蒼真とシャノア「少し、考え事をしていました」
「どんな?」
「聞いていただけますか?」
「俺がわかることなら」
「私が生きた時代の、ドラキュラに関わる話です。生まれ変わりであるあなたの考えを聞けると助かります」
「……どうだろうな。とりあえずどうぞ」
「我が師…いえ、エクレシアの長バーロウは、私達の育ての親であり、ドラキュラの封印を掲げる組織の長でした。ですが、その実はドラキュラの狂信者だったのです。
彼はいつからそうなったのだろうと。
例え使い捨てだったとしても、私達に術や戦士として力の使い方を教えたのは紛れもない事実です。十分に強い力と信念を持っていた筈だった。
ドラキュラが復活すれば世は滅びます。
それがわかっていて、なぜ人は…闇の力を求めるのかと…」
「…わからないけど、そいつも、自分が死ぬつもりはなかったんじゃないか?」
「…も?」
「いや、俺の時も似たような奴がいた。
魔王を復活させるって言って、ドラキュラの生まれ変わりの俺を魔王にしようとしてて。
でもそいつ、世を滅ぼすつもりなんかなかった。神のために絶対の悪が必要だからって。
おかしいよな。魔王が…ドラキュラが復活したら、誰一人生かしておくつもりなんかなかったのに。
魔王候補者って奴らもいてさ。魔王になりたいって言うんだぜ。ドラキュラの力を受け継いだとか取り込もうとかしてくるんだけど、それが自分に牙を向くなんて、ギリギリまで考えてないんだ。
人の事情なんて、ドラキュラには微塵も関係ないのにな」
「………あなたの言葉はドラキュラの意志と理解してよいのですか?」
「いや、俺も…『魔王化した』俺に会って、いや、会うって表現があってるかわからないけど感じたんだ。
ドラキュラの魔力は混沌──憎しみや怒りの感情と、普通の方法じゃ切り離せない。
ドラキュラ自身のことは俺は知らないけど、邪悪な意思ってやつがどれほど巨大なものか少しは知ってる。ドラキュラですらそれに同化させられてるんだって。
じゃあ、ドラキュラの意思ってなんなんだろうな?
ドラキュラはただ、人の悪意に呼応しているだけなのかもしれないって、少しだけ思う」
「…やはり人が愚かなのでしょうか。
蒼真、あなたは、バーロウは死ぬつもりがなかったのではないかと考えました。ですが、彼は、自分の死をも厭わなかった。最期は自らを贄にして、悪魔城を復活させたのです」
「……わからない、って、言いたいところだけど。
俺だって憎しみに飲まれそうになったことがある。何の罪もない幼馴染が目の前で殺されたと思って…その時は、仇をうてるなら魔王にだってなってやるって思った。
…それは、力のためにドラキュラを求める奴らと何も変わらないのにな」
「どうやって乗り越えたのですか?」
「偶然だった。殺されたと思ったのが偽物だったんだ。仲間…有角なんだけど、魔王の力を受け入れる直前に駆け付けて、俺を止めてくれたんだ。
だからさ、俺が信じてるのは、有角だけじゃなく俺を守ろうとしてくれた人がたくさんいたことだ。破滅を求める人間がいたとしても、守ろうとする人がいる。
だから俺の力も、皆を守るために使いたい。ドラキュラの──闇の力でも、大切なのは使い方だって、それも教えてくれた仲間がいたから」
「……そうですね。私にも、私を守るために力を尽くしてくれた人がいました。寄る辺である組織も、記憶も感情も失い、何もなくなったはずの私の全てを取り戻してくれた、魂すら捧げて守り通してくれた人が」
「……なんか、すごい話だな」
「──ええ。どう説明してよいか分かりませんが、事実を並べるとそうなります。
私はその人を守ることはできなかった──だから今は、守り通したいと願っています」
「今は?」
「はい。アルバスのことです。二度と会えないと思っていたのですが…事実は小説より奇なりということでしょうか」
「ああまあ…それを言うと、俺たちがこうしてここにいることがもう、事実なんだけどありえないことだよな」
「はい。感謝しています」
「そうだな。運命ってやつは、恨みたいけど感謝もしたい。不思議なもんだよな」
「本当にそう思います」
「ああ、なんかごめん…あんた、俺より年上だよな?なんか喋りやすくてつい馴れ馴れしくした」
「…喋りやすい、ですか。初めて言われたと思います」
「そうかな。似たような奴を知ってるからかも」
「そうですか」
「まあいいや。じゃあまたあとで」
「はい。それではまた」