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    amamatsu_lar

    @amamatsu_lar
    進撃の巨人の二次創作をまとめています。落書き多め&ジャンばっかり。
    ※二次創作に関しては、万が一公式からの要請などがあれば直ちに削除します。

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    amamatsu_lar

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    以前書いたssです。現代に転生した記憶持ちのジャンとマルコが、みんなが死ぬ未来を回避しようとする話。
     最終回と矛盾している&突っ込みどころ満載なので没の予定だったのですが、ここなら良いかなと思って公開することにしました。供養させてくださいorz
     なんでも許せる方向け、かな。字数の都合で前半のみです。
    ……………………

     記憶のふたが開いたのは、偶然のことだった。
     転がっていった野球ボールを追いかけて道路に飛び出し、車にはねられた時。
     生死の境をさまよいながら、長い幻覚を見たのだ。

     幻覚の世界は、まるでファンタジー漫画のようだった。俺たちが暮らす場所は三重の壁に囲まれており、その外側では恐ろしい巨人が跋扈している。
     その世界の俺は、今の俺と同じように母ちゃんの作るオムレツが好きだった。

     ある日、一番外側の壁が壊されて、大勢の人が死んだ。
     俺は内地で安全に暮らす権利を得るために、訓練兵団に入った。
     俺には好きな子がいて、大っ嫌いな野郎がいて、大切な親友がいた。

     ここまでは、幸せだった。
     巨人はおっかねぇが、少なくとも俺の人生には関係がない。俺は順調に成績を上げて、憲兵団行の切符を手に入れた。

     それなのに。
     たくさんの仲間が死んだ。
     俺はなぜだが調査兵団に入って、巨人どもと戦った。
     巨人だけじゃねえ。
     大勢の人を殺した。
     当初は想像もつかなかったような世界の真実に触れ、決して取り去れないほど重い、憎悪を知った。

     最期に大きな光るムカデのようなものからガスが噴射される中で、この長い幻覚が終わった。



    「良かった、目を覚ましたんだね」
     俺は病院のベッドに寝ていて、母ちゃんが泣きながら誰かの名前を呼んだ。
     誰かの――いや、俺の名前だ。
     今の俺は、ジャン・キルシュタインじゃねえ。
     ここは戦争も起きていない安全な国で、俺はただの小学生だった。

     妙な夢を見た。と、それだけで済ますことはできなかった。
     それほどまでにあの幻覚はリアルで、恐ろしい。
     その後もたびたび、同じ夢を見た。
     同じと言っても、あれだけの長い夢を何度も見るわけじゃねえ。
     部分部分が切り取られて、フラッシュバックする。
     親友の死体を見つけた時。
     調査兵団に入ると決めた時。
     目の前で、仲間が敵を撃ち殺した時。
     自分が、初めて手を汚した時。
     なぜだか嫌な記憶ばかりで、楽しかったはずの記憶――例えば、好きな子と話ができたとか――は、ごくまれにしか蘇らない。

     これはきっと、かつての俺なんだろう。前世と言ってもいいかもしれない。
     そう気づいたのは、小学校の高学年に上がった時だ。
     この頃には俺は、「小学生にしては落ち着きすぎている」と、良くも悪くも評判だった。

     そして薄気味悪いことに、今の俺の生活と過去の俺の生活はリンクしているらしい。
     例えば、うっかり階段から落ちて大けがをしたとする。その時には気づいていないが、後になってから、そういえば同じくらいの年齢の時に、前世の俺も階段から落ちて怪我をしていたなと気づくわけだ。
     つまり、今の俺は、この現代社会で、前世の俺の人生をそのままなぞっているようなのだ。近所のガキどもも、たいして話したことがあるわけじゃねえが、トロスト区にいた奴らと似ているような気がする。

     仮説にすぎなかったこの考えは、中学に上がった時、確信に変わった。
     入学式当日のこと。
     同じクラスには、かつての仲間たちがいた。正確に言うと、かつての仲間と瓜二つの連中が。
     長い黒髪が綺麗なのはミカサで、その隣にいる短気そうな男がエレン。
     近くには、女みてぇな顔のアルミンもいる。
     三人とも、子供だ。もちろん俺もなんだが、純粋そうな笑顔を見ただけで、何とも言えねえ気持ち悪い気分になる。
     奴らだけじゃなかった。
     ミーナ、トーマス、サムエル、ダズ……
     それに、ライナーとアニ、ベルトルト。
     104期訓練兵団の全員が、ここにいた。
     ぐるりと顔を回し、一人一人確認していく。
     生きている。みんな。
     前世のことなんて忘れちまったみたいに、へらへらと笑っていた。……文句なんかねえよ? 俺だって、へらへら笑ってる。

     こうなったら気になるのは、アイツのことだ。
     アイツ――俺の親友は、どこにいるだろう。
     一番会いたかった相手を探す。
     かつての俺の胸に、死ぬまでずっと残り続けていた男を。

    「……ジャン、だよね」

     その時、肩を叩かれた。
     振り返ると、今しがた思い浮かべていた男がいる。短い黒髪と、頬に飛び散ったそばかす。

    「……マルコ」

     その名前を呼んだ途端、今までそんな気配すらなかったはずの涙がぐっとこぼれそうになった。急いで力を入れて誤魔化す。それでも目頭が熱くなるのは止められず、涙の代わりに鼻水が出そうになった。

    「ジャン、良かった。お前も、記憶持ちなんだね」

     ださい面を晒している俺の前で、マルコもまた泣きそうな顔になって、そう言った。
     そうだ。ジャンってのは、俺の過去の名前だ。それを知ってるってことは、こいつも過去の記憶を持ってるってことで……

    「ずっと、会いたかった」

     俺の口から素直な言葉がこぼれた。

    「うん、僕もだ」

     マルコが頷く。
     俺は、塩っぽい息を吸った。

    「頑張ったんだ、俺。お前の、おかげで……俺……」

     だめだ、限界だ。瞼を閉じると、思いのほか大きな水の粒が、頬を伝った。

    「知ってるよ。全部、見てたもの」

     答えてから、マルコが真剣な表情になって言う。

    「式が終わったら話がしたいんだ。時間あるかな?」



     放課後、ファストフード店に入って、ゆっくりと話をした。かつての俺たちが、話せずに終わってしまったことを。

    「ごめんな。僕が、先に死んでしまって」

     マルコはしんみりとした表情でそう言うが、ライナーたちのことは恨んでいないらしい。

    「完全に恨んでないって言ったら、それは嘘になるかもしれない。だけど、あの時のライナーたちにはああするしかなかった……そう思うから」

    「そうか」

     ライナーを殴った時のことを思い出し、少し俯く。俺の様子を見て、マルコが頬を緩めた。

    「ありがとう。僕のために怒ってくれて」

     マルコのため?
     あの時怒ったのが誰のためだったかなんて、正直分からない。あの一瞬だけはどうしようもなく頭に血が上って、何も考えられなかった。
     溜息をついた俺に、マルコが言う。

    「本当に謝らなきゃいけないのは僕の方なんだよ。僕のせいでお前には、しなくてもいいような辛い思いをたくさんさせてしまった」

     お前は自分で選んだことだって言うかもしれないけどさ、と続けて、

    「それでも、俺の言葉がお前を縛ってしまった。それは、間違いないから」

     そんなことねえ。
     否定してやりたかったが、なんとなくそれを望まれてはいない気がした。
     代わりに、手つかずだったハンバーガーにかぶりつく。

    「湿っぽい話は終わりだ。俺たちは今、生きてる。それでいいだろ?」

    「ああ、そうだね」

     マルコも控えめにジュースを飲み、笑った。
     それから声のトーンを落として言う。

    「ところで、前世の僕たちと今の僕たちがリンクしてるってことには、気づいてるか?」

     切迫したような声の調子に、どくんと心臓が跳ねあがった。

    「なんだよ、急に」

     俺はマルコの顔を見つめ返す。

    「まあ、実際そうなってるっぽいけどな。今日もアイツら、いたし」

    「そうだ。だから何が言いたいかって言うと」

     マルコが小さく息を吸って、言った。

    「このままだと、またみんなが死ぬ」

     ンな大げさな。と、笑い飛ばすことはできなかった。
     ここには巨人なんていねぇし、戦争もしていない。俺たちは兵士でもなんでもないただの中学生で、だいたいが健康そのものだ。
     だが、あの世界の地獄を知っていると、俺たちが死ぬはずないとは言えなかった。
     実を言うと俺だって、同じ懸念を抱いていたのだ。

    「みんなを助けよう。僕たち二人で」

     マルコに言われ、俺は了承した。



     以来、例の夢を見た時には、なるべく具体的に時間や状況を記録するように努めた。
    死ぬ時期が同じなら、その日付まで正確に特定できれば、そいつが死ぬのを防げる……かもしれねえ。
     二人で協力して調べていくと、数か月でおおよその年表が出来上がった。
     誰がどこで死んだ、という不吉な文字のオンパレードだ。
     よくよく考えてみれば、数年前に震災で大勢の人が亡くなった。あれは、超大型巨人による壁の破壊とリンクしていたんじゃねえだろうか。
     とすると、トロスト区奪還作戦の時にもまた……
     嫌な予感が頭をよぎる。
     ぶるんと首を振った俺に、マルコが言った。

    「近々、最初の事故が起きるよ」

     一週間後の今日、訓練中の事故で仲間が一人死ぬのだ。たいして仲が良かったわけでもないが、知っている以上は見過ごせないというのがマルコの弁だ。

    「……だが、本当にこんなことしていいのか?」

     俺は躊躇いながら、疑念を口にした。

    「どういうこと?」

     怪訝な顔のマルコ。

    「いや……そりゃあ」

     俺は、顔をしかめて答える。

    「最初の事故っつったって、そりゃ俺らが認識できた中での最初ってことだろ? 見落としてた奴がいるかもしれねぇし、そもそも何人もの人が毎日死んでるんだ、この世界でだって」

     ぐっと眉根を寄せた。

    「……つまり、僕たちがやろうとしてることは単なるエゴじゃないかって言いたいんだね?」

     確認するように、マルコが言う。自分の考えを否定されて怒っているという感じではない。そうだ、こいつはいつもそうだった。真剣に、丁寧に、俺の話を聞いてくれる。

    「ああ」

     かつての俺はそれに甘えて、いつも剝き出しの感情をぶつけてしまっていた。
     今の俺は、どうだろうか。

    「でも、助けられる命は助けよう。僕たちにできる範囲でいい。何もやらないよりかは、ずっと良いはずさ」

     渋い顔の俺に向かって、マルコが微笑みかける。

    「お前だって、本当はそう思ってるんだろ? でも、一度はこうして違う視点を入れておかないと、僕がいつか後悔するかもしれない。それを、心配してくれてるんだよな?」

     見透かされたような言葉に、思わず顔が赤くなった。

    「分かってんなら別にいいんだよ。そんな、恥ずかしい言い方すんな」

     今も昔も、マルコは直球で俺のことを褒める。普通のやつからしたらそれがどんなに照れくさいことかも知らねぇで。
     好きだな、と思った。
     友達として。たった一人の親友として、こいつのことが好きだ。
     なんとしてでも、こいつだけは助けたい。
     実を言うと、本当に心配しているのは、さきほど口にしたようなことではなかった。
     誰かを助けるたびに、少しずつ未来が変わってしまうかもしれない。
    それが、怖いのだ。
     今のこの世界が、かつてのあの世界の歴史をなぞっているんだとしても、完全に同じというわけにはいかねえはずだ。
     些細な変化が積み重なれば、世界は全く異なる様相を呈する。
     もしかしたらその結果が、俺たちの家庭環境の違いや、ちょっとした嗜好の違いにも表れているのかもしれない。
     そんな世界で、もしも、誰かの命を助けてしまったら。
     未来は、大きく変わるだろう。かつての記憶だけでは対処しきれないほどに。
     それでみんなが死ななくなるなら、別にいい。それに越したことはねぇ。
     だが、そうならなかったとしたらどうだ。
     もしも誰かを助けたせいで、今度はマルコだけが死んじまうなんてことになったら、俺はどうしたらいい?
     なるべくなら、未来を変えたくなかった。
     マルコ以外の奴らを見殺しにしてでも、マルコのことだけは確実に助けたい。
     ただ同時に、そんなことが許されるとも思えなかった。
     かつての俺がマルコの言葉に縋っていたように、今の俺も結局は同じだ。
     今何をするべきかが、分かってしまう。俺の、やるべきことが。
     鬱屈した気持ちを断ち切って、強気な笑顔を作る。

    「ヒーローになれるな、俺たち」

     俺はもう、剥き出しのまんまぶつかるガキじゃねえ。もう、お前に甘えっぱなしではいられねぇから。

    「ああ、間違いない」

     ほっとしたように笑うマルコに、心の中で呼びかける。

     ――知ってるか? 俺、お前よりもだいぶ年上になっちまったんだぜ。

     今は同い年でいつも傍にいるというのに、一抹の寂しさが残った。
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