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    ichiya_0825

    @ichiya_0825

    五夏を書いたりしています。

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    あした世界が終わってもいいよ 9/俳優五×戦場カメラマン夏のパロ五夏です

    あした世界が終わってもいいよ 9 無情にも、朝は来る。ベッドから起き上がってひとりでリビングに立つと、どうしようもなく寂しさが込み上げてくる。ここに、夏油はもういない。だからといって撮影が終わるわけもなく、五条はこのままアパートにいるわけにもいかないので、上機嫌なふりをして、ひとりで観光することにした。五条ひとりになったから撮れ高がなくなったと言われるなど、冗談じゃない。仕事はきっちりと完遂しなくてはいけない。でも、とても料理もする気になれないから、朝食は外食にした。こじんまりとしたカフェを見つけて、甘いパンとコーヒーを貰う。
    「やっぱり、ひとりだとつまらないですね」
     カメラにそんなことを話しながら、朝食を摂った。美味しいのは間違いないのだが、なんだか口の中がぼそぼそする。たぶん、ひとりで食べているからだ。こんなことを思うようになるなんて、不思議な話だった。
     ずっと、ひとりで生きていくのだと思っていた。それを寂しいとも思ったことはないし、それでいいと思っていた。それなのに、こんなにも夏油が恋しい。昨夜別れたばかりだというのに、もうこんなにも想いが募っている。
     そこからどうにか気を逸らすように、五条は旧市街を練り歩いた。途中で見かけた店で、ジェラードを買ったりもした。グァバ味のそれはとても美味しかったが、思ったのは夏油にも食べさせたいな、ということだった。どれも、夏油と一緒がいい。自然とそう思うようになっている。
    「カメラさんも食べません?」
     五条はグァバとティラミスのコンボにしたので、カメラマンにはココナッツ・チョコチップと練乳ミルクのコンボにした。他のスタッフにも同じようにジェラードを購入して、ちょっと撮影を休憩とすることにする。
    「日本で食べるより美味しくないですか?」
    「確かに」
     外国という高揚感もあるのだろうが、たぶん素材が新鮮だからだろう。スタッフ全員で舌鼓を打って、士気を高揚させてからまた撮影を再開する。
     旧市街で、後輩や友人への土産物を購入しようとまたふらりふらりと歩き回り、土産を選んだ。別にいらないと言われるだろうが、関係ない。数少ない友人たちだし、帰国したら会う機会もあるだろう。日持ちのしないお菓子は避けて、ラム酒や葉巻、蜂蜜なんかを買う。友人の一人は愛煙家でかつ酒飲みなので、葉巻もラム酒も嫌がらないはずだ。蜂蜜もキューバの土産としてはポピュラーらしく、いろんな種類があったが、アピスンという会社のものを選んだ。
     そうこうするうちに昼食時になったので、どこにしようかな、と考えながら旧市街をぶらつくと、プラド通りのあたりにいい匂いが漂っていた。炭火焼きの店らしい。店に入り、撮影の許可を取ると、メニューを眺める。ここもやはりスペイン語のメニューしかないので、店員に片言のスペイン語で人気メニューを聞いた。豚、鶏、ロブスターなどを盛り合わせたミックスグリルとピッツァが看板メニューだというので、ミックスグリルを頼み、ついでにこれも看板だというレモネードなんかを頼む。メインの料理には主食となるコングリとサラダもついてくるようだったので、ひとりということを考えるとそれくらいに抑えておいた。
     物撮りを終えてから、まずはロブスターに大きく噛みつくと、じゅわりと海産のしっかりした味が広がる。豚も鶏も、どちらもジューシーで美味しかった。夏油がいるうちに来られれば良かった。肉も柔らかくて、たぶん夏油も好きな味だ。
    「傑もいたら良かったのにな~。そしたらピッツァも食べられたのに」
     あくまで食い意地で、食べる人手として欲しかったという風を装って、愚痴を零す。ほんとうは料理なんて関係なく夏油と一緒にいたかったが、それをここで吐露するわけにもいかない。
     しっかりと腹を満たしたところで、旧市街はあらかた回った気がするので、今度は新市街方面に行ってみることにした。途中、シガーバーを見つけたので、一服することにする。酒が飲めればもっとバーなんかも楽しめただろうが、さすがにひとりでふらふらになるのはスタッフも困ってしまうだろう。店の中は冷房が効いているわけではなかったが、扇風機を豪快に回してくれていたので不快感はない。カウンターに腰掛け、シガーを売って貰う。音楽を聴きながらゆっくりと葉巻を燻らすと、昨日のベランダでのことがまざまざと思い出された。
     また、夏油とあんな時間を過ごしたい。別に葉巻は好きでも嫌いでもないが、夏油と一緒なら話は別だ。酒だって飲んでもいい。そうなると、夏油に面倒を見て貰うことが前提にはなるけれど。
     新市街まで来たついでに、革命広場も見に行った。キューバ革命の英雄であるチェ・ゲバラの巨大な壁のモニュメントで有名な新市街の中心にある広場だ。さすがにメインの観光地だけあって、観光客が多い。はしゃいだ様子の人間が多く、中には日本人もいる。五条は気付かれる前にサングラスをかけて、モニュメントを見上げた。
     明日は帰国だ。キューバの大地とも海とも、今日でお別れになる。明日は、多分朝から空港に行くだけで終わるだろう。最後にあの夕陽がもう一度見たいと思って、城塞群に足を向ける。
     夕陽に照らされた海は、変わらず美しかった。きっと、毎日見たって飽きない。出来ることなら、また夏油と見に来たい。この海だけじゃない。もっといろんなものを夏油と一緒に見たいと思った。
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