Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    マンドラゴラ島田

    @Raco0Afte55

    ぐだンド研究者です。よろしくお願いいたします。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 4

    ンドの父神が召喚されて最終的に強制退去まで行ったえぐい一悶着の話。
    (ぐだ♂︎ンド。番号振った短い章段の集積、という変な書き方です。)

    #ぐだンド

    仮題『神は育てられないのか?』
    インドラの父神は諸説あるけど今回は神話の陰に忘れられた古き雷霆神・ディヤウスで行く
    名前から察せられる通りゼウスと同根の神の一柱。
    簡単に経緯を説明すると、母神プリディヴィーがその力の強大さや神々からの嫉妬を恐れて産まれたばかりのインドラを育児放棄。
    父神ディヤウスは大成すると預言までされて生まれた息子を徹底的に嫌って敵対。最終的にインドラに地位を奪われ、力を失った末に一悶着あって殺された。詳細は妄想補完してるのでそこは注意。
    あとインドラに普通に生理が来るのと、結構精神的に変容してる。



    インドの古い文明が根付く土地で聖杯を持って暴れてる悪性存在が見つかったため、レイシフトを敢行して解決に向かったカルデア一行。
    適性を認められたのは、もちろん地縁の色濃いインドの英霊たち。その中にはインドラもおり、地元補正たっぷりの信仰を力として八面六臂の活躍を見せ、予定よりも遥かにスムーズな解決へと至った。
    藤丸もここ最近のインドラが前線に出るのも楽しそうにしていたのを見て、厳しい戦いの最中にも微笑ましさを覚えていた。


    その途上、現地で縁があったとある古い英雄の一人。彼自身は英雄って自覚もあんま無かったし、知名度も能力も高くないからそちらで世話になるのは難しいかもな、と言っていたが、カルデア帰還後の何度目かの召喚の儀式でランサーとして思わぬ再会を果たした。
    藤丸やマシュとの記憶もある程度保持していたようで「うそー、また会えるなんてー!」とちょっとした同窓会ムードに。
    本人の気さくな性格やゆったりとした飾らない態度のおかげで早々にサーヴァント達とも仲良くなり、これはまたいい縁に恵まれたね?とダ・ヴィンチちゃんからも背中を叩かれた。


    最初の違和感が発露したのは召喚から一週間ほど経った頃。以前例のインド特異点で共闘してくれたサーヴァント数名が何かそわそわしている。ラーマに話を聞くと、
    「ああ、気になったんだが……あのランサーには、神々と関わった逸話はあるのか?」
    なにぶんほとんど情報や伝承のないマイナーな英霊なので、図書館でマシュと文献を漁っても決定的な情報は見つからなかった。しかし、少なくとも調べた限りでは神との関係を示すものは見付からず。
    ラーマが言っていた「天の属性、そこはかとない神性を感じる」という指摘も、現状では謎のままだった。


    機を見計らって本人に聞いてみた。
    「まあ何だかんだ色々な奴と戦ったり飯食ったりしたけど、オイラ的にはピンと来んなあ。まあうちの地元の神さん活発な方が多いからよ〜、どっかでこっそり見に来てたんじゃねえかい?」
    ……との事で、つまり彼自身にも明確な理由が分からないらしい。
    ランサー自身も天の神々との関わりがあるタイプとは思えなかったし、ちょっと気になるな……と思いつつ、ダ・ヴィンチちゃんにレポートへの追記という形で報告しておいた。要観察かも、という記載を添えて。


    件のランサーが召喚されて以来、インドラは何か変だ、と感じていた。
    カルデアの戦力も自身の神力も充実し続けていると言うのに、何か落ち着かない。同郷の英雄が増えたとはいえここまで心境が変化することなどあるのだろうか。そこはかとない胸騒ぎを覚えつつ、今夜も宴だと機嫌を持ち直し、ヴァジュラと共に廊下を歩む。
    と、そこにランサーが曲がり角を抜けてふらりと現れた。
    「……彼奴、丁度良い所に」
    明確な理由も分からないのに心がざわざわし続けるコンディションは神々の王としても相応しくない。業腹だが致し方なし、一つこのインドラが直接やり取りをして原因を暴いてやろうではないか。
    しかし「おい、其処の……」と話しかけた次の瞬間、神の尊大な冒険心は凍りついて吹き飛んだ。

    「……クククク。フハハハ。
    久々だな。随分大きくなった事だ、インドラ」


    黒髪だったはずのランサーの頭は自分と同じ白髪に。茶色かったはずの瞳は内側から発光するような青色に。口の中までほのかに光を帯び、そして何より、本来の朗らかな面影など消え失せた、怒りと嘲りに溢れたその表情。
    「………………、父、上?」
    「ハハハハハハハ!忘れて居らんようで何よりだ!
    聖杯とやらをチラつかせ、カルデアの者共を誘き寄せた甲斐があったというものよ。僅かな力しか残っておらなんだが、もう心配は要らぬ。
    こうして再び縁を引き込む事が出来たのだからな!
    忌々しき我が息子よ、壮健か?」
    その男は雷霆神・ディヤウスだった。


    「あっ」
    直後インドラの脳内で記憶が暴れる。幼少期の"思い出"の数々が墓の下からいっぺんに蘇る。
    暴力暴言監禁放置約束破りに人格否定。
    おまけに両性具有だった彼は、子供の体で何度も強姦された末に未熟な赤ん坊を無理やり産まされた事も思い出した。何人も、何体も。
    知らない大人の神々に笑われながら腹を蹴られて、刃物で胎児の破片を引きずり出された事もあった。
    「あ、あっ」
    「育ててやった恩を忘れて、よくも俺を殺してくれたよなあ!ええ?!」
    確かにインドラは父を殺した。しかし、そのきっかけも。
    宝物庫の大量の神酒に手をつけたのだって、空腹で空腹で気が狂いそうだったからだ。いっそ天上の酒を飲み干して強くなれば、これ以上虐められなくなると思ったからだ。


    今のインドラは強かった。サーヴァントの中でも比較的初期からカルデアに居り、練度も経験も随一のはずだった。
    それでも足が竦んで、冷や汗をかいて、動けなかった。
    「ち、……ちちうえ、……わたしは……」
    「?あれ?インドラ!いた!」

    その時真後ろから藤丸の気の抜けた声がした。インドラはたちまち呼吸を思い出す。
    どうやら酒の席になかなか現れない彼を以蔵の代わりに呼びに来たらしい。ふと前を見ると、父神は引っ込んでいつもの呑気なランサーに戻っていた。


    「ああ、神さん、宴に行こうとしていたのかい。
    じゃあ〜〜、そうさなぁ。もし邪魔じゃなければ、オイラも飛び入りで参加していいかい?」
    「ホントですか!?新しい酒飲み仲間が増えたらきっとみんな喜びますよ!」
    「…………、……ふん、好きにするがいい」

    インドラは藤丸の手前、平静を保つので精一杯だった。
    そしてその後の酒宴の記憶は殆どなかった。喉に流し込んだものの味など当然分からず、周囲との会話もぼやけたように思い出せず、
    もっと最悪なのは、その日の夜から誰もいないタイミングでディヤウスへと変わって付き纏われるようになった事だった。


    その後何度かの戦いを経た。"能天気なランサー"の活躍は予想以上に目覚しく、好人物なことも相まって藤丸やマシュともほのぼのとした会話が増えた。
    その裏で"ディヤウス"はインドラに圧力をかけ続け、あの頃のような嫌味や暴言が着実に酷くなっていった。
    ヴァジュラ達はもう気が気ではない。
    何度もディヤウスを遠ざけようとしたが、その度に「能天気なランサー」に戻られて立場を悪化させられそうになった。加えて神話上の相性の悪さ、何よりインドラ自身が竦んでしまっている事が伝わって来ているようで思うような力が出せない。"いざと言う時"に守りきれない恐れが2人の中で膨れ上がる。

    何度も"カルデアに通報した方がいい、特に立香にはすぐに言った方がいい。インドラ様がやっと出逢えた伴侶(ダイスキ)でしょ"……と訴えたが、「王たる神(オレ)が暇な神一柱にかかずらっていると知れては無様だ。勝手に触れ回る事も許さん。特に立香の奴には絶対に言うな」と跳ね除けられた。
    恐怖や不快感を押し殺し、あくまで無視する形で悠然と振舞おうとする息子にディヤウスは嘲笑を深めた。用事があるかのように呼び付けては傍目から見えない場所へ傷を付け、とうとう呪いまで飛ばしてくるようになった。


    ある夜、藤丸は運良く一晩自由時間を確保する事が出来たのでインドラの部屋に入った。
    大事な人と過ごしたかったというのも当然あったが、目下のノルマは彼に対する状況観察である。伊達にサーヴァントと共に経験を積んでいないと言うべきか、例のランサーがカルデアに喚ばれて以来インドラの様子が少しずつおかしくなっていると藤丸は感じ始めていた。
    探りを入れていると思われないギリギリの範疇でさり気なく目配せをし、スキンシップもして反応を見る。うん、やっぱり飲酒のペースがおかしい。酒好きで知られる神様とはいえ、何かの折節でもないのにこんな勢いでボトルを開けるのは異常だ。しかもあまり気持ち良く酔えていないようで、平静を装いながらもまるで鎮痛剤のように飲み続けている。
    目元も髪の端々も声色もちょっとずつやつれている。ランサーから感じられた「変な神性」といい、もしかしたらインドラと彼には叙事詩では語られない何らかの因縁があるのかもしれない。
    ただ、目の前の彼はあくまで「いつも通り」に振舞っている。些かの痛々しさすら感じるほど。
    (これは……功を焦るとかえって傷を深めるかもしれない。)
    この日の藤丸はあくまでも見守りに留め、インドラに愛している事と、お酒のペースがちょっと早すぎる事だけを伝えるに留めた。


    翌朝の周回作業ではたまたま適性が被り、"能天気なランサー"とインドラが同じパーティーで共闘した。うん、やっぱり「神の雷」の出力が落ちてる。インドラ自身の疲労ペースも以前より速く、ヴァジュラ達の動きもちょっと鈍い。彼らを使役する度に何らかの痛みを食らっているようにも見えた。
    逆にランサーの戦いぶりにはこれまで以上の磨きがかかり、同伴していたお虎さんが「見事な働きです!印度には斯様な英雄がまだまだ隠れているのですか!」と感嘆するほどだった。
    彼自身も「いんやぁ、皆さんと比べたらオイラなんてねぇ」なんてのほほんと謙遜してはいたが、戦闘時の立ち位置は常にインドラを見下ろす形を取っていたように思われた。


    早速その日の夜、アルジュナ、藤丸、パールヴァティー、ラーマ、ダ・ヴィンチちゃんでこっそり話し合いを行った。
    やっぱインドラが変だと。あのランサーとよほど相性が悪いらしいと。どうすると。
    藤丸も本人には悪いと思いつつ、昨晩彼と過ごした時の様子を一通り語った。その流れで、昨晩は性行為も同衾もなかった事も伝えた途端に場がざわついた。
    インドの英霊達としてはそこがぶっちぎりで異常だったらしく、ここまで貴方に惚れ込んでいるインドラ神が一晩中「何にもナシ」で帰るなんてよっぽどの事だと口々に。……決定打これかよ、と何か複雑な気持ちになる藤丸。
    更にアルジュナが口を挟む。
    「ラーマから話を聞いた限りでは、もしかしたら例のランサーには何らかの神格がついて来ている可能性が高いです。英霊としての強度が心許なかった彼を補強する形で力を貸しているのではないでしょうか。ただ、善良で穏やかな性格の彼に対し"これと言った同意もなく共同戦線も張らずについて来た"という所が引っかかります。
    我々だけでも注意深く観察を。そしてあのランサーに関する情報はもう一度洗い直しましょう。
    言葉を選ばずに言うなら、きな臭いです」


    それから数日、通常業務の合間に現状のインドラの件をマシュや一部のスタッフにも秘密裏に共有。紫式部にも無理を言って図書館を長めに開けて貰い、あのランサーに見つからない範疇で調査を進める藤丸。
    ……やはり客観的な文献はどうしても見つからない。本人は幻霊寸前のマイナーな英霊だと自称していたし、時々語られる話の端々は現存している当時のインド文明と合致していた……けれど、彼の言葉がどれほど信用に足るのかが最後まではっきりしなかった。
    そして何より、これまでの数週間でランサー本人から一度も本件について言及がない。インドラの事もそれとなく聞いてみたが、「同郷の方だって事と、天を統治なさる偉大な神さんだって……事くらいかねぇ。ワハハ、オイラなんかには畏れ多いったら!」……と明らかにはぐらかす態度。
    翌日にでもインドラを呼び出し、多少無理にでも事情を聞き出すしかない、とはゴルドルフ新所長の意見だった。そして件のランサーは"霊基の不具合"を指摘され、一度全てのパーティから外された。


    しかしその日の夜、カルデアのスタッフの1人が決定的な場面を目撃する。
    たまたま深夜までシミュレータの点検が続き、自室に戻るため廊下を歩いていた彼女は、インドラが「能天気」なはずのランサーに壁際に追い詰められているのを見た。
    明らかに纏う魔力も見た目も違うランサーは、インドラを下品な言葉でひとしきり詰った後、おもむろに取り出したナイフで彼の下腹をつつく。
    インドラは下半身の衣服をぎこちなく下ろし、ニタニタした顔のランサーは、股ぐらにナイフを勢い良く突き立て…………
    息も絶え絶えに泣きながら話された彼女の訴えで、カルデアの意向はここに完全に固まった。


    一方、インドラはここに来ていよいよ限界だった。
    ランサーとして召喚された父なる神。あの方と素顔で対峙して以来心休まる瞬間などなかった。
    恐れ、怒り、避け、睨んだ。その度にニタニタしながら彼の神に傷付けられた。言葉で、力で、呪いで。
    何度雷を食らわせてやろうとしたか分からない。しかしそれを察知される度に依代と思しきランサーが表に出てくる。ある程度覚悟の決まった英雄なのかもしれないが、善良な現地の民を依代という形で人質のように扱う神経も本当に分からなかった。
    ……立香と過ごしている時くらい、こんな事は忘れたかった。愛し合いたかったし、少しでも打ち明けたかった。
    しかし、この体は既に陰部を中心に呪われ、臍から下に少しでも触れると槍を突き刺されるような激痛が走る。全身の肌には赤い稲妻のような痣が巡り、雷を走らせる度に身体をじりじりと焼いてくる。
    何より神々の王たる己が、たった一人のサーヴァントにここまで恐れを成している事実を他人に知られる事が、恥ずかしくて情けなくて耐えられなかった。


    「貴様は惜しみなきマガヴァーンであれば、人類の味方として長いのであれば、民草をいたずらに傷付ける事は出来なかろう?」
    「元はと言えば貴様が粗暴なる力を持っていたから。俺の大切な財産を飲み干してくれた貴様が悪いのだから、他者に助けを求める事自体お門違いではないか?」
    父なる神の歪な笑顔はさらに深く顔に刻まれた。
    愉しくて愉しくて仕方がないというように。


    こんな状況であったからこそ、身体にも来てしまったのかもしれない。ガウタマの呪とはいえ普段なら必ずこの時期に来る……と把握していた"月のもの"が大きく時期をずらし、その日その瞬間のインドラに襲いかかった。
    普段ですら千人分の女の苦痛を背負ってもなお何とかやり過ごしている所に、今回はディヤウスの嫌がらせも上乗せされ、いつもの比ではない激痛がインドラの巨躯をみるみるうちに押し潰し、思わず「ッッ……」と呻き声を吐き出す。
    普段の生理痛ならまだ部屋に帰るくらいの事は出来たが、今回ばかりは床に血が流れる事も構っていられず、波が引くまでひたすら廊下で蹲っているしかない。
    極下すぎる、極下すぎる、極下すぎる。こんな無様な姿、誰にも見られたくない。もし父上に見られてしまったら今度こそ、

    「ククククク……我が息子よ、どうしたァ?そんな所で座り込んで!」


    インドラの背中が情けなく跳ねた。
    (……よりにもよって、あの方が。何らかの形でこうなる事を知っていたのか?いや、そんな事より早く逃げなければ。でも余りに痛くて動けない。怖気付いて動けない。情けない。情けない。クソ、この神々の王たる神(オレ)が!過去の亡霊も同然のこの男に、また!)
    そんな事をグルグル考えているインドラを気にも留めず、笑い声と共に背後から近付いてくる、この世で最も恐ろしい影。
    「む?何だこの臭いは、血生臭い。……おや?もしや、お前の股の下から血が垂れているのか?
    おお、おお!何とおぞましい!何と気持ちの悪い!
    貴様、月経が来ているのか、男の神の分際で!!」
    正に愉しくて仕方がないという顔で、廊下中に響くほどの大声で罵るディヤウス。
    「しかし息子よ、可哀想になあ。自業自得の呪いとは言え、これでは何者をどれほど愛しても子を成すことが出来んではないか。
    ……藤丸と言ったか?あの餓鬼。あやつも哀れよなぁ。ただでさえ短い命を生きる身だと言うのに、女陰があっても何も遺せん不能にすっかり心をやられて!」
    「や、め……」
    「心中では貴様をさぞ罵っている事だろう。この石女と。態度ばかりが尊大な、神とも呼べぬ穢い怪物と……」


    「やめろォッ!!触んな駄神(クソッタレ)!!」
    「不倶戴天(もはやいかしておけません)。これ以上インドラ様を貶めるなら砕けてでも貴様を殺す!」
    我慢の限界なのはヴァジュラ達も同じだった。座り込んだまま動けない主の前に立ちはだかった二人だったが、やはり思うように力を出しきれない。
    狭い廊下の一角では縦横無尽に動き回れず、相手が父親だからなのか雷による攻撃もあまり効果がない。
    そうこうしている内に相手の緻密な槍捌きを前にして神核を砕かれるギリギリまで追い詰められてしまった。
    「一方的に有利を取られて蹂躙される気持ちが貴様らにもやっと分かったか。為す術もなく追い立てられる絶望も!
    本来の力が出ないのもこれまで俺に反撃出来なかったのも気のせいではないぞ、インドラ。俺の霊基に刻まれた逸話には、貴様を幾度となく責め苛んだ過去も含まれている。
    『インドラハン』とでも言おうか。貴様らだけに発揮される特別な"スキル"という奴だ。ハハハハ、ハハハハハハハ!」


    「もう、よい……おまえ達」
    インドラは汗だくの真っ青な顔で従神達を押し留める。しかしこのままでは、と2人は反論したが、
    「こいつはッ、『インドラハン』などと……言ったがな、これまでの逸話からしても神(オレ)に対して作用出来るのは精々『苛む』所までだ。幾度となくヴリトラを倒した我が武勇とは話が違う。
    ……身内のガキを一匹確実に虐める為だけのスキルだ、何人たりとも殺す事は出来ん」
    ディヤウスは一瞬だけ相手方を睨んだが、すぐに笑みを取り戻して虐めるスキルで何が悪い!それこそ我が本望だ!と開き直った。
    「それに、今の俺にはこの依代の男がいる。一端の英雄に足る槍捌きながら、歴史の中にあえなく埋もれた矮小な魂だ、我が威光(テージャス)にて既に完璧に操っている。抵抗出来るとも思えん。
    ……フフ、そうだ。そうとも。よく分かっているね、いい子だ、我が自慢の息子よ。」
    父なる神は倒れ伏したヴァジュラ達を足で押しのけ、蹲るインドラの首根っこを掴んで引っ張り上げた。
    インドラは最早抵抗しない。
    「インドラ様ッ!!それは……!"それ"だけは駄目!!」
    「貴方一人で抱えていい事ではありません!!振り払って下さいインドラ様!!!」


    インドラハン E-
    ディヤウスがインドラたった一人を責め苛む、ただそれだけのスキル。オリジナルの神が持つ唯一のスキルは極めて限定的だ。
    しかし裏を返せば、インドラ一人に対してだけは"何でも"出来てしまう事を意味していた。一旦神のテリトリーに引きずり込まれればもうどうなるか分からない。
    「クソッ、動いてッ、動けよ僕の体!!!」
    「インドラ様ァッ!!!」

    ……奥歯がガタガタと鳴る。手が震えたまま空を掴む。生理的な涙を溢れさせながら無抵抗で引き摺られていく有様は正に「無様」そのもの、最早"神々の王"の見る影もない。
    それでも、自分一柱だけで事が済むならと思った。
    アルジュナに、立香に、カルデアにオレ一人の犠牲によってこのクソ神からの危害が避けられるなら。確かにそう思えるくらいまで、自分は精神を育て直して貰ったのだ。


    育て直された精神によって、インドラは様々な感性を再獲得した。尊重、愛情、規範、貞節。どれもこれも今までの彼なら有り得なかったもの。
    ……そして何百年と見て見ぬ振りをして来た、これまでの自分の所業に対する莫大な罪悪感と自己嫌悪。どれほど巨大でもオレ自身のカルマだと、インドラは少しずつ向き合って来たつもりだった。
    しかし、真面目に考えれば考えるほど、インドラは恐ろしくなった。何千年掛かっても、どれ程の懺悔を重ねても、この「業」は解消し切れない。石は積みきれない。こんな事では、瞬きの内に消えていく"彼ら"に対してあまりにも忍びない。
    ああ、最愛の息子よ。最愛の伴侶よ。オレはいつまでもおまえ達と並ぶ資格などない。こんなにも愛しているのに!

    だからこの瞬間、一切抵抗が出来なかった。
    この男に蹂躙され尽くして、終わりのない「苦行」に身を晒し続けて、それで少しでも俺一人で贖う事が出来るのなら。
    「済まない、済まない……済まなかった、愛していた、オレは……」


    「え!インドラ!?大丈夫?!」
    「…………ぁ……?」
    「ッ!」

    あの若々しい声が耳に入る。以前聞いた、ちょっと気の抜けた声色。何でだろうか、今のインドラには干天の慈雨のように感じられた。
    ディヤウスは、マスターのあまりに急な登場に一瞬取り繕いが間に合わず、咄嗟に見た目だけを戻してインドラの身体を雑に手放した。雷霆神は力無く頭をぶつけて倒れ伏す。
    見るからに弱っている彼を見て走り寄って来た藤丸は、何だか本当に"いつも通り"だった。
    「インドラ!まさか……急に来ちゃったの!?って言うか、この壁の傷何っ!?」
    「ッ、ぇ、ぅう、あ……」
    「あ、あぁ、マスターじゃないかい。丁度良かった、奴さんでっかくて重たいから運ぶのも大変で。一緒にいる子供らも変に興奮してたようだったから、ヤムヲエズってやつだ。すまんね……」
    藤丸はそう説明したランサーを見て、ほっとしたような顔をする。
    「ああ、それでキミが何とか鎮めて、引っ張って来ようとしてくれたんだ。ありがとう!」


    場の空気は驚くほど緩み、さっきまでの修羅場が嘘だったかのように片付いて行く。
    「いやー、実は探してたんだよね、ランサーの事。」
    「んえ?オイラなんかを?」
    「正にキミをだよ。その、ほら。前に神様との関わりがあるんじゃないか?って訊いた事あるでしょ?」
    「ああ〜、そういや訊かれたね」
    「うちのスタッフがやっぱりその辺気になるからって、念の為だけど、シミュレーター使って色々体動かしながら確かめてみたいんだって。少しの時間で済むから、お願いします!」
    「おお、別にいいよぉ!ああでもこの神さん……」
    「大丈夫、ここには腕利きのお医者さんがいるから!ヴァジュラ達も併せて、一旦診てもらうよ。それじゃあ、ランサーはオレと一緒に来てくれる?」……


    同行していたと思しきアスクレピオスとネモ・ナースが、テキパキとインドラ達を担架に乗せて医務室に運び込む。そして、医務室の鍵が閉まった瞬間アスクレピオスの方から開口一番質問が飛んだ。
    「あのランサーに何をされた?」
    ……本当は話したくなかったが、既にヴァジュラを傷付けられている。それに、藤丸の声を聞いたら気が抜けて、もう心が限界を超えてしまった。
    インドラがこれまでの経緯をありのまま話すと、医務室に入ってきた人影が3つ。ダ・ヴィンチ、ゴルドルフ新所長、そしてマシュ。
    ダ・ヴィンチの方がインドラのいる寝台の近くに座り、深々と頭を下げた。
    「まず、もう心配は要らない。現在の君の安全は既に保障出来る状態にある。例のランサーに関しては、こちらとしても厳しく対応させて貰うよ。
    それと……今という時まで対応が遅かった事も事実だ。結果的に君は長期間に渡って、心身を深く傷付けられた。
    本当に申し訳なかった。」


    「…………おまえが、あやまる、のか」と呟くインドラに、マシュから補足説明が入る。
    例のランサーはインドラの父・ディヤウス神が主体となっていて間違いない。そして依代の青年は本来サーヴァントになるような存在ではなく、その槍の技術を偶々目に留めた彼の神が体を乗っ取る形で英霊となり縁を結んだ、という事らしかった。
    全ては、自分を凌駕して滅ぼした息子・インドラへの仕返しのために。

    メディアが新たに医務室に入り解呪に取り掛かる。
    「ここまでの呪を受けて、良く五体満足で居られたものだわ」とぼやく彼女に、
    「……ふ、これ程佳い女の揃った場所で、王たる神(オレ)が無様など晒せるか」
    インドラはほんの少し余裕を取り戻して微笑んだ。


    一方、ランサーがシミュレーターに入場するなり、その場の雰囲気は一変した。
    普段のカルデアでは有り得ない著しい緊張感と、空気を真っ赤に染めるほどの怒気、殺気。
    同じフィールドには、アルジュナ、ビーマ、ラーマ、パールヴァティー。霊基の規模や性質を加味して、一度にシミュレーターに入れる最大人数が揃っていた。
    つい先程まで朗らかに笑っていた藤丸の顔からは熱が抜け落ち、底冷えするような声で口火を切った。
    「ランサー。……いや、もういい。
    雷霆神ディヤウス。今すぐ"出て来い"」


    「あははは、ここまで凄まれちゃあ、オイラももう誤魔化せんなあ!
    ……それで?この神に奏上したい事があるなら今の内に言えよ。人間風情、口が利ける内にな」
    息子そっくりの形質を隠しもせず晒したディヤウスに、アルジュナから言葉を投げられる。
    「私はインドラ神の息子・アルジュナだ。貴様は人理保障のために助力すると約束しながら、我が父に対して狼藉を働いた。初めからその為にカルデアに入り込んだのか?今後も協力の意思はないと?」
    「クククク、当たり前だろうが。全てあのドラ息子へ躾け直しのためよ。あの時代、あの地脈、そして息子本人の登場と来ては、再び縁を作るまたとない機会だったからな。
    ハハハハハ!まことに傑作だったぞぉ?牝犬のように股から血を垂れ流し、みっともなく泣きながら引き摺られる有り様は!藤丸もなんだ?伴侶として情けなくはないか?」


    「ディヤウスッ!!」
    「そう吠えるなよ人間!もう言葉は要らぬ。
    俺という神が何者か、そしてこの槍使いが無名なれども如何に非凡であるか!!今一度刮目せよ!!」
    ディヤウスは嘲笑したまま神格を励起し、シミュレーターに張られた結界をわななかせる勢いでサーヴァント達に襲い掛かる。
    「このクソ野郎、やけに強ェ!さては体の内側に聖杯を一部でも仕込んでんな!ここに来て完全燃焼を狙ってやがる!」ビーマは槍で風を掻き回しながら戦いにくさを訴える。他の英霊たちも尽力はすれど決定打を中々掴めない様子。
    事実、隠し持っていた聖杯の破片と共に霊基を燃やし始めたディヤウス。そのステータスは観測する限りでも想定外に跳ね上がり始めていた。


    ダ・ヴィンチが医務室から急ぎ戻り、懸念を飛ばす。
    今のディヤウスが後先を全く考えていない事。その強化が魂と引き換えになったとしても、カルデアに消えないダメージを負わせてやろうという魂胆だという事。
    「貴様は……父への仕打ちと同じ事をこのカルデアにまで!シヴァの威光を以て消し炭にしてくれる!」
    「でもどうすれば良いのでしょう……!この者は依代の技術まで最大限に引き出しています。私の槍では、くっ……!」
    「『インドラへの苦痛になる事』を今だけ拡大解釈して、ダメージを極大まで上乗せしているのか。人数の有利をここまで無視出来る強さとなると、ジリ貧が危惧されるな。おまけに食らったダメージが不可逆になる危険もある。
    ……どうするマスター!」
    ラーマの言葉に藤丸は思わぬ決断を強いられる。カルデアへの甚大な被害とサーヴァントの損傷を数秒で天秤にかけなくてはいけなくなった。


    「無防備に考えている場合か、人間?!俺はもう失う物などないんだぜ!?」
    人間を狙って真っ直ぐにカッ飛んで来たディヤウスの雷撃。最愛のパートナーを傷付けられ、ただでさえ冷静さを欠きつつあった藤丸は、ほんの一瞬反応が遅れた。
    「あ、まずッ……」
    「マスター!!」


    「全く、極下じゃのう」

    突如として巨大な立方体が立ち現れ、藤丸の眼前で雷を遮断し、閉じ込める。そしてディヤウスを中心としてギリギリと限界まで圧縮したかと思えば、強烈な破裂音を轟かせた。
    「ギャアアアアアアッ!貴様はぁ!」
    「ヴリトラッ!助……」
    「けた、訳ではないぞ。わえはいい加減こいつの言い分が退屈だっただけよ。
    ───インドラにはの、何度負けて地に伏せようと、泥塗れ血塗れになりながら闘志を燃やして挑む姿こそ相応しい。一方的に虐げ抜いて愉しみたいなら、まずはわえに百回勝ってから宣うんじゃな」


    ヴリトラが作った隙を狙い、藤丸のガンドがディヤウスを縛る。直後、怒り狂った英霊達が霊核目掛けて本気の一手を叩き込む。
    (クソ、クソッ、カルデアの糞共!卑怯な攻撃で怯んだ俺を殺しに来やがった!この部屋には未だに大した損壊もなく!!何故俺が一転して押されている!!納得行かん!納得行かん!!)
    ダメージが累積し、自暴自棄の様相がいよいよ強まったディヤウスが全力の雷をフィールド全土に降らせようとした時、
    「そりゃ、守るものがあった方が強くなれるでしょ、神さん」
    神の体ががっちりと固まった。金縛りのような光景に思わず目を見張るカルデアの英霊達。
    血眼で腕を振り下ろそうと藻掻くディヤウスだったが、直後、その口が勝手に動き、叫んだ。
    「ここはオイラが抑えとく!!やっちまえ、アルジュナァァ!!!」


    神性領域拡大、空間固定
    「第一の令呪をディヤウスに。神核を露出させたまま、動くな!」
    神罰執行期限設定、全承認
    「第二の令呪をアルジュナに。宝具規模を限界まで圧縮、ディヤウス一騎に照準合わせ!」
    シヴァの怒りを以って、汝の命を此処で絶つ
    「重ねてアルジュナに!───威力をブースト!」

    ――『破壊神の手翳(パーシュパタ)』!!!


    ここに、ディヤウスの神核はランサーの霊基ごと完全に破壊された。カルデアは当初の目標を達成。ディヤウスに関わる霊基グラフは情報を全消去した上で今後二度と励起されないよう厳重にロックされ、カルデア上の記録には依代のランサーの情報だけが記載された。
    遺った唯一の名は"アムリタ"。生前孤独に槍を振るっていた彼が、無類の酒好きだった彼が、農民仲間に付けられたあだ名。
    (……ありがとよ、マスター。皆さん。
    オイラは槍が趣味なだけのしがない農夫だったけど、ここで過ごした日々は本当に楽しかったでなぁ。)
    「……ランサー・アムリタ。その繊細な槍捌きは実に見事だった。
    ───貴方の顔、覚えましたよ。」


    医療班の尽力もあってインドラ・ヴァジュラ計3名の霊基は全ての呪いを解かれ元通りに復旧した。
    しかし、心の具合まではそうは行かない。
    インドラは、幼少期のトラウマをこの1ヶ月弱で抉り抜かれた事でカウンセリングが必須となり、暫くは前線への出撃も控えざるを得なかった。
    加えてディヤウスが消滅直前にインドラに放った思念は、彼を一時期かなり不安定にさせた。
    《貴様も、不要と断ぜられたらボロ布のように棄てられるぞ。この俺のように……》


    「……立香。明日のレイシフトにオレは付いて行けん。バディリングとやらは決して外すな。オレの目も一つおまえの体に付ける。定期連絡の機会があるなら確実にオレにも情報が渡るようにせよ」
    「うん、うん。全部約束するよ、インドラ。
    帰って来たらレポートよりも先に君の元に戻るから。愛してるからね」
    「……立香、オレは要らぬ神ではない。オレをどうか棄てるな。ちゃんとやれる、オレはちゃんとやれるから……」
    「大丈夫、大丈夫だよ。不安だよね。オレもアルジュナもマシュもいるから。
    誰も君を要らない子なんて思ってない。自信を持っていいからね、俺のインドラ」
    「……………………うん」


    かつてのインドラは、他者を使役するばかりで頼る事は出来なかった。支配・被支配が刷り込まれ尽くした世界に生き、全ての精神的痛苦を独りで抱えようとした。そして、度々耐えきれなくて酒に逃げ、女に逃げ、戦いに逃げ、事件を起こした。
    頼るのも力の一つと数えるならば、インドラはとても弱かったと言えるのだろう。王たる器ですらなかったかもしれない。ただ今はもう違うんだ、真の意味での心の強さを獲得しつつあるのだと藤丸は鷹揚に構えている。
    この分岐の藤丸は、インドラと掌の熱を共有しながら、彼の因縁やトラウマを無視せず、かと言って野放図に赦さず、最善の幸せとは何かを考え続けているようである。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤❤❤❤❤❤❤😭😭😭👏👏😭😭😭🙏🙏🙏💞💞💞🙏💘💘👏🙏🙏😭❤💞😭🙏😭😭😭😭👏👏🙏💞💘💕🙏💴😭💖💖😭😭❤💯👏🙏👏😭💖😭🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works