道端に生えた屈強な雑草を踏み荒らしては、恐らく降り曲がったであろう葉を、振り向くことなく想像で見る。
波の音が遠くの遠く、聞こえないとこかから耳に届くのをなんとなくと感じていた。視線の先に浜辺が見える。
「ライ」
お目付け役が呆れた声を出す。やっと俺は後ろを見て、見えない彼の瞳の奥をじっと見つめながら、細かい砂のつぶに足を入れ込んだ。
曖昧になった地平線から、船のあかりがチラチラと見え隠れする。きっとその辺が境界線なんだろう。
「いいだろ」
「良くねえよ」
ポツポツと立てられた、心もとない街灯に照らされた背の高いシルエットが、何かしらの効果音がつきそうなほどの勢いで座った。親父ならどういうだろう。いいことだと笑い飛ばすか、厳しく躾けるか。
「何見てんだ。」
「すげー暗いのに見てんのわかるんだ」
「それくらいわかるよ。」
目元に手を伸ばしている。大方サングラスを外したんだろう。
強い潮風が瞬きの間に通り過ぎていく。
その方向へ目を向ける。
コップいっぱいに珈琲を注いだような海が、時折光を放って、梳いた蒼を覗かせている。蒼から発せられる咆哮とも似た呑みこむ音だけが圧倒的な存在感を放っていた。
ただ一点を見ても飽くことはない光景に沈んでいく。
進んで、足元に冷たい感触があるのに気づいた。
波打ち際まで来たらしい
「コラ」
確かに俺の手首を掴んで引き戻される。足が後ろへもつれて、大きな胴体が背中を受け止める。
「いつの間に」
小さい声は波に喰われた。