ディーラー司くん出会い
「お相手はこのオレが務めさせていただきます。ゲームはカリビアン・スタッド・ポーカーでよろしいですね?イッツ・ショウタイム!」
運命だと思った。きらきらと輝くステージの上で横暴な客を相手に金品を剥いでいくその姿は美しく、そしてその彼の中でも一等輝く琥珀の瞳が僕を見て微笑んだ。
これが僕と彼の出会いだった。
小話
「やぁ、司くん。また来たよ」
カウンター内でグラスを拭いていると目の前から声がかかった。本来ならば良くないが、他のお客様がいないのをいいことにグラスから顔を上げずに応える。
「ようこそ、類。と、言いたいところだが……お前、最近来すぎじゃないか?来る分にはオレは構わないが類が大変だろう」
「心配してくれるのかい?ありがとう、司くん。でも、僕は大丈夫だよ。これでもあまり困っている方では無くてね」
「それならばいいのだが……。あまりそういう事を言いふらすんじゃないぞ。無駄な争いの火種になるからな」
他のお客様が聞いたらあまり良くない事をさらりと言ってのける類に釘を刺す。ここに来ているのは分別のある紳士淑女の皆様なので争いごとにはならないのだが、極稀に居る。そう言った輩が。
「肝に銘じておくよ。ところで司くん。君が主役の"ショー"次はいつなのかな」
「さあな。あれは特殊なんだ、そうそう出来ない」
類の言う"ショー"は何か問題が起こったときや特殊な事例などのときの最終的な措置だから通常ではできない事になっている。だから何かしら上層部が見逃せない事が起こらない限り……は………
「ああ、でも……そうか、そうだな」
「司くん?」
「なあ、類」
周りを確認し、類に顔を近づける。
「……っ!つ、司くん?」
「なぁ、類。お前ここで上り詰める気はあるか?」
「上り……詰める?」
困惑に揺れる類の瞳を真っ直ぐに見つめながら言葉を紡ぐ。
「ここで勝ち続ければ上はお前を放っておかないだろう。そうしたら駆り出されるのはオレだ。」
「……それは司くんと対戦をするということ?」
「そうなるな。拒否権は残念ながら無い。だが、このオレと対戦なんてそうそうできないぞ」
オレの話を理解した類の瞳がきらきらと輝きを増していく。"ショー"の話をするときの類のこの表情が好きだ。
「どうだ、類。オレの"ショー"は楽しいぞ!」
「それは是非ともご一緒したいねぇ。そうだ、その"ショー"の"スター"はその後どうなるのかな」
「それはオレと"ショー"をしたときのお楽しみだ。楽しみは取っておきたいだろう?」
そう言って類から離れる。類の飲み終わったグラスも一緒に引き上げ代わりにカクテルを1杯、これはオレからのサービスだ。
「ほら、今日はこれでおしまいにしておくんだぞ。飲み過ぎは良くないからな」
「わかったよ。ちなみになんて言うカクテルなんだい?」
「これはワインクーラーだな。クラッシュドアイスにオレンジジュースとクレナデンシロップ、ホワイトキュラソーとロゼワインを入れて軽くかき混ぜてある。度数はあまり高くないからお前ならば明日にも残らないだろう」
オレの説明を聞き、グラスへ口をつけた。どうやらお気に召したようで美味しそうに飲んでいる。
「このカクテルはオレからお前への激励だと思ってくれ。頑張るんだぞ」
「ふふ、ありがとう司くん。すぐ君のところへ行ってみせるよ」
今日も楽しかったよ、またね。と言って去っていく類はオレが込めた意味を正しく理解してくれただろうか。今度合ったときが楽しみだな、と思いながら残りの仕事を終わらせるべく作業を再開させた。