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    sangurai3

    かなり前に成人済。ダイ大熱突然再燃。ポップが好き。
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    妄想メモ投げ捨てアカウントのつもりが割と完成品が増えてきました。

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    sangurai3

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    ダイ大 ヒュンケルとラーハルトとエイミさん 原作最終回後 旅の話
    わりとみんな仲良しになった

    花咲く旅路ギルドメイン山脈の中腹を3人の男女が歩いている。
    街道から遠く離れた山道は険しく狭く、少しでも足を踏み外せば急な傾斜に転げ落ちかねない。
    ゆっくりと歩みを進める中、先頭を行く男がふと足を止めた。
    「何かあったか」
    殿(しんがり)の男が尋ねる。伸びかけた銀髪を冷たい山風がはらう。
    先頭の男は無言で振り返ると、手にした槍の柄で崖下に咲く青い花を指した。
    「薬草の一種だ。切り傷に効く」
    「これが?」一行の真ん中を歩く女が問うた。賢者である彼女は薬草にも詳しいが、この花は初めて見るらしい。
    「人間達の間ではあまり使われていないようだな。野生の獣やモンスター達が怪我を負ったときに食べたり傷口に擦りつけたりしている」
    「低地には生えない種なのかしら」
    「かもしれん。少なくともオレはこの山中でしか見たことがない」
    「採るのは難しそうだな」殿の男が言う。「珍しい種であれば専門家に見せてみたいが」
    「採れなくもないが長く持ち歩いては萎れてしまうぞ。あれは乾燥には向かん」
    「鮮度が重要なのね」女賢者が頷く。
    「今日のところは採取は諦めましょう。具体的な場所が分かっていればトベルーラのできる人に採りに来てもらえるわ。
    記録する時間をもらえるかしら。次の定例報告で姫様に提出するから」
    女賢者は懐から筆と墨壺を取り出した。男達は了承し、崖下をのぞき込む彼女の隣に腰を下ろした。風除け役を兼ねた小休憩だ。

    賢者は手帳に薬草のおおまかな自生場所と薬効を記し、次に草花のスケッチを始めた。
    今は可憐な青い花が咲いているので分かりやすいが、次月始めを予定している定例報告後では散っているかもしれない。
    おおよその背の高さや葉の質感なども書き加えながら、薬草の絵を仕上げていく。
    「上手いものだな」銀髪の男が手帳を覗いて感心したように呟く。女は頬を赤く染めた。
    「大したことはないわ。見聞きした物をできるだけ正確に記録するのも職務の内だから・・・」
    「どうでもいいが早くしてくれ」槍使いは面倒くさそうな表情を隠しもしない。「目的地まではまだしばらくかかる。のんびりお絵描きをしていては日が暮れてしまうぞ」
    分かっているわと賢者は手早く記録を終え筆を納めた。押さえ紙を挟んで手帳を閉じると立ち上がる。男達もそれに続いた。
    この男のものの言い方にもすっかり慣れたものだ。最初の頃は何を言われても言われなくても腹を立て、ぶつかってばかりいたというのに。賢者は心の内で微笑んだ。

    -どうしてこんな危ない場所ばかりを行くの!?彼には負担が大きすぎるわ-
    -行く先と進路はオレが決める。これは双方合意の上だ。不満があるならお前は他の奴等に同行すればいい-
    -私自身のために嫌だと言っているわけじゃないことくらい分かるでしょう!?せめてもう少し歩きやすい道を選んで、夜はきちんと宿屋に泊まって-
    -あいつがこの道でいいと言っている。勝手に着いてきた奴に文句を言われる筋合いは無い-

    道とも言えぬ獣道を歩み、木陰や岩窟を寝床にする旅。秘境ばかりを目指す道程は、彼等自身が人目を避けたいがゆえだと思っていた。
    偏見と迫害の中で幼き日々を過ごした半魔の男は、いまだ人間との密なる交流を厭う。
    対して、幼少期を魔物の元で過ごし大魔王に与していた過去のある闘志の使徒もまた、人々の営む幸福の中に立ち入ることを避ける傾向にあった。
    女にはそれがひどく悲しいことに思えて、旅に同行してしばらくはどうにか彼等を人里に近づけさせようと苦心していた。
    しかしやがて厳しい旅路の裏側にある男達の真意を知った。

    半魔の男はその人生の大半を主君と仰ぐ竜の騎士の元で過ごしてきた。
    鍛錬と戦いに明け暮れる日々の中で、地上の人間には知られていない多くの伝承や知識を主君から学んだ。
    先ほどの薬草も主君より与えられた知識のひとつだ。
    強い効果を持つ薬草が生える高山。深い傷を癒やす力のある霊泉が湧く森。多種多様な魔石が採れる岩壁。
    彼等が目指すのはそのような場所だった。
    あの日青空に消えた勇者は竜の騎士の血を継ぐ者だ。
    本人に知識が無くとも、連綿と続く戦いの遺伝子の中に傷を癒やすための記憶はきっと残っているだろう。
    容易にはたどり着けない場所だからこそ、忌まわしき爆弾に身を晒し地上と親友の命を庇った少年を癒やす場所となり得るのではないか。
    そしてあの大戦で決して癒えぬ傷を全身に抱え、身の内に輝く闘志こそあれ二度と剣を持てぬ体となってしまった男を癒やす術も何処かで見つかるのではないか。
    厳しい旅を続けるのはひとえに二代に続く主君と唯一無二の戦友を想うがゆえだと悟ったのち、女賢者は一切の不満を口にしなくなった。
    彼女の持つ力と知識の全てをもって彼等の旅をサポートすることに徹するようになった。
    その変化に気付いたらしき半魔の男もまた、賢者の力が必要な場面には素直に(相変わらず口調は尊大なのだが)協力を仰ぎ、彼女が新たな知識を得る手助けをするようになった。
    銀髪の戦えぬ戦士はそんな2人の様子にただ感謝し、険しい旅路を自分の脚で歩き続けた。


    岩場を登り沢を渡り、3人が目的地に着いたのは日が少し傾きかけたころだった。
    こんもりと茂る木々に隠されるように湧く清らかな泉。ここもまた獣や魔物達が傷を癒やす場所であるという。
    「・・・周辺に人の気配は無いな」
    目を瞑り、深く周囲の気を探っていた銀髪の戦士がため息とともに言葉を発した。紫の瞳に落胆の色が浮かぶ。
    友のような盲信的な忠誠心はないが、10歳近くも年下の弟弟子を早く見つけ出してやりたいと思う気持ちは強い。
    「『ここにはおられない』ということが分かった」半魔の槍使いは弱気を表に出すことを嫌う。「いちいちへこんでいては身が保たんぞ」
    そうだな、と微笑み戦士はもう一度目を瞑る。どこかにいる勇者と自分達とは違う形で旅を続ける仲間達の姿を思い浮かべ、その無事を祈る。胸元に淡く紫の光が灯った。
    「さて、ここにおられないなら長居をする理由も無いが」槍使いは女賢者に言葉を向ける。「下りに時間をかけたくも無い。帰りはルーラを頼めるか」
    「ええ、もちろん」大戦時この呪文が使えなかったことを大いに悔やんだ女賢者は、帰国後一も二も無く習得に励んだ。
    共に飛ぶ者の体に負担を与えぬよう気を配った穏やかな着地は既に上級者の域に達していると二代目大魔道士からも絶賛された。
    トベルーラはまだ不慣れだが、じき使いこなせるようになるだろう。そうすればもっと旅のサポートの幅が広がる。賢者は自分の能力の使い途をしっかりと見定めていた。

    「では、出発まで30分としよう」旅の先導者(リーダー)たる半魔の槍使いは珍しく2人の同行者に笑いかける。
    「それまで脚を泉に浸しておけ。疲労回復の効果があるはずだ。味は保証せんが飲用にもなるから必要なら汲んでおけ。ルーラの目的地は・・・山の麓にあった町に行けるか?」
    「行けるけど、宿屋に泊まるの?」珍しいことだと2人は目を丸くする。
    「またお前だけ野営する気ではなかろうな?」肌色の異なる友は前科持ちだ。山登りで疲れた体を癒やす温かな寝床は魅力的だが友ひとりに野宿させて平気なほど冷淡にはなれない。
    「泊まるさ。たまにはオレもベッドで休みたい」
    「本当に珍しいわね」
    「あそこは旅人のための宿場町だからな。泊まり客の素性に頓着しない宿もいくつかある。通りすがったときに獣人らしき姿もあったぞ。見えなかったか?」
    見えなかった、と2人は答えた。人間は色々不便だな、と男はまた笑った。
    「何だか機嫌がいいわね、何か彼が喜ぶようなことがあったかしら」
    「ここに来るまでにそういう気配は無かったが」
    脚を泉に浸しつつこそこそと話す人間2人に、聞こえているぞと半魔は声をかける。
    「別に楽しいことなど無い。無いが、宿に着いたら」
    「宿に着いたら?」
    「さっき描いた花の絵を見せろ。記録に不備が無いか添削してやる」
    宿ならテーブルもランプもあるから仕上げもしやすいだろう、あんな山道での落書きを提出させて旅の先導であるオレにまで文句が来てはたまらんからな、男の言葉に女賢者は破顔した。
    「そうね、ぜひお願いするわ。トベルーラが上達したら3人で一緒にあの花を摘みに行きましょうか」
    「花、では無く薬草だ。まったく人間は見た目ばかりに囚われる。もっと物事の実を見極めるべきだ」
    『花』の絵を見せろと言ったのはお前じゃないか、と口にこそ出さなかったが銀の戦士も笑った。偉そうに宣う友の顔が何だか可愛らしく見える。
    戦士の笑顔を見て女賢者は幸福そうに笑みを深め、槍使いは呆れたふうなふりをしてわざとらしく口角を上げた。
    傷だらけの体で行く過酷な旅路の途中、人知れぬ山奥に笑顔の花が咲きこぼれていた。
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