー...心の底からそう思えた。
「これからも...私の為に尽くしてくれますね?」
勿論だ。そう言うしかない。
私達はコクコクと肯定し、忠義を示した。
「ふふ....期待していますよ。では、任務に戻りなさい」
「「はい!」」
私達はペコリと頭を下げ、ボスの部屋を後にした。次はちゃんと任務を成功させよう。
ボスに喜んでもらう為にー....。
おまけのボスパム--------------------
したっぱ達が部屋から出ていったのをきっちり確認してからボスにぎゅうっと抱きつく。
「ねぇ!なんでボク以外を甘やかすのさ」
背伸びしてボスのほっぺたを軽くつねると、大きな手でやんわりと跳ね除けられる。
「癖なんですよ」
「癖で口説かれたらたまんないよ!!」
ボスってばいつもこうだ。ボクというものがありながら、そうやっていつも誰かを甘やかしてる。
「ふふ....」
ぷくっと膨れた頬を楽しそうにつついてくる。この人全然わかってないよ...。
「ちゅーしてくれなきゃヤダ」
「全く...仕方のない子ですね」
そう言いながらも、膝の上に乗せて甘やかしてくれる。ボクを一番大好きでいてくれなきゃヤなんだから...。
そうして満足するまで、ぎゅうっと抱きついていたのだった。