人外ルと人間ツ ぬるい風が頬を撫ぜ、カラコロと鈴の鳴る音がする。
草木のざわめきに混じってオレを呼ぶ声が聞こえた。
──司くん、どこに行ったの?
声の主が、ヤツが近づいてくる。息を潜め、身を縮める。どうかオレに気付いてくれるなと、信じてもいない神様に願う。
──この辺りだと思ったのだけれど……どこに隠れているのかな
がさがさとオレを探しながら徐々に近付いてくる。どうにかしてここから逃げなければ。だが、帰る道はヤツ──ルイの来た方向であり、そちらへ逃げるのは無謀だ。この声がはっきりと聞こえる距離では見つかっている状態の類から逃げるのは難しい。
──司くん、どこ?僕のこと置いていくの……?
(どうする…………どうすればいい。考えるんだ……!)
先程よりも更に近くなった声に焦りながらも必死に考える。元はと言えば多分オレが悪いから少し心苦しいが……でも、今捕まるわけにはいかない。
ここでふと、違和感を覚えた。先程までのがさがさ音が無い。ルイが見つけられなくて帰ったのかとも一瞬思ったがそんな訳がない。だってあいつは一途なのだ。良くも悪くもまっすぐで、これと決めたらちょっとやそっとの事では変わらないのだ。
(ルイが諦めた……?いや、そんな訳がない。それは今まで一緒に過ごしていたオレには分かる、絶対に諦めない。)
──ならばオレが考え込んでいる間にルイはどこへ行った?
「ふふふ、みーつけた」
その声が聴こえたときにはもうすでに背後から手が回り込んでいた。ルイの手がオレの腰から腹へと回り、柔く抱きついてくる。
「ねぇ、司くん。かくれんぼも楽しかったけれどもうそろそろ戻ろう?体が冷えてしまうし、夜の森は君には少し危険だから。」
ね?とオレの肩に顔を乗せ耳元で囁いてくる。とっさに動けないオレなどお構いなしに手を取り歩き始める。
「ねぇ、司くん。ずっと僕と居てくれるって約束してくれたの、覚えてる?」
「やく………そく…………?」
「そう、約束。君は忘れっぽいから忘れてしまったのかな。」
振り返った類の顔は少し寂しそうで
「でももうそんな心配もいらないね」
クスリと笑って手が離される。周りを見渡すといつの間にか森を抜けて大きく立派な屋敷の前に来ていた。