新天新地の鴉となりて、主と朝寝をしてしまおう缶と、たまに瓶。その酒の量は、彼を監視している避雷捜査官でなくても顔色を変えて苦言を呈するだろうといえるほどだった。カフネもご多分に漏れずそうで、帰ってくるなりうげ、という顔をした。それらを消費した男……ネヴァのバイザーは珍しく外れていて、カフネを見る目も少し焦点の外れたそれである。包帯を巻いている手が空き缶を袋に入れ、瓶を一箇所にまとめる。一通りやることを終え、あとは本人の安否確認のみ。男の髪を掴んで軽く引っ張り、大丈夫かと問う。
しばらくこちらを捉えるだけで返事がなかった。起きているのに寝ているみたいで、なぜだか寂しいものを見ている顔をしていた。どうしようかと決めあぐねていると、やがてぬっと腕が腰にまわり、その勢いでソファーに引き倒された。
「ちょ、おいネバァ!」
抵抗しようとするが、どこにそんな力があるのかびくともしない。まるで彼に縫い留められてしまったかのように動けない。至近距離で見るネヴァの顔はやはり腹にあるものを隠しきれない人間の顔で、目じりはほんのちょっと、よく見てやっとわかるくらいほんのりと赤くなっていた。
しばらくおいとか酔ってるにもタイガイにしろなどと好き勝手声をかけていたが、やがてネヴァは顔が見られないようにカフネの鎖骨あたりに顔を埋める。ごりごりと頭蓋骨が当たることで痛い痛いとカフネは悲鳴未満の抗議をあげる。しかししばらくしているうちにネヴァは少しずつ、口から出るものが呻きから人の言葉に昇華される。
「……エレキにこいよ」
「お前、このままだと死んじゃうだろ」
「おれはお前に、しんでほしくない」
「さべつされつづけてたらおまえ、あしたもなくなるぞ」
「お前がいなきゃ、俺はどこにおちたらいいんだ」
ネヴァのふらつきながらも確かに置いていった声は、部屋にとうとうと響く。カフネは言葉にしばらく詰まっていた。ネヴァはといえば、それを伝えたところで力尽きてしまい、寝落ちてしまう。しかしカフネを掴んでいる腕は変わらぬ力で、まるで抱き枕のように扱っている。少しカフネは悩んで、悩んで。テーブルにあった中途半端に残っている酒に手を伸ばして中身を飲んだ。どれもこれも度が強い。顔が熱くなるし、喉は焼けるし、なによりくらくらする。
「でも、ここよりもっと、さみぃだろ……」
腕を回して、アルコールで上がった体温にしがみついて。とろとろととろける意識を手放すことにした。