愛を贈るここには昔、小さな薔薇園があった。
ただ、棘があって危ないからという理由でいつしか撤去されていた。そのことをすっかり忘れていた源清麿は寒空の下、病棟を出てすぐの庭に立っていた。
「ないものは仕方ないか……」
冷たい風が体に当たり、清麿はぶるりと体を震わせた。
「清麿」
「え?」
背後から声が聞こえたと同時に厚手の黒いチェスターコートを肩にかけられて紫色のマフラーを巻かれた。
「風邪引いちゃうよ? 受験生なんだし拗れたら大変だし。上着、大きいかもしれないけど着てて」
「いや。ちょうどいいサイズだよ。袖も余らないし」
コートに清麿は袖を通して水心子に見せた。出会った頃は主治医より小さかったのに今では水心子と同じくらいの身長に成長している。今では清麿の方が少し大きいかもしれない。
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