金木犀「あ」
「おや?司くん、どうしたんだい」
司くんがある方向を見つめておもむろに立ち止まった。並んで歩いていた僕は司くんを追い抜かしてしまい数歩先で立ち止まる。
「ん……いやなに、昨日までは綺麗に咲いて秋の香りをさせていたのにと思ってな」
司くんの視線の先には、昨日の雨によって大多数がおちてしまった立派な金木犀の木があった。少しだけ寂しそうな瞳をしながら司くんは木の下、オレンジ色の小花の絨毯へ近づき数個片手に拾い上げる。
「昔は咲希とこうして花びらを持ち帰り、ポプリなんかを作ったんだ」
上手くいったことは無かったんだがな。拾った金木犀の花に反対の指で触れながら過去を懐かしむ司くんの側に寄り、近くから手のひらの上のオレンジ色の花を覗き込む。
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