夜の悩みを健に持ちかける千百合「でさあ、お前ら毎晩何ラウンドくらい繰り広げてるわけ?」
健の問いに、意味を図りかねた千百合が首を傾げる。
「ラウンドって?」
「遠回しに聞いてやる俺の優しさを無駄にすんな。深夜の組んずほぐれつ何回戦かって話だわ」
しばらく視線をさまよわせていた千百合が、唐突に意味をその理解し、たちまち茹でダコのように顔を紅潮させた。
「ちょっ……、聞く?! そゆこと聞く?! てか聞き方!!」
だーってよぉ、と半ば呆れ顔の健が親指で指し示す先には、昼休憩と称してデスクに突っ伏したまま眠る亜己の姿がある。
「お前ら二人が同棲始めてから、ずっとあの調子じゃねえか」
「あ、あ、あたしのせい?!」
「それ以外考えられねえだろ。なあ、お前アイツにどんな無茶させてんだよ?」
興味津々といった意地の悪い笑顔を浮かべ、マジマジと千百合を覗き込む。耳まで赤くなった千百合は目を合わすまいとしつつ、ぼそりを言い訳を一言。
「……だって亜己ちゃん優しいんだもん」
「あ?」
「あたしがまだって言ったら、続けてくれるんだもん」
「……」
健は表情そのままに硬直する。
「そりゃさ、亜己ちゃんの体力がキツいのはあたしだってわかってるよ。
昨日なんてさ! あたし『もういいよ』って言ったんだよ!? でも遠慮してもすぐバレちゃうんだもん! 『ちぃが満足するまでやめない』って、結局三回でも終わんなくて……」
「ストップ、ストップ、そこまで、はいそこまで」
思わずヒートアップして声まで大きくなりかけた千百合を、健が両手で制する。
「うん、なんだろ、俺あんま聞きたくないわ」
「アンタが聞かせろって言ったんじゃん!」
「そうだけどそうじゃねえんだよなあぁ」
「ってか、聞いてよー! 他に話せる人いないんだからさあ!」
「うん、他あたろう? もっと無難な人選にしようぜ? 俺地味に苦痛だわ。想像したくない」
「んなこと言わないでよおぉ〜! だってさー、亜己ちゃん一回めにすごく時間かけるから、あたしだってテンションMAXまで持ってかれちゃって」
「あーーあーーキコエナイキコエナイ」
「ちょ、ずるいケン! 聞け! 同僚の悩み相談くらい乗んなさい!」
「仕事の相談ならな! そっち方面は却下!」
「あ、ホラ聞いてんじゃん聞こえてんじゃん。でね、寝不足にならないよう時間決めよって言ったのにさ、」
「おま、セクハラで訴えるぞ! てかお前はなんでそんな元気なわけ!?」
ちなみにこの時点で二人の会話はそこそこの声量になっており、周りの署員たちに筒抜けなのはもちろん、昼寝していると思われた亜己が起きるに起きられなくなっていることには、まだ誰も気づいていないのであった。